• 更新日 : 2025年8月6日

労働時間の上限規制は何時間?業務による違いや超えた場合のリスクを解説

労働時間の上限規制やルールは、適切な労務管理を行ううえで欠かせない知識です。特に残業や時間外労働に関しては、働き方改革関連法の施行などにより、近年法改正が継続的に行われています。

本記事では、労働時間の上限規制の基本的な考え方から、2024年からの変更点、さらにはトラックドライバーや建設業といった特定業種への影響まで、企業が適切に対応するための情報をわかりやすく解説します。法規制を正しく理解し、従業員が安心して働ける環境を整えましょう。

労働時間の上限規制とは?

労働時間の上限規制とは、労働基準法で定められた労働時間の最大限度を示しています。この規制の目的は、従業員の健康を守り、ワークライフバランスの実現です。そのため、企業は従業員に過度な労働を強いることを防ぐことで、健全な経営を維持することが求められています。

労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めており、休⽇(法定休⽇)は原則として毎週少なくとも1回与えることとされています。

この数値を超える労働は時間外労働に該当し、原則として禁止されています。しかし、労使間で36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)を締結し、労働基準監督署に届け出れば、法定労働時間を超える労働や法定休日での労働が可能です。

出典:時間外労働の上限規制わかりやすい解説|厚生労働省

労働時間の上限規制を超える場合の対応

36協定を締結した場合でも、無制限に時間外労働(残業)をさせることはできません。労働基準法の改正により、大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月に、時間外労働の明確な上限が設けられました。

時間外労働の上限

原則として、時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」であり、通常の業務で発生する時間外労働の目安として設定されています。

特別条項を設けた場合の上限

時間外労働の上限を超えるには特別な事情がある場合に限り、特別条項つきの36協定を締結することが必要です。特別条項を設けた場合、以下の制限があります。

  • 時間外労働が年720時間以内(休日労働は含まない)
  • 時間外労働+休日労働の合計が単月あたり100時間未満
  • 時間外労働+休日労働の平均が、月80時間以内(※2ヶ月~6ヶ月の平均)
  • 月45時間を超過可能なのは年6ヶ月まで

これらのいずれかの制限を1つでも超過した場合、労働基準法違反となり、企業には行政指導や罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される場合があります。

違反となる計算例

ある従業員の時間外労働と休日労働の合計が、直近2ヶ月でそれぞれ90時間、70時間だったとします。この2ヶ月の平均は80時間となり、上限ぎりぎりです。

しかし、その次の月に95時間働いた場合、直近2ヶ月の平均は以下の数式のとおりです。

(70+95)÷2=82.5 時間

算出された数値は80時間を超えるため、労働基準法違反に該当します。この計算例では直近2ヶ月の平均のみを挙げていますが、実際には該当月を含む過去2ヶ月から6ヶ月までのすべての期間において平均が月80時間以内であるかを確認することが必要です。

その月の労働時間が加わることで、3ヶ月平均や4ヶ月平均が80時間を超える場合も違反となります。

労働時間の上限規制が適用される企業

労働時間の上限規制は、企業の規模や業種を問わず、すべての企業が対象です。大企業では2019年4月1日から、中小企業に対しても経過措置が終了した2020年4月1日以降、全面的に規制が適用されました。

なお、ここでいう中小企業とは、以下のいずれかの条件を満たす企業を指します。

中小企業の業種資本金の額または出資の総額常時使用する従業員数
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
卸売業1億円以下100人以下
その他(製造業、建設業、運輸業など)3億円以下300人以下

なお、この上限規制は、従業員を1人でも雇用していれば適用されます。

対象の従業員は、正社員や契約社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイトも含まれます。労働時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える、または36協定を締結して労働時間を延長する場合には、正社員と同様に上限規制の対象です。また、派遣社員については、派遣先(勤務先)ではなく派遣事業主が規制の対象となります。

企業規模にかかわらず、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合には、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を必ず締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが求められています。

かつては、建設業・ドライバー(自動車運転業務従事者)・医師といった、一部の業種に対して上限規制の適用が猶予または除外されていましたが、2024年4月から原則として時間外労働の上限規制が適用されました。

ただし、建設業における災害復旧業務や、医師に対する特例水準(年960~1,860時間)など一部の例外は引き続き認められています。

2024年4月から労働時間の上限規制が適用された事業・業務

これまで労働時間の上限規制が猶予されていた、トラックドライバーや建設事業、医師など一部の事業・業務においても、2024年4月から原則適用されました。

対象業務と上限の内容は以下のとおりです。

事業・業務上限規制の内容
自動車運転の業務

トラックドライバー、バス、タクシーなど

  • 年間960時間までの時間外労働(特別条項つき36協定)

※以下の規制は適用対象外

‐ 月100時間未満(時間外労働+休⽇労働の合計)

‐ 2ヶ月~6ヶ月で月平均が80時間以内

‐ 月45時間超過が年6回以内(一般的な上限規制)

建設事業
  • 一般的な上限規制を適用

※災害復旧・復興など一部業務は適用除外

医師
  • 医療機関の機能や業務に応じて、いずれかを適用

‐ 年720時間以内(原則型)

‐ 年960時間以内(連携B水準など)

‐ 年1,860時間以内(地域医療確保のための特例水準)

鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
  • 一般的な上限規制を適用
新技術・新商品などの研究開発業務
  • 上限規制の適用除外

※ただし、労働安全衛生法により以下の義務あり

‐ 週40時間超の労働が月100時間を超えた場合

→ 医師による面接指導を罰則つきで義務化

‐ 医師の意見に基づき、就業場所や業務内容の変更、有給休暇の付与などの対応が必要

新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。

出典:①残業時間の上限を規制します|厚生労働省

労働時間の上限規制の例外となるケース

一部のケースでは、労働基準法の労働時間規制の適用が除外または猶予されています。

同居の親族のみを雇用している場合

個人事業主が同居の親族のみを雇用している場合、労働基準法の労働者には該当せず、上限規制も適用されません。しかし、事業主の指揮命令のもとで他の労働者と同じように雇用されている親族については、就業規則が適用され、賃金が支払われるなど、労働関係が認められる勤務実態がある場合は、例外です。「労働者」とみなされ、上限規制が適用されます。

家事使用人(住み込み家政婦など)

家事使用人とは、個人家庭において家事一般に従事する者を指し、労働基準法第116条第2項に基づき、労働基準法の適用が除外されます(住み込み家政婦など)。ただし、家事代行業者に雇用され、その指揮命令のもとで家事を行う場合や、勤務実態が他の労働者と同様で賃金の支払い、労働時間管理などが行われている場合は、労働基準法上の労働者とみなされることもあります。(※「同居の親族のみを雇用している場合」とは別の適用除外規定)

船員法の適用を受ける船員

船員については、労働基準法ではなく「船員法」が適用されるため、36協定による時間外労働の上限規制も原則として対象外となります。ただし、2023年4月の改正で、航海当直の交代や防火訓練なども労働時間としてみなされ、1日の労働時間は最大14時間までの上限が定められました。

適用除外業務(労働基準法第41条)

以下の労働者については、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されません。

  • 管理監督者(経営者に準ずる権限を持つ者)
  • 機密事務の取り扱う者
  • 監視または断続的労働に従事する者(所轄労基署の許可が必要)

ただし、これらの労働者であっても、深夜業に対する割増賃金や年次有給休暇の付与、労働安全衛生法に関する規定など、労働時間・休憩・休日以外の規定は適用されます。

労働時間の上限規制の管理方法と対応策

労働時間の上限規制を守り、従業員が健康的に働ける職場環境を維持するためには、日々の労働時間の把握と組織的な対応策が欠かせません。ここでは、実効性のある管理手法とそのポイントを紹介します。

36協定の見直しと適切な運用

時間外労働を行うには、36協定の締結し、労働基準監督署への届け出が必要です。ただし、協定を締結しただけでは不十分であり、その内容が最新の法令に従っているかどうかを」定期的に確認することが求められています。

特に、特別条項つきで36協定を締結する場合は、年720時間、月100時間未満、複数月平均80時間以内などの規制の範囲内になっているか、チェックしましょう。また、協定に基づく労働時間を超過していないかを定期的に確認し、違反が疑われる場合は速やかに是正措置を講じることが重要です。

勤怠管理システムによる正確な把握

労働時間を正確に把握するには、紙やExcelによる手作業では限界があります。クラウド型の勤怠管理システムを導入すれば、打刻情報がリアルタイムで集計され、労働時間の過不足を即時に確認できます。

多くのシステムでは、法定時間の上限を超えそうな従業員にアラートを出す機能があり、事前に対応することが可能です。また、月45時間・年720時間といった基準だけでなく、月100時間未満・複数月平均80時間以内といった複雑な要件にも対応した集計ができるため、コンプライアンス管理にも有効です。

業務の見直しと業務効率化

時間外労働の根本原因には、業務の非効率性や過剰な業務負担が含まれる場合もあります。まずは各部署・個人の業務内容を棚卸しし、重複作業や不要な業務を洗い出しましょう。

RPA(Robotics Process Automation、ロボティック・プロセス・オートメーション)やクラウドツールの活用、業務マニュアル化による属人化の解消などにより、作業の効率化と標準化を進めることが効果的です。業務フローを見直すことで、無駄な残業が削減できるケースは少なくありません。

人員配置の最適化

特定の部署や業務で時間外労働が常態化している場合は、人員不足や業務偏在の可能性があります。新規採用や社内異動による補強や、アウトソーシングの活用や業務の平準化、繁閑期に応じた柔軟な配置転換なども有効な手段です。

また、有給休暇の取得推進や業務分担の再構築により、従業員の負担を平準化し、長時間労働の抑制につなげましょう。

管理職への教育と意識改革

労働時間の上限規制を遵守するには、管理職の理解と行動が不可欠です。労働基準法や36協定の内容、管理者としての責務について、定期的な研修を実施しましょう。

また、部下の労働時間のモニタリングや業務調整を通じて、チーム全体の労務管理を担う意識の醸成が求められます。管理職自身が「長時間労働は評価される」という誤った認識を改め、模範となる働き方を実践することが、組織全体の行動変容の近道です。

柔軟な働き方制度の導入

テレワークやフレックスタイム制、裁量労働制などの柔軟な働き方の導入も、長時間労働を抑える有効な選択肢です。これらの制度は、従業員のライフスタイルや家庭の状況に応じた適切な勤務を可能にし、ワークライフバランスの向上と生産性の両立に寄与します。

ただし、制度導入には法的な要件や運用ルールの整備が求められるため、社労士などの専門家の助言をもとに設計・導入を進めることが望ましいでしょう。

労働時間の上限規制を管理し、健全な企業運営を目指す

労働時間の上限規制は、コンプライアンス対応にとどまらず、従業員の健康と企業の持続的成長を支える重要な仕組みです。

2024年には猶予期間が終了し、トラックドライバーや建設業を含むほぼすべての業種に規制が適用されました。

これを機に、36協定の見直しや勤怠管理システムの導入、業務の効率化、人員配置の最適化など、労務管理体制の強化を積極的に進めることが重要です。

従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業の信頼向上と生産性の向上にもつながります。適切な労働時間管理を通じて、健全な企業運営を実現していきましょう。


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