• 更新日 : 2025年7月11日

労働時間の端数処理とは?切り上げ、切り捨てルール、計算例まとめ

労働時間の端数処理は、正確な賃金支払いのために欠かせない実務対応です。処理方法を誤ると、1分未満の端数であっても賃金トラブルや労使間の不信感につながるおそれがあります。原則として労働時間は1分単位で集計し、処理を行う場合はそのルールを明確にし、労働者に不利益が出ないようにしなければなりません。この記事では、端数処理の基本ルール、認められる例外、具体的な計算方法、そして就業規則への記載や注意点までを、わかりやすく解説します。

労働時間の端数処理とは?

労働時間の端数処理とは、日々の労働時間を計算する際に発生する分単位の端数を、どのように切り捨て、切り上げ、または四捨五入するかというルールです。例えば「8時58分出勤」「17時02分退勤」のような端数は日常的に発生します。

原則として、労働時間は1分単位で集計し、正確に賃金に反映することが求められます。ただし、業務上の効率や運用のしやすさから、一定の丸め処理を行う場合もあります。

注意点として、その処理が労働者にとって不利益にならないよう配慮することが大前提です。

労働基準法に明確な規定はありませんが、厚生労働省の通達や判例、実務慣行を踏まえた取り扱いが一般的です。

労働時間の端数処理が必要な主なケース

労働時間の端数処理は、賃金の計算や勤怠管理において、特に以下のようなケースで適切な処理が求められます。

1. 時間外労働(残業)の計算

法定労働時間を超えて働いた分に対する割増賃金を計算する際、1日の残業時間や月間の合計に分単位の端数が出ることがあります。この端数をどう処理するかによって、支給額が変わる可能性があります。

2. 深夜労働の時間管理

午後10時から午前5時までの深夜帯に勤務があった場合、その時間に対しては深夜割増賃金を支払う必要があります。ここでも、開始・終了時刻に端数がある場合、その扱いが賃金に直結します。

3. 休日労働の算定

法定休日に労働があった場合、割増率が異なるため、休日労働時間の端数は慎重に扱う必要があります。時間の切り上げ・切り捨てによって不正確な支給にならないよう配慮が必要です。

4. 遅刻・早退の控除計算

遅刻や早退によって勤務時間が短縮された場合、その減少分をどう処理するかが問題となります。例えば「10分遅刻」を実際に10分として処理するか、「15分単位で切り上げて控除」するかで、従業員の不利益になりうるため、慎重な判断が求められます。

5. 時間単位の有給休暇の取得

時間単位で有休を取得できる制度を導入している企業では、「1時間45分」や「2時間15分」といった中途半端な単位での取得も起こります。この端数をどう管理するかが賃金や有給残日数に影響します。

労働時間の端数処理の一般的なルール

労働時間の端数処理については、以下の通達等に基づいて運用されることが一般的です。

月単位の時間外・休日・深夜労働の端数処理

1か月の時間外労働、休日労働、深夜労働の合計時間に対して、次のような処理が可能です。

  • 30分未満の端数は切り捨て可能
  • 30分以上の端数は1時間に切り上げ可能

これは、毎日の細かい時間をすべて分単位で集計する手間を省くための事務的な簡略化措置です。ただし、労働者にとって不利益にならないことが条件です。

日ごとの労働時間の端数処理

日々の出退勤時間については、以下のような原則と例外があります。

  • 1分単位で正確に計算することが望ましい
    労働基準法では、「働いた時間に応じて賃金を支払う」とされており、1分の労働に対しても賃金を払う義務があります。
認められない処理
  • 5分単位・10分単位の切り捨て
    労働時間を実際より短くし、賃金を減らすことになるため、原則として認められません。
一部許容される処理
  1. 1分未満(秒単位)の切り捨てや四捨五入
    端数がごく小さい場合、合理的な範囲で処理することが実務上許容されることもあります。ただし、これも労働者に不利益とならないよう注意が必要です。
  2. 30分単位の切り上げ処理(例:8時10分出勤→8時30分と記録)
    このような丸め処理は、労働者の勤務実態より長く記録される場合などに限って、一定の合理性が認められることもあります。ただし、明確な法的基準がないため、慎重な運用が求められます。

労働時間の端数処理の具体例

端数処理の考え方を実務に当てはめた場合、どのような処理が行われるかを以下の例で見ていきましょう。

1か月の時間外労働の合計時間における端数処理

  1. 月の時間外労働の合計時間が25時間20分だった場合
    → 30分未満のため、20分は切り捨てられ、時間外労働時間は25時間として計算されます。
  2. 月の時間外労働の合計時間が30時間40分だった場合
    → 30分以上のため、40分は切り上げられ、時間外労働時間は31時間として計算されます。

このように、月単位の集計においては30分を基準とした丸め処理が認められる場合があります。ただし、これはあくまで労働者に不利益が生じないことが前提です。

日々の労働時間の計算における端数処理

【労働者が8時58分に出勤し、17時02分に退勤した場合】

所定労働時間が9時から17時まで(休憩1時間)と仮定すると、本来は出勤時刻から退勤時刻までの総時間から休憩時間を差し引いた実労働時間を1分単位で計算するのが原則です。

この場合、

17時02分 − 8時58分 = 8時間4分

ここから休憩1時間を差し引くと、実働は7時間4分となります。

ところが、会社が「1分単位で計算するのは煩雑」として「15分未満は切り捨てる」というルールを設けていた場合、例えば以下のような処理がされるおそれがあります。

  • 8時58分 → 9時00分に切り上げ
  • 17時02分 → 17時00分に切り捨て

このような処理が行われると、2分間の労働時間が切り捨てられることになり、その分の賃金が支払われない結果になります。

このような端数処理は、労働者にとって明確な不利益となるため、原則として認められません。

労働時間の端数処理は就業規則に明記する

労働時間の端数処理に関するルールを会社が設ける場合は、必ず就業規則に明記し、全従業員に周知しておく必要があります。

端数処理は、実際の労働時間と賃金支給額に直接関わるため、ルールが曖昧なままだと「働いたのに支払われていない」といった誤解や不信感につながります。また、就業規則に記載がなければ、処理方法の正当性を説明する根拠を失い、労働基準監督署の調査時に是正指導を受けるリスクもあります。

ただし、どのような内容でも記載できるわけではなく、労働者に不利益を与えるような端数の切り捨て(例:5分単位の切り捨て)は認められません。合理性があり、法令に適合し、実際に従業員に周知されていることが求められます。

就業規則の記載例

以下は、1分未満の秒単位のみを切り捨てる場合の記載例です。

第◯条(労働時間の端数処理)

労働時間の計算において、1分未満の端数は切り捨てるものとし、1分以上については実際の時間を賃金計算に反映する。
なお、この処理により労働者に不利益が生じないよう留意する。

他にも、打刻時間に対して30分単位での切り上げ処理を行う場合には、以下のような記載が考えられます。

第◯条(勤怠記録の処理)

出退勤時刻はタイムカードまたは勤怠システムの記録に基づく。始業・終業時刻に端数がある場合、30分単位で切り上げて記録することがあるが、この場合でも実労働時間は1分単位で集計し、賃金計算に反映する。

労働時間の端数処理についての注意点

労働時間に応じた賃金支払いが原則

労働基準法では、「労働時間に応じた賃金を支払うこと」が基本です。したがって、働いた分の時間を端数処理で切り捨てるなど、労働者に不利益となるような処理は原則として認められません。1分の労働に対しても賃金が発生することを前提に対応する必要があります。

処理ルールは就業規則に明記する

端数処理のルールを運用する場合は、必ず就業規則にその内容を明記し、従業員に周知しておくことが必要です。「何分未満をどう処理するのか」「賃金計算にどう反映するか」などを明確に示し、後からトラブルにならないようにしておくことが大切です。

実態や契約内容に応じた柔軟な対応も必要

一般的な通達や指針はあくまで参考であり、実際の労働契約や現場の運用によって対応を変える必要がある場合もあります。個別の事情により判断が難しい場合は、労働基準監督署や弁護士など、専門家に相談するのが確実です。

勤怠システムの導入でトラブルを防止

1分単位での労働時間管理を確実に行うには、勤怠管理システムの導入が有効です。自動で出退勤を記録し、正確な労働時間を集計できるため、端数処理による誤差や支払いミスを防ぎ、労使双方の安心につながります。

労働時間の端数処理は正確なルール運用が必要

労働時間の端数処理は、賃金計算の正確さと従業員の納得感に直結する大切な項目です。原則は1分単位で集計し、やむを得ず丸め処理を行う場合でも、労働者に不利益がないことが前提です。そのため、処理方法は就業規則に明記し、従業員へ周知したうえで実態に沿った運用を行うことが重要です。

また、勤怠管理システムを活用すれば、記録の正確性を保ちつつ、処理ミスや支給漏れも防げます。ルールを定めたら、その通りに丁寧に運用することが安定した労務管理につながります。


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