- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第32条とは?労働時間のルールや35協定との関係をわかりやすく解説!
労働基準法第32条は、労働時間に関する基本ルールを定めた条文です。人事労務担当者にとって、従業員の労働時間管理は法令遵守のみならず社員の健康管理や企業の信頼にも直結する重大事項となります。
本記事では、労働基準法第32条の概要をはじめ、具体的な規定内容や36協定との関係、働き方改革の影響、そして実務における注意点までを幅広く解説します。
目次
労働基準法第32条とは?
労働基準法第32条は、いわゆる「法定労働時間」について定めた条文です。
「使用者(会社)は、労働者を1日について8時間、1週間について40時間を超えて働かせてはならない」
と定めています。これは休憩時間を除いた実働時間の上限であり、これを超える勤務は原則として法律に反する行為とみなされます。
なぜこのような上限が設けられているかといえば、長時間労働を抑制し労働者の健康と安全を確保することが目的です。過度な労働が続けば、労働者の心身に負担をかけ、生産性の低下や健康被害(過労死やメンタルヘルス不調など)につながりかねません。
第32条はそのような事態を防ぎ、適正な労働条件の最低ラインを示すことで、労使間の健全な関係維持を図っています。
条文の概要と目的
法定労働時間として定められた「1日8時間・週40時間」という基準は、法定労働時間の上限であり、労働条件の最低ラインと位置づけられています。
企業はこの基準を下回る(つまり労働者にとって有利な)就業条件を定めることは自由ですが、上回ること(例えば1日9時間や週45時間の所定労働時間を設定するなど)は認められません。
この条文は労働時間の上限を明示することで、「これ以上働かせてはいけない」というラインを示し、労働者の健康確保とワークライフバランス推進の土台となっています。
労働基準法第32条の適用範囲と例外
労働基準法第32条の規定は、基本的にすべての労働者とその使用者に適用されます。正社員はもちろん、パートタイマーやアルバイトといった雇用形態にかかわらず、労働者である以上は1日8時間・週40時間の上限が原則として適用されます。
ただし、すべての労働者に例外なく適用されるわけではなく、一定の業種や職務においては例外や特例が設けられています。以下で主な2つのケースを紹介します。
1.小規模な事業場の一部業種に対する特例
一つ目は、一定の小規模事業場に対して適用される特例です。常時使用する労働者が10人未満の小規模事業場で、次のような業種に該当する場合は「特例措置対象事業場」として、「週44時間までの労働」が認められています(労基法第40条)。
- 商業(卸売業、小売業、理美容業、倉庫業など)
- 映画・演劇業(一部を除く)
- 保健衛生業(病院、福祉施設、浴場業など)
- 接客娯楽業(旅館、飲食店、遊園地など)
この特例が適用されるのは週あたりの労働時間のみであり、1日8時間の上限は変わりません。また、「常時10人未満」の基準は、企業全体の規模ではなく、各事業場(支店・営業所・店舗など)ごとの人数で判断される点にも注意が必要です。
2.管理監督者などへの労働時間規制の除外
二つ目の例外は、管理監督者や機密事務取扱者など特定の職務に就く者に対する適用除外です。
労働基準法第41条において、経営者と一体的な立場で労務管理などに従事する「管理監督者」や機密事務取扱者については、第32条の規定の適用対象から除外できると定められています。
該当するのは、企業の役員に準ずるような立場の者や工場長・店長など、労務管理面で実質的に使用者に近い裁量と責任を持つ立場の者です。
ただし、「管理職」の肩書きを持っていれば誰でもこの適用除外になるわけではありません。
法律上の管理監督者と認められるためには実態として経営側に近い裁量や待遇を持っていることが必要であり、名目だけの「名ばかり管理職」は含まれません。
また、第32条等が適用除外となる管理監督者であっても、深夜業に対する割増賃金の支払義務(労基法第37条)や年次有給休暇の付与義務(労基法第39条)は除外されないことにも留意しましょう。
以上のように、労働基準法第32条は基本的には全労働者に適用されるものの、一部には業種・規模による特例や職務上の地位による適用除外があります。人事労務担当者は、自社の事業形態や従業員の職務区分に応じて、どの規定が適用されるのか正確に把握する必要があります。
労働基準法第32条で企業が遵守すべき基本ルール
労働基準法第32条では、労働時間の上限として「1日8時間・週40時間」が定められています。企業がまず押さえておくべき基本は、この法定労働時間内で勤務体制を組むことです。
就業規則などで所定労働時間を定める際は、休憩時間を除いた実働が1日8時間以内、かつ週40時間以内となるように設定する必要があります。
仮に、これを超える勤務時間をあらかじめ所定として設定してしまうと、その時点で労働基準法違反となるため注意が必要です。
労働時間の適正管理
労働時間の適正管理も企業の責務です。法定労働時間の枠内であっても、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の途中に与えなければならないと法律で義務付けられています。
また、毎週少なくとも1日(もしくは4週を通じ4日)の法定休日を与える必要があります。これら休憩や休日の規定も労働時間管理の基本ルールの一部であり、第32条と併せて遵守しなければなりません。
例えば「週6日勤務で各日6時間40分働けば週40時間以内だから問題ない」と思われがちですが、週に1日の休日がない時点で休日付与義務違反となります。労働時間の上限と併せて休憩・休日の付与も確実に守ることが、人事担当者の重要な役割です。
変形労働時間制やフレックスタイム制
業種によっては繁忙期と閑散期の差が大きかったり、曜日によって業務量が変動したりすることもあります。そのような場合に備えて労基法は変形労働時間制やフレックスタイム制といった柔軟な労働時間制度も用意しています。
例えば1ヶ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)では、あらかじめ定めた一定期間内で週平均40時間以内に収まる範囲であれば、ある特定の日に8時間を超えて働かせることも認められます。この制度を利用すれば、繁忙期には1日9時間勤務の日を設ける代わりに閑散期に短く調整するといった運用が可能です。
フレックスタイム制(労基法32条の3)では労使協定により1ヶ月以内(改正後は最長3ヶ月以内)の清算期間を平均して週40時間以内という枠内で労働者自身が始業・終業時刻を決定できます。
これらの制度を導入する場合には所定の手続き(就業規則への規定や労使協定の締結・届出)が必要ですが、適切に活用すれば第32条の定める範囲内で柔軟な働き方を実現できます。
まとめると、企業が遵守すべき基本ルールは「法定労働時間内での勤務体系+休憩・休日の確保」です。その上で業務の必要に応じて変形労働時間制やフレックスタイム制等の合法的な仕組みを活用し、法律の枠内で効率的に労働時間を配分する工夫が求められます。いずれの場合も、労働時間の上限規制をないがしろにしないことが大前提です。
労働基準法第32条|法定労働時間の詳細
「法定労働時間」とは前述の通り、法律で定められた労働時間の上限(1日8時間・週40時間)のことを指します。ここではこの法定労働時間に関する細かなポイントを整理します。
1日と1週それぞれに上限がある
労働時間の上限は、1日と1週それぞれに上限があるという点です。労働基準法第32条では1日8時間、1週40時間を超える労働を禁じていますが、これは「1日単位の上限」と「週単位の上限」の2本立てになっています。
したがって、週の合計が40時間以内であっても1日の労働時間が8時間を超えればその日について違法な長時間労働となりますし、逆に1日ごとは8時間以内でも週の合計が40時間を超えればその超えた分が違法な時間外労働となります。
例えば平日5日間は各8時間勤務(計40時間)で土曜日に2時間だけ働いた場合、週42時間となり週の上限を2時間超過しています。
この2時間は法定時間外労働(いわゆる残業)となり、36協定がなければ違法です。
同様に、月曜日に10時間働き他の日を7時間以内に抑えて週40時間以内に収めたとしても、月曜日は1日2時間の上限超過となり違法です。日ごと・週ごとの双方で上限を守らねばならない点に注意しましょう。
法定労働時間と所定労働時間との違い
法定労働時間と混同しやすい概念に所定労働時間があります。所定労働時間とは企業や事業場が就業規則や労働契約で定めるその会社独自の労働時間のことです。
例えば「弊社の所定労働時間は9:00〜18:00(休憩1時間含む)です」といった具合に定められます。所定労働時間は労使で自由に決められますが、当然ながら法定労働時間の範囲内で設定しなければなりません。
法定を超える所定時間を定めることはできず(仮に定めても無効となります)、法定内であっても所定労働時間を超えて働けばそれは時間外労働となります。例えば所定労働時間を1日7時間(週35時間)と定めている会社で社員が1日8時間働いた場合、そのうち1時間は会社の所定を超えていますが法定内ではあります。
この1時間は「所定外労働」ではありますが法定内残業の範疇であり、割増賃金(残業代)支払い義務は生じません※。一方で所定労働時間を超え法定労働時間も超過した場合(上述の例で1日9時間働けば2時間超過)、その2時間は法定時間外労働となり違法性が発生しますし、同時に割増賃金の支払い対象ともなります。
なお、労使協定や就業規則で所定時間を超えた労働にも割増賃金を支払う定めを設けるケースもありますが、法律上の義務として割増賃金が必要なのは法定労働時間を超えた労働に対してのみです(労基法第37条)。
以上のように、法定労働時間は「これ以上は働かせてはいけない」という絶対的な上限を示すものであり、1日と1週それぞれの単位で守る必要があります。企業は自社の就業ルール(所定労働時間)を法定内で設計するとともに、日々の労働時間実績がこれらの上限を超えないよう管理していくことが求められます。
労働基準法第32条|時間外労働
時間外労働(残業)が発生するケースは、大きく分けて次の二つです。
(1) 法定労働時間の上限を超えて労働させた場合と、
(2) 法定休日に労働させた場合です。
これらはいずれも労働基準法の定める通常の枠を超えた労働であり、企業側に法的な手続きや割増賃金の支払いが求められるものです。
(1) 法定労働時間の上限を超えて労働させた場合
1日8時間または週40時間の上限を超えた時点でその超過分が時間外労働となります。例えば業務が押して就業規則上の終業時刻を過ぎてしまい、労働者に時間外で働いてもらう場合、1日の総実働が8時間を超えればその部分は法定時間外労働です。あるいは週の途中で予定外の出勤日を設けた結果、週の合計が40時間を超えた場合も同様です。
法定労働時間を1分でも超えればそれは時間外労働となり、たとえ僅かな超過であっても本来は労基法違反となり得ることに留意が必要です。
もっとも実務的には、あらゆる時間外労働が直ちに違法となるわけではありません。労働基準法第36条に基づいて労使協定(36協定)を締結・届出している場合、協定で定めた範囲内で法定時間外労働が認められます。
従って、36協定を適切に締結して届け出ている企業で、その協定の範囲内で行われる残業については違法とはなりません。しかし協定がない場合や、協定の上限を超えて時間外労働を行わせた場合には法定違反となります。人事担当者は、自社で時間外労働が生じる可能性がある業務については必ず事前に36協定を結んでおくこと、そしてその協定で決めた範囲を超えないように運用することが重要です。
(2) 法定休日に労働させた場合
次に法定休日に労働させた場合ですが、労働基準法では毎週少なくとも1回の休日(法定休日)を与えることが義務付けられています。この法定休日に出勤させることは、本来与えるべき休日を与えずに労働させる点で時間外労働とは別の意味での違法行為となります。
ただし実務上は、36協定で休日労働に関する定めもしていれば法定休日の労働も可能とされています。
36協定届の様式では「法定休日労働をさせる場合」についても労使で取り決める欄があり、ここに記載して届出をしていれば週1日の休日を返上して働かせることができます。
その代わり、その休日労働分は法定外労働として割増賃金(休日労働手当:通常賃金の35%以上割増)を支払わねばなりません(労基法第37条)。
例えば日曜を法定休日としている会社で、特別な事情により日曜出勤してもらった場合、この日は休日労働となり36協定の範囲内であることと割増賃金の支払いが前提条件となります。
時間外労働が発生するケースとしては以上の2点が代表的ですが、いずれの場合も事前の適切な手続き(36協定など)と適法な範囲内であることが必要です。
想定外のトラブルや突発的な業務で一時的に長時間労働が発生することはあり得ますが、そのような場合でも法律の枠組みを踏まえて対処することが肝要です。
後から「実は違法な残業だった」と発覚すれば企業にとって大きなリスクとなりますので、日頃から労働時間の状況を把握し計画的に対応策を講じておくことが求められます。
労働基準法第32条|違反した場合の罰則と企業のリスク
万が一労働基準法第32条に違反する長時間労働を行わせてしまった場合、企業にはどのような罰則やリスクがあるのでしょうか。
労働基準法は労働条件の最低基準を定める強行法規であり、その規定に違反した場合には刑事罰が科される可能性があります。第32条もその例外ではなく、これに違反して違法な長時間労働を行わせた使用者(会社や責任者)には「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が定められています。
例えば36協定もなく従業員を月に60時間残業させていたような場合、これは法定労働時間を大幅に超えた違反となり、労働基準監督署が把握すれば上記罰則の対象となり得ます。
実際の運用では初回の違反で直ちに起訴・刑罰というよりは、是正勧告や指導が入り、それでも悪質な場合に送検・略式起訴(罰金刑)といった流れになることが多いですが、近年は長時間労働問題への社会的関心の高まりもあり厳しい目が向けられています。
罰則のみならず企業全体に及ぶリスク
企業にとってのリスクは罰則に留まりません。違法な長時間労働を放置すると、労働基準監督署から是正勧告書が交付されたり企業名が公表されたりする場合があります。
いわゆる「ブラック企業」として社会的信用を失墜し、優秀な人材の確保が困難になるといったダメージも無視できません。
また、従業員から労働基準法違反や未払い残業代の請求で訴訟を起こされ、多額の残業代支払いや慰謝料の支払いを命じられるケースもあります。
さらに深刻な場合には、従業員が過労により健康を害したり過労自殺・過労死に至ったりすると、労災認定や企業・管理者に対する損害賠償請求、さらには労働安全衛生法違反等での刑事責任問題にも発展しかねません。
法定労働時間の違反は厳しく取り締まられている
2019年の働き方改革関連法の施行以降、時間外労働の上限規制が強化されてからは、法定労働時間違反に対する取り締まりも一層厳格化しています。ます。特に、時間外労働の上限に関しては、これまでのように特別条項付きの36協定を結んでいれば事実上無制限に残業が可能、という運用はすでに認められていません。
どんなに忙しい月でも時間外労働(+法定休日労働)の合計が月100時間未満でなければならず、かつ2~6ヶ月平均で80時間を超えてはいけないとされています。
年単位でも時間外労働は720時間が上限(法定休日労働含まず)という絶対的な枠が設けられました。これらの規制に違反した場合、先述の通り6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります。
労働基準法第32条をはじめとする労働時間規制に違反することは、企業にとって法的リスク・信用リスク・人材リスク・経営リスクと多方面の負担を招く行為です。
人事労務担当者は「違反するとどうなるか」を正しく理解し、自社がそうした事態に陥らないよう未然防止に努めなくてはなりません。後述する対策を講じ、適正な労務管理を徹底することが何より重要です。
労働基準法第32条と36協定との関係
労働基準法第36条に基づく労使協定、通称「36(サブロク)協定」とは、労働組合または労働者代表との間で時間外労働・休日労働について取り決めを結び、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、法定労働時間を超える残業や法定休日の労働を合法的に行うための手続きです。
労働基準法第32条は「原則残業禁止」ですので、36協定の届出が無ければ1分たりとも法定時間外労働をさせてはいけないことになります。しかし現実には残業や休日出勤が全く無い職場は稀でしょう。そこで36協定を結んでおけば、協定で定めた範囲内に限り残業や休日出勤が可能となるわけです。
言い換えれば、36協定は労働時間の法定上限を労使合意で緩和するための例外措置と言えます。
ただし、36協定でいくらでも残業できるわけではありません。前章でも触れた通り、2019年の法改正によって時間外労働の上限規制が法律に明記されました。
「原則月45時間・年360時間」が上限となり、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも以下の限度を超えることはできません。
- 年間720時間(時間外労働のみで換算、法定休日労働は別枠)以内であること
- 月100時間未満(休日労働含む)であること
- 2~6ヶ月平均で月80時間以内(休日労働含む)であること
- 月45時間を超過できるのは年6回まで
このように、36協定を締結していても絶対に超えてはならない「罰則付きの上限」が設定されました。もちろん36協定自体にも、協定で定める延長時間の上限があります。
通常は厚労省の示すガイドライン通り月45時間・年360時間以内で協定を結びますが、臨時的な特別事情のためにそれを超えて残業させる可能性がある場合は、協定に特別条項を付記する必要があります。特別条項付き36協定を結ぶ場合でも、上記の法定の限度(月100未満・複数月平均80未満・年720以内)を超えることはできません。
人事担当者は、毎年の36協定の更新・届出を確実に行うとともに、その内容が法改正等に適合しているかをチェックする必要があります。
36協定は労使協定ですから、従業員代表の選出にも適正さが求められます。形式的に名前だけの代表では協定の有効性が疑われる恐れもあります。
また、労基署への届出内容(特に特別条項の文言や延長幅)にも不備がないよう注意しましょう。36協定は長時間労働を「して良い理由」ではなく、必要最小限の時間外労働を行うための約束事です。その趣旨を踏まえ、協定範囲内であっても漫然と残業が常態化しないよう、そして協定違反が絶対に起こらないよう細心の注意を払いましょう。
労働基準法第32条で人事労務担当者が注意すべきポイント
長時間労働の抑制と法令遵守のためには、日頃の労働時間管理を適切に行うことが不可欠です。人事労務担当者が実務上特に注意すべきポイントを以下にまとめます。
1. 労働時間の正確な把握と記録
使用者には労働時間を適正に把握・管理する責務があります。これは単なる勤怠記録のためだけでなく、未払い残業や過重労働を防止するために重要です。
タイムカードや出退勤システムを用いて客観的に労働時間を記録するとともに、自己申告制の場合でも申告と実態に乖離がないかチェックしましょう。厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、タイムカードやパソコンのログ記録など客観的記録を活用して労働時間を把握すること、労働者の自己申告を鵜呑みにせず実態を把握する措置を講じることなどが示されています。
例えば終業時刻以降にパソコンの操作記録が頻繁に残っている場合は、申告されていないサービス残業が疑われます。このような兆候を見逃さず、常に実労働時間を正確に捕捉することが大切です。
2. 36協定の範囲内での運用徹底
36協定で定めた残業時間の範囲を超えて労働させることはできません。月の残業見込みが協定の上限に迫っている社員がいれば、その月はそれ以上の時間外労働をさせないよう業務配分を調整する必要があります。特に特別条項付き協定で繁忙期に月60時間・80時間といった残業を容認している場合でも、絶対に月100時間未満に抑えること、複数月にわたる場合は平均80時間以内に収めることを徹底しましょう。
残業が多く発生しそうな部署には人員を増強したり他部署からの応援を仰ぐなどして、個人や一部部署に過度な負荷が集中しないよう工夫します。万一協定時間を超えそうになった段階で放置すると違法になるだけでなく、社員の健康を害する恐れもあるため、早め早めの調整・是正が肝心です。
3. 管理監督者や裁量労働制適用者の労務管理
管理監督者や専門業務型裁量労働制の適用者など、労働時間規制が適用除外・みなし適用となる社員についても、労働時間管理を怠ってはいけません。法律上は残業代支払い義務等が無いとはいえ、実際に長時間労働が無制限に許されるわけではありません。
これらの社員が恒常的に長時間労働となっている場合は、健康管理上の措置(定期的な医師面接や勤務時間の削減措置など)を講じることが企業には求められます。
特に「名ばかり管理職」問題への行政の目も厳しくなっており、厚労省は多店舗展開する小売・外食企業の店長職などについて管理監督者の範囲を適正化する通達を発出しています。管理監督者とされた社員であっても、実態が伴わなければ残業代請求等のリスクがあるうえ、仮に適法な管理監督者であっても健康管理義務は使用者に残ります。労働時間の実態把握という点では他の一般社員と同様に継続的なモニタリングが必要です。
4. 年次有給休暇の取得状況の管理
長時間労働の是正には、労働時間を減らすだけでなく休暇を適切に取得させることも重要です。2019年の法改正で、年10日以上の有給休暇付与資格のある労働者に対し年5日の時季指定取得が義務づけられました。忙しさを理由に有給休暇がまったく取得できないような状況は労働時間法制の趣旨に反します。
各社員が計画的に休暇を取得できるよう、人事担当者が取得状況を管理し、未消化が多い場合は上司と協力して取得を促進するようにしましょう。適度に休みを取ることは結果的に労働時間の削減と生産性向上、労働者のリフレッシュによる健康増進につながります。
5. その他(適正在庫の見直しやノー残業デー等の施策)
業務量が慢性的に多すぎる場合は、根本的に業務プロセスの改善や人員配置の見直しを検討すべきです。ITツールの活用や業務フロー改革で一人当たりの業務負荷を軽減できれば残業削減につながります。
また、会社としてノー残業デーを設定したり、深夜残業を禁止するなどの方針を打ち出すのも有効です。就業時間外の連絡(いわゆるアフターファイブのメール対応等)を控えるガイドラインを設ける企業も増えています。こうした施策を単発で終わらせず、継続的に運用して企業文化として根付かせることが、結果的に法定労働時間遵守を確実なものにしていきます。
労働基準法第32条関連の最新の法改正や行政通達の影響
労働時間に関する法制度は社会情勢の変化に応じて少しずつ改正・強化されています。人事労務担当者は最新の法改正や行政からの通達にもアンテナを張り、実務に反映させていく必要があります。近年の主な動向としては次のようなものがあります。
1. 働き方改革関連法による残業上限規制の強化(2019年施行)
繰り返し述べている通り、2019年4月より時間外労働の上限規制が罰則付きで導入されました。大企業で2019年4月、中小企業では2020年4月から適用され、これにより原則月45時間・年360時間を超える残業はできなくなりました。経過措置として建設業、自動車運転業務、医師等の一部業種は適用猶予されていましたが、それらも2024年4月以降順次この規制の対象となります。例えば建設業界では2024年問題とも言われ、5年間の猶予期間終了により2024年4月から罰則付きの残業時間上限が適用されました。
これら業種の企業では、今まで以上に労働時間管理の徹底と生産性向上の対策が急務となっています。
2. フレックスタイム制の拡充(2019年施行)
フレックスタイム制の清算期間上限が従来の1ヶ月から3ヶ月に延長されました(労基法第32条の3の改正)。これにより、業務量の波に応じて3ヶ月単位で労働時間を調整できるようになり、繁閑の差がある業務でも労働時間の配分柔軟性が高まりました。フレックスタイム制を導入している企業は就業規則や労使協定の見直しを行い、この拡充を活用できるように整備しています。
3. 高度プロフェッショナル制度の新設(2019年施行)
働き方改革関連法で新設されたもう一つの制度が高度プロフェッショナル制度です(労基法第41条の2)。一定年収要件(現在1075万円以上)を満たす一部専門職について、本人の同意を条件に労働時間規制(第32条等)の適用対象から除外する仕組みです。
これにより対象労働者は労働時間の長さではなく成果で評価される働き方が可能となりますが、一方で健康管理措置(年間104日以上の休日確保や2週間に1回の休日取得など)を講じることが使用者に義務付けられています。高度プロフェッショナル制度は適用範囲が限定的とはいえ、導入を検討する企業は労使委員会の設置や同意撤回権など細かな要件を踏まえる必要があります。
4. 勤務間インターバル制度の努力義務化(2019年施行)
勤務間インターバル(勤務終了後から次の勤務開始までに一定時間の休息を確保すること)について、企業の努力義務が創設されました。法的強制力こそありませんが、過重労働を避け十分な休息時間を設ける観点から、多くの企業が自主的に勤務間インターバル制度を取り入れ始めています。
例えば「終業から次の始業まで最低11時間空ける」といったルールを定めれば、必然的に連日の長時間労働が抑制され、従業員の疲労蓄積防止に役立ちます。今後インターバル確保の義務化が議論される可能性もありますので、努力義務だからと軽視せず前向きに導入を検討すると良いでしょう。
以上のような最新動向を踏まえ、単に法律の文章を知っているだけでなく、その運用や背景にある趣旨を理解して実務へ反映させていくことが求められます。法改正は労働環境の改善と表裏一体ですから、企業としても前向きに受け止め、より働きやすい環境づくりにつなげていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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