- 更新日 : 2025年3月18日
外国人雇用時の就業規則はどうする?記載事項や注意点を解説
外国人労働者を雇う際には、就業規則で明確なルールを示すことが重要です。外国人労働者は、日本の法律や企業文化に不慣れな人が多いため、明確なルールがないと労働条件についての誤解やトラブルの原因になります。
本記事では、外国人雇用における就業規則の重要性や就業規則に記載すべき事項などを解説します。外国人労働者をスムーズに受け入れるために、適切な就業規則作成の参考にしてみてください。
目次
外国人雇用における就業規則の重要性
外国人労働者を雇用する際も、日本人の雇用と同様に就業規則を作成します。
外国人労働者は日本の労働環境や法律に不慣れなことが多いため、明確なルールを示すことが大切です。企業文化や労働環境は国によって異なるため、曖昧な説明では誤解を招く恐れがあります。とくに、労働時間や賃金、解雇に関するルールは、外国人労働者にもわかりやすく規定しましょう。
就業規則が明確でないと、労働条件についての誤解が生じやすく、職場でのトラブルが増えることがあります。適切な就業規則を整え、外国人労働者にも理解しやすい形で周知することで、トラブルを未然に防げます。また、定期的にルールを見直し、必要に応じて更新することも重要です。
外国人雇用における就業規則の記載事項
労働基準法第3条に基づき、国籍の違いを理由に労働条件などに差を設けることは禁止されています。外国人を雇用する際にも、労働基準法に基づいた就業規則を作成しましょう。
本章では、就業規則に記載すべき事項について解説します。
絶対的必要記載事項
就業規則には、必ず記載しなければならない労働基準法で定められた項目があります。
労働基準法で定められている記載内容は以下の3つです。
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
労働時間や賃金、退職に関する内容は、すべての労働者に適用される重要なルールです。労働条件が不明確だと、企業と従業員の間でトラブルが発生することがあります。
また、これらの項目を就業規則に記載しないと、法律違反とみなされることがあります。企業は労働基準法に従い、必要なルールを正確に定め、従業員に周知しなければなりません。
相対的必要記載事項
企業が特定の制度を設ける場合、就業規則に記載する必要があります。
相対的必要記載事項に該当する内容は以下の通りです。
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
すべての企業に義務付けられているわけではありませんが、制度を導入する場合には、労使間の認識のズレを防ぐために明確なルールを定めることが重要です。
任意的記載事項
就業規則には、企業の判断で自由に定められる項目もあり、法律で義務付けられていないため、会社ごとに内容が異なります。
主に、職場環境の向上や社内ルールの統一を目的として、以下のような事項が設定されることが一般的です。
- 服装や身だしなみのルール
- 福利厚生制度
- 昇進・昇格の基準
- 人事異動のルール
たとえば、日本企業では会社の指示による人事異動は珍しくありません。しかし、外国人労働者にとっては馴染みがない場合があります。事前の説明なしに異動を命じられると、戸惑いや不安を感じる外国人労働者もいるでしょう。
文化の違いを考慮し、就業規則に任意的記載事項を明記することで、安心して働ける環境を整えられます。
在留資格の更新・変更に関する規定
就業規則には、在留資格が喪失または変更された場合の対応を明記しておきましょう。企業が従業員を解雇する場合は、就業規則や労働契約書に定められた「解雇事由」に該当する必要があります。
外国人労働者は、取得した在留資格に適合する業務の範囲内で働く必要があります。在留資格が更新されなかったり、取り消されたりすると、就労を続けることはできません。
不法就労は、企業にも罰則が科される可能性があります。就業規則には、在留資格を喪失した場合または、変更になった場合は解雇する旨を記載すると安心です。
関連記事:外国人雇用の注意点 – 関連する法律や手続きを解説
外国人労働者向けの就業規則の作成ポイント
外国人を雇う際は、言語の壁や在留資格の制約に配慮し、外国人労働者向けの就業規則を作成することが大切です。ただし、国籍を理由に日本人と異なる労働条件を設定することは認められていません。
外国語対応
外国人労働者が就業規則を正しく理解できるよう、多言語対応を行うことが重要です。
日本語の理解が不十分な労働者がいる場合、就業規則の内容が正しく伝わらず、誤解やトラブルにつながる可能性があります。英語や母国語に翻訳した就業規則を用意するとよいでしょう。また、難しい表現を避け、簡単な日本語を使えば理解しやすくなります。
入管法に基づく業種や賃金の規定
在留資格にはいくつかの種類があり、それぞれ就労できる職種や業務範囲が決められています。企業は、採用する労働者の資格が業務内容に適しているかを事前に確認しなければなりません。不適切な業務を任せると、企業にも法的な責任が生じる可能性があります。
たとえば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもつ場合、入管法により従事できる業務や報酬の基準が決められています。
企業は従業員の在留資格を正しく把握し、適切な業務を任せましょう。定期的に資格の更新状況を確認し、必要に応じて適切な手続きをサポートすることも大切です。
参考:「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について
外国人労働者へ就業規則の周知義務
労働基準法106条により、企業は就業規則の内容をすべての労働者に周知する義務があります。
外国人労働者に正しく周知するには、母国語ややさしい日本語で説明することが重要です。たとえば、以下のような方法で周知をすると良いでしょう。
- 母国語で翻訳した資料を配布する
- やさしい日本語で説明する
- 図やイラストを活用した説明資料を用意する
また、就業規則の内容を研修などで直接伝えることも効果的です。
就業規則作成時の注意点
外国人労働者を雇用する企業が就業規則を作成する際の注意点を紹介します。適切な就業規則を作成し、労働環境を整えれば、職場のトラブルを防げます。
参考:外国人社員と働く職場の労務管理に使える ポイント・例文集
文化や習慣の違いによるトラブル
外国人労働者が日本の企業で円滑に働くためには、文化や習慣の違いを正しく伝えることが大切です。
国によって仕事に対する考え方や価値観が異なるため、誤解が生じたり、意図を正しく理解できなかったりすることがあります。たとえば、日本では「報告・連絡・相談」が重視されますが、海外では自分で判断し、結果だけを報告する文化の国もあります。この違いを理解せずに指示をすると、業務の進め方にズレが生じ、トラブルの原因となることもあるでしょう。
職場の重要なルールは就業規則に明記し、事前にわかりやすく説明することが必要です。
外国人労働者の労働時間管理
外国人労働者の在留資格によって労働時間の上限が異なるため、適切な労働時間管理が必要です。
「永住者」や「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもつ場合、日本人と同じく1日8時間・週40時間の労働が可能です。一方「資格外活動許可」を得ている留学生などは、週28時間以内の労働と定められています。このルールを守らないと、企業側も法的な責任を問われる可能性があります。
就業規則の労働時間に関する項目は、在留資格に応じた内容を明確に記載し、労働時間の上限を超えないように管理しましょう。
外国人雇用における差別・不平等のリスク
労働条件を国籍によって変えることは、法律で禁止されています。
国籍を理由とすることが明示されていなくとも、実態として賃金や昇給、昇進などの待遇が、外国人労働者と日本人で異なると不公平感が生まれます。企業は、すべての労働者に対し、公平な基準を適用することが大切です。同じ能力や経験をもつ労働者は、国籍に関係なく公平に評価しましょう。また、外国人だからといって、教育や研修の機会が制限されることも問題です。
公平な職場環境を作るために、昇給や昇進の基準を明確にし、就業規則に記載して全従業員に説明することが大切です。
社内ルールと就業規則の整合性
社内ルールと就業規則が一致していないと、労働トラブルの原因になります。
就業規則に記載されている内容と実際の運用が異なると、外国人労働者が混乱し職場に対する不信感を抱く可能性もあるでしょう。
就業規則と社内ルールを一致させ、全従業員に周知することで、労働環境の透明性を確保できます。企業は定期的にルールを見直し、実際の運用と合っているかを確認することが大切です。
外国人雇用の就業規則|誰もが働きやすい職場づくりのために
外国人労働者を雇う際は、日本の労働基準法に基づいた就業規則を整備し、明確なルールを示すことが大切です。労働時間や賃金、退職に関するルールをしっかり定め、外国人労働者にも理解しやすい形で伝えましょう。
曖昧な規則や周知不足は、職場での誤解やトラブルの原因となるため、注意が必要です。就業規則を適切に作成し、定期的に見なおすことで、外国人労働者が安心して働けるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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