- 更新日 : 2025年7月30日
社長のパワハラの対処法・事例|相談先についても解説
社長によるパワハラは、従業員にとって深刻な問題です。本記事では、社長のパワハラに対する効果的な対処法や具体的な事例を紹介します。また、信頼できる相談先についても詳しく解説します。パワハラ防止法(労働施策総合推進法)に基づく事業主の義務についても解説しますので参考にしてください。
目次
社長によるパワハラにあったら、どこに相談すればよい?
ここでは、社長からのパワハラに関する相談先について詳しく解説します。
外部相談窓口の利用方法と利点
外部相談窓口は、会社と利害関係のない第三者機関です。主な第三者機関と、利用方法や利点・注意点について紹介します。
- 弁護士や社会保険労務士の事務所:法的な知識と過去の経験に基づく専門的なアドバイスが受けられる
- ハラスメント対策のコンサルティング会社:専門知識を持つコンサルタントによる対応が受けられる
- 産業カウンセラーによる相談サービス:働く人の悩みに対応してくれる民間サービス
- 医療法人が運営するサービス:心療内科や精神科をベースとした企業が提供するサービス
これらの外部相談機関は、企業の規模やニーズに応じて選択できる点がメリットです。外部委託には費用がかかることが多い点は注意ですが、従業員のプライバシー保護や専門的な対応が期待できます。
【利用方法】
- 電話、メール、対面など、窓口によって様々な方法がある
- 事前予約が必要な場合もあるので、確認が必要
【利点】
- 中立的な立場からアドバイスが得られる
- 会社内部に知られることなく相談できる
- 法律や労働問題の専門家に相談できることも多い
【注意点】
- 相談内容によっては費用がかかる場合がある
- 相談前に料金体系の確認が必要
外部相談窓口を利用することで、客観的な視点から問題解決の糸口を見つけやすくなるかもしれません。
無料で利用できる公的相談窓口
公的機関が提供する無料の相談窓口もあります。
- 労働局の総合労働相談コーナー
→ 全国の労働局や労働基準監督署に設置
→ 労働問題全般について相談が可能 - 都道府県労働委員会
→ 労使間のトラブルについて相談可能
→ 調停などに備えた対応も提供していることが多い - 法テラス(日本司法支援センター)
→ 法律相談や弁護士の紹介を行っている
→ 収入などの条件を満たせば、無料で専門家に相談可能
これらの窓口は無料で利用できるため、経済的な負担なく専門家のアドバイスを受けられます。ただし、混雑している場合もあるので事前の予約がおすすめです。
匿名で相談できる窓口
社長からのパワハラを相談する従業員にとって、匿名での相談はより安心できる方法です。相談を匿名で相談できる主な窓口と特徴について紹介します。
- 厚生労働省の「働く人の『こころの耳相談』」
→ 電話やメールで匿名相談が可能
→ 労働問題全般についての相談ができる - 各都道府県の労働相談ホットライン
→ 多くの都道府県で匿名相談を受け付けている
→ 地域の労働問題に詳しい相談員が対応 - NPO法人などの民間団体による相談窓口
→ パワハラや職場の人間関係に特化した窓口もある
→ SNSを活用した匿名相談サービスを提供する団体も
匿名相談の利点は、個人情報を明かさずに相談できることです。ただし、具体的な解決策を提案するには、被害者側の明確な情報が必要になる場合もあります。状況に応じて、どこまで自分や先方の情報を開示するか判断しましょう。一人で抱え込まず、専門家のアドバイスを受けることが問題解決の第一歩です。
社長はパワハラ気質が多い?
ワンマン社長の独裁体制の企業では、パワハラが起こりやすい傾向があると言われています。これは社長の性格や経営スタイルだけでなく、組織全体の構造や文化にも深く関係していることが多いようです。
ワンマン社長がパワハラを引き起こす心理
ワンマン社長がパワハラを引き起こしやすい心理には、いくつかの要因があります。
詳細は以下の通りです。
- 自己中心的な思考
→ ワンマン社長は自分の意見や判断を絶対視する傾向がある
→ 自己を絶対視することで他人の意見を軽視し、自分の考えを押しつけがちになる - 成果への過度な執着
→ 短期的な成果を重視するあまり、従業員の健康や意見を無視する - コントロール欲求
→ 全てを自分でコントロールしたがる傾向があり、従業員の自主性を奪う - 共感力の欠如
→ 他者の立場に立って考えることが苦手で、従業員の気持ちや状況を理解できないことがある - 不安と自信のアンバランス
→ 表面的には自信家に見えますが、実は深い不安を抱えていることもあります。この不安が攻撃的な行動として表れることがあります
もちろん、全ての社長が上記の内容に該当しているわけではありません。しかし、企業の存続や従業員の雇用維持という重大な責任を担い、日々大きなプレッシャーを抱えていることが、時にパワハラ的な言動を引き起こしやすい一因となることも否めません。
パワハラが発生しやすい企業文化とは
パワハラが発生しやすい企業文化には、以下のような特徴があります。
- 黙認と隠蔽の文化:パワハラを問題視しない、あるいは隠蔽しようとする雰囲気がある
- 成果至上主義:成果を重視するあまり、人間関係よりも仕事が優先される風潮が強い
- 競争の激化:組織内で激しい競争が繰り広げられており、同僚同士の関係が悪化、互いを攻撃するような状況が発生している
- 上下関係の固定化:上司と部下の関係が厳格に区別され、上下関係が絶対視されている
- 威圧的なコミュニケーション:組織全体で威圧的なコミュニケーションが横行している
上記のような企業文化が根付いている組織では、ワンマン社長のパワハラ的な言動が正当化されやすく、また他の管理職もそれに追随してしまう傾向です。結果として、組織全体にパワハラがまん延してしまう危険性が高まります。
社長によるパワハラが認定された事例
社長によるパワハラが認定された事例は、残念ながら少なくありません。これらの事例は、職場環境の改善と法的責任の重要性を示しています。
過去に認定された具体的なパワハラ事例
以下では過去、実際に認定された社長によるパワハラ事例をご紹介します。
社長が従業員に対し、日常的に暴言や暴行を繰りしていた 社長はミスによる損害の弁償として、従業員へ7,000万円の支払いを要求したこともある 被害者が自殺する直前に、全治約12日間の傷害を負わせる暴行や退職を強要 裁判所はこれらの行為がパワハラに該当し、被害者の自殺との因果関係を認めた |
代表権を持つ会長が、同じく代表権を持つ社長に対してパワハラを行った 経営会議や業績報告会で、他の取締役の前で社長を「馬鹿」「無能」と繰り返し罵倒 会長の優越的地位を利用した行為として、パワハラと認定された |
これらの事例は、社長や会長といった会社のトップによるパワハラが、深刻な結果をもたらす可能性を示しています。
パワハラ認定後の法的措置と影響
パワハラが認定された場合、以下のような法的措置と影響が生じます。
- 損害賠償責任:加害者個人だけでなく、会社も連帯して損害賠償責任を負うことがある
→ 実際に社長らによるパワーハラスメントと急性ストレス反応の発症と自殺の間の相当因果関係が争われた事案では、会社と社長個人に対して5,400万円あまりの損害賠償が命じられた
(名古屋地裁 2014(平成26)年1月15日判決) - 会社の法的責任
使用者責任(民法715条)に基づき、会社が従業員の行為に対して責任を負う
→ 職場環境配慮義務違反として、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生する可能性もある - 行政による介入
→ パワハラ防止法(労働施策総合推進法)に基づき、行政からパワハラ事案について報告を求められる場合がある - 再発防止措置
→ 会社は加害者への処分や、被害者保護のための配置転換などの措置を講じる必要がある
→ ただし、処分は適切なバランスを保つ必要があり、過剰な処分は無効とされる可能性が高い - 企業イメージへの影響
→ パワハラ事案が公になることで、企業の社会的評価が低下する可能性が高い
これらの法的措置と影響は、企業にとって大きな負担となります。企業はパワハラ防止のための積極的な取り組みが重要です。
事業主は本来パワハラ防止措置を講じる義務がある
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)により、事業主には職場でのパワーハラスメント防止のための措置を講じる義務があります。
ここでいう事業主とは多くの場合、法人そのものを指し、必ずしも社長個人を意味するわけではありません。つまり、組織全体としてパワハラ防止に取り組む責任があるのです。
パワハラ防止法に基づく事業主の義務
パワハラ防止法に基づき、事業主には以下の義務があります。
- パワハラ防止の方針明確化と周知・啓発
パワハラの内容や、それを行ってはならない旨の方針を明確にし、従業員に周知する必要がある - 相談・苦情への対応体制整備
パワハラに関する相談窓口を設置し、適切に対応できる体制を整えなければならない - 事後の迅速かつ適切な対応
パワハラが発生した場合、事実関係を迅速に確認し、被害者への配慮や加害者への処分を適切に行う必要がある - プライバシー保護と不利益取り扱いの禁止
相談者や協力者のプライバシーを守り、相談したことを理由とする不利益な取り扱いを禁止しなければならない
これらの義務は、企業規模にかかわらず全ての事業主に課せられています。基本的にパワハラは個人間で発生しますが、まずはパワハラを防止する意識づけに会社全体で取り組む必要があるのです。
効果的なパワハラ防止策の導入方法
効果的なパワハラ防止策を導入するには、以下の方法が有効です。
- 明確な社内ポリシーの策定:
パワハラの定義、具体例、禁止事項を明記した社内ポリシーを作成し、全従業員に周知する - 定期的な教育・研修の実施
全従業員を対象としたパワハラ防止研修を定期的に行い、意識向上を図る - 相談窓口の設置と周知
匿名での相談も受け付ける窓口を設置し、その窓口の担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにするとともに、その窓口の存在を従業員に周知する - 管理職向けの特別研修
管理職に対して、パワハラ防止のリーダーシップ研修を実施し、適切な部下指導方法を共有する - 定期的な従業員アンケート
職場環境に関するアンケートを定期的に実施し、問題の早期発見に努める
上記の方法を組み合わせることで、効果的なパワハラ防止策を導入できます。重要なのは、組織全体でパワハラ防止に取り組む姿勢を示し、継続的に改善を図ることです。
企業のトップがパワハラ防止のメッセージを発信するメリット
企業のトップがパワハラ防止のメッセージを発信することは、組織全体にとって大きなメリットがあります。ここでは発信するメリットについて解説します。
トップダウンでのメッセージ発信効果
トップダウンでパワハラ防止のメッセージを発信することには、以下のような効果があります。
- 組織全体の意識向上:トップの明確な方針表明により、パワハラ防止が会社の重要課題であることが全従業員に伝わる
- 具体的な取り組みの促進:トップのメッセージを受けて、研修の実施や相談窓口の設置など、具体的な対策が進めやすくなる
- 問題の早期発見と解決:従業員がパワハラについて発言しやすい雰囲気が生まれ、問題の早期発見・解決につながる
- 管理職の意識改革:特に、パワハラに対する認識が低かった管理職の意識改革に効果がある
- 長期的な企業文化の醸成:継続的なメッセージ発信により、互いを尊重し合う企業文化が育まれる
「パワハラ」という言葉には、一般的に上から下へ行われるものという印象があります。しかし、社長や会社全体が従業員に向けてパワハラ防止のメッセージを発信することによって、従業員に信頼と安心感を与えやすくなるでしょう。
メッセージ発信による企業イメージ向上
トップからのパワハラ防止メッセージは、企業イメージの向上にも寄与します。
- 社会的責任の遂行:パワハラ防止に積極的に取り組む姿勢は、企業の社会的責任を果たしていることを示す
- 人材確保・定着の促進:ハラスメントのない職場環境づくりへの取り組みは、優秀な人材の確保や定着率の向上につながる
- 企業価値の向上:パワハラ防止への取り組みは、企業の評判を高め、株主や投資家からの信頼獲得にもつながる
- リスク管理の徹底:パワハラによる訴訟や社会的信用の失墜などのリスクを軽減し、企業の持続可能性を高める
- 従業員のモチベーション向上:トップの明確な姿勢表明は、従業員の安心感とモチベーション向上につながり、生産性の向上にも影響する
トップからの継続的なメッセージ発信と具体的な取り組みの実施により、パワハラのない健全な職場環境が実現し、企業の持続的な成長と発展につながります。
パワハラの撲滅は会社全体で取り組む
今回の記事では、社長によるパワハラの対処法について解説しました。たとえ社長であっても、パワハラ行為をした場合、責任を問われることがあります。まずは、会社全体でパワハラを正しく認識し、防止するための具体的な取り組みを進めましょう。パワハラについてきちんと判断できる社長や上層部の姿勢が、従業員に信頼と安心感を与えます。全従業員が働きやすい環境を目指し、会社全体でパワハラの撲滅を考えていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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