• 更新日 : 2025年3月19日

時短勤務中の残業は違法?どこから残業になるのか、残業代の計算方法も紹介

時短勤務中の残業は違法ではありません。ただ、残業免除の申請をしたのに残業させられる場合は、違法に当たることがあります。

「そもそも時短勤務中はどこからが残業になるの?」「残業免除の申請方法は?」などと疑問に思う人もいるでしょう。

そこで本記事では、時短勤務中はどこからが残業に該当するのか、残業代の計算方法、残業免除の申請方法などを解説します。

時短勤務とは?

時短勤務とは、育児・介護と仕事の両立を図るために1日の所定労働時間を短縮する働き方のことです。育児・介護休業法施行規則第74条によって、時短勤務の制度を設けることが義務付けられています。

時短勤務中の所定労働時間は、原則として6時間です。特定の日だけが6時間になるのではなく、時短勤務の対象となった全ての労働日が6時間になります。

また、会社によっては6時間のほかに、7時間や5時間という選択肢が用意されていることもあります。自身の状況に応じて、育児・介護と仕事を両立させやすい勤務時間を選びましょう。

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則|e-Gov 法令検索

時短勤務の対象者

育児と介護で時短勤務の対象者が異なるため、下の表にまとめました。

【育児】時短勤務の対象者【介護】時短勤務の対象者
  • 3歳未満の子どもを養育していること
  • 1日の所定労働時間が6時間以下ではないこと
  • 日々雇用される者ではないこと
  • 短時間勤務制度が適用される期間に育児休業をしていないこと
  • 労使協定により適用除外とされた労働者ではないこと
  • 要介護状態の対象家族を介護していること
  • 日々雇用される者ではないこと
  • 労使協定により適用除外とされた労働者ではないこと

育児も介護も、それぞれ全ての条件を満たさなければなりません。

また、事前に労使協定が定められている場合、それぞれ以下の労働者は時短勤務の対象外となります。

【育児】労使協定により
時短勤務の対象外となる労働者
【介護】労使協定により
時短勤務の対象外となる労働者
  • 事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  • 業務の性質または業務の実施体制によって、時短勤務が困難と認められる業務に従事する労働者
  • 事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
  • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者

もし労使協定に規定された上記の労働者に該当する人は、時短勤務が適用されないため注意してください。

なお、育児も介護もしていないが時短勤務で働きたい人は「短時間正社員制度」を利用して所定労働時間を短縮できる可能性があります。もし会社が短時間正社員制度を導入していれば、治療しながら働き続けたい人や学校に通いながら働き続けたい人でも、時短勤務が可能です。

参考:育児介護休業法のあらまし|厚生労働省短時間正社員|職務・勤務地・時間を限定した多様な正社員|厚生労働省

時短勤務中の残業は違法?

時短勤務中の残業は違法ではありません。労働基準法や36協定の範囲内であれば、残業できます。

しかし、自主的に残業をしている場合を除き、会社側から残業をさせるのは望ましくありません。育児・介護と仕事の両立を図るという目的から逸れているためです。

また、残業免除の申請をした際に、自身の判断で残業するのは問題ありませんが、会社側から残業を依頼するのは違法に当たります。育児・介護休業法の第16条にて規定されています。従業員が残業免除の申請をした場合、会社は必ず申請を受理しなければなりません。

なお、残業免除ができる対象者や申請方法については「時短勤務中に角を立てずに残業を断る方法」の見出しで詳しく解説しています。

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-Gov 法令検索

時短勤務をしている人はどこからが残業?

時短勤務中の所定労働時間は原則として6時間であるため、勤務時間が6時間を超えると残業になります。つまり、6時間を超えた時間から残業時間として扱われ、6時間1分から残業代が発生します。

たとえば、9:00~16:00が所定労働時間(うち1時間は休憩)の場合、16:01からが残業時間です。

フルタイムの社員と同様に、8時間を超えた時間を残業時間として処理するのは誤りです。残業の開始時刻や残業時間を自身で管理している人は、十分に注意しましょう。また、8時間を超えた時間から残業代が発生している人は、すぐに管理部に報告してください。

時短勤務中の残業の制限について

時短勤務中の残業は、所定外労働時間・法定労働時間外・深夜残業の3つに区分されます。

それぞれの残業について、概要や違法性について表にまとめました。

残業の区分所定外労働時間法定労働時間外深夜残業
概要会社が定めた所定労働時間を超えた時間1日8時間・1週40時間を超えた時間深夜22時~翌朝5時までの時間
違法性なしなしなし
残業の免除を申請した場合の違法性ありなし
(残業できる時間が減る)
あり

以下より、それぞれの残業について詳しく解説します。

所定外労働時間

所定外労働時間とは、会社が定めた所定労働時間を超えた時間のことです。時短勤務中の人は所定労働時間が原則として6時間であるため、所定外労働時間は6時間1分から該当します。

時短勤務中の人が、所定外労働時間まで残って残業をするのは違法ではありません。ただし、残業の免除を申請したあとに会社側が残業を依頼するのは違法です。つまり、勤務開始から6時間が経ったのに、引き続き業務を依頼してはなりません。

所定外労働時間における残業の免除は、1ヶ月以上1年以内の範囲で有効です。申請できる回数に制限もありません。また、申請できる対象者や申請方法については、下の見出しにまとめています。

法定労働時間外

法定労働時間外とは、労働基準法の第32条によって規定されている「1日8時間・週40時間」を超えた時間のことです。本来であれば1日8時間・週40時間を超える労働は違法ですが、36協定を締結すると「月45時間・年360時間」まで法定労働時間を超える労働が可能となります。

時短勤務中の人は、8時間1分から法定労働時間外に該当します。6時間1分~8時間までは法定労働時間外ではないため、混同しないように注意しましょう。

時短勤務中の人が法定労働時間外において残業をした場合、違法ではありません。また、残業の免除を申請した場合は、月24時間・年150時間まで法定労働時間外に残業できます。

法定労働時間外における残業の免除は、1ヶ月以上1年以内の範囲で有効です。申請できる回数に制限もありません。申請できる対象者や申請方法は、下の見出しで解説しています。

なお、36協定を締結していなければ、フルタイムや時短勤務に関わらず法定労働時間外の残業は違法です。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

深夜残業

深夜残業とは、深夜22時~翌朝5時までの残業のことです。フルタイムや時短勤務に関係なく、前述の時間帯が深夜残業に該当します。

時短勤務中の人が深夜残業しても違法ではありません。ただし、残業の免除を申請したにも関わらず、会社側から残業させられるのは違法です。

深夜残業の免除は、1ヶ月以上6ヶ月以内の範囲で有効です。申請できる回数に制限もありません。申請できる対象者や申請方法は、下の見出しで解説しています。

時短勤務中の残業代の計算方法

時短勤務者の残業代は、以下の区分に分けて計算します。

区分残業時間計算方法
所定外労働時間~
法定労働時間内
6時間1分~8時間残業代=1時間あたりの賃金×残業時間
(会社により異なる場合がある)
法定労働時間外8時間1分~
(22時までの残業時間分)
残業代=1時間あたりの賃金×1.25×残業時間
深夜残業22時~翌朝の5時の
残業時間分
残業代=1時間あたりの賃金×1.5×残業時間

法定労働時間内の残業代の計算方法は会社によって異なる場合がありますが、一般的には「1時間あたりの賃金×残業時間」で算出されます。

また、法定労働時間外の残業と深夜残業の割増率は、労働基準法の第37条にて定められています。従って、会社独自の計算方法で残業代を算出することは認められていません。

実際に上記の計算方法を用いて、残業代を計算してみましょう。1時間あたりの賃金が2,000円の従業員が、10時に始業し深夜23時まで残業したと仮定します。(10時~17時までが所定労働時間)

【所定外労働時間~、法定内労働時間】
→17時~19時までの2時間
→残業代=2,000円×2時間=4,000円

【法定労働時間外】
→19時~22時までの3時間
→残業代=2,000円×1.25×3時間=7,500円

【深夜残業】
→22時~23時までの1時間
→残業代=2,000円×1.5×1時間=3,000円

残業代の合計:14,500円

10時に始業して23時まで残業した日の残業代は、14,500円となります。なお、今回のケースでは、法定労働時間を超過しているため、深夜残業を1.5で計算しましたが、深夜であっても法定労働時間を超過していないのであれば、1.25で計算することが必要です。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

時短勤務の給与計算をする場合の注意点

時短勤務者の給与計算には、通常の従業員とは異なる特有の注意点があります。ここでは、企業の人事担当者が注意すべき給与計算のポイントについて、具体的に解説します。

基本給や賞与(ボーナス)の確認

時短勤務者の給与計算をする際は、基本給や賞与(ボーナス)の確認を怠らないことが大切です。

基本給は、労働時間に応じて比例計算されることが一般的です。

給与額 = 基本給 × 実労働時間 ÷ 所定労働時間

1日の所定労働時間が8時間・基本給が25万円の従業員が、時短勤務で1日6時間に短縮した際は、給与額は以下の計算式で求められます。

25万円×6時間÷8時間=18万7,500円

上記のように、時短勤務前と比較して約25%減少します。賞与についても同様に、勤務時間に比例して支給額が減少するケースがほとんどです。

ただし、会社の規定や評価基準によっては例外もあるため、事前に就業規則を確認しましょう。

時短勤務後の社会保険料の再確認

時短勤務に移行すると給与が減額される場合が大半です。しかし、社会保険料に関しては適切な手続きを行わないと、従来の基準のまま控除が継続されるので注意しましょう。

たとえば、給与は減少しているにも関わらず社会保険料は変わらない状況が発生し、手取り額が想定以上に減少する可能性があります。

ただし、育児休業からの復職後に育児時短勤務を開始する際は、「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出すれば、新しい給与に応じた社会保険料に減額可能です。

また、育児の時短勤務により社会保険料が減額した場合でも、将来の年金額への影響を抑えられる制度があります。「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出をすれば、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」が適用されます。

制度を利用すると、将来受け取る年金額は減少しません。手続き方法は、下記のとおりです。

  1. 従業員が会社に申し出を行う
  2. 会社が日本年金機構に必要書類を提出
  3. 変更後の社会保険料で控除開始

なお、上記の制度は育児を理由とする時短勤務に限定されているため、そのほかの理由の時短勤務には適用されません。

有給休暇取得時の賃金計算

時短勤務者が有給休暇を取得する際は、所定労働時間分の賃金が支払われます。たとえば、1日6時間勤務の従業員が有給を取得した場合、6時間分の給与が支給されます。

フルタイム勤務者とは賃金額が異なるため、有給休暇取得時の給与計算を誤らないことが大切です。

また、時短勤務者の有給休暇取得時の賃金計算は、平均賃金や所定労働時間にもとづいて行われます。つまり、就業規則に従った計算が必要です。

もし怠ると労働基準法違反となり、労働者とのトラブルにつながる可能性があります。

時短勤務中に角を立てずに残業を断る方法

時短勤務中に残業して欲しいと頼まれた際に、依頼した人との関係や場の空気を悪化させず残業を断る方法をいくつか紹介します。

  1. 提案を交えて断る
  2. 時間をずらせない用事があると説明し断る
  3. 正直に理由を話して断る

1つ目は、提案を交えて断る方法です。「明日の午前中に対応します」というように残業内容の代替日時を提示して断りましょう。

2つ目は、時間をずらせない用事があると説明して断る方法です。「子どもの迎えに行きます」「幼稚園(もしくは介護施設)で面談の予定があります」など、他の人にも影響が及ぶような用事があると示唆するのがポイントです。遅れると自分以外にも迷惑がかかると暗に伝えましょう。

3つ目は、正直に理由を話して断る方法です。「今日は家事担当の日なので残業は難しいです」「家族が病気のため看病したいです」と正直に残業できない理由を話しましょう。変に嘘を吐かなくても正直に言えば、多くの人が理由を認めてくれます。

もし、残業を断っても繰り返し残業をお願いされる場合は、残業免除の申請を提出するか人事の担当者に相談するのがおすすめです。

残業免除の申請方法

残業をするのが難しい場合は、残業免除の申請をしましょう。申請ができる対象者を以下の表にまとめました。

残業の区分対象者
所定外労働時間
  • 3歳未満の子どもを養育している労働者
  • 対象家族を介護する労働者
法定労働時間外
  • 小学校に入学するまでの子どもを養育する労働者
  • 対象家族を介護する労働者
深夜残業
  • 小学校に入学するまでの子どもを養育する労働者
  • 対象家族を介護する労働者

残業免除を申請できる対象者は、育児・介護休業法の第16条~第19条によって定められています。上記に該当しない従業員は、免除の申請ができません。なお、2025年4月からは、所定外労働の免除対象者が小学校入学前までの子を養育する労働者に拡大されます。

また、残業免除を申請するには、免除を開始する日の1ヶ月前までに事業主に通知する必要があります。下記の事項を記入して、書面やメールなどで申請してください。

  • 申請する年月日
  • 従業員の氏名
  • 残業免除の申請に関係している家族の氏名・生年月日・従業員との続柄
  • 免除期間の初日と末日

残業免除の申請をすれば、周囲の人や上司から残業をお願いされることはほとんどなくなります。育児や介護の時間を大切にしたい人は、ぜひ申請を検討してみてください。

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-Gov 法令検索

時短勤務中の残業について理解し、ワークライフバランスを保ちましょう

時短勤務は、育児や介護と仕事の両立を図るために設けられた制度です。よって時短勤務中の人は、自主的でない限り、上司に依頼されたからと言って無理に残業するのは望ましくありません。

残業をせずに育児や介護の時間を大切にしたいと考えている人は、本記事で紹介した残業の断り方を試してみてください。もしくは、残業の免除を申請するのもおすすめです。

本当に必要な時のみ残業して必要でない時は定時で帰宅することを意識して、ワークライフバランスを保ちましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事