- 更新日 : 2025年7月30日
パワハラを録音したら違法?証拠として利用できる?録音のポイントも解説
パワハラ行為を立証するには、証拠が必要です。メールによる嫌がらせの場合は、文面が証拠になるかもしれません。しかし、多くは行為者の言動で判断する場合が考えられるでしょう。言動の録音は、パワハラの証拠にも役立ちます。
今回は、パワハラを録音した場合の違法性について解説します。証拠として使う録音のポイントなども解説しましょう。
目次
パワハラを録音するのは違法?
職場のパワハラを録音する行為は、一般的には違法ではありません。録音は、自分が被害を受けたことを証明するための正当な手段と考えられるため、通常は違法性を問われることはありません。ただし、録音行為が反社会的な手段によって行われた場合、例外的に違法と判断される可能性があります。
また、職場で録音を行った場合は、録音機器や携帯電話などの持ち込みが禁止されていると就業規則に違反したことになります。
企業は、就業規則を守らなかった従業員に対して懲戒処分にする権限があります。会社によっては、指揮命令や施設管理の権限により職場内のありさまを録音・録画禁止にする場合もあるでしょう。企業では、機密性の高い情報を取りあつかう場合もあり、漏えい防止のために録音禁止にする可能性があります。
録音したパワハラは証拠として利用できる?
職場のパワハラ行為は、録音したものを証拠として利用できます。日常の職場で頻繁にパワハラ行為が行われる場合は、無断で録音(秘密録音)した音源が証拠として認められます。
原則として民事裁判の証拠になる
パワハラ行為を録音した音源は、原則として民事裁判の証拠になります。過去の最高裁判所判例では、裁判の証拠として相手方の承諾なしに秘密録音したテープの音源が証拠能力として認められました。
相手方の会話を同意なく録音したものであっても証拠能力が否定されなかった裁判例です。
出典元:裁判所「裁判例事件番号 平成11(あ)96 平成12年7月12日」
裁判例は、民事起訴となるパワハラ問題において証拠能力が認められています。
裁判前の交渉でも証拠になる
パワハラを録音した音源は、裁判前の交渉でも証拠として利用できます。裁判前の交渉では、パワハラを行った当事者と被害にあった当事者を交えた労使間の話し合いとなるでしょう。民事裁判は、訴える側と訴えられる側の双方ともに時間や労力を必要とします。
そのため、できれば裁判沙汰まで発展させたくないと考えるでしょう。裁判前の交渉で、会社側が証拠の効力を理解すれば当事者間の交渉で解決する場合もあります。
ただし、会社側がパワハラの事実を認めない場合は、録音した証拠を利用した民事裁判が必要になるでしょう。
パワハラの証拠として録音する際のポイント
パワハラ行為を証拠として録音する場合は、いくつかのポイントに注意が必要です。
一部を切り取らず全てを録音する
パワハラ行為に当たる音源部分だけを切り取ったり、暴言だけを録音したりするケースもありますが、パワハラの証拠能力を高めるには、パワハラが発生する前後の流れも含めた全てを録音する必要があります。録音した音源から一連の流れを理解できれば、「どのような状況が原因でパワハラ行為をするのか」や「暴言を吐いた後にどのような態度を取るのか」などの状況も状況判断に役立つでしょう。
録音媒体の日時を正確に設定する
パワハラを録音する際は、録音媒体の日時なども記録されるように設定しましょう。民事裁判では、証拠として提出した音源に対して、録音日時が不明な場合は「録音した時期が不明」と判断されて、証拠としての信用性がなくなる可能性があります。また、偽造や編集が疑われる場合もあるでしょう。
証拠としての信用性を認めさせるには、録音媒体のスマホアプリやボイスレコーダーの日時設定が正しく記録されるかを確認する必要があります。
録音してもパワハラの証拠として認められないケース
パワハラ行為は、録音したものが全て証拠として認められるとは限りません。状況によっては、録音した音源がパワハラの証拠として認められないケースもあります。
刑事裁判で争った場合
民事裁判では、パワハラの録音に原則として証拠能力が認められます。ところが、刑事裁判では証拠能力を認めないケースもあるでしょう。刑事裁判には、違法収集証拠の排除という対応が考えられます。
そもそも、会社にとって職場の業務中の音声を録音されることは守秘義務のある内容まで漏えいするリスクが発生します。そのため、パワハラのリスクがない職場でも録音を禁止する傾向があるでしょう。
職場で秘密録音した音源は、民事裁判でも原則として証拠能力が認められます。しかし、刑事裁判においては、秘密録音による音源となるため、違法収集証拠の扱いとなる可能性があるでしょう。刑事裁判で争った場合は、違法性のある部分に対して追求され不利になるかもしれません。
不適切な方法で録音を収集した場合
パワハラの録音は、不適切な方法で収集した場合は証拠として認められないケースがあります。それは、刑事事件だけではなく民事裁判でも証拠として認められません。この場合の不適切な録音とは、次の方法です。
- 人格権を著しく侵害した方法による録音
- 反社会的な手段を使った録音
人格権の著しい侵害や著しく反社会的な手段で録音した音源は、民事裁判であっても証拠として認められません。要するに、脅迫や暴力、不法侵入などの違法性のある手段を使って録音したものでは効力がないという判断です。
また、不適切であるかは録音行為の違法性や、証拠価値などさまざまな事情を総合的に判断します。そのため、録音に至る一連の流れなども判断材料となるでしょう。
録音以外に利用できるパワハラの証拠
パワハラ行為の証拠は、録音以外にも証拠として認められるものがあります。ここでは、パワハラの証拠として認められる録音以外のものについて紹介しましょう。
社内ハラスメント相談窓口の利用
社内に設置されたハラスメント相談窓口は、日頃からパワハラ問題の相談を受けています。相談の担当者は、ハラスメントに関する相談内容を一定期間保存する義務がある可能性もあります。そのため、相談窓口に相談することで、相談実績として記録が残ることがあるでしょう。そのため、相談窓口に相談すること自体が相談実績につながります。
また、相談窓口の利用によるヒアリングでは、被害内容を客観的な文章として残せるでしょう。
メールのやり取りを提出
パワハラの証拠は、職場の会話だけではなく、メールやチャットのやり取りから判断できる可能性があります。メールやチャットの内容は、送信日時や送信者名が確認可能な状態で保存しておくことが重要です。
保存されたメールのやり取りから、態度の変化やパワハラ行為が行われた時期なども把握できます。
メール以外にも上司との仕事上でやり取りしたチャット履歴なども証拠となる場合があります。チャットの場合は、相手方が投稿文を削除するかもしれません。そのため、パワハラと判断できるやり取りは、キャプチャ画像などで撮影しておくことも必要です。
うつ病などの発症要因として医師の作成する診断書に記録
パワハラが原因でうつ病などの精神疾患となった場合は、医師の作成する診断書に発症要因を残しておくことも効果的です。うつ病の診断では、医師から病気発症までのいきさつをヒアリングされます。
医師はどのように精神的な負荷がかかって病気となったかを診断するため、診断書はパワハラ行為の証拠としても有効です。裁判となったときに、診断書やカルテに記載された内容により立証されることもあるでしょう。
日記や手帳に記しておく
パワハラ行為の証拠は、日記や手帳などが有効な場合もあります。日記や手帳に書かれた文章だけで立証されることはありません。ただし、有力な事実確認の補助にはなるでしょう。
日記にパワハラを受けた記録を細かく記録してあれば、パワハラを受けた日に出社していた同僚からの聞き取りができます。パワハラ行為が複数回行われ、目撃者も複数いる場合はヒアリングによって裏付けることでパワハラ行為を立証しやすくなるでしょう。
録音がバレて懲戒処分や解雇されたら不当?
パワハラ行為を録音した音源などは、民事裁判などで証拠として認められます。ただし、雇用契約を交わした会社との関係上では、違反行為になる場合があります。では、パワハラの状況を秘密録音したことがバレた場合、懲戒処分や解雇されるのでしょうか。
使用者が労働者に職場内の録音禁止を通達している場合は違反行為
職場にボイスレコーダーなどを持ち込み録音した場合、事前に録音禁止の通達があれば就業規則違反や施設管理権の侵害とみなされる可能性があります。ただし、録音行為そのものが刑法や民事法で即違反とされるわけではありません。
就業規則に服務規程として記載されていれば違反行為が確定します。就業規則に記載されていない場合でも、使用者から労働者に職場内の録音を禁止する旨を通達されていれば、管理者に対しての命令違反とみなされます。秘密録音自体は、法的な措置はありません。ただし、会社における規則上の処分は逃れられないでしょう。
懲戒処分や解雇は状況による判断
パワハラ行為の録音は、録音したことがバレた場合、違反行為とみなされることで懲戒処分を受けるかもしれません。懲戒処分や解雇の判断は、使用者の指揮命令権や施設管理権によります。
秘密録音の音源は、パワハラの発覚を決定づける証拠となるでしょう。会社にとっては、パワハラが発覚し内容次第では会社責任を負わされます。そのため、秘密録音に対しての処分は、厳しい判断になる場合もあります。
とはいえ、録音はパワハラ行為を立証する証拠として有効です。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、全ての企業にパワハラ防止措置が義務付けられています。そのため、企業は会社都合だけで判断せず、パワハラ行為を防ぐ目的を基準にして考える必要があるでしょう。
出典元:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
パワハラ行為の録音は訴訟後も踏まえて判断しよう
パワハラ行為を録音することは、民事裁判で立証できる証拠としても有効な手段です。職場で繰り返されるパワハラは、勤務中いつ発生するか分かりません。そのため、秘密録音はパワハラの発生に備える意味でも有効でしょう。
ただし、パワハラを録音する行為には懲戒処分や解雇などのリスクが考えられます。パワハラ問題は、パワハラ行為を起こした社員だけではなく、会社の使用者責任が問われる問題です。
会社側は、そのようなリスクを抱えていることから、職場の秘密録音を禁止にする傾向があります。中には就業規則で服務規程違反にしている企業もあるでしょう。会社都合によるパワハラへの対応をなくすため、全ての会社にはパワハラ防止が義務付けられているため、パワハラ防止法を基準に考える必要があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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