- 更新日 : 2025年1月24日
有給を入社後すぐに付与したい場合はどうする?要件や注意点を解説
有給休暇を入社後すぐに付与することは可能です。本来は入社から6ヶ月後に付与することが原則ですが、前倒しの付与は労働者に不利益を与えるものではなく、かえって「ゆとりある生活を保障する」という法の趣旨にかなうためです。
本記事では、有給休暇を入社後に付与するための要件や注意点、企業の時季指定義務の扱いなどを解説します。
目次
有給休暇とは
有給休暇とは、一定の要件を満たす労働者に対し、「有給」すなわち賃金の減額なしに休暇を付与する制度のことです。正規雇用の従業員だけでなく、非正規雇用やパートタイム・アルバイトなどの短時間労働者でも、週の所定労働時間や労働日数に応じて与えられます。
有給休暇は、付与される条件と日数が労働基準法で決められています。
有給休暇の付与条件と日数
有給休暇は、次の2つの要件をいずれも満たす労働者に与えられます。
- 雇用された日から6ヶ月以上経過している
- 雇用されている期間の全労働日の8割以上出勤している
2の条件である全労働日とは、その労働者が勤務すべき日数という意味です。週5日以上勤務の一般的な労働者は、次の表に基づいて与えられます。
| 雇用された日からの勤続期間 | 有給休暇の日数 |
|---|---|
| 6ヶ月 | 10日 |
| 1年6ヶ月 | 11日 |
| 2年6ヶ月 | 12日 |
| 3年6ヶ月 | 14日 |
| 4年6ヶ月 | 16日 |
| 5年6ヶ月 | 18日 |
| 6年6ヶ月以上 | 20日 |
週の所定労働日数が4日以下で、かつ週の所定労働時間が30時間未満の労働者は、次の表が該当します。
| 週所定 労働日数 | 1年間の所定 労働日数 | 雇入れ日から継続する勤務期間(年) | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | ||
| 4日 | 169日~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
| 3日 | 121日~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 |
| 2日 | 73日~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 |
| 1日 | 48日~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
年5日以上の有給休暇取得が義務
労働基準法の改正により、企業には有給休暇の時季指定義務が課せられていることに注意が必要です。
2019年4月から、すべての企業で「年10日以上の有給休暇を与えている労働者(管理監督者・有期雇用労働者を含む)に5日以上の有給を取得させること」とされ、年5日以上の有給休暇取得が義務化されました。
たとえば、正社員が「忙しくて1年間に4日しか有給休暇を取れなかった」という事例がある場合、企業は法律に違反することになります。
有給を入社後すぐに付与したい場合は分割付与する
有給休暇は、入社後6ヶ月が経過した時点で付与されるのが原則です。しかし、これは、あくまでも最低基準を定めるもので、それよりも早く付与することは法の趣旨に反しないため、前倒ししても問題ありません。
たとえば、入社後すぐに5日間の有給休暇を付与し、6ヶ月経過後に残りの5日間を付与するといった分割付与を行うことが可能です。
入社してから6ヶ月経過するまでの間に、自分や家族の体調不良で出勤できないなど休みを必要とすることがでてくることもあるでしょう。そのような場合に配慮して、従業員が不安なく活躍できる環境を整えようというのが、入社後すぐに有給休暇を付与する主な理由です。実際に、入社後すぐに有給休暇を付与している企業も少なくありません。
入社後すぐに有給休暇を取得できることで従業員は安心して働くことができ、柔軟で働きやすい労働環境を作れます。従業員満足度がアップして仕事のパフォーマンスが高まり、生産性向上にもつながるでしょう。
有給休暇の分割付与の成立要件
入社後すぐに有給休暇を与えるための分割付与は、厚生労働省の行政通達を根拠とした、限定的に認められている制度です。
分割付与が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。
- 対象になるのは入社した初年度に発生する有給休暇
- 分割して付与したあとの残りの有給休暇の日数は、入社後6ヶ月を過ぎるまでにすべて与える
- 2回目の有給休暇は、初回の付与日から1年以内に与える
- 出勤率の算定では、基準日の繰り上げにより短縮された期間はすべて出勤したものとみなす
出勤率の算定が通常と異なるため、計算の際には注意が必要です。
有給休暇の分割付与の注意点
有給休暇の分割付与では、労務管理が複雑になる点に注意しましょう。
基準日が異なる
有給休暇の分割付与では、特に基準日について注意が必要です。法律の通りに有給休暇を与える場合、付与される日と日数について、次の事例でみてみましょう。
- 2024年9月1日入社
- 入社から6ヶ月後の2025年3月1日(基準日)に10日
- 基準日から1年後の2026年3月1日に11日
一方、入社日に有給休暇を分割付与する場合、次のようになります。
- 2024年9月1日入社後にすぐ6日を付与
- 入社から6ヶ月後の2025年3月1日に残りの4日
- 最初に付与した日から1年後の2025年9月1日に11日
通常の付与では入社から2年目の基準日が2025年3月1日になるのに対し、分割付与では2025年9月1日になることに注意してください。
出勤率の計算が煩雑化する
有給休暇を取得するためには、全労働日の8割以上の出勤が必要です。しかし、本来の基準日から繰り上げされた期間の出勤率は全期間を出勤したものとみなされます。
そのため、分割付与に伴う入社後2年目の有給休暇の出勤率の算定は、次のように計算します。
(実際の出勤日数+短縮された期間のすべての労働日数)÷1年間の労働日数(短縮された期間を含む)
3回目の基準日以降は、次の基準日までの期間が通常どおり1年になるため、その1年間の出勤実績で出勤率を計算してください。
有給を分割付与した場合の時季指定
年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、企業は付与した日から1年以内に時季を指定して5日以上の有給休暇を取得させる義務があることは、前にお伝えしました。
ここでは、分割取得をした場合の指定義務の取り扱いや、ダブルトラックが発生した場合の対応についてみていきましょう。
分割付与した場合の時季指定義務
有給休暇を入社後すぐに分割して付与した場合、企業の指定義務は付与した日数の合計が10日に達した日からの1年間に発生します。10日に達する前に従業員が有給休暇を取得していた場合には、取得した日数を義務のある日数から差し引くことができます。
たとえば、企業の指定義務が発生する前に5日以上を付与し、従業員がすべて取得した場合には企業に指定義務はありません。
ダブルトラックが発生した場合
分割付与では、基準日を変更することで入社した年と翌年で付与日が異なり、5日の有休取得義務の履行期間に重複が生じる「ダブルトラック」が発生することがあります。
ダブルトラックが発生すると、有給休暇取得の管理が複雑になることもあるでしょう。
そのため、ダブルトラックが発生した場合の取得義務には次の2通りの特例が認められています。
- 「重複した期間の月数 ÷ 12 × 5」の計算で比例按分する
- 重複した期間のうち、それぞれの期間で5日取得する
2の方法では計算が煩雑になるため、多くの企業では1の計算を取り入れています。
有給を分割付与した社員が本来の基準日前に退職したらどうなる?
有給休暇を分割付与し、それを取得した従業員が本来の基準日(入社から6ヶ月後)より前に退職するというケースもあります。
そのような場合、法定基準の取り扱いに戻すなどの措置はできるのでしょうか?
本来の基準日前に退職した場合でも欠勤扱いにできない
有給休暇を分割付与した従業員が本来の基準日前に退職した場合、法定基準の取り扱いに戻すといった措置はできません。有給休暇付与を短縮した期間は「雇い入れから6ヶ月勤続を継続」「全労働日の8割以上を出勤」という要件を満たしているとみなされているためです。
そのため、退職する際に有給休暇取得の日を欠勤扱いにして、給与から控除したり、取得した有給休暇の返納を要求したりすることはできません。
有給休暇を入社後すぐに付与する場合は成立要件に注意しよう
有給休暇の取得要件を満たした場合、入社から6ヶ月後に付与するのが原則です。しかし、従業員が安心して働ける環境を作るなどの理由で、分割付与により入社後にすぐ付与するケースもあります。
分割付与には成立要件があり、その後の基準日が異なるなどの点にも注意が必要です。5日間の時季指定義務についても、入社後すぐに付与した場合の取り扱いについてよく確認しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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