- 更新日 : 2025年10月6日
iDeCoは年末調整で申告できる?年末調整や確定申告の書き方や手順を解説!
自分で将来の年金を積み立てていくiDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛け金に応じて、所得税や住民税の控除を受けることができます。個人払込で掛け金を支払っている場合には、年末調整の際に支払額の申告が必要です。
iDeCoの申告が必要になるケースや申告書類の書き方、具体的にいくら所得税が戻ってくるのかを解説します。
目次
そもそもiDeCo(個人型確定拠出年金)とは?
最初に、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の概要について確認します。iDeCoの特徴や税制優遇のメリットについて確認しましょう。
毎月の積立金を60歳以降に受け取れる年金制度
iDeCoは、国民年金や厚生年金保険などといった公的年金とは別に、iDeCoを取り扱う運営管理機関(金融機関等)で加入手続きをすることで給付が受けられる私的年金制度の一つです。
iDeCoは強制加入の公的年金と異なり、加入は任意であり、60歳以降に給付が受け取れます。
20歳以上65歳未満の人が加入することができますが、原則として60歳まで積み立てた資産(拠出した掛け金と運用益)を引き出して現金化することができません。また、給付額が運用成績によって変動することもiDeCoの特徴です。
企業年金がない中小企業が、従業員の老後の所得確保を目的にiDeCoに加入する従業員の拠出する掛け金に事業主掛金を上乗せして拠出する「iDeCo+(イデコプラス)」と呼ばれる制度もあります。
事業主掛金の全額を損金算入できるメリットもあるため、企業年金を実施していない中小企業は導入を検討してみてもよいでしょう。
掛け金・運用益・受け取り時の税制優遇がある
iDeCoは、掛け金・運用益・給付額に税制優遇があるのが特徴です。iDeCoの税制優遇のメリットには、以下の3種類があります。
公的年金に上乗せした受け取り
申込、掛け金の拠出、掛け金の運用のすべてを加入者自身で行い、その運用益と掛け金の合計額が給付額のもととなります。
ただし、iDeCoの老齢給付金を受給すると、その後は掛け金を拠出できなくなります。
公的年金とiDeCoを併用することで、老後の生活に必要な資金を確保することが可能です。iDeCoで運用した資産は、60歳から75歳までの間で受け取ることが可能であり、受け取り方法を以下の3種類から選択できます。
- 一時金で受け取る
60歳から75歳までの間に一時金として受け取り可能 - 年金で受け取る
受給開始時期は60歳から75歳までの間で選び、有期年金(5年以上20年以下)で受け取る
※金融機関によっては終身年金として受給できる場合がある - 一時金と年金を組み合わせて受け取る
一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取る方法が選択できる場合もある
iDeCoの掛け金は年末調整で全額控除できる
所得税や住民税には「所得控除」や「給与所得控除」などの控除があり、iDeCoの掛け金は、年末調整の際に申告すれば、所得から差し引くことが可能です。その結果、所得税と住民税の課税額を減らすことができます。
掛け金が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となるため年末調整が必要
iDeCoの掛け金は、小規模企業共済等掛金控除と呼ばれる所得控除の対象になります。年末調整や確定申告の際に「給与所得者の保険料控除申告書」に記載して申告することで、その年に支払った掛け金を全額、所得から差し引くことができます。
所得税の額は課税所得が多いほど高くなるため、iDeCoの掛け金を増やせば、その分だけ節税効果も大きくなります。小規模企業共済等掛金控除で節税できる所得税の額は、以下の計算式で計算できます。
所得税だけでなく住民税の節税も可能
個人住民税は、定額で課税される「均等割」と、所得に応じて課税される「所得割」によって決まります。小規模企業共済等掛金控除は、所得割の部分からも控除することが可能なため、住民税の節約にもつながります。
所得割は、1年間の所得に一定の税率を掛けて計算されます。実際の税率は都道府県や市区町村によって異なることがありますが、基本的には大きな差はなく、おおむね10%(市町村民税+都民税または道府県民税)が基準です。
そのため、小規模企業共済等掛金控除で節税できる住民税の額は、以下の計算式で計算できます。
iDeCoは年末調整でいくら戻る?
iDeCoに加入することで年末調整でどれくらいの金額が戻るのか、住民税がどれくらい節約できるのかを、具体例から計算してみましょう。
年収350万円・毎月1万円の積み立て
【本人の年収が350万円(給与所得控除後237万円)で毎月1万円の積み立てをした場合】
②給与所得控除や社会保険料控除などの所得控除後の所得税率:5%
③給与所得控除や社会保険料控除などの所得控除後の住民税所得割の税率:10%
①1年間の掛け金の合計額12万円×②その人の所得税の税率5%=6,000円
①1年間の掛け金の合計額12万円×③住民税所得割の税率10%=12,000円
年収が350万円の場合、給与所得控除後の所得金額は237万円となり、社会保険料などの所得控除を差し引くと所得金額は195万円を下回るため、所得税率は5%となります。
所得税では年末調整で6,000円が戻ってくることになり、住民税は前年度分の所得をもとに計算することになるため、掛け金を拠出した翌年度の住民税が12,000円低く計算されます。
年収800万円・毎月2万3000円の積み立て
【本人の年収が800万円(給与所得控除後610万円)で毎月2万3,000円の積み立てをした場合】
②給与所得控除や社会保険料控除などの所得控除後の所得税率:20%
③給与所得控除や社会保険料控除などの所得控除後の住民税所得割の税率:10%
①1年間の掛け金の合計額27万6,000円×②その人の所得税の税率20%=55,200円
①1年間の掛け金の合計額27万6,000円×③住民税所得割の税率10%=27,600円
年収が800万円の場合、給与所得控除後の所得金額は610万円となり、社会保険料などの所得控除を差し引くと所得金額は695万円を下回るため、所得税率は20%となります。
所得税では年末調整で55,200円が戻ってくることになり、住民税は前年度分の所得をもとに計算することになるため、掛け金を拠出した翌年度の住民税が27,600円低く計算されます。
iDeCoの税制優遇シミュレーション
iDeCoの公式サイトにある「かんたん税制シミュレーション」を活用すれば、年収・加入開始年齢・掛け金を入力するだけでどれくらいの税制優遇が受けられるのかを簡単に計算することができます。
iDeCo加入時と未加入時の所得税と住民税の計算や比較、1年間の税制優遇額、65歳まで加入した場合の税制優遇額の比較が簡単に行えるので、iDeCo加入を検討の際には活用するとよいでしょう。
iDeCoの支払方法により年末調整が不要なケース
iDeCoの支払い方法によっては、年末調整や確定申告が不要になる場合があります。
iDeCoの掛け金を支払う方法には、加入者本人が納付する「個人払込」と、事業主が給与から天引きして納付する「事業主払込」の2つがあります。
事業主払込を選択している会社員や公務員は年末調整が不要
事業主払込を選択している公務員や会社員の人は、iDeCoの掛け金が給与から天引きされるため、年末調整の際に別途手続きなどを行う必要はありません。毎月の納付や年末調整にかかる控除額の計算は、事業主が代わりに済ませてくれます。
個人払込をしている会社員や公務員は年末調整の手続きが必要
個人払込を選択している場合には、会社員や公務員であっても年末調整の手続きが必要です。勤務先などに後述する「小規模企業共済等掛金控除証明書」と「給与所得者の保険料控除申告書」を提出し、支払ったiDeCoの掛け金を申告しなければなりません。
ただし、この際に必要になるのは、あくまで年末調整の手続きです。会社員は確定申告が不要である点に注意してください。
【個人払込の場合】iDeCoの年末調整の書き方
公務員や会社員の人は、年末調整の際にiDeCoの掛け金を申告します。ここでは個人払込を選択している会社員を対象にした年末調整の書き方と手順を解説します。
年末調整では、「小規模企業共済等掛金払込証明書」と「給与所得者の保険料控除申告書」という2枚の書類が必要です。
国民年金基金連合会から届いた「小規模企業共済等掛金払込証明書」の掛け金の合計金額を「給与所得者の保険料控除申告書」の右下にある小規模企業共済等掛金控除の「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」の欄に記入のうえ、「小規模企業共済等掛金払込証明書」を添付して勤務先に提出します。
引用:A2-3 給与所得者の保険料控除の申告|国税庁、「令和7年分給与所得の保険料控除申告書」
「小規模企業共済等掛金払込証明書」は、国民年金基金連合会より、毎年10月下旬ごろから順次発送されます。受け取ったハガキを保管し、年末調整の際に勤務先に提出しましょう。
なお、iDeCoに加入したタイミングによっては、「小規模企業共済等掛金払込証明書」の発送が遅くなる場合もあります。年末調整までに間に合うかどうかは、iDeCoで利用している金融機関などのホームページで確認しておくとよいでしょう。
「給与所得者の保険料控除申告書」は、一般的には勤務先で配布されますが、国税庁のホームページからダウンロードして印刷することも可能です。
確定申告でiDeCoの掛け金を申告する書き方
フリーランスなどの自営業の人や無職の人は、確定申告でiDeCoの掛け金を申告します。また、年末近くになって初めてiDeCoに加入した場合は、年末調整で申告できない場合があり、その際には公務員や会社員であっても確定申告が必要です。
それぞれのパターンで記入する書類が異なるため、以下で詳細を確認しておきましょう。
会社員と公務員が確定申告を行う手順
会社員や公務員の人が確定申告をする場合には、自営業の人が確定申告をする際に使用する共通様式(令和6年分)の確定申書に必要事項を記入して、所轄の税務署に提出します。
確定申告書は、国税庁のサイトからデータを印刷して用意することもできます。
また、マイナンバーカードを持っている人は、e-Taxで確定申告をするのが便利です。
国税庁のホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、マイナポータルを経由して各種申告に必要な証明書等のデータを一括して取得し、確定申告の必要項目に自動入力される機能を利用できます。このマイナポータル連携の対象には、iDeCoのデータも含まれます。
まず記入するのは、確定申告書の第一表にある、「⑭小規模企業共済等掛金控除」の項目です。小規模企業共済等掛金払込証明書を参考に、支払ったiDeCoの掛け金を記入します。
次に、第二表の「⑬社会保険料控除」と同じ欄にある「⑭小規模企業共済等掛金控除」にも、掛け金の額を記入します。今回は年末調整に間に合わなかったケースを想定しているため、「支払保険料等の計」「うち年末調整等以外」の両方に同じ金額を記入しましょう。
引用:確定申告書等の様式・手引き等(令和6年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)|国税庁、「申告書第一表・第二表【令和6年分用】」
あとは記入が終わった確定申告書に源泉徴収票を添付し、小規模企業共済等掛金払込証明書とあわせて税務署に提出すれば、確定申告は完了です。
なお、確定申告は、原則として2月16日から3月15日に提出します。
参考:マイナポータル連携特設ページ(マイナンバーカードを活用した控除証明書等の自動入力)|国税庁
自営業が確定申告を行う手順
自営業の人は、事業収入やその事業にかかった経費を差し引いた事業所得、社会保険料控除や生命保険料控除などの各種所得控除をすべて記載します。
自営業の人は年末調整がないため、会社員や公務員の人よりも記入する項目が多くなっています。しかし、iDeCoに関連した項目へ記入する手順は、基本的に共通です。第一表の「⑭小規模企業共済等掛金控除」に掛け金の額を記入し、同じく第二表の「⑭小規模企業共済等掛金控除」にも記入を行います。
所得の種類や各種所得控除など、すべての必要事項を記入したら、所轄の税務署に確定申告書を提出し、確定申告は完了です。
iDeCoで年末調整する際の注意点
年末調整でiDeCoの掛け金を申告する際には、以下の2点に注意する必要があります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用した証明書を破棄すると再発行が必要になる
年末調整の際には、原則として小規模企業共済等掛金払込証明書の原本の提出が必要です。送付されてきた原本は、年末調整までなくさずに保管しておきましょう。
なお、原本を紛失してしまった場合には再発行も可能です。手続きの方法については、iDeCoで利用している金融機関などのホームページで確認してください。
年末調整のやり方や申告期限は会社によって異なる
年末調整で必要になる手続きや申告期限は、勤務先によって異なります。場合によっては申告期限が1週間程度しかないこともあるため、あらかじめ余裕を持って準備しておきましょう。
iDeCoの年末調整に関するよくある質問
iDeCoの年末調整や確定申告に関するよくある質問を紹介します。
年末調整や確定申告ではiDeCoの掛け金証明書が必要ですか?
「個人払込」でiDeCoの掛け金を納付している人は、毎年10月下旬ごろに国民年金基金連合会から発送される「小規模企業共済等掛金払込証明書」が年末調整や確定申告に必要になります。ただし、毎月の給料から掛け金が天引きされている場合には会社が代わりに計算してくれるため、基本的に手続きや証明書は不要です。
年末調整に間に合わせるためにはいつまでに加入すればいいですか?
8月の前半(14日)までに不備のない状態でiDeCoに加入し、9月までに掛け金の引落実績を作る必要があります。引落が9月までに間に合わなかった場合、「小規模企業共済等掛金払込証明書」の送付が遅くなり、年末調整の時期に間に合わない可能性があります。
その場合には、後日届いた「小規模企業共済等掛金払込証明書」により確定申告をしましょう。
iDeCoの掛け金を年末調整時に証明する書類はありますか?
毎年10月下旬ごろに、国民年金基金連合会から、「小規模企業共済等掛金払込証明書」が送られてきます。年末調整では原本を提出する必要があるため、なくさないように保管しておきましょう。
iDeCoの加入可能年齢の上限引上げ(2025年6月13日成立、公布から3年以内に施行)
現在の制度において、iDeCoの加入可能者は下記の人に限られています。
- 老齢基礎年金を受給していない
- iDeCoの老齢給付金を受給していない
- 国民年金の被保険者
上記のような制限があるため、加入可能な年齢の上限について、働き方などによって差が生じていました。
今回、働き方に影響されず、長期的な老後資産をつくることができ、さらに加入者に優しいシンプルでわかりやすい制度になるように加入要件の拡充が行われます。
なお、施行される時期は、公布から3年以内の政令で定める日になる予定です。
【iDeCoの加入可能年齢の引き上げのイメージ】
↓
引用:年金制度改正法が成立しました|厚生労働省、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要」
iDeCoを活用して年末調整や確定申告で節税しよう
iDeCoを活用して小規模企業共済等掛金控除を受けることで、所得税や住民税を節税できます。
「個人払込」でiDeCoの掛け金を納付している人は、年末調整や確定申告の際に申告が必要です。10月下旬ごろに発送される「小規模企業共済等掛金払込証明書」を保管しておき、忘れずに手続きしましょう。
よくある質問
iDeCo(個人型確定拠出年金)は年末調整で申告できる?
iDeCoの掛け金は、年末調整の際に申告して、所得から差し引くことが可能です。詳しくはこちらをご確認ください。
年末調整や確定申告ではiDeCoの掛け金証明書が必要ですか?
「個人払込」でiDeCoの掛け金を納付している人は、毎年10月下旬ごろに国民年金基金連合会から発送される、「小規模企業共済等掛金払込証明書」が必要になります。 詳しくはこちらをご確認ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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