- 更新日 : 2025年7月24日
みなし残業のメリットや残業代を支給給与に含む意味を解説!
みなし残業とは、会社が従業員の正確な残業時間を把握できない場合に、従業員の残業時間をあらかじめ見込んでおくことをいいます。
みなし残業代が設定されている状況で毎日会社を定時に退社することができれば、理論的には残業がないことになるため、給与は多く支給されることになります。しかし、みなし残業は従業員にとってデメリットに転じることも考えられます。
どのような場合にみなし残業がデメリットとなってしまうのか、具体的に残業代を計算しながら解説していきます。
みなし残業とは会社にとって有利なシステム
会社にとって人件費は、最も大きな割合を占める費用となります。
残業代を含む人件費が増加したとしても売上が伸びていれば問題ありませんが、売上が思うように上がらない場合は、人件費を払い続けることによって資金がショートしてしまい、リストラや倒産という危機に直面する可能性も出てくるのです。
会社を存続させるために会社が実行する手段として、無駄な残業代をカットすることが挙げられます。
しかしどの残業代が売上に貢献して、どの残業代が無駄な人件費となっているのか、明確な判断をつけることができません。そこで、「みなし残業」というシステムを持ち込むことによって、売上に貢献している(であろう)残業代を、あらかじめ給与として支払うことにしたのです。
また、給与を支払う会社側からすれば、みなし残業を取り入れることによって毎月の人件費変動を抑えることができます。会社が将来の業績見込みや経営判断を行う際には有効な手段となっています。
ちなみに、みなし残業制度を導入する会社は以下の要件を満たす必要があります。
- みなし残業代を超える残業を行った際の差額の支給
- みなし残業代が何時間分の残業を補完しているかを明示すること
- 給与規程等においてみなし残業代が残業手当であることを従業員に明示していること
みなし残業の支払いを受けている方は、まずお勤めの会社が要件を満たしているかどうか確認しましょう。
みなし残業がトラブルの原因になってしまうケースとは
会社が従業員に対してあらかじめ支給する残業代が「みなし残業」となりますが、あらかじめ設定した残業時間より多く残業しなければならなかった場合には、トラブルの要因となります。
そこで、実際の残業時間を労働基準法で定められている計算方法で残業代を計算し、みなし残業代を上回っているか検証してみましょう。
労働基準法では1日8時間、1週40時間までの法定労働時間を超える場合、会社は従業員に対して割増率を加算した賃金を残業代として支払うことが求められています。
法定労働時間を超えた残業は「時間外労働」といい、時給単価が25%割増されます。22時から翌日5時までの残業を「深夜労働」といい、深夜労働の25%に時間外労働の25%が加わるため、時給単価は50%割増されます。
例えば、
- 時給1,500円
- 就業時間は9時から18時まで(休憩1時間)の原則8時間労働
という場合において23時まで残業したある1日の残業代を計算してみましょう。
18時から22時までの4時間の残業分は、時間外労働となるため、1,500円×125%×4時間=7,500円となります。
22時から23時までの1時間の残業分は、深夜労働となるため、1,500円×150%=2,250×1時間=2,250円となります。
この日1日の残業代は7,500円+2,250円=9,750円となり、仮に月曜日から金曜日にかけて毎日18時から23時まで残業したとなると、9,750円×5=48,750円となります。
「営業手当」や「職務手当」という「みなし残業代」を毎月50,000円支給され、残業代は出ない給与体系であれば、1週間分の残業代はきちんと支払ってもらっているということになるだけでなく、50,000円-48,750円=1,250円は得をしていると考えることができます。
しかしある月の所定労働日数が20日で、月曜日から金曜日まで毎日2時間残業した場合を上記と同じ条件で計算してみましょう。
9時から18時までの法定労働時間に加えて20時までの時間外労働したことになり、時給の25%割増で40時間残業したことになるため、1,500円×125%×40時間=75,000円となります。
もし「営業手当」や「職務手当」という「みなし残業代」を毎月50,000円しか支給されていなかった場合は、労働基準法で定められた割増賃金を25,000円分だけ支払ってもらっていないということになります。
みなし残業制度を導入する場合は残業代の未払いに注意
売上に貢献しない冗長性の高い残業代は、会社の経営を危うくしかねません。
残業代が思うようにカットできなかった場合は、賞与のカットや基本給の減給という手段にステップアップすることになります。最終的に会社の経営そのものが危機に直面するようなことになれば、リストラや倒産などによって従業員を雇用し続けることが難しくなります。
そのため会社は無駄な残業代を省くためにノー残業デーを設定したり、上司の承認を得なければ残業することができなかったり、さまざまな手段で会社の利益や従業員の雇用を守ろうとするわけです。
しかしながら、営業で戻ってくる社員を待たなければならず、終業時間を過ぎてからでないと会議が行われないなど、残業をすることが半ば強制的になっている状況もあります。「みなし残業」として支給されている手当以上を超える残業代が、会社の都合によって未払いになっていないかどうか確認してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
みなし残業とは何ですか?
残業代をあらかじめ給与として支払うことです。詳しくはこちらをご覧ください。
みなし残業にはどんなメリットがありますか?
毎月の人件費変動を抑えることができるなどのメリットがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
みなし残業にはどんな注意点がありますか?
気を付けないと、残業代の未払いが発生する可能性があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
出向者の給与計算はどうする?負担割合や社会保険の注意点
出向者の給与計算は、出向元と出向先、どちらの企業が給与を支払い、どちらがその費用を負担するかを、事前の出向契約で明確に定めるのが基本です。この契約内容によって、給与の支払い方法から社会保険の手続き、税務上の処理まで、すべての取り扱いが決まり…
詳しくみる個人事業主に給与明細は必要ない?作成場面や無料テンプレートを紹介
個人事業主に対して業務を発注した場合、給与明細は必要ありません。その代わり、報酬額を証明する書面を発行します。一方で個人事業主は、従業員を雇った場合など一定の条件に該当した場合に、給与明細を発行する義務を負います。 本記事では、個人事業主に…
詳しくみる給与計算での社会保険とは?シミュレーションで解説
毎月の給与計算、とくに社会保険料の計算は複雑で、保険料率の改定や専門用語の多さに、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。 この記事では、給与計算における社会保険料の基本から、計算の基礎となる標準報酬月額の仕組み、2025年度の最新料率を…
詳しくみる香川県の給与計算代行の料金相場・便利なガイド3選!代表的な社労士事務所も
香川県でビジネスを展開する企業にとって、給与計算は従業員の満足度と企業の信頼性を左右する重要な業務です。しかし、税務や社会保険の複雑な手続きを自社で管理するのは大きな負担となります。 この記事では、香川地域における給与計算代行サービスの料金…
詳しくみる手取りアップは副業と節税がポイント!給料が上がっても手取りが増えない理由と対策を解説
毎年昇給しているはずなのに、なぜか生活が楽にならない。そう感じている方は少なくないでしょう。原因は、給与の額面金額と、実際に銀行口座に振り込まれる手取り額の違いにあります。給料が上がっても、それ以上に税金や社会保険料の負担が増えれば、手取り…
詳しくみる給与所得と給与収入の違いとは?年末調整に関わる知識も解説!
所得税法の用語に「収入」と「所得」がありますが、この違いは何でしょうか。毎月給料を受け取る会社員の場合、年収総額が税法上での収入にあたります。所得は、収入金額から会社員の必要経費とみなされる「給与所得控除額」を差し引いた金額で給与所得とよば…
詳しくみる