- 更新日 : 2025年11月5日
パート・アルバイトの勤怠管理における注意点は?よくあるトラブルと防止策を解説
パートやアルバイトの勤怠管理は、シフト制により働くことが多く、労働時間が毎日一定とは限らないこともあり、従業員の多様な働き方に対応する必要があるため複雑になりがちです。給与計算のミスや法令違反があると労働基準監督署からの是正指導を受けるばかりか、多額の未払い賃金の支払いが必要となり、ときには裁判で請求されるなど、訴訟リスクにつながることがあります。
この記事では、パート・アルバイトの勤怠管理における具体的な注意点を、労働基準法の観点から分かりやすく解説します。さらに、よくあるトラブルの防止策から、自社に合った効率的な管理方法の選び方まで、非正規雇用のスタッフを雇用するすべての事業者が知っておくべきポイントを紹介します。
目次
パート・アルバイトの勤怠管理が重要な理由は?
パート・アルバイトの勤怠管理は、多様な働き方による管理の複雑さと、意図しない労働基準法違反のリスクを避けるために重要です。その背景には、正社員とは異なるシフト制や短時間勤務といった柔軟な雇用形態が関係します。
働き方の多様化
パートやアルバイトは、日によって勤務時間や曜日が変わるシフト制、扶養内での勤務調整、複数の職場での兼業(ダブルワーク)など、働き方が多岐にわたります。これにより、管理者側は一人ひとりの労働時間を正確に把握し、シフトを適切に管理するための対応が必要になります。そのため、結果として、労働時間の集計ミスや確認漏れが起こりやすくなるのです。
法律違反のリスクと罰則
労働時間の管理は、労働基準法で定められた事業者の義務です。パートやアルバイトもこの対象となります。労働時間を1分単位で正確に把握し記録しなければ、適切な残業代の支払いや年次有給休暇の付与ができず、法律違反と見なされる可能性があります。違反内容によっては、労働基準監督署からの是正勧告だけでなく、労働基準法の罰則が科される可能性があります。
従業員との信頼関係の構築
正確な勤怠管理による給与計算は、従業員が安心して働くための土台です。働いた分がきちんと支払われるという当たり前の安心感が、従業員のモチベーション維持や定着率向上につながり、結果的に店舗や企業全体の生産性向上をもたらします。
パート・アルバイトの勤怠管理における注意点は?
パート・アルバイトの勤怠管理では、労働時間の1分単位での正確な把握、法律で定められた休憩・休日の適切な付与、時間外労働の正しい管理、そして年次有給休暇の付与義務を守ることが重要です。
労働時間の1分単位での正確な把握
労働時間は、原則として1分単位で記録し、給与計算に反映させる必要があります。
労働基準法第24条では「賃金全額払いの原則」が定められており、企業が一方的に労働時間を切り捨てることは、原則として認められていません。タイムカードの打刻時間と実際の労働時間に乖離がある場合は、その理由を確認し、実労働時間に基づいて管理・修正することが求められます。
休憩時間の適切な付与
労働時間に応じて、法律で定められた休憩時間を勤務時間の途中に与えなければなりません。
労働基準法第34条により、事業者は労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与える義務があります。パート・アルバイトであっても、このルールは適用されます。
| 労働時間 | 最低限必要な休憩時間 |
|---|---|
| 6時間以下 | 不要 |
| 6時間超~8時間以下 | 少なくとも45分 |
| 8時間超 | 少なくとも1時間 |
割増賃金の支払い
法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて労働させた場合、割増賃金の支払いが必要です。
パート・アルバイトであっても、法定労働時間を超えれば時間外労働となり、通常の賃金の25%以上の割増率で計算した残業代を支払う義務があります。また、36協定の締結と届出なしに法定労働時間を超えて労働させることはできません。
年次有給休暇の付与
以下の2つの要件を満たした労働者には、年次有給休暇を付与しなければなりません。
- 雇入れの日から6ヶ月間継続勤務している
- その期間の全労働日(所定労働日数)の8割以上出勤している
付与される日数は、週の所定労働日数や年間の所定労働日数に応じて比例的に決定されます(比例付与)。また、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては、年5日の取得が義務化されています。
パート・アルバイトの勤怠管理でよくあるトラブルは?
打刻忘れや不正打刻、給与計算ミスが頻発します。これらのトラブル防止には、ルールの明確化、勤怠管理システムの導入、そして人為的ミスを防ぐためのチェック体制の構築が有効な対策です。
打刻忘れ・打刻漏れ
打刻忘れは、リマインダー機能の活用や、管理者による声かけの徹底で防げます。従業員が出勤・退勤時に打刻を忘れるケースは非常に多いです。
- システムの活用:パソコンのログイン・ログオフと連動する打刻システムや、打刻忘れを本人と管理者に自動通知するアラート機能付きの勤怠管理アプリを導入する。
- ルールの徹底:朝礼や終礼で打刻の声かけを習慣化する。打刻漏れがあった際の申請ルールを明確にし、周知徹底する。
不正打刻(代理打刻など)
不正打刻は、生体認証やGPS打刻など、本人以外が打刻できないシステムを導入することで防止できます。遅刻しそうな同僚の代わりにタイムカードを押す「代理打刻」や、退勤後に打刻する「カラ残業」などの不正は、企業の損失に直結します。
- 生体認証:指紋認証や静脈認証、顔認証などの打刻方法を導入する。
- GPS打刻:スマートフォンアプリを利用し、GPS機能で勤務地でないと打刻できないように設定する。
- ICカード打刻:各自の交通系ICカードや社員証を打刻に利用する。
シフト管理と実際の労働時間の乖離
急なシフト変更に対応できるよう、リアルタイムで勤怠状況を共有できる仕組みを整えることが重要です。
特に飲食店や小売店では、急な欠員や来客数の変動によるシフト変更が頻繁に発生します。紙やExcel(エクセル)でのシフト管理では、変更が煩雑になり、実際の労働時間との乖離が生まれやすくなります。勤怠管理システムの導入により、打刻データとシフト管理の乖離を可視化しやすくなります。
給与計算のミス
勤怠データを給与計算ソフトに自動連携できるシステムを導入することが、最も確実な防止策です。
手作業による勤怠データの集計や給与計算ソフトへの入力は、転記ミスや計算間違いの温床です。勤怠管理システムを導入し、締め日に確定した勤怠データをワンクリックで給与計算ソフトに出力・連携できるようにすれば、人為的ミスを大幅に削減し、経理担当者の負担を軽減できます。
パート・アルバイトの勤怠管理を行う方法は?
パート・アルバイトの勤怠管理には、企業の規模やニーズに応じた多様な管理方法が存在します。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の状況を考えて最適な方法を選択することが重要です。
タイムカード・出勤簿
紙のカードをタイムレコーダーに挿入する方法や、出勤簿に時間を記入する方法です。
- 導入コストが非常に低い
- 特別な知識がなくてもすぐに始められる
- 集計作業に膨大な時間がかかる
- 転記ミスや計算ミスが発生しやすい
- 不正打刻のリスクが高い
- 法改正への対応が困難
Excel・Googleスプレッドシート
ExcelやGoogleスプレッドシートといった表計算ソフトを使い、自社で作成したテンプレートで管理する方法です。
- ライセンス費用のみで追加コストがほぼかからない
- 自社のルールに合わせて自由にカスタマイズできる
- 関数やマクロの知識が必要
- 法改正のたびに手動で計算式を修正する必要がある
- データの破損や紛失リスクがある
- 同時編集やリアルタイムでの状況把握が難しい
勤怠管理システム
勤怠管理システムで、打刻、集計、各種申請・承認、データ出力などを一元管理する方法です。
- 業務を大幅に効率化できる
- 法改正に自動で対応してくれる
- リアルタイムで勤怠状況を可視化できる
- 多様な打刻方法(PC、スマホ、ICカード、生体認証など)に対応できる
- 月額利用料などのランニングコストがかかる
- 導入時に初期設定や従業員への周知が必要
パート・アルバイトの勤怠管理で、健全な職場環境を築く
本記事では、パートやアルバイトの勤怠管理における注意点を多角的に解説しました。労働時間の正確な把握、休憩・残業・有給休暇の適切な管理は、法律を守ることはもちろん、従業員との信頼関係を築き、安心して働ける環境を提供する上で不可欠です。手作業での管理に限界を感じている場合は、勤怠管理システムの導入は、トラブル防止や業務効率化に有効な手段の一つです。
この記事で紹介した注意点を参考に、自社のパート・アルバイトの勤怠管理体制を見直し、より健全な職場環境の構築を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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