• 更新日 : 2025年11月26日

異動後面談の目的とは?社員の定着と成長を促す進め方と質問例

人事異動は、組織活性化の起爆剤となる一方、異動した社員の不安や孤立を生むリスクもはらんでいます。そこで重要になるのが「異動後面談」です。しかし、その目的が曖昧なままでは、単なる形式的な雑談で終わってしまいかねません。この記事では、異動後面談が持つ本来の目的を、社員側・会社側双方の観点で解説します。面談の効果を最大化するための進め方や具体的な質問例も紹介するので、社員の早期活躍と組織の成長につなげてください。

異動後面談の4つの目的

異動後面談は、単なる「様子見」の場ではありません。社員と会社の双方にとって重要な意味を持つ、明確な4つの目的が存在します。これらを意識することで、面談は形式的なイベントから戦略的な人事施策へと昇華します。特に人的資本経営が重視される現代において、社員一人ひとりの価値を最大化する上で、異動後のケアは不可欠なプロセスと言えるでしょう。

社員の不安解消とモチベーション向上

新しい部署、新しい仕事、新しい人間関係。異動した社員は、期待とともに大きな不安を抱えています。面談は、そうした不安や悩みを上司が直接受け止め、解消する絶好の機会です。会社が自分に関心を持ち、サポートしようとしてくれていると感じることで、社員は安心感を得られます。さらに、新しい役割への期待を具体的に伝えることで、「自分は必要とされている」という意識が高まり、仕事へのモチベーション向上に直結します。

新しい環境へのスムーズな適応支援

異動者が新しい環境にいち早く馴染み、パフォーマンスを発揮するためには、組織的なサポートが欠かせません。面談を通じて、業務の進め方で困っていること、人間関係で気になっていることなどを早期に把握し、具体的なアドバイスや必要なサポートを提供できます。例えば、「あの業務は〇〇さんに聞くとスムーズだよ」といった情報提供や、キーパーソンとの橋渡しを行うことで、異動者の孤立を防ぎ、ソフトランディングを力強く後押しします。

配置のミスマッチ防止と適性の再確認

人事が意図した通りの配置が、必ずしも最適とは限りません。実際に業務に取り組んでみて初めて、「本人の強みが活かせていない」「想定していたスキルと業務内容が合わない」といったミスマッチが判明することもあります。異動後面談は、こうした配置の妥当性を検証する重要な機会です。本人の感触やパフォーマンスを直接確認し、もしミスマッチがあれば、業務内容の調整や再度の異動を検討するなど、早期に対応することで損失を最小限に抑えられます。

組織エンゲージメントの向上と離職防止

異動は、社員が自身のキャリアや会社との関わり方を見つめ直す大きな転機です。このタイミングで丁寧なコミュニケーションを怠ると、社員は「会社は自分のことを考えてくれていない」と感じ、エンゲージメントが低下し、最悪の場合、離職につながる可能性があります。逆に、面談を通じて会社としての期待を伝え、本人のキャリアプランに寄り添う姿勢を示すことで、社員の会社への信頼感や帰属意識は高まります。これは、優秀な人材の定着を図るリテンションマネジメントの観点からも極めて重要です。

異動後面談の進め方3ステップ

目的を理解したら、次はその目的を達成するための具体的な進め方です。効果的な異動後面談は、「準備」「実施」「フォロー」の3つのステップで構成されます。この流れを意識することで、行き当たりばったりの面談を防ぎ、着実に成果へとつなげることができます。

ステップ1:事前の準備

面談の成否は、事前の準備で8割決まると言っても過言ではありません。まず、上司は「今回の面談の目的は何か(不安解消か、目標設定かなど)」を明確にし、本人にも事前に伝えておきましょう。これにより、お互いに心構えができ、有意義な対話が生まれます。また、異動者の前部署での評価や、本人がどのようなキャリアを望んでいるかといった情報を人事部門から共有してもらうことも重要です。話すべきことを事前に整理しておくことで、限られた時間を有効活用できます。

ステップ2:面談の実施

当日は、まず本題に入る前に雑談を交え、相手の緊張をほぐす雰囲気作り(アイスブレイク)から始めましょう。その後、事前に共有したアジェンダに沿って対話を進めます。大切なのは、上司が一方的に話すのではなく、質問を通じて本人の考えや感情を引き出すことです。業務の状況、人間関係、困っていること、今後の目標などを丁寧にヒアリングし、共感の姿勢で傾聴します。面談の最後には、話した内容を要約し、次のアクションプランを具体的に共有することで、面談を「ただ話す場」で終わらせません。

ステップ3:面談後のフォロー

面談は実施して終わりではありません。その後のフォローアップが極めて重要です。面談で決まったことや、本人から出た要望に対して、上司がどのように行動したかを必ずフィードバックしましょう。例えば、「相談してくれた〇〇の件、部署内で共有して改善することにしたよ」と伝えるだけでも、社員は「自分の声が届いた」と感じ、信頼関係が深まります。また、一度の面談ですべてを解決しようとせず、定期的な1on1ミーティングなどを設定し、継続的にコミュニケーションを取る仕組みを作ることが、長期的なサポートにつながります。

異動後面談で使える質問集

面談で何を聞けばよいかわからない、という声もよく聞かれます。ここでは、部下の本音を引き出し、建設的な対話を生むための質問例を目的別に紹介します。これらの質問を丸暗記するのではなく、相手の状況や話の流れに合わせて、言葉を選びながら活用するのがポイントです。

現状や課題を把握するための質問

まずは、異動者が現在どのような状況に置かれているのかを正しく理解するための質問です。オープンクエスチョン(回答に制限を設けない質問)を中心に、本人が自由に話せる余地を作りましょう。

  • 「新しい部署に来て1ヶ月経つけど、率直にどうかな?」
  • 「前の部署と比べて、仕事の進め方で一番ギャップを感じたのはどんな点?」
  • 「今、業務を進める上で、特に難しいと感じていることや時間がかかっていることはある?」
  • 「これまでの経験やスキルで、特に今の仕事に活かせていると感じるものは何?」

人間関係や職場環境に関する質問

業務内容だけでなく、職場への適応には人間関係が大きく影響します。デリケートな話題でもあるため、決めつけるような聞き方は避け、あくまで本人の主観を尋ねる姿勢が大切です。

  • 「チームの雰囲気はどうかな?馴染めそう?」
  • 「コミュニケーションは円滑に取れているかな?誰か話しにくいと感じる人はいない?」
  • 「困ったときに、気軽に質問や相談ができる人はいる?」
  • 「リモートワークと出社のバランスはどう?やりにくさを感じることはない?」

今後の目標やキャリアに関する質問

面談を、本人のキャリア自律を支援する機会とすることも重要です。目先の業務だけでなく、中長期的な視点での対話を通じて、本人の成長意欲を引き出します。

  • 「今の仕事を通じて、今後どんなスキルを身につけていきたい?」
  • 「この部署で、特に挑戦してみたい仕事はあるかな?」
  • 「3年後、5年後、どんな役割を担っていたいか、現時点で考えていることがあれば教えてほしい」
  • 「その目標を達成するために、会社や私に何かサポートできることはある?」

異動後面談を成功させるコツ

同じ時間、同じアジェンダで面談を行っても、その効果は上司の関わり方次第で大きく変わります。ここでは、面談を単なる業務報告の場で終わらせず、社員のエンゲージメントを高めるための3つの重要なコツを解説します。

支援者としての姿勢で臨む

面談の場では、上司は「評価者(Judge)」ではなく「支援者(Supporter)」であるべきです。部下の話に対して「それは違う」「もっとこうすべきだ」とすぐに結論づけたり、自身の経験談を一方的に話したりするのは避けましょう。まずは相手の話を最後まで聞き、その考えや感情を一度受け止める「傾聴」の姿勢が不可欠です。部下が安心して本音を話せる「安全基地」のような存在になることを目指しましょう。

心理的安全性を確保する

「こんなことを言ったら評価が下がるかもしれない」「わかっていないと思われたくない」といった不安を部下が感じている状態では、本音を引き出すことはできません。面談の冒頭で「今日は評価の場ではないから、どんなことでも安心して話してほしい」と伝えたり、上司自身が「私も昔、異動したときは〇〇で苦労したよ」と自己開示したりすることで、場の心理的安全性は高まります。失敗談や弱みも話せる雰囲気を作ることが、建設的な対話の第一歩です。

次のアクションにつなげる

面談で課題や目標が明確になったら、それを必ず具体的な行動計画に落とし込みましょう。「頑張ります」といった曖昧な結論で終わらせず、「では、まず来週までに〇〇の資料を読んでみようか」「次の1on1までに、△△さんに一度話を聞いてみよう」といった、小さくても具体的なネクストアクションを一緒に決めることが重要です。これにより、本人は何をすべきかが明確になり、上司も進捗を確認しやすくなります。面談を成長への具体的なステップと位置づけるのです。

【状況別】異動後面談のポイント

一口に「異動」と言っても、その背景は様々です。本人の希望が叶った抜擢異動と、予期せぬ会社都合の異動とでは、社員の心理状態は全く異なります。ここでは、異動の状況別に、面談で特に意識すべきアプローチの違いについて解説します。

本人希望の異動

本人が希望して異動してきた場合、モチベーションは非常に高い状態にあります。この場合は、その意欲をさらに引き出し、スムーズなスタートを切れるように後押しすることが面談の主な目的です。期待している役割を具体的に伝え、「君の〇〇という強みに期待している」と個別のメッセージを添えることで、本人のやる気はさらに高まります。ただし、意欲が空回りしたり、理想と現実のギャップに悩んだりすることもあるため、「焦らなくていいよ」というメッセージも忘れずに伝えましょう。

会社都合の異動

本人の意に沿わない異動の場合、社員は不安や不満、戸惑いを抱えている可能性があります。この状況でいきなり前向きな話だけをしても、心には響きません。まずは、「今回の異動、突然のことで驚いたと思う」と本人の気持ちに寄り添い、なぜこの異動が必要だったのか、その背景や会社としての期待を丁寧に説明することが不可欠です。本人の言い分や感情を真摯に受け止める時間を十分に確保し、信頼関係を築くことから始める必要があります。

未経験職種への異動

ポテンシャルを期待されて未経験の職種へ異動した場合、本人は「本当に自分に務まるのか」という大きな不安を抱えています。この場合、完璧を求めすぎず、小さな成功体験を積ませることが重要です。面談では、具体的な研修プランや、サポート役となる先輩社員(メンター)の存在を伝え、会社として育成していく姿勢を明確に示しましょう。「最初の3ヶ月はできなくて当たり前。まずは部署に慣れることを目標にしよう」といった形で、短期的な目標を低めに設定し、心理的な負担を軽減してあげることが効果的です。

異動後面談で社員と組織の成長を促す

異動後面談は、単に異動者の様子を見るためだけのものではありません。その目的は、社員の不安を取り除き、新しい環境での早期活躍をサポートすることで、ひいては組織全体の生産性向上や活性化につなげることにあります。今回ご紹介した進め方や質問例、特に異動タイプ別のアプローチを参考に、ぜひ明日からの面談に活かしてみてください。目的を明確にした質の高いコミュニケーションは、社員のエンゲージメントを高め、変化に強い組織を作るための重要な土台となります。面談を一過性のイベントで終わらせず、継続的なフォローを通じて、社員一人ひとりの成長を力強く後押ししていきましょう。


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