• 更新日 : 2025年9月22日

退職月の給与計算ルールを分かりやすく解説!

退職月の給与計算は、通常の給与計算とは異なる点が多く、特に日割り計算や社会保険料・税金の控除が複雑になります。

退職月の給与計算は、代表的な要素としては以下で構成されます。

  1. 基本給や各種手当の計算(日割り計算)
  2. 社会保険料の控除
  3. 所得税・住民税の控除

それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。

退職月の基本給はどう減る?3つの日割り方式

退職月の基本給を日割り計算する方法は、主に以下の3つの方式があります。どの方式を採用するかは、会社の就業規則や賃金規程に定められていますので、まずはそちらを確認することが重要です。

暦日数方式(暦日割り)

暦日数方式(暦日割り)とは、給与の日割り計算を行う際に、その月の実際の日数(暦日数)を分母として計算する方法です。

例えば、30日ある月であれば30で割り、31日ある月であれば31で割るという計算方法になります。この方法は主に以下のような場合に用いられます。

  • 月の途中で入社や退職があった場合
  • 休職からの復帰や休職開始の場合
  • 在籍期間に応じて給与を支払う必要がある場合

計算式

支給額 = 月給額 ÷ その月の暦日数(30日や31日など) × 在籍日数

具体例

基本給30万円、4月(30日)の20日に入社し、月末まで勤務した場合(在籍日数11日)

支給額 = 300,000円 ÷ 30日 × 11日 = 110,000円

この計算方法の特徴として、1日あたりの単価が月によって変動します(2月は28日または29日、その他の月は30日または31日)。また、休日を含む全ての日で単価が同じになるため、在籍期間に応じた給与計算に適しています。

なお、暦日数方式とは別に、所定労働日数を用いる方法や月平均所定労働日数を用いる方法などもあります。どの方法を採用するかは会社の賃金規程により決定されるため、自社の規程を確認することが重要です。

当月の所定労働日数方式

当月の所定労働日数方式は、欠勤控除額を計算する際に用いられる方法の一つです。「月給額 ÷ その月の所定労働日数 × 欠勤日数」という計算式で欠勤控除額を算出する方法です。

この方法では、以下の計算式で欠勤控除額を求めます。

欠勤控除額 = 月給額 ÷ 当月の所定労働日数 × 欠勤日数

例えば、月給30万円の従業員が、所定労働日数22日の月に2日欠勤した場合

  • 欠勤控除額 = 300,000円 ÷ 22日 × 2日 = 27,272円(端数処理による)
  • 支給額 = 300,000円 – 27,272円 = 272,728円

注意点

  • この計算方法は労働基準法で直接定められているものではありませんが、賃金は労働基準法第24条により『全額払い』が原則とされています。そのため、欠勤による賃金控除を行う場合は、就業規則や賃金規程に明確な根拠を定め、また労使協定が必要となる場合があります。
  • 手当などが欠勤控除の対象になるかどうかは、就業規則の定めによります。
  • 月ごとに所定労働時間が異なる場合(例:変形労働時間制を採用している企業)の残業時間の計算においては、1年間における1月あたりの平均所定労働時間数を用いることがあります。ただし、平均所定労働時間は“時間単価計算”に用いるもので、残業時間数そのものは実労働時間で集計します。

欠勤控除の計算方法は就業規則等に明記しておくことで、従業員の理解を得やすくなります。また、控除額の計算が合理的な根拠に基づいていることが重要です。

月平均所定労働日数方式

月平均所定労働日数方式とは、欠勤控除額を計算する際に用いられる方法の一つで、年間の所定労働日数を12か月で割って得られた平均日数を基準にして、1日あたりの賃金額を算出する方式です。

基本的な計算式

1日あたりの賃金額 = 月給額 ÷ 月平均所定労働日数
欠勤控除額 = 1日あたりの賃金額 × 欠勤日数

例えば、年間所定労働日数が244日の場合、

月平均所定労働日数 = 244日 ÷ 12か月 = 20.33日 → 20.3日(または20日)

端数処理の方法は、労働者に不利にならないよう配慮し、事前に就業規則等で明確に定めておく必要があります。

月給30万円の従業員が2日欠勤した場合の控除額

1日あたりの賃金額 = 300,000円 ÷ 20.3日 = 14,778円
欠勤控除額 = 14,778円 × 2日 = 29,556円
メリット
  • 月ごとの所定労働日数の変動に関わらず、常に一定の日額で計算できる
  • 年間を通じて公平な控除額となり、月による控除額の変動がない
  • 給与計算が簡素化される

退職月における各種手当の扱い

退職月における変動手当(残業・休日出勤・深夜手当など)は、労働基準法第24条の『賃金全額払いの原則』に基づき、実際に労働した分については全額支給が義務付けられています。

変動手当の計算について

変動手当の計算は、退職月であっても次のように通常と同じ方法で行います。

  • 残業手当: 実際に行った残業時間に基づいて計算
  • 休日出勤手当: 実際に出勤した休日労働に基づいて計算
  • 深夜手当: 実際に行った深夜労働(22時~5時)に基づいて計算

これらの手当は、実際に労働した分について発生するものであり、退職という事実によって減額されることはありません。

固定手当(通勤・住宅・役職・資格手当など)

固定手当は、就業規則または賃金規程に日割り計算の定めがある場合に限り、基本給と同様に日割り計算が行われます。規程に定めがない限り、日割り計算の義務はありません。

なお、固定手当の支給条件は会社規程に委ねられる。

  • 通勤手当:通勤手当は、実際に通勤した日数に基づいて日割り計算を行う企業もありますが、定期券購入費用相当を支給している場合など、企業の規程によって取扱いは異なります。退職時の精算方法は就業規則や賃金規程で確認が必要です
  • 住宅手当・役職手当・資格手当:一般的に基本給と同様の方法で日割り計算されますが、会社の規程によっては全額支給する場合もあります

退職月の社会保険料(健康・年金・介護)の控除ルール

  • 社会保険料は、退職日の翌日が属する月の前月分まで発生します
    • 月途中退職でも資格取得と喪失が同月の場合(同月得喪)などは当月分保険料が発生します。
  • 退職日が月末か月途中かで、最終徴収月が異なります
    • 退職日が月末の場合:退職月の社会保険料まで発生します
    • 退職日が月途中の場合:退職月の社会保険料は発生しません
  • 社会保険料は日割り計算せず、月単位で徴収されます

控除のタイミングについて

退職月における社会保険料控除のタイミングについて、具体例を通して見ていきましょう。

具体的な例

【末日締め・翌月25日払いの場合】

  • 退職日が8月31日の場合
    • 社会保険の喪失日(退職日の翌日):9月1日
    • 社会保険の喪失日の属する月の前月:8月
    • 8月分の社会保険料まで発生するため、9月25日支払の最終給与にて社会保険料「8月分」を徴収
  • 退職日が8月20日の場合
    • 社会保険の喪失日(退職日の翌日):8月21日
    • 社会保険の喪失日の属する月の前月:7月
    • 8月分の社会保険料は発生しないため、9月25日支払の最終給与では社会保険料は徴収しない

介護保険料の取扱い

  • 介護保険料は健康保険料と一体で徴収されます
  • 対象者は40歳から64歳までの第2号被保険者です
  • 具体的には、従業員が40歳に達した日(誕生日の前日)の月から65歳に達した日(誕生日の前日)の月の前月まで徴収します

賞与に対する社会保険料の取扱い

賞与に対する社会保険料は、処理は資格喪失月を基準として行われます。したがって、賞与の支給月末日より前に退職した場合、退職月の社会保険料は発生しません。例えば、8月15日に賞与を支給した従業員が8月24日に退職する場合、8月25日が被保険者資格の喪失日となります。したがって、前月分となる7月支給分のみ徴収の対象となり、8月15日に支給した賞与は対象となりません。

退職月の雇用保険料に関する処理ルール

退職月における雇用保険料の取扱いについて、以下のとおりご説明いたします。

雇用保険料の基本ルール

退職月であっても、雇用保険料は通常の給与支給時と同じ計算方法で控除します。具体的には、給与支給額に雇用保険料率を掛けて算出し、退職月に支給される給与全額に対して雇用保険料が発生します。

最終給与からの控除方法

最終給与における雇用保険料の控除方法は次のとおりです。

  • 退職月に支給される給与総額(基本給、手当等)を算出します
  • その総額に対して、当該年度の雇用保険料率を乗じます
  • 算出された金額を最終給与から控除します

留意点

  • 退職日の関係なく、最終給与として支払われる給与全額に対して雇用保険料が発生します
  • 社会保険料とは異なり、退職月であっても控除免除にはなりません
  • 最終給与の計算で日割り計算が発生しても、その日割り計算後の金額に対して雇用保険料率を乗じます

退職月の雇用保険料は、給与として支払われる金額全てに対して発生しますので、退職日や給与締日に関わらず、通常どおり控除する必要があります。

退職月の控除項目(源泉所得税・住民税)の処理ルール

源泉所得税について

退職月の源泉所得税は、通常の給与支給時と同様の計算方法で控除します。退職という理由で特別な計算方法はありません。退職月の給与に対して源泉徴収税額表に基づいて計算し、控除します。

これは最終給与が退職月であっても翌月以降の支給であっても同様です。つまり、給与の締日・支払日に応じて、最終の給与計算時に通常通り源泉所得税を控除します。

住民税について

住民税の徴収方法は退職時期によって異なります。以下のパターンに分けて対応します。

退職時期別の住民税徴収方法

【6月1日~12月31日が退職日の場合】

退職者は以下の3つの方法から選択できます。

  • 一括徴収: 残りの住民税を最終給与から一括で控除
  • 特別徴収の継続: 新しい職場で引き続き給与から控除(再就職先が決まっている場合)
  • 普通徴収への切替: 自分で市区町村に直接納付

【1月1日~4月30日が退職日の場合】

1月1日~4月30日が退職日の場合、退職者の希望にかかわらず、原則として退職日から5月までの住民税を最終給与や退職金からまとめて控除して納付します(一括徴収)。その上で給与や退職金から控除しきれない場合には、普通徴収への切り替えで対応することになります。

【5月1日~5月31日が退職日の場合】

通常通り、最終給与から1か月分の住民税を控除して納付します。

住民税の手続き

退職に伴う住民税の異動届(給与所得者異動届出書)は会社側が提出する必要があります。退職者の住民税徴収方法の希望を確認し、居住する市区町村に届け出てください。

特に6月1日~12月31日退職の場合は、退職者の希望確認が重要です。退職者にとって最適な方法を選択できるよう説明することをお勧めします。

手続きの流れ

  • 退職日を正確に確認する
  • 退職者に住民税の徴収方法について説明し、希望を確認する(特に6月~12月退職の場合)
  • 最終給与の支給日を確認し、源泉所得税を通常通り計算・控除する
  • 住民税は退職時期と退職者の希望に基づいて控除する
  • 住民税の異動届を市区町村に提出する
  • 源泉徴収票を退職日以後1か月以内に退職者に交付する

就業規則で明記すべきポイント

日割り計算の基準(暦日・所定日数・月平均)

日割り計算の基準は、以下の3つの方式から選択して就業規則に明確に定めることが重要です。

計算方式計算方法特徴適用場面
暦日数方式月給額 ÷ 暦日数(30日・31日など) × 在籍日数在籍日数に比例して支給中途入退社時の給与計算
所定労働日数方式月給額 ÷ 当月の所定労働日数 × 実労働日数実際の労働日数に応じて計算欠勤控除、実労働日数重視の場合
月平均所定労働日数方式月給額 ÷ (年間所定労働日数 ÷ 12) × 実労働日数年間を通して1日単価が一定公平性重視、計算の安定性

就業規則には、以下の点を明記すべきです。

  • 採用する日割り計算の方式
  • 基本給と各種手当ごとの計算方法(日割り計算対象か否か)
  • 控除の対象となる不就労の定義(欠勤・遅刻・早退など)
  • 端数処理の方法

手当の支給可否および方法

就業規則には各種手当について下記の点を明確に規定すべきです。

手当の種類明記すべき事項
通勤手当□ 支給条件と計算方法

□ 日割り計算の有無

□ 中途入退社・欠勤時の取扱い

役職手当□ 各役職に対応する金額

□ 日割り計算の対象か否か

□ 代理・兼務時の取扱い

残業手当□ 計算基礎となる賃金項目

□ 計算方法と割増率

□ 端数処理方法

固定残業手当□ 対象時間数と金額

□ 超過分の追加支給方法

□ 日割り計算の有無

住宅手当□ 支給条件と金額

□ 証明書類の要否

□ 日割り計算の有無

家族手当□ 対象家族の範囲

□ 支給条件と金額

□ 届出・確認方法

資格手当□ 対象資格の一覧

□ 資格ごとの支給額

□ 複数資格保有時の取扱い

各手当について「日割り計算の対象となるか否か」を明確に規定することが特に重要です。欠勤時や月途中の入退社時に日割り計算の対象とする手当と対象としない手当を区別して記載してください。

社会保険・雇用保険・税金の処理フロー

就業規則には各種保険料・税金の取扱いについて下記のポイントを明記すべきです。

項目明記すべき事項
社会保険料□ 月途中退職時の取扱い□ 賞与支給時の取扱い
雇用保険料□ 給与からの控除方法

□ 端数処理の方法

所得税□ 源泉徴収の方法

年末調整の実施時期と必要書類

住民税□ 特別徴収の実施

□ 退職時の取扱い(一括徴収/普通徴収への切替え)

年の途中退職者の処理□ 源泉徴収票の交付時期

□ 社会保険の喪失手続きと保険証回収方法

退職所得の源泉徴収の取扱い

特に退職時の取扱いについて、以下の点を明確にしておくことが重要です。

  • 退職時の最終給与支払日
  • 退職者から請求があった場合の支払期限(7日以内)
  • 退職時期別の住民税の取扱い方法
  • 源泉徴収票等の交付時期・方法

就業規則は労使間の紛争を防止する重要な役割を持つため、特に金銭に関わる規定は明確かつ詳細に記載することをお勧めします。


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