- 更新日 : 2025年9月22日
 
インセンティブからも社会保険料は引かれる?賞与との違いや計算方法を解説
営業成績や目標達成に応じて支給されるインセンティブ。頑張りが評価される嬉しい仕組みですが、支給額面を見て思ったより手取りが少ないと感じた経験はありませんか?
この記事では、インセンティブと社会保険の関係、保険料の具体的な計算方法、手取り額への影響、そしてパート・アルバイトの方が特に注意すべき点まで、わかりやすく説明します。
目次
インセンティブも社会保険の対象
まず知っておくべきなのは、インセンティブも社会保険料の支払い対象であるという点です。ただし、その扱いは年間の支給回数によって大きく2つに分かれます。
年3回以下の支給は賞与扱い
年に1回や2回など、支給回数が3回以下のインセンティブは、社会保険の制度上賞与として扱われます。名称がインセンティブ、報奨金、業績手当などであっても、労働の対価として支払われ、支給回数が年3回以下であれば賞与と同じ扱いです。この場合、毎月の給与から引かれる社会保険料とは別に、インセンティブの支給額に応じた社会保険料が差し引かれます。
年4回以上の支給は給与の一部(報酬)扱い
一方で、四半期ごとの目標達成による支給など、年4回以上支払われるインセンティブは、給与の一部(報酬)と見なされます。この場合、賞与としてではなく、毎月の給与に上乗せされるものとして扱われ、月々の社会保険料を計算する際の金額に影響を与えます。
年3回以下のインセンティブ(賞与)にかかる社会保険料
年3回以下のインセンティブ(賞与扱い)が支給された場合、どのように社会保険料が計算されるのか見ていきましょう。
健康保険料・厚生年金保険料の計算方法
健康保険料と厚生年金保険料は、標準賞与額という金額を計算の土台にします。標準賞与額とは、インセンティブの税引き前支給額から1,000円未満を切り捨てた金額です。
- 標準賞与額を求める
インセンティブ支給額の1,000円未満を切り捨てます。 - 保険料率を掛ける
求めた標準賞与額に、ご自身が加入している健康保険の保険料率と、厚生年金保険の保険料率をそれぞれ掛けます。算出された金額を会社と折半で負担します。 
保険料率は加入している健康保険組合やお住まいの都道府県によって異なります。また、料率は改定されることがあるため、日本年金機構や全国健康保険協会、所属する健康保険組合の公式サイトで最新の情報を確認しましょう。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算は少し異なり、標準賞与額の考え方は使いません。インセンティブの支給額面にそのまま雇用保険料率を掛けて計算します。1,000円未満の切り捨ても行いません。
年4回以上のインセンティブ(給与)にかかる社会保険料
年4回以上支給されるインセンティブは、毎月の給与と同じ報酬として扱われ、月々の社会保険料に影響します。
月々の給与と合算して標準報酬月額を決定
年4回以上支給されるインセンティブは、算定基礎届を提出する4〜6月の報酬決定時に、直近1年間のインセンティブ総額を12で割った額を標準報酬月額に加算して算定します。
標準報酬月額は、原則として毎年1回、4月・5月・6月の給与の平均からその年の9月以降の社会保険料を決める定時決定(算定基礎届)で更新されます。この期間に年4回以上のインセンティブが支払われると、標準報酬月額が上がり、月々の社会保険料が高くなる可能性があります。
また、昇給などで固定給が大幅に変動した場合は、随時改定(月額変更届)によって年の途中でも標準報酬月額が見直されることがあります。
月々の手取りは変わらないのに保険料が上がることも
定時決定の際にインセンティブの支払いが重なると、実際の月給は変わっていなくても、標準報酬月額が増加し、その結果月々の社会保険料負担が増える状況が起こりえます。
インセンティブと将来の年金受給額の関係
社会保険料、特に厚生年金保険料を支払うことは、単なる負担増ではありません。
インセンティブから厚生年金保険料を納めることで、その分、将来受け取る老齢厚生年金の額が増えます。賞与やインセンティブからの保険料納付額も、生涯の年金額の計算に含まれるため、将来への備えにつながると言えるでしょう。
インセンティブにより社会保険の扶養から外れる可能性
パートやアルバイトで働く方がインセンティブを受け取る場合、特に注意が必要です。
社会保険の年収の壁とは
配偶者などの扶養に入って働く場合、年収が一定額を超えると社会保険の扶養から外れ、自分で社会保険料を支払う義務が生じます。この年収の境界線は、勤務先の従業員数などによって異なり、一般的に106万円の壁や130万円の壁と呼ばれています。
年収の壁を超えると社会保険料の負担が発生
インセンティブの支給によって年収がこの壁を超えてしまうと、社会保険の加入対象者となり、新たに社会保険料の負担が発生します。これにより、手取り額が大きく減ってしまう可能性があるので、インセンティブの支給額によっては働き方を調整する必要が出てくるかもしれません。ご自身の勤務形態と見込まれる年収を事前に確認しておくことが大切です。
インセンティブから引かれるのは社会保険料だけではない
インセンティブの手取り額に影響するのは、社会保険料だけではありません。所得税も引かれます。
インセンティブは所得税法上、賞与と同じ扱いとなり、所得税が源泉徴収されます。所得税の税率は、インセンティブ支給月の前月の給与から社会保険料を引いた金額と、扶養親族の人数によって決まります。この税率を、インセンティブから社会保険料を引いた後の金額に掛けて所得税額を計算します。
インセンティブに対する直接的な節税策は多くありません。しかし、iDeCo(個人型確定拠出年金)やふるさと納税といった制度を活用することで、年間の課税所得を抑え、結果として所得税や住民税の負担を軽くすることが可能です。これらは、年間の所得全体に対する税金対策として有効です。
インセンティブと社会保険の正しい知識を身につけよう
インセンティブと社会保険の関係について解説しました。年3回以下の支給であれば賞与、年4回以上であれば報酬(給与の一部)として扱われ、社会保険料の計算方法や月々の保険料に影響を与えます。
また、社会保険料だけでなく所得税も源泉徴収されるため、額面と手取り額には差が生じます。ご自身のインセンティブがどのような扱いで、いくら社会保険料が引かれているのか、給与明細を改めて確認してみましょう。こうした知識は、ご自身の資産形成や家計管理を考える上で非常に重要です。インセンティブ制度を最大限に活かすためにも、その仕組みを正しく理解し、賢く対応していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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