- 更新日 : 2025年9月16日
社会保険の事業主負担率はいくら?計算式と注意点をわかりやすく解説
企業の経営者や担当者にとって、社会保険料の事業主負担は避けて通れない重要なコストです。「社会保険の事業主負担率は何パーセント?」「給与40万円の従業員だと、会社の負担はいくらになるの?」といった疑問は尽きません。
社会保険料の計算は複雑に思われがちですが、基本的な計算式と仕組みを理解すれば、決して難しいものではありません。本記事では、社会保険料の事業主負担率と計算式について、具体的なシミュレーションを交えながら、わかりやすく解説します。
関連資料|社労士が解説!給与計算における社会保険の実務マニュアル
目次
社会保険料の事業主負担率と基本的な計算式
会社の給与計算において、社会保険料の計算は非常に重要な業務です。この社会保険料は、従業員だけでなく会社(事業主)も負担しています。
まずは、その基本的な計算方法と負担割合の全体像を理解していきましょう。
社会保険料の基本計算式は「標準報酬月額 × 保険料率」
毎月の給与から天引きされる社会保険料の計算は、非常にシンプルです。基本の計算式は以下の通りです。
この「標準報酬月額」と「保険料率」という2つの要素がわかれば、保険料を算出できます。
標準報酬月額は従業員の給与額を基にしたもので、保険料率は加入している保険や地域によって定められています。これらの詳細については、後の章で詳しく解説していきます。
関連記事|給料から社会保険料が引かれる額 – 具体例を用いて解説
関連記事|標準報酬月額とは?決め方や計算方法、間違えた場合をわかりやすく解説!
事業主と被保険者(従業員)の負担割合
社会保険制度は、働く人々と事業主が保険料を分かち合うことで成り立っています。
原則として、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は、会社(事業主)と従業員(被保険者)が半分ずつ負担(労使折半)します。これは、病気やケガ、老齢、失業といったリスクに社会全体で備えるという考え方に基づいています。
一方、雇用保険は労使の負担率が異なり、事業主の方が多く負担します。また、後述する労災保険料のように、全額を事業主が負担するものもあり、すべての保険料が折半というわけではない点に注意が必要です。
事業主が負担する社会保険の種類一覧
一般的に「社会保険」と呼ばれるものには、広義で5つの種類があります。
これらは「社会保険(狭義)」と「労働保険」に大別され、それぞれが異なるリスクに備えるためのものです。事業主は、これらの保険料を適切に納付する義務があります。
- 健康保険:業務外の病気やケガ、出産、死亡に備える医療保険。
- 介護保険:40歳以上が加入。加齢による要介護状態や要支援状態に備える保険。
- 厚生年金保険:老後の生活や、障害、死亡に備える年金制度。
- 雇用保険:失業した場合の生活の安定や再就職の促進に備える保険。
- 労災保険(労働者災害補償保険):業務中や通勤中の病気やケガ、障害、死亡に備える保険。
【種類別】社会保険料の事業主負担率と計算方法
社会保険料の計算には、保険の種類ごとに異なる「保険料率」を用います。
ここでは、2025年8月時点の料率を基に、それぞれの保険料の計算方法と事業主負担率を見ていきましょう。
健康保険料
健康保険料率は、加入している健康保険組合によって異なります。中小企業の多くが加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の保険料率は、都道府県ごとに設定されています。
例えば、2025年3月分(4月納付分)からの東京都の料率は9.91%です。この料率を事業主と従業員で折半するため、事業主の負担率は4.955%となります。
自社の所在地の最新の料率は、協会けんぽのホームページでご確認ください。
出典|全国健康保険組合 臨時号 2025年度の健康保険料率及び介護保険料率について(2025.2.14)
厚生年金保険料
厚生年金保険料率は、2017年9月以降、全国一律で18.3%に固定されています。こちらも労使折半のため、事業主の負担率は9.15%となります。
健康保険料のように地域差や毎年の変動を気にする必要はありませんが、法改正によって将来的に変更される可能性はゼロではありません。
介護保険料(40歳以上65歳未満の被保険者が対象)
40歳になると、健康保険の被保険者は自動的に介護保険の第2号被保険者となり、介護保険料の納付義務が発生します。
介護保険料率は全国一律で、2025年3月分からは1.59%とされています(協会けんぽの場合)。これも労使折半なので、事業主の負担率は0.795%です。
健康保険料と合算して徴収されるため、40歳以上の従業員の給与計算では注意が必要です。
雇用保険料
雇用保険料率は、企業の事業内容によって3つの区分に分けられています。2025年度の料率は以下の通りです。
- 一般の事業:1.45%(事業主負担:0.90%)
- 農林水産・清酒製造の事業:1.65%(事業主負担:1.00%)
- 建設の事業:1.75%(事業主負担:1.10%)
雇用保険料は、標準報酬月額ではなく、毎月の給与総額(通勤手当などを含む)に料率をかけて計算します。事業主の方が従業員より少し多く負担する仕組みになっています。
労災保険料
業務災害や通勤災害から従業員を保護する労災保険の保険料は、全額を事業主が負担します。従業員の負担はありません。
保険料率は、事業の種類ごとに災害発生のリスクに応じて細かく定められており、業種別で0.25~8.8%と幅があります。自社の事業がどの業種に該当するかを確認し、正しい料率で計算・納付する必要があります。
関連資料|【社労士が解説】10分でわかる!健康保険・厚生年金保険 実務ハンドブック
社会保険料の計算に不可欠な標準報酬月額とは
社会保険料の計算式「標準報酬月額 × 保険料率」の、重要な要素である「標準報酬月額」について掘り下げていきましょう。これは実際の給与そのものではなく、計算を簡略化するために定められた区切りの良い金額のことです。
標準報酬月額の仕組みと決まり方
標準報酬月額は、原則として毎年1回、4月・5月・6月に支払われた給与(報酬)の平均額を基に決定されます。この手続きを「定時決定」といい、提出する書類の名前から「算定基礎届」とも呼ばれます。この3ヶ月間の平均額を、定められた等級表に当てはめてその年の9月から翌年8月までの1年間の標準報酬月額が決定します。
この仕組みにより、残業代などで毎月の給与が多少変動しても、社会保険料は1年間固定となり(改定されない場合に限る)、計算事務が簡素化されます。
標準報酬月額の等級表の見方と確認方法
標準報酬月額は、健康保険は第1級の5万8千円から第50級の139万円まで、厚生年金保険は第1級の8万8千円から第32級の65万円までの等級に区分されています。
例えば、4月〜6月の給与平均額が295,000円だった場合、等級表の「290,000円〜310,000円」の範囲に該当するため、標準報酬月額は「300,000円」となります。
最新の保険料額表(等級表)は、協会けんぽや日本年金機構のホームページで確認できます。
出典|令全国健康保険協会 令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)
給与が大幅に変動した場合
昇給や降給により、固定的な賃金が大幅に変動し、標準報酬月額の等級が2等級以上変わった場合は、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定します。これを「随時改定」といい、「月額変更届」を提出して手続きを行います。
これにより、実態とかけ離れた保険料負担が続くことを防ぎます。随時改定は、変動があった月から3ヶ月間の給与平均を基に行われ、4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用されます。
賞与から引かれる社会保険料の計算方法
賞与(ボーナス)からも、毎月の給与と同様に社会保険料が天引きされます。
ただし、計算の基になるのは「標準賞与額」です。これは、支給された賞与の総額から1,000円未満を切り捨てた金額です。この標準賞与額に、毎月の給与と同じ保険料率をかけて保険料を算出します。
なお、標準賞与額には年度の累計で上限(健康保険573万円、厚生年金1ヶ月あたり150万円)が定められています。
【具体例】月給・賞与別シミュレーション!社会保険料の事業主負担額
では、実際の給与額を基に、事業主が負担する社会保険料がいくらになるのかをシミュレーションしてみましょう。
※以下の計算は、所在都道府県:東京都、健康保険:協会けんぽ、事業の種類:一般の事業、2025年8月時点の料率を想定しています。
月給25万円の従業員の場合(東京都在住・30歳)
30歳で介護保険料の負担はないケースです。
- 標準報酬月額:260,000円
- 健康保険料(事業主負担) 260,000円 × 9.91% ÷ 2 = 12,883円
- 厚生年金保険料(事業主負担) 260,000円 × 18.3% ÷ 2 = 23,790円
- 雇用保険料(事業主負担) 250,000円 × 0.9% = 2,250円
- 事業主負担額 合計:38,923 円
月給40万円の従業員の場合(東京都在住・45歳・介護保険料あり)
40歳以上のため、介護保険料も負担します。健康保険料率に介護保険料率(1.59%)が上乗せされます。
- 標準報酬月額:410,000円
- 健康保険料+介護保険料(事業主負担) 410,000円 × (9.91% + 1.59%) ÷ 2 = 23,575円
- 厚生年金保険料(事業主負担) 410,000円 × 18.3% ÷ 2 = 37,515円
- 雇用保険料(事業主負担) 400,000円 × 0.9% = 3,600円
- 事業主負担額 合計:64,690円
賞与50万円が支給された場合の事業主負担額
上記の月給40万円の従業員に賞与が支給されたケースです。
- 標準賞与額:500,000円
- 健康保険料+介護保険料(事業主負担) 500,000円 × 11.5% ÷ 2 = 228,750円
- 厚生年金保険料(事業主負担) 500,000円 × 18.3% ÷ 2 = 45,750円
- 雇用保険料(事業主負担) 500,000円 × 0.9% = 4,500円
- 事業主負担額 合計:79,000円
【補足】従業員(被保険者)本人の負担額との比較
事業主負担額と従業員負担額を比較すると、労使で支え合っていることがよくわかります。
月給40万円の例では、事業主の月額負担が64,690円に対し、従業員の負担は63,290円(健康保険料の端数処理と労使間の雇用保険料率による差)となり、ほぼ同額です。企業は、従業員の給与以外にこれだけのコストを負担していることを認識し、資金計画を立てる必要があります。
関連記事|社会保険料の計算方法は?シミュレーション・年収別早見表つき|2025年最新
社会保険料の注意点と最新動向
社会保険料の計算は、制度や法律の変更と密接に関わっています。
ここでは、社会保険料の注意点と、法改正のポイントをご紹介します。
厚生年金保険の適用拡大(2024年10月より)
働き方の多様化に対応するため、社会保険の適用範囲は段階的に拡大しています。特に2024年10月からは、厚生年金保険の適用対象が「従業員数101人以上の企業」から「従業員数51人以上の企業」へと拡大されました(その他、適用要件あり)。
この変更により、これまで対象外だったパート・アルバイト従業員も、週の所定労働時間が20時間以上などの要件を満たせば、社会保険の加入対象となります。対象となる企業は、新たな保険料負担が発生するため、相応の準備と対応が求められました。
今後も、2027年10月に「従業員数36人以上の企業」、2029年10月に「従業員数21人以上の企業」になるなど、段階的に加入対象が拡大される予定です。
詳細は以下の記事でも解説しておりますので、そちらをご覧ください。
関連記事|社会保険の適用拡大とは?従業員50人以下はどうなる?2024年10月の変更点を解説
出典|厚生労働省 社会保険適用拡大 対象となる事業所・従業員について
従業員の入社・退社時の手続き
従業員が入社した場合、その日から被保険者資格を取得し、入社した月から社会保険料が発生します。一方、退職の場合は、退職日の翌日に資格を喪失します。
ポイントは、健康保険・厚生年金は月単位で計算され、日割り計算はしないという点です。例えば、8月30日に退職した場合、資格喪失日は8月31日となり、7月分の保険料までが徴収対象です。しかし、月の末日である8月31日に退職した場合は、資格喪失日が9月1日となるため、8月分の保険料まで徴収する必要があります。
このルールは間違いやすいため、特に注意が必要です。
出典|日本年金機構 Q.月の途中で入社したときや、退職したときは、厚生年金保険の保険料はどのようになりますか。
関連資料|【社労士が解説】入社/退職/異動/妊娠出産/育児/介護 社会保険・労働保険の実務完全ガイド
「算定基礎届」の提出
毎年7月1日から10日までの間に、「算定基礎届」を管轄の年金事務所へ提出することは、企業にとって重要な義務です。
これは、その年の9月からの新しい標準報酬月額を決定するための手続きであり、全被保険者が対象となります。この届出を怠ったり、内容を誤ったりすると、正しい保険料が計算できず、後々、追徴や還付といった煩雑な事務処理が発生する可能性があります。
計画的に準備を進め、期限内に正確な届出を行いましょう。
関連記事|算定基礎届はいつ届く?提出期限や書類の書き方、訂正方法も解説
関連記事|算定基礎届に残業代は含まれる?注意点と含まれる賃金について解説
社会保険料負担を考慮した採用計画を
シミュレーションで見た通り、社会保険料の事業主負担は決して小さな金額ではありません。採用計画を立てる際には、社会保険料を含めた総人件費でコストを試算することが不可欠です。
また、賞与を支給する月や、算定基礎届によって保険料が改定される9月・10月は、資金繰りが大きく変動する可能性があるため、キャッシュフロー計画に予め織り込んでおくことが重要です。
関連資料|社労士が解説 社会保険の手続きでよくあるミス 対処方法と防止策10選
関連資料|社労士が解説!ミスの発生を防ぐ10のポイント 年度更新の手続きガイドブック
社会保険料を理解して適正な事業運営へ
社会保険料の事業主負担は、企業経営における重要なコスト管理の一部です。
本記事で解説した事業主負担率と計算式を正しく理解し、毎月の給与計算や賞与支給、そして年間の資金計画に活かすことが、健全な事業運営の基盤となります。特に、健康保険料率や雇用保険料率は改定されることがあるため、経営者や担当者の方は定期的に最新の情報を確認しておくことが大切です。
正確な知識を持ち、コンプライアンスを遵守し、従業員からの信頼を得て、安定した企業経営を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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