- 更新日 : 2025年8月20日
給与支払報告書の提出先はどこ?総括表・個人別明細書の書き方や提出期限なども解説
企業の経理や労務を担当する中で、「給与支払報告書は、どこに提出すればいいのだろう」と疑問に感じた経験はありませんか。従業員の住民税額を決定する根拠となる大切な書類のため、提出先や書き方を間違えることは避けたいものです。
この記事では、給与支払報告書の正しい提出先や提出方法、注意点について分かりやすく解説します。
目次
そもそも給与支払報告書とは
給与支払報告書とは、企業や個人事業主が、前年中に従業員へ支払った給与や賞与、源泉徴収した所得税額などを記載する書類です。
給与支払報告書は、従業員の個人住民税の金額を決定するために必要な書類であり、地方税法によって提出が義務付けられています。提出された情報をもとに、各市区町村が従業員一人ひとりの住民税額を計算し、企業へ通知します。
給与支払報告書の提出先は市区町村
給与支払報告書の提出先は、税務署ではなく市区町村です。報告対象となる従業員が、その年の1月1日時点で居住している(住民票がある)市区町村へ提出します。
例えば、従業員Aさんが2025年1月1日に東京都渋谷区に住んでいる場合、Aさんの給与支払報告書は渋谷区役所に提出することになります。
源泉徴収票との違い
給与支払報告書と混同されやすい書類に、給与所得の源泉徴収票があります。どちらも記載内容は似ていますが、提出先と目的が明確に異なります。
| 書類の種類 | 提出先 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 給与支払報告書 | 市区町村 | 住民税額の計算 |
| 給与所得の源泉徴収票 | 税務署 | 所得税額の把握 |
給与支払報告書は市区町村が住民税を計算するために、源泉徴収票は国(税務署)が所得税を把握するために使われます。両者を正しく理解し、それぞれ定められた提出先へ提出することが重要です。
給与支払報告書の提出対象者
給与支払報告書の提出対象者は誰なのか、また提出が不要になるケースはあるのか、具体的な基準を見ていきましょう。
原則としてすべての従業員が提出対象
前年中に給与の支払いをしたすべての従業員について、給与支払報告書を提出する義務があります。これには、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、役員なども含まれます。
年間の支払総額の大小にかかわらず、支払い実績がある場合は原則として全員分の書類を作成し、それぞれの市区町村へ提出しなければなりません。雇用形態や勤務時間の長短は関係ない点を覚えておきましょう。
年の途中で退職した従業員の取り扱い
年の途中で退職した従業員についても、給与支払報告書の提出は必要です。退職者だからといって、自己判断で提出対象から外してはいけません。
ただし例外として、退職者については、年間の給与支払額が30万円以下である場合には、提出義務が免除されています。ただし、市区町村によっては提出が求められている場合もあるため、正確な情報は各市区町村に確認することが望ましいです。
給与支払報告書の書き方
給与支払報告書は、総括表と個人別明細書の2種類の書類で構成されます。様式は、提出先である各市区町村のウェブサイトからダウンロードしたり、市区町村から送られてくるものを使用したりするのが一般的です。また、総務省のウェブサイトにも標準様式が掲載されています。
総括表の書き方
総括表は、提出先の市区町村ごとに、提出する従業員の人数などを記載する表紙のような役割を果たします。事業所の名称や所在地、法人番号(個人事業主の場合は個人番号)といった基本情報に加え、報告する人員の総数、そのうち特別徴収対象者と普通徴収対象者の人数などを正確に記載します。
個人別明細書の書き方
個人別明細書は、従業員一人ひとりの氏名、住所、マイナンバー、年間の給与支払額、社会保険料の金額、扶養親族の情報などを記載する詳細な書類です。
記載する内容は源泉徴収票とほぼ同一ですが、マイナンバーの記載漏れや、1月1日時点の正しい住所が記載されているかなどを特に注意して確認しましょう。
給与支払報告書の提出方法と期限
書類の準備が整ったら、次は提出です。定められた期限内に、適切な方法で提出を完了させましょう。
提出期限は毎年1月31日
給与支払報告書の提出期限は、原則として給与を支払った年の翌年1月31日です。期限日が土日祝日にあたる場合は、その翌開庁日が期限となります。期限間際は窓口が混雑するため、余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが大切です。
提出方法は窓口・郵送・eLTAX
提出方法には、主に3つの選択肢があります。
- 市区町村の担当窓口へ直接持参する
- 郵送で提出する
- 地方税ポータルシステムeLTAX(エルタックス)を利用して電子申告する
近年では、eLTAXを利用した電子申告が広く普及しています。eLTAXを利用すれば、複数の市区町村への提出も一度のデータ送信操作で完了でき、紙の印刷や郵送の手間が省けるため、多くの事業者で導入が進んでいます。
参考:eLTAX
給与支払報告書の提出は正確かつ期限内に
今回は、給与支払報告書の提出先を中心に、対象者や書き方、注意点などを解説しました。最も重要なポイントは、提出先が従業員の1月1日時点の住所地の市区町村であるという点です。国税庁へ提出する源泉徴収票とは明確に区別し、混同しないようにしましょう。
提出義務は、退職者の一部例外を除き、給与を支払った全従業員にあります。総括表と個人別明細書を正しく作成し、記載漏れがないよう丁寧に進めることが重要です。
提出期限である1月31日を守り、郵送や便利なeLTAXなどを利用して確実に手続きを完了させてください。この一連の事務処理が、従業員の適正な住民税納付を支えています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
個人住民税の特別徴収とは?
個人住民税の徴収方法として、「普通徴収」と「特別徴収」があります。 このうち、特別徴収は納税者以外の者が納税者から税額を徴収し、納税義務者の代わりに納める、いわゆる「給与天引き」による納付のことを言います。 ここでは、個人住民税の特別徴収に…
詳しくみる労働基準法第17条とは?前借金相殺の禁止についてわかりやすく解説
労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)は、従業員が会社から借りたお金を給与と相殺する行為を禁じています。本記事では、その趣旨や背景、労働基準法第24条(賃金の全額払い原則)との関係、近年の裁判例に見る法的解釈、そして企業が取るべき対応策や違…
詳しくみる産休中の給与は?計算方法や社会保険料の控除、給付金・手当を解説
産前や産後、育児中は、業務を行うことが困難です。そのため、公的な休業制度を定めることで、母体の保護や子育て支援が行われています。また、休業中の給与は社会保険料等の扱いについて、特別な処理が必要です。当記事では、産休中の給与や社会保険料の扱い…
詳しくみる所得税徴収高計算書の記入方式
給与や報酬を支払う事業者にとって、源泉徴収業務は避けて通れない重要な税務手続きです。しかし、いざ「所得税徴収高計算書」を目の前にすると、どの欄に何を記入すればよいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。 所得税徴収高計算書は、源泉徴収…
詳しくみる手取りは「天引き後」の給与!どこから何が差し引かれているか知っておこう
「手取り」「年収」「額面」など、給与額を表現する言葉には様々なものがあります。しかし実はそれぞれの言葉がどんな数字を意味するのかを、よくわからない人も多いのではないでしょうか。 ここではそれぞれの言葉の意味を説明するとともに、手取りがどうや…
詳しくみる有給を入社後すぐに付与したい場合はどうする?要件や注意点を解説
有給休暇を入社後すぐに付与することは可能です。本来は入社から6ヶ月後に付与することが原則ですが、前倒しの付与は労働者に不利益を与えるものではなく、かえって「ゆとりある生活を保障する」という法の趣旨にかなうためです。 本記事では、有給休暇を入…
詳しくみる