- 更新日 : 2025年7月11日
従たる給与についての扶養控除等申告書の提出とは?意味や書類の書き方を解説
副業や兼業で複数の勤務先から給与を得ている方にとって、「従(じゅう)たる給与についての扶養控除等申告書」は、所得税の源泉徴収手続きにおいて大きな意味合いを持つ書類です。この申告書の提出状況は、毎月の源泉徴収税額や年末調整、さらには確定申告の要否にも関わってきます。
本稿では、この「従たる給与についての扶養控除等申告書」に関して、その基本的な定義、提出対象者、提出時期、記載方法、提出の要否判断、そして提出しなかった場合にどのような結果になるかなど、実務上留意すべき点を解説いたします。
目次
「従たる給与についての扶養控除等申告書」とは?
「従たる給与についての扶養控除等申告書」とは、2か所以上から給与の支払いを受ける方が、「主たる給与の支払者(主要な給与の支払元)」以外の給与の支払者(従たる給与の支払者)に対して提出する税務上の書類です。
例えば、A社から主たる給与を得ている方が、副業としてB社からも給与を受け取っている場合、この「従たる給与についての扶養控除等申告書」はB社に提出します。
この申告書を提出することで、従たる給与から源泉徴収される所得税額が変わることがあります。
具体的に言うと、通常、B社のような副業先から受け取る給料からは、所得税が「乙欄(おつらん)」という区分で計算されて天引きされます。この「乙欄」は、主たる給与(A社)で適用される「甲欄(こうらん)」という区分に比べて扶養控除などが考慮されないため、同じ金額の給料でも天引きされる税金が多くなりがちです。
しかし、この「従たる給与についての扶養控除等申告書」をB社に提出すると、必ずしもその「乙欄」の高い税率ではなく、主たる給与の額などがある程度考慮された税額計算が行われる場合があります。その結果、適用される税率が低くなり、毎月の手取り額が増える可能性があります。
主たる給与と従たる給与の違い
主(おも)たる給与:複数の給与支払元がある場合において、所得者が主要な生計の源泉として選択した一の支払者から受ける給与を指します。通常、最も収入が多い支払者や、社会保険の加入状況などを考慮して選択します。この主たる給与の支払者には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出します。
従(じゅう)たる給与:主たる給与の支払者以外の支払者から受ける給与を指します。例えば、A社を主たる給与の支払者として選択している方が、副業としてB社からも給与の支払いを受ける場合、B社から受ける給与が従たる給与に該当します。この従たる給与の支払者に対して「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出を検討することになります。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出する対象者
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出する必要が生じるのは、2か所以上の会社などから給与の支払いを受けている方です。
具体的には以下のような方が該当します。
- 会社員として勤務しながら、副業で別の会社から給与を得ている人
- 複数の会社でパートタイマーやアルバイトとして働いている人
- 役員として複数の会社から役員報酬を得ている人(給与所得に該当する場合)
ただし、全ての人が必ず提出しなければならないわけではありません。提出するかどうかは、個人の状況や選択によります。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出するタイミング
本申告書は、原則として、その年の最初に従たる給与の支払いを受ける日の前日までに、従たる給与の支払者に提出します。
年の途中で新たに従たる給与の支払先ができた場合は、その新しい支払先から最初に給与が支払われる前日までに提出することになります。
ただし、年の途中で記載内容(主たる給与の額など)に大きな変動があった場合や、主たる給与の支払者が変わった場合などは、改めて提出し直すか、従たる給与の支払者にその旨を申し出る必要があります。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出が必要なケース
「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出は、必須とされているわけではありませんが、提出した方が税務上スムーズに進むケースについて解説します。
源泉徴収税額の調整を希望する場合
従たる給与から源泉徴収される所得税は、通常、税額表の「乙欄」が適用され、税額が高めになります。毎月の手取り額を少しでも増やしたい、あるいは年間の所得に対する源泉徴収税額をできるだけ平準化したいと考える場合、この申告書を提出することで、主たる給与の状況に応じた税額計算(例えば、主たる給与から社会保険料が控除された後の金額や扶養親族の数を考慮した計算)がなされ、乙欄よりも低い税率が適用されることがあります。
この調整を希望する場合は、申告書の提出を検討することになります。ただし、これにより年間の所得税総額が変わるわけではなく、あくまで月々の源泉徴収額の調整である点に注意が必要です。
複数の勤務先に扶養控除等の情報を伝えたい場合
原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は1か所の主たる給与の支払者にしか提出できません。しかし、何らかの理由で、従たる給与の支払者にも自分の扶養状況等を伝え、源泉徴収に反映させたいと考える場合、この「従たる給与についての扶養控除等申告書」がその役割を一部担うことがあります。
ただし、この申告書で申告できる控除は限定的であり、主たる給与の支払者に提出する申告書とは異なります。あくまで従たる給与からの源泉徴収額を調整するための情報提供と捉えるべきです。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」の提出が不要なケース
この申告書は、必ずしも全ての対象者が提出しなければならないものではありません。提出が不要なケースや、あえて提出しないという選択肢が考えられる場合について説明します。個々の状況に合わせて判断することが大切です。
確定申告で精算する場合
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出しない場合、従たる給与からは税額表の乙欄に基づき、比較的高めの所得税が源泉徴収されます。しかし、これはあくまで仮の徴収であり、年間の所得が確定した後に行う確定申告によって、最終的な所得税額が計算され、源泉徴収された税額との過不足が精算されます。
乙欄で多めに徴収されていた場合は、確定申告で還付されることになります。毎月の手取り額が多少減っても、確定申告でまとめて還付される方が良いと考える方や、申告書を提出する手間を省きたい方は、あえて提出しないという選択もできます。
従たる給与の額がごく少額である場合
従たる給与の金額が非常に少ない場合、この申告書を提出して源泉徴収税額の調整を行ったとしても、その影響はごくわずかかもしれません。また、年間の所得全体から見れば、乙欄で源泉徴収されたとしても、確定申告での調整額がそれほど大きくならないこともあります。
このようなケースでは、申告書を提出する手間と、それによって得られるメリット(月々の手取りの微増)を比較衡量し、提出しないという判断も合理的です。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」の書き方
申告書の用紙は、通常、従たる給与の支払者(勤務先)から入手できます。もし配布されない場合は、人事・経理担当者に申し出ましょう。また、国税庁のホームページからもPDF形式でダウンロードできますので、それを印刷して使用することも可能です。
記入後の提出先は、その申告書を提出する対象である「従たる給与の支払者」です。主たる給与の支払者に誤って提出しないように注意してください。
申告書の必要項目
申告書には、主に以下の情報を記入します。
- 申告書を提出するあなたの情報:氏名、個人番号(マイナンバー)、住所または居所。
- 従たる給与の支払者の情報:(通常は支払者側が記載するか、空欄で渡されます)。
- 主たる給与の支払者の情報:
- 主たる給与の支払者の名称(会社名など)
- 主たる給与の支払者の所在地(本店または主たる事業所の所在地)
- 主たる給与の月額(社会保険料等控除後の見積額)
- (該当する場合)控除対象配偶者や扶養親族に関する情報:この欄は、一定の条件を満たす場合に、従たる給与から源泉徴収される税額の計算に影響を与える可能性があります。ただし、基本的には主たる給与の支払者に提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」で詳細に申告するため、こちらには記入しないか、簡略的な記入になることが多いです。不明な場合は、従たる給与の支払者に確認しましょう。
個人番号(マイナンバー)の記載
原則として個人番号(マイナンバー)の記載が必要です。給与の支払者は、税務署に提出する法定調書に従業員のマイナンバーを記載する義務があるため、この申告書でも収集されます。
主たる給与の月額の見積もり
「主たる給与の月額(社会保険料等控除後の見積額)」は、その年の主たる給与から毎月控除される健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などを差し引いた後の、おおよその手取り月額を記入します。正確な金額が不明な場合は、給与明細などを参考に、できるだけ近い金額を見積もって記入します。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出しないとどうなる?
この申告書を提出しないことを選択した場合、どのような影響があるのでしょうか。主に源泉徴収される所得税額と、それに伴う確定申告の必要性について解説します。
源泉徴収税額が高めになる
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を従たる給与の支払者に提出しない場合、その給与からは、所得税の源泉徴収税額表の「乙欄」が適用されて所得税が源泉徴収されます。乙欄は、主たる給与(甲欄適用)に比べて同じ給与月額でも税率が高く設定されています。
そのため、申告書を提出した場合と比較して、毎月の従たる給与からの手取り額は少なくなる傾向があります。
確定申告が必須になるおそれ
2か所以上から給与を得ている場合、多くの場合、年末調整だけでは所得税の精算が完了せず、確定申告が必要になります。特に、「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出せず、乙欄で源泉徴収されている場合は、年間の所得全体で計算した正しい所得税額と、源泉徴収された税額との間に差額が生じやすくなります。
乙欄で多めに徴収されている場合は確定申告で還付金を受け取れる可能性が高まりますし、逆に他の所得との兼ね合いで不足額が生じれば納税が必要になります。いずれにしても、確定申告による最終的な精算がより重要になると言えます。
年の途中で主たる給与と従たる給与が変更になった場合の手続き
年の途中で転職や、主たる勤務先の変更、あるいは従たる勤務先を退職するなど、給与の状況が変化した場合に必要な手続きについて解説します。
主たる給与と従たる給与の関係が変わった場合
例えば、これまで主たる給与を得ていたA社を退職し、それまで従たる給与を得ていたB社が新たな主たる給与の支払者になったとします。この場合、B社に対しては、それまで提出していたかもしれない「従たる給与についての扶養控除等申告書」ではなく、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を新たに提出し直す必要があります。これにより、B社はあなたを主たる給与の受給者として扱い、源泉徴収税額表の甲欄を適用します。
もし、B社が主たる給与の支払者となり、さらに別のC社から新たに従たる給与を受け取るようになった場合は、C社に対して「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出するかどうかを検討します。
転職や退職に伴う申告書の扱い
従たる給与の支払先であった会社を退職した場合、その会社に提出していた「従たる給与についての扶養控除等申告書」の効力は、その退職をもって失われます。退職後に従業員側で特別な手続きを行う必要は基本的にありません。
転職により、新たに従たる給与の支払者ができた場合は、その新しい支払者に対して「従たる給与についての扶養控除等申告書」を提出するかどうかを、その時点の状況に応じて判断します。以前の勤務先に提出していた申告書は、新しい勤務先には引き継がれませんので注意が必要です。
退職した場合、提出済みの申告書はどうなる
従たる給与の支払先を退職した場合、その支払者は、あなたが退職したという事実に基づき、以降の給与計算においてその申告書を考慮しなくなります。従業員側から回収を求めたり、特別な手続きを指示されたりすることは通常ありません。ただし、最終給与や退職金に関する源泉徴収で、その申告書の内容がどのように扱われたかについては、発行される源泉徴収票で確認できます。
「従たる給与についての扶養控除等申告書」を正しく活用し税務手続きを円滑に
「従たる給与についての扶養控除等申告書」は、複数の収入源を持つ方にとって、毎月の税金の徴収額や確定申告の手続きに関わる書類です。提出するか否か、またどのように記載するかは、個々の状況によって最適な選択が異なります。この記事で解説した内容を参考に、ご自身の状況をよく確認し、適切に判断・対応してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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