- 更新日 : 2025年4月18日
海外赴任中の従業員からも住民税を徴収する?課税・非課税となる条件やタイミングを解説
海外赴任中の従業員の住民税は、1月1日時点で日本に居住していたかどうかで徴収する必要性が変わります。
「徴収の義務が発生する条件の詳細は」「いつから天引きを停止・再開するの?」などと疑問に思う人もいるでしょう。
そこで本記事では、海外赴任している従業員の住民税の扱い、海外赴任する際に必要な住民税関連の手続きなどを解説します。
目次
住民税の基本
住民税は、消防・救急・ごみ処理・学校教育などの運営や活動費用に充当するために徴収されています。
住民税の納税義務者は、1月1日時点で日本に居住しており、前年の所得が一定額以上あった人です。1月1日時点で居住していた市区町村に納める必要があります。
なお、生活扶助を受けている人や前年の所得が一定額以下の人などは、住民税が課税されません。
また、住民税には所得割と均等割があります。
- 所得割:前年度の所得に応じて課税
- 均等割:定額で課税(市区町村によって税額が異なる)
2024年度から森林環境税が、均等割と併せて年間1,000円が徴収されるようになりました。森林環境税は全国で一律です。
所得割と均等割を合わせた額を住民税として納めます。
納付方法は、給与から毎月天引きして納める特別徴収と納税者本人が直接納める普通徴収があります。給与所得者は原則として特別徴収、個人事業主や一部の給与所得者は普通徴収です。
参考:総務省|地方税制度|個人住民税
個人住民税|暮らしと税金|東京都主税局
従業員が海外赴任する場合、住民税はどうなる?
従業員が海外赴任する場合の住民税の扱いについて解説します。
海外赴任が1年以上の場合
住民税が課税されるのは、1月1日時点で日本に居住していて前年に所得がある人です。
よって、1月1日の時点で海外赴任している場合、住民税は課税されません。反対に、1月1日の時点で既に帰国していたり、出国していなかったりして日本にいる場合は課税対象となります。
たとえば、2024年の4月から2025年の10月まで海外赴任する場合、2025年1月1日時点で日本に住所がないため、2025年の海外赴任中の住民税は非課税です。
2024年の住民税は、2024年1月1日時点で日本に住所があるため課税されます。
海外赴任が1年未満の場合
海外赴任の期間が1年未満の場合は日本に居住があると判断されます。従って、1月1日の時点で海外赴任中でも住民税が課税されるため、間違えないように注意してください。
なお海外では、滞在期間が6ヶ月以上になると居住者扱いとなる国があります。もし6ヶ月〜1年未満の海外赴任をすると、日本と海外赴任先の国で二重課税となる可能性があります。
二重課税になりそうな場合は「短期滞在者免税」という免税措置を適用可能です。出国日・帰国日どちらも含めて183日以上滞在した人が対象で、海外赴任先の税金が免除されます。ただし、日本と租税条約を締結した国に限ります。
住民税の天引きを停止・再開するタイミング
従業員が海外赴任した際に、住民税の天引きを停止・再開するタイミングを解説します。
仮に2024年4月1日に出国し2025年10月1日に帰国した場合、住民税の扱いは以下のようになります。
2024年1月1日 | 日本に住所があるため、住民税を徴収することが確定 |
2024年4月1日 | 出国 |
2024年6月から | 2023年の所得に基づく2024年分の住民税を天引き |
2025年1月1日 | 海外赴任中で日本に住所がないため、住民税の課税対象とならないことが確定 |
2025年6月から | 住民税が発生しないため天引きなし |
2025年10月1日 | 帰国 |
2026年1月1日 | 日本に住所があるため、帰国以降の所得に基づく2026年分の住民税を徴収することが確定 |
2026年6月から | 2025年10月〜12月の所得に基づく2026年分の住民税を天引き |
海外赴任をした場合の住民税の取り扱いは、上記のようになります。また、2027年からは例年通り、前年の所得に応じて住民税を特別徴収してください。
海外赴任する従業員に扶養している配偶者がいる場合はどうなる?
海外赴任する従業員に扶養している配偶者がいる場合、単身赴任か家族帯同かによって扱いが変わります。
単身赴任しているケースだと、扶養する配偶者や家族が住んでいるマイホームについて均等割(家屋敷課税といいます)が発生するため、引き続き特別徴収する必要があります。家族が1月1日時点で日本に居住している場合に、前年の所得に関わらず一定額の均等割が課税されるためです。
家族帯同のケースだと、1月1日時点で日本に住所がないため家屋敷税も非課税となります。
なお均等割の徴収方法には、以下の3つの選択肢があります。
- 通常通り特別徴収する
- 出国前に一括徴収する
- 従業員本人が自ら納税する
出国前にどのような方法で均等割分を徴収するか、本人に確認しておいてください。
従業員が海外赴任する場合に必要な手続き
従業員が海外赴任する際に必要な手続きについて解説します。
国外転出届の提出
海外赴任を1年以上する場合は、従業員本人もしくは同一世帯の家族が「国外転出届」を市区町村に提出する必要があります。転出届を提出することで、住民票が抜かれて住民税が非課税となります。
国外転出届を提出できるのは、出国日の14日前〜当日までです。地域によっては、出国後14日以内でも提出できる場合がありますが、会社の担当者は早めに提出するよう伝えておきましょう。
また提出する際は、マイナンバーカードが必要です。同一世帯の家族が代わりに手続きするときは、委任状も併せて提出しなければなりません。委任状は市区町村の公式ページからダウンロードできます。
なお、海外赴任が1年未満の場合は、住民税が例年通り1年分課税されるため提出する必要はありません。
参考:転出届 (国外へ引越しするとき)|練馬区公式ホームページ
納税管理人の申告
納税通知書を本人の代わりに受け取って住民税を納める場合、納税管理人の申告をする必要があります。また、本人に扶養家族がいて、均等割分を扶養家族が納める場合にも申告が必要です。
出国の10日前までに「納税管理人申告書」を市区町村へ提出してください。ただし、例年のように給与から住民税を特別徴収する場合は提出不要です。
納税管理人として、親族のほか友人を指定できます。また、勤務先の会社やその他の法人を指定しても問題ありません。
参考:国外へ転出されるかたの手続きについて(納税管理人の選任)|豊島区公式ホームページ
海外赴任中の所得税や社会保険料について
海外赴任した場合の所得税や社会保険料の扱いについては、以下のようになります。
所得税 | 一部の場合のみ、海外赴任中でも所得税を納付する |
---|---|
厚生年金保険料 | 海外赴任中でも変わらず徴収する |
健康保険料 | 海外赴任中でも変わらず徴収する |
介護保険料 | 海外赴任が1年以上の場合は徴収しない |
それぞれの税金や保険料について、詳しく解説します。
所得税
以下のいずれかに該当する場合は、海外赴任中でも所得税を納める必要があります。
- 他社で収入がある、もしくはフリーランスとしての収入がある場合
- 国内の資産を運用・保有して所得を得た場合
- 国内の資産を譲渡して所得を得た場合
- 国内の不動産を貸し付けて対価を得た場合
会社側が所得税を徴収するのではなく、確定申告をして所得税を納めなければなりません。
ただ本人は確定申告ができないため、前述の納税管理人の申告をして代行者に依頼する必要があります。「e-Tax」も日本に居住している人しか利用できないため、必ず「納税管理人申告書」を出国前に提出してください。
厚生年金保険料
厚生年金保険料は、海外赴任中も徴収する必要があります。通常通り、給与から厚生年金保険料を差し引いてください。
また、海外赴任先の国でも、社会保障制度に加入しなければならない可能性があります。
ただ、社会保障協定が締結されている国であれば、各種申請書の提出によって該当国の社会保障制度への加入が免除されます。詳しくは、日本年金機構の「申請・届出様式(社会保障協定)」をご確認ください。
もし社会保障協定が締結されていない国で働く場合は、該当国の社会保障制度にも加入しなければならない場合があります。
参考:海外へ転勤または転職するときの手続き/海外から帰国したときの手続き|日本年金機構
健康保険料
健康保険料も同様に、海外赴任中も徴収する必要があります。
ただ、海外だと健康保険証は使用できません。よって、病院にかかる際はそのまま診療してもらい、帰国後に全国保険健康協会へ申請書を提出してください。
申請書を提出して審査に通った場合に、海外療養費が支給されます。海外療養費は、日本国内の医療機関で同じ病気や怪我を治療したときの治療費を基準に計算されます。
なお、日本で保険適用されない治療は対象外です。支給対象は、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限ります。
参考:海外で急な病気にかかって治療を受けたとき(海外療養費)|全国保険健康協会
介護保険料
介護保険料は、海外赴任が1年以上の場合は徴収する必要がありません。介護保険は日本に住所がある人のみ加入する制度であるためです。
出国時に、介護保険から外れる手続きをしてください。海外赴任する従業員が「介護保険適用除外等該当・非該当届」を会社の担当者に提出し、届出を受け取った担当者が所轄の年金事務所へ郵送もしくは電子申請します。
帰国時も、同じ届出を作成し同様の手順で所轄の年金事務所へ提出してください。
なお、海外赴任が1年未満の場合は、住民票を抜かず日本に住所が残り続けるため、介護保険料も変わらず徴収する必要があります。
参考:介護保険の被保険者から外れるまたは被保険者になるための手続き|日本年金機構
住民税の基本ルールを把握し、海外赴任中の従業員からも適切な税額を徴収しましょう
海外赴任中でも、日本に居住していた時期によっては住民税を徴収する必要があります。
ただ、出国前に日本にいた期間や従業員の所得によって、住民税の額や天引きする期間が異なるため十分に注意しましょう。前年の所得がいくらであるのか、何ヶ月分の給与から天引きするのかなどを、従業員ごとに把握することが重要です。
過不足なく住民税を徴収し、期限を守って納付してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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