• 更新日 : 2025年4月7日

従業員貸付制度は信用情報に影響する?理由や利用するデメリットなども解説

従業員貸付制度は、従業員が急な出費や生活費の確保を目的に会社から有利な条件でお金を借りられる制度です。一方、制度の利用にあたって気になるのが、自分の信用情報への影響でしょう。この記事では、従業員貸付制度が個人の信用情報にどのように影響するのかを詳しく解説するとともに、制度のメリットや注意点、企業側が気をつけるべきポイントについても分かりやすくまとめています。

従業員貸付制度の利用が信用情報に与える影響

従業員貸付制度を利用した場合、その利用履歴が個人の信用情報機関に登録されたり、照会されたりすることは原則としてありません。これは、従業員貸付制度が会社内部の福利厚生として完結する仕組みであり、金融機関など外部との情報共有が行われないためです。

企業は通常、金融業を主たる業務としていないため、信用情報機関との間に情報の登録・提供手段を持ちません。また、従業員貸付は貸金業法上の「貸金業」に該当しないため、法律上も信用情報機関を利用する義務がありません。そのため、一般的な銀行や消費者金融の融資とは性質が異なり、従業員貸付の利用が直接信用情報に影響することはほぼありません。

しかし、信用情報に影響がないからといって返済を軽視してよいという意味ではありません。返済が滞ると社内評価が下がる恐れがあり、会社からの信頼を失うことにつながります。場合によっては、返済遅延を理由に会社から一括返済を要求される可能性や、就業規則にもとづいて懲戒処分の対象となるケースも考えられます。信用情報機関への影響はないとしても、会社内部での信用を損なうことによって昇進や人事評価など、その後の職業生活にさまざまな不利益を及ぼす可能性があるため注意が必要です。

従業員貸付制度とは

そもそも従業員貸付制度とは、企業が福利厚生の一環として、自社で働く従業員に対して資金を貸し付ける制度のことです。従業員が生活上の急な出費や特別な支出を必要とする場合に、会社が低金利もしくは無利息など、比較的有利な条件でお金を貸す仕組みです。

この制度の特徴として、通常の金融機関(銀行や消費者金融など)から融資を受ける場合よりも、低い利息で借り入れできることが挙げられます。従業員にとっては利息負担を軽減でき、企業にとっては従業員の経済的負担を軽くすることで、モチベーション向上や離職防止、人材定着につなげる効果があります。

ただし、この制度は法律による義務ではなく、企業の任意で導入されます。そのため、資金的な余裕のある大企業を中心に導入される傾向があります。

従業員貸付制度の目的

従業員貸付制度の主な目的は、従業員が経済的に困ったときの支援を行い、生活の安定を図ることです。

例えば、病気や事故、冠婚葬祭、子どもの教育費など急な出費が必要になった場合に、従業員が銀行や消費者金融など高金利の金融機関に頼らず、会社から有利な条件で資金調達できるよう支援することが主な狙いです。

さらに、この制度を通じて従業員が経済的な心配を解消することは、会社への忠誠心や仕事への集中力向上にもつながります。結果として、企業にとっては人材の定着、従業員の満足度向上という効果が期待できます。

また、従業員が金銭的問題から多重債務に陥ることや、深刻な経済トラブルを未然に防ぐという役割もあります。従業員の経済的安定は企業のブランド価値や競争力の強化にも寄与するでしょう。

従業員貸付制度の利用条件

従業員貸付制度の利用条件は企業ごとに定められていますが、一定の共通点があります。

一般的に対象は正社員に限られ、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなどは対象外となることが多いです。これは、正社員に比べて非正規雇用の従業員は離職率が高く、貸し倒れリスクが高いと企業が判断するためです。

また、多くの企業では一定期間以上の勤続年数が条件となり、勤続年数が長いほど貸付限度額が高くなる傾向があります。利用目的も制限される場合があり、生活に密接した合理的な理由(医療費や教育費、結婚費用、災害時の費用など)に限定され、ギャンブルや遊興費には認められないケースが一般的です。

さらに、連帯保証人が必要となる場合もあります。社内で審査を実施し、勤務態度や勤続年数、借入理由などを総合的に判断して貸付の可否を決定します。

従業員貸付制度と給与前払い制度の違い

従業員貸付制度と混同されがちな制度に「給与前払い制度」がありますが、両者には明確な違いがあります。

従業員貸付制度は会社が従業員に対して金銭を貸す仕組みであり、借りた従業員には返済義務が生じます。貸し付けの際に利息が設定されることも多く、借り入れの条件や目的が企業側から定められている場合が一般的です。

一方、給与前払い制度は従業員がすでに働いている分の給与を本来の支給日より前に受け取れる仕組みです。これは借り入れではなく、あくまで給与の一部を前倒しで支払うため、返済の義務や利息は発生しません。

また、給与前払いは労働基準法に定められた労働者の権利であるのに対し、従業員貸付制度は法的には義務づけられていない法定外の福利厚生という違いもあります。このように、両制度は制度の根拠や目的、返済義務の有無が大きく異なります。

信用情報とは

信用情報とは、個人が契約したクレジットカードやローンなどの金融取引の履歴を記録した情報です。この情報には、契約の内容や支払い状況、返済の遅延・延滞の有無など、客観的な事実が記録されています。

信用情報は、個人の経済的な信用力を示す指標として、金融機関がローンやクレジットカードの審査を行う際の重要な判断材料として利用されます。信用情報には個人の人種、思想、保健医療、犯罪歴などの機微な個人情報は含まれず、あくまでもお金に関連した取引履歴のみが対象となります。そのため、信用情報は個人の「お金に関する履歴書」と表現されることもあります。

信用情報に含まれる主な情報

信用情報に含まれる情報には、本人を特定するための氏名、生年月日、住所などの基本情報があります。また、クレジットカードやローンの契約内容として、契約日、契約金額、利用限度額、借入残高なども記録されます。

さらに、毎月の返済状況や支払い遅延・延滞の有無、完済日などの支払状況に関する情報も含まれています。そのほかにも、携帯電話本体の分割払い契約の状況や、過去のローン・クレジットカードの申し込み履歴なども信用情報として登録されています。

日本の信用情報機関

日本には、主に3つの信用情報機関があります。

  • 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
    主にクレジットカード会社や消費者金融が加盟しており、カード利用やカードローンの履歴が豊富に登録されています。
  • 株式会社日本信用情報機構(JICC)
    JICCには主に消費者金融や貸金業者が加盟しており、キャッシングや消費者金融を利用した際の情報が多く登録されています。
  • 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
    KSCには主に銀行や信用金庫などが加盟しており、住宅ローンや銀行系カードローンに関する信用情報が登録されています。

これら3つの信用情報機関は、貸付の過剰防止や適切な融資判断のために、一部の情報を共有しています。

信用情報の確認方法

自分自身の信用情報は、各信用情報機関(CIC、JICC、KSC)に対して本人が開示請求を行うことで確認することが可能です。信用情報機関のウェブサイトを利用してオンラインで簡単に開示請求ができます。また、郵送による開示請求も可能です。

定期的に自身の信用情報を確認することで、登録内容に誤りがないか、身に覚えのない取引や契約がないかを確認することができます。もし情報に誤りや不正な内容を発見した場合は、信用情報機関に対して訂正を求めることが可能です。

信用情報の重要性

信用情報は、私たちが日常生活や将来のライフプランを立てる際に極めて重要です。例えば住宅ローンや自動車ローン、教育ローンなどを申し込む際、金融機関は必ず信用情報を参照し、その個人に十分な返済能力があるかどうかを判断します。

また、クレジットカードの発行や更新時にも、信用情報が審査で重要な役割を果たします。さらに最近では、賃貸住宅の契約時に信用情報を確認する管理会社やオーナーも増えています。一部の企業では、採用時の参考情報として信用情報を確認するケースもありますが、これは個人のプライバシーに深く関わるため、慎重な取り扱いが必要です。

このように、信用情報は個人の信用力を評価し、融資の可否、融資金額や金利の決定において不可欠な情報となっています。

従業員貸付制度を利用する際に注意すべき点

従業員貸付制度を利用する際に注意すべき点は、以下の通りです。

利用条件の確認

従業員貸付制度を利用する前に、自社の制度における利用資格(勤続年数、雇用形態)、貸付金額の上限、適用される金利、返済期間、資金の使途制限などを必ず確認することが重要です。これらの条件を正確に把握し、自分が制度を利用できるか、また希望する用途に合っているかを事前に理解しておく必要があります。

他の借入手段との比較検討

従業員貸付制度を利用する前に、銀行ローン、カードローン、給与前払い制度など他の資金調達手段との比較検討を行うことも重要です。それぞれの方法における金利、審査基準、信用情報への影響などを十分に検討し、自分の状況や目的に最も合った方法を選択することが望まれます。

メリット・デメリットの再確認

従業員貸付制度のメリットである低金利や信用情報への影響がない点を確認した上で、借り入れの事実が同僚に知られる可能性や、退職時に一括返済が求められるといったデメリットも理解しておく必要があります。双方の側面を考慮し、制度の利用が自身にとって最善であるかどうかを慎重に検討することが求められます。

借入理由の明確化

貸付を申請する際は、借入理由を正直かつ正確に伝えることが重要です。虚偽の理由で申請した場合、社内規定違反となり、貸付金の即時返済や懲戒処分の対象となる恐れがあります。申請に必要な書類(申請書、見積書領収書など)についても、事前に不備がないよう十分な準備を行うことが必要です。また、自身の収入と支出を踏まえて無理のない返済計画を立てることが重要です。

返済期限の遵守

貸付を受けた金銭は、必ず決められた返済期限までに返済するよう努める必要があります。返済遅延が生じると、会社からの信頼を損なうだけでなく、遅延損害金が発生する可能性もあります。転職や退職を検討する場合は、早めに会社へ返済方法を相談し、問題を未然に防ぐことが大切です。また、返済が困難になった場合は速やかに会社に相談することが求められます。

従業員貸付制度を導入する企業が注意すべき点

従業員貸付制度を導入する企業が注意すべき点は、以下の通りです。

制度内容の明確化

従業員貸付制度を導入する際は、制度の目的、利用対象者、貸付限度額、貸付金利、返済方法、資金使途などを明確に規定化することが重要です。規定を明確に定めることで、制度の公平性や透明性が保たれ、トラブルや不公平感を防止することができます。また、制度の内容は就業規則に記載し、従業員に周知徹底する必要があります。

給与天引きによる返済を行う場合には、労働基準法にもとづいて、労使協定の締結や従業員本人の同意が必要です。法令に則った手続きを必ず踏むように注意が必要です。

適正な貸付利率の設定

従業員貸付制度の税務上の注意点として、無利息または市場金利よりも低い利率で従業員に貸し付けた場合、その経済的利益が給与として扱われ、所得税の課税対象となることがあります。国税庁の見解によれば、無利息の貸付や市場金利より低利の貸付が長期間にわたる場合、特に経済的利益が著しいと認められた場合には、給与とみなされて課税される可能性があるため注意が必要です。

したがって、制度を導入する際は適正な貸付利率を設定し、特に役員に対する貸付については法人税や所得税の観点から慎重な対応が求められます。

公平かつ透明性の高い運用

従業員貸付制度を適切に運用するためには、公平かつ透明性の高い審査基準を設けることが大切です。貸付の審査では従業員の勤続年数、勤務態度、返済能力などを適切に評価し、個々の事情に応じて柔軟な返済計画を立てることが望まれます。

返済が困難になった従業員への相談窓口を設けたり、状況に応じた返済条件の見直しを行ったりするなど、従業員を支援する仕組みを整えることも重要です。借入理由や個人情報については厳重に管理し、プライバシーの保護を徹底することが必要です。また、定期的に従業員の意見やフィードバックを収集し、制度の改善に反映することも、制度運営を円滑にするために効果的です。

従業員の信用情報の管理

企業は、従業員が貸付制度を利用したかどうかを理由に、人事評価を不利に扱うことは避けなければなりません。従業員貸付制度は福利厚生として従業員の経済的な支援を目的としているため、制度利用の有無や借入状況を評価基準に含めることは適切ではありません。

また、返済遅延が発生した場合であっても、企業が従業員の信用情報を独自に調査したり、信用情報機関に情報提供をしたりすることは、個人情報保護法に違反する恐れがあります。借入状況に対して過度な詮索や、第三者への情報開示も厳に慎むべきです。

従業員貸付制度に関してよくある質問

最後に、従業員貸付制度に関してよくある質問とその回答をまとめました。

従業員貸付制度を利用すると、クレジットカードの審査に影響しますか?

従業員貸付制度を利用した場合でも、原則としてクレジットカードの審査に影響はありません。これは、従業員貸付制度の利用履歴が信用情報機関に登録されないためです。そのため、他の金融機関が制度の利用状況を知ることはなく、直接的にクレジットカードの審査に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。

従業員貸付制度の返済が遅れると、ブラックリストに載りますか?

従業員貸付制度で返済が遅れた場合でも、信用情報機関が管理するブラックリストに登録されることはありません。これは、制度の貸し借りが会社内で完結しているためです。ただし、返済遅延は会社内での信用を失う原因となることや、返済遅延を理由に会社から一括返済を求められることがあります。社内的な影響には注意が必要です。

退職時に従業員貸付の残高があると、信用情報に影響しますか?

退職時に従業員貸付制度の借入残高が残っている場合でも、その事実が信用情報機関に直接的に登録されることはありません。ただし、退職に伴い会社から借入残高の一括返済を求められ、それが滞った場合には会社との間で法的トラブルになる可能性があります。また、退職金から未返済の借入残高が相殺されるケースもあります。信用情報への影響はないものの、会社との関係や金銭的トラブルに注意が必要です。

従業員貸付制度は慎重に利用しましょう

従業員貸付制度は、個人の信用情報には原則として影響を与えません。ただし、返済が遅れると社内での信用低下を招くため注意が必要です。利用前には制度の目的や条件、他の借入方法との違いを十分に理解し、計画的な返済を心がけることが重要です。また、企業側も制度の運用を公平かつ明確に行うことで、従業員の安心感や信頼を高めることができます。


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