- 更新日 : 2025年3月31日
労働基準法第26条とは?休業手当についてわかりやすく解説!
労働基準法第26条は、「休業手当」に関する規定です。企業が労働者に対して業務をさせられない場合でも、一定の条件のもとで賃金の支払いを求める内容が定められています。
企業の人事・法務担当者にとって、休業手当の知識は有事の備えとして不可欠です。不況や災害、パンデミックなど、いつ会社都合の休業に直面するかわかりません。そんな時に適法かつスムーズな対応ができるよう、本記事の内容を参考に社内ルールや体制を整えておきましょう。
目次
労働基準法第26条とは?休業手当の基本規定
「労働基準法第26条」は、企業の都合で従業員を休業させた場合に支払うべき「休業手当」について定めた条文です。 労働基準法第26条の条文を見てみると、以下のように規定されています。
労働基準法第26条(休業手当)
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
簡単に言えば、会社の責任によって従業員を休業させた場合は、休業中も平均賃金の60%以上の賃金(休業手当)を支払わなければならないということです。
これは従業員の生活を保障するための最低ラインであり、会社は60%を下回らない限りで金額を定めることができます(60%を超える手当を支給することはもちろん可能です)。
例えば労使協定や会社の方針で「休業中も基本給の〇割を支給」といった取り決めがあれば、その割合が60%を上回る限り労基法26条違反にはなりません。
休業手当の基本概要
「休業手当」とは、先述の通り使用者(会社)の責めによる休業の際に支払われる手当のことです。通常、雇用契約では「ノーワーク・ノーペイの原則」(労務を提供しなければ賃金は発生しない)が適用されます。
例えば従業員が自分の都合で欠勤した場合、その日数分の給与は支払われないのが原則です。
しかし、会社都合で仕事を休ませた場合にまでノーワーク・ノーペイを貫くと、労働者の生活が成り立たなくなります。そこで労基法26条により、会社側に原因がある休業では最低でも平均賃金の6割を支給し、労働者の基本的な生活を保障しようという趣旨になっています。
休業手当と「休業補償」の違い
名称が似ていますが「休業補償」は業務上の負傷や疾病で働けない場合の補償であり、労基法第76条に基づくものです。休業補償は、非課税扱いになります。
一方で休業手当(労基法26条)は会社都合の休業に対する賃金保障で、給与所得として課税対象です。混同しないよう注意しましょう。
労働基準法第26条の適用範囲
では、どのような場合に労基法26条による休業手当支給義務が発生するのでしょうか。キーワードは条文にある「使用者の責に帰すべき事由による休業」です。
これは「会社の責任による休業」と言い換えられますが、実務上は非常に広い範囲の原因が該当します。天災などの不可抗力以外で会社が従業員を休業させた場合は、ほとんどすべて「使用者の責による休業」に当たると考えておくべきです。
以下に典型的なケースを挙げます。
- 経営上の都合・不振:仕事がない、製品が売れない、資金繰りが悪化した等の経営不振による休業
- 計画・手配ミス:業務上の手違い・過失(発注ミス、ダブルブッキング等)によって仕事をさせられない場合
- 資材・原料の不足:原材料の欠乏や仕入れ先のトラブルによる休業
- 設備トラブル:会社の設備故障や機械不備・事故などによる休業
- 人員不足:従業員の配置計画ミス等で必要な人員が確保できず業務ができない場合
- 親会社・取引先の事情:親会社の経営難や主要取引先のトラブルにより操業できない場合
- 行政からの要請等:監督官庁からの勧告や自治体からの休業要請に従って休業する場合(法的強制力がない「要請」であれば、それによる休業も会社の判断によるものと評価され、休業手当の支払い義務が生じます)。
以上のように、災害などの例外的事由を除き、会社の判断・事情で従業員を休ませるケースは基本的にすべて労基法26条の休業手当支給対象と考えてよいでしょう。
また「休業」と聞くと一日丸ごとの休みを想像しがちですが、所定労働日の一部時間だけ業務を中止する場合(半日休業や時間短縮営業など)も労基法26条の「休業」に含まれます。たとえば急な設備故障で午後の業務を取りやめた場合なども、その午後分は休業手当支給の対象となります。
労働基準法第26条の適用除外
適用除外となるケース(休業手当の支払い義務が発生しないケース)も押さえておきましょう。代表的なのは条文の但し書き的な扱いの「不可抗力による休業」です。
不可抗力とは「事業の外部に原因があり、使用者が予見できず避けられない事態」を指し、典型的な例は地震・台風などの天災事変です。このような自然災害や大事故によって事業の継続が不可能になった場合、会社に責めを帰すことはできないため、休業手当支払い義務も発生しません。
例えば「大型台風で工場が水没し1週間操業不能」といったケースでは法的には休業手当は不要となります。
もっとも、どこまでが「不可抗力」に当たるかは状況によります。災害が予見可能で事前対策を講じ得た場合(例:事前予報を理由に休業させたが実際には被害軽微だった場合など)は、休業の原因が純粋な自然災害とは言い切れず、会社都合と評価される可能性もあります。
また労働者側に原因がある場合も休業手当の対象外です。例えば従業員が自らの病気・ケガで出勤できない場合や、労働組合のストライキによって会社が休業を余儀なくされた場合など、「使用者の責めに帰すべき事由」に当たらない休業には休業手当は不要とされています。
最高裁判例でも部分ストライキに対応した会社の休業措置について「使用者の責に帰すべき事由によるものとはいえない」と判断された例があります。つまり、労働争議など労働者側の行為が直接の原因で業務停止した場合は、会社に休業手当支払い義務はありません。
労基法の適用範囲外の働き方にも注意が必要
さらに労基法の適用範囲外の働き方にも注意が必要です。労基法26条はあくまで労働者と使用者の間の「雇用契約」に基づく賃金支払いについての規定です。そのため、役員や個人事業主など労基法上の労働者に該当しない人には適用されません。
例えばフリーランスや業務委託契約の委託先などは労基法26条の保護対象ではなく、休業手当は法的に発生しません。
また派遣労働者の場合、休業手当の支払義務があるのは派遣先企業ではなく雇用主である派遣元企業です。派遣先で業務がストップした場合でも、派遣社員と直接の雇用契約関係にある派遣元会社が休業手当を支払う責任を負います。
休業手当の計算方法
休業手当を算定するには、まず「平均賃金」を計算する必要があります。
平均賃金とは労基法で定められた計算上の賃金単価で、単なる基本給額ではない点に注意してください。
労基法上の平均賃金は、「その事由の発生した日(今回の場合休業開始日)以前3か月間に支払われた賃金総額」を「その期間の総日数(暦日数)」で割って求めます。式で表すと次の通りです。
算定事由発生日以前3か月間に支払われた賃金総額 ÷ 3か月間の総日数(暦日数)
「賃金総額」には、基本給だけでなく残業代や各種手当(通勤手当・住宅手当など)も含みます(ただし結婚祝い金など臨時的なものや、3か月超の期間ごとに支払われる賞与などは除外)。
また平均賃金には最低保障もあり、日給制や出来高制の場合などで上記計算結果が低額になるときは「3か月の賃金総額÷3か月の実労働日数」で計算した金額の60%相当額を下回らないよう補正されます。
労基法施行規則で細かい定めがありますが、簡単に言えば平均賃金は算定事由発生日以前3か月の賃金水準を日割りした額であり、低すぎる場合は一定の底上げがされるということです。
以上を踏まえ、休業手当は「平均賃金 × 60% × 休業日数」で算出します。
休業日数とは、会社都合で休業させた所定労働日数のことです。例えば平均賃金が1日あたり1万円の労働者を5日間休業させた場合、休業手当は最低でも「1万円×60%×5日=3万円」となります。
逆に言えば、5日間すべて休業させた場合でも3万円(=平均賃金の6割×5日)以上は支払わなければならないということです。
なお休業が休日に重なった場合、その休日分は休業手当支払い日数には含めません(もともと労務提供義務のない日だからです)。
また休業手当は法律上「賃金」の一部ですので、支給時期についても通常の給与と同様に毎月一定期日までに支払う必要があります(タイミングとしては通常、休業期間が属する給与支払日に合わせて支給するケースが多いです)。
人事担当者としては、自社の平均賃金がいくらになるかをあらかじめ把握しておくことが重要です。特に給与体系が複雑な場合(歩合給や出来高給を含む場合など)は平均賃金の算定方法にも注意が必要です。
不明な場合は給与計算システムや労務管理システムで自動計算させたり、所轄の労働基準監督署に相談したりするとよいでしょう。
労働基準法第26条|適法な休業と違法な休業の違い
労基法26条に照らして、会社の休業命令が「適法」か「違法」かを判断するポイントを整理します。基本的に、前述の休業手当支給が必要なケースで支払義務を怠れば違法となります。
会社に支払い義務なしの適法な休業
休業の原因が会社に無く、不可抗力に該当する場合や労働者側の事情による場合。例えば大地震で会社施設が被災し営業不能となった場合や、従業員が私的理由で出勤できない場合、また従業員のストライキで業務停止した場合などは、会社に休業手当支払い義務は発生しません。
これらは労基法26条の適用外なので、賃金不払として違法にはなりません(ノーワークノーペイの原則がそのまま適用されます)。
会社に支払い義務ありの適法な休業
休業の原因が会社にあり、本来休業手当を支払うべきケースで、会社が法定通り休業手当(平均賃金の60%以上)を支給している場合。例えば業績不振で1週間休業した際に、平均賃金の6割相当額をきちんと支払ったようなケースです。この場合は労基法26条の義務を履行しているので問題ありません。
休業手当を支給する以上、その休業自体が違法とされることは基本的にありません。
違法な休業
休業手当の支払い義務があるにもかかわらず、会社がそれを支給しない場合、または60%を下回る金額しか払わない場合です。例えば「会社都合の休業なのに休業手当を全く払わない」「平均賃金の半分程度しか保障していない」などは明確に労基法違反となります。
違法な休業手当不払いが発覚した場合、労働基準監督署から是正勧告を受け、未払い分の支払いを命じられるだけでなく、罰則の対象にもなり得ます。労基法は労働者保護のための強行法規ですから、たとえ労使間で「休業中は無給でいい」という合意があっても、それが60%未満であれば無効です。
労働基準法第26条に違反したらどうなる?
では、労基法26条違反となった場合に会社はどのようなリスクを負うのでしょうか。まず民事的には、未払いとなった休業手当を労働者から請求されれば支払わなければなりませんし、裁判になれば未払い額と同額の付加金支払いを命じられる可能性があります。
労働基準法第114条では、労基法26条違反等の未払賃金について、裁判所が労働者の請求により未払い額と同額の付加金支払いを命じられると定めています。
つまり訴訟になれば未払い分の倍額を支払うリスクがあります。また労基法違反自体に対しても、労基法第119条により30万円以下の罰金が科される可能性があります(実際には是正勧告に従って支払えば刑事訴追までは稀ですが、法的には罰則規定が存在します)。
「使用者の責に帰すべき事由」の範囲
さらに、人事労務担当者として覚えておきたいのは、「使用者の責に帰すべき事由」の範囲が非常に広いという点です。例えば新型コロナウイルス感染拡大に伴う行政からの休業要請に応じて休業した場合、企業側としては「政府・自治体に休業させられた」と感じるかもしれません。
しかし法的には前述の通りそれ自体は不可抗力とは見なされず、会社都合の休業と扱われます。
このように自社ではコントロールできない外的要因に思えても、法律上は会社の経営上の判断による休業と評価されるケースも多々あります。安易な自己判断で「これはうちの責任じゃないから手当不要」と決めつけると、実は労基法違反だったということになりかねません。グレーな場合は専門家に相談するなど慎重に対応しましょう。
労働基準法第26条|休業手当をめぐるトラブル事例
労基法26条に関するトラブルは、中小企業から大企業まで現実に起こり得ます。ここでは典型的なトラブル例とその解説を紹介します。
ケース1:業績悪化による一時帰休と休業手当未払い
【事例】
「不況で仕事がないので、しばらく休んでくれ」と会社から命じられ、自宅待機したがその期間の賃金が支払われなかった。従業員としては突然収入が途絶え困ってしまった。
【解説】
これは明確に労基法26条違反です。景気や業績の悪化は会社の経営上の問題であり、使用者側の責任による休業に該当します。
したがって休業期間中は少なくとも平均賃金の60%以上の手当を支給しなければなりません。本事例のように休業手当を一切支給しないのは違法であり、従業員から申告を受けた労基署が是正勧告を行ったり、未払い賃金の支払いを求められたりする可能性があります。会社としては経営が苦しく人件費を削りたい事情があっても、労働者の最低生活保障は法で守られている点に留意が必要です。
ケース2:部品供給トラブルによる操業短縮と手当不足
【事例】
親会社からの部品調達が滞り、3日間にわたり午前中のみ操業・午後は休業とした。しかし給与は平常の半分しか支払われず、従業員から不満の声が上がった。
【解説】
このケースでは午後の休業も会社都合(部品不足は企業の管理上の問題)なので、本来休業手当の支給対象です。午前中働いて午後休んだ場合、午前中の労働分の賃金は支払われていますが、午後の休業分について平均賃金の60%以上を支払う義務があります。
平常の給与の「半分」しか払われなかったということは、午後の休業分が実質無給(0%)だったことを意味します。これは午後の休業部分について60%未満しか支払われておらず違法です。適法にするには、午後休業分について平均賃金の6割相当を上乗せ支給し、結果として通常日給の約80%程度(午前勤務分50%+午後休業手当30%=80%)の賃金を支払う必要がありました。
従業員からすれば半日働いているのに日給の半分しかもらえないのは納得できませんし、法律上も会社側に支払い義務があるため、早急に不足分を補填する必要があります。
ケース3:自然災害による休業と賃金補償
【事例】
大型台風で工場が壊滅的被害を受け、1か月間操業停止となった。この間の給料は支払われるのかと従業員が不安に思っている。
【解説】
このケースは不可抗力による休業に該当します。労基法26条の適用条件(使用者の責めによる休業)に当てはまらないため、法的には休業手当を支払う義務はありません。1か月間賃金ゼロとなっても労基法違反ではないということです。ただし、従業員の立場からすれば収入が途絶える深刻な事態です。そのため、多くの企業ではこうした不可抗力休業時に独自の支援策を講じています。例えば、会社が見舞金や特別手当を支給したり、従業員が有給休暇を積極的に取得できるよう配慮したりするケースがあります。
法的義務はなくとも、従業員の生活支援・士気の維持の観点から何らかのフォローを検討することが望ましいでしょう。
ケース4:新型コロナウイルスによる休業と未払問題
【事例】
新型コロナ感染拡大期に、都道府県知事からの休業要請を受けて飲食店が休業した。しかし事業主は「行政に休業させられたのだから仕方ない」と休業期間中の賃金を一切支払わなかった。従業員は生活に困り、労働相談窓口に駆け込んだ。
【解説】
2020年前後の緊急事態宣言下で多く見られたケースです。この場合、休業要請自体には法的強制力がなく、休業するかは最終的に企業の判断です。したがって法的には「使用者の責による休業」と評価され、休業手当の支払い義務が生じます。コロナ禍で経営が苦しくとも、従業員を一方的に無給休業させることはできません。
厚生労働省も「感染症拡大により事業を休止せざるを得ない場合であっても、労使で十分話し合い、休業中の手当の水準等について労働者の生活に配慮するよう」企業に呼びかけています。本件では休業手当未払いは労基法違反となり、行政指導の対象となります。
なお中小企業で資金繰りが厳しい場合、後述する「雇用調整助成金」等の公的支援制度を活用してでも休業手当を支給することが重要です。万一休業手当を受け取ることができない場合、休業開始前賃金の8割を受け取れる「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」制度も創設されました。
いずれにせよ、会社都合の休業で無給は許されないという原則を踏まえましょう。
労働基準法第26条|企業の実務対応のポイント
以上のようなトラブルを未然に防ぎ、適法に対応するために、人事労務担当者が押さえておくべき実務上のポイントをまとめます。
原因の見極めと判断の慎重さ
休業せざるを得ない事態に直面したら、その原因が自社の責によるものか不可抗力かを冷静に判断しましょう。天災など明らかな不可抗力でない限り、「基本的に休業手当の支払い義務が発生する」と考えておくのが安全です。
特に判断が微妙なケース(行政の要請や予防的措置による休業など)は、自社だけで都合良く解釈せず、専門家に相談したり労基署に問い合わせたりすることをおすすめします。
就業規則の整備
会社の就業規則に休業時の扱いを明記しておきましょう。例えば「会社の経営上やむを得ない事由で休業する場合は労基法第26条に基づき休業手当(平均賃金の60%以上)を支給する」等の条項を定めておくと、いざという時の社内対応基準が明確になります。
また、自然災害等で休業せざるを得ない場合の取り扱い(有給休暇の扱いや特別休暇制度の有無など)も規定しておくと従業員の不安軽減につながります。
労使間の十分な協議
休業を実施する際は、事前・事後を問わず労働者とのコミュニケーションが不可欠です。休業の理由や期間、手当支給の有無・水準についてしっかり説明し、従業員の理解を得るよう努めましょう。厚労省も休業時には労使でよく話し合うよう求めています。特に手当の水準については、労働者に一方的に不利益とならないよう配慮が必要です。
労働組合がある企業では、組合とも協議して適切な労使協定を結ぶことが望まれます。
有給休暇の活用
法定の年次有給休暇が残っている従業員については、本人の希望があれば休業期間中に有給休暇を充てることも検討しましょう。従業員にとっては休業手当(6割)より有休取得(賃金100%)の方が収入保障が手厚くなります。
ただし、有給休暇の取得は原則本人の請求によるものです。会社が一方的に「休業期間は有休扱いにする」と指定することはできない点に注意してください(計画年休制度を適用する場合などは別途要件があります。
雇用調整助成金など公的支援の活用
業績悪化や非常事態で休業を余儀なくされる場合、国の雇用調整助成金制度を積極的に活用すべきです。雇用調整助成金とは、経済上の理由で一時的に休業等の雇用調整を行う事業主に対し、休業手当等の一部を国が助成する制度です。
支給を受けるには会社が労働者に平均賃金の60%以上の休業手当を支払っていることが条件となっています。助成額は支払った休業手当総額の一定割合(中小企業で通常3分の2、大企業で2分の1が基本、※経済情勢により変動)で、上限額も定められています。
例えば緊急対応期間(2020~2022年)には助成率が引き上げられ、中小企業の場合休業手当の最大100%(上限15,000円/日)が助成される特例措置も実施されました。
このように公的制度を使えば、会社の持ち出しを大幅に軽減できます。休業手当の支払いは会社の義務ですが、その費用の相当部分を国が補填してくれる制度ですので、該当しそうな場合は管轄のハローワーク等に早めに相談しましょう。
助成金を活用することで違法状態を避けつつ従業員の生活も守れ、会社の負担も和らげることができます。
記録の保管と証拠
休業に至った経緯や理由、従業員とのやり取り、支払った休業手当の額などはしっかり記録を残しましょう。万が一後からトラブルになった場合の証拠になります。特に「不可抗力だから手当不要」と判断した場合、その根拠(災害の状況等)を記録しておくと安心です。
また労働者ごとの休業手当支給額は賃金台帳にも記載し、少なくとも5年間(経過措置期間中は3年)は保管しておく必要があります(労働基準法の改正で2020年4月以降、賃金に係る記録の保存期間が延長されています)。
労働基準法第26条|近年の労働基準法改正の影響
労働基準法第26条そのものに大きな改正は長らくありませんが、周辺の制度変更や社会情勢の変化が実務に影響を与えています。特に押さえておきたいポイントを解説します。
未払い賃金請求期限の延長
2020年の労基法改正により、賃金請求権の時効が原則5年(当面は3年)に延長されました。これは休業手当についても例外ではありません。以前は未払い休業手当があっても2年で時効消滅していましたが、現在は最長5年(当面は3年)まで請求可能です。
そのため、過去の休業手当不足分が長期間にわたり遡って問題となる可能性があります。企業側は賃金台帳等の保管期間も5年(当面は3年)に延びていることに留意し、過去の休業手当計算が適法だったか随時チェックしておくことが重要です。
新型コロナ関連の特例措置
前述のとおり、新型コロナウイルス感染症対応で雇用調整助成金の特例拡充や、中小企業の未払い休業手当救済措置(休業支援金)などが実施されました。これらは一時的な政策措置であり、労基法26条自体の変更ではありません。しかし、企業実務としては「国が休業手当相当額をほぼ全額肩代わりする」ような場面もあったため、普段以上に休業手当の支給を徹底することが求められました。
例えば休業支援金は、休業手当を受け取れなかった労働者が直接申請して平均賃金の80%相当を受給できる制度でした。これは本来企業が支払うべき手当を国が立替える形ですが、裏を返せば「本来企業が支払う義務がある」という前提に立った救済策です。コロナ禍を通じて、改めて休業手当制度の重要性と企業の責任が浮き彫りになったと言えるでしょう。
その他の改正
働き方改革関連法などで労働時間や有給休暇制度の見直しが行われましたが、休業手当に直接影響する改正は行われていません。60%という支給率も戦後から一貫して維持されています。ただ、昨今の物価高やコロナ禍での収入減少などから「60%では不十分ではないか」という議論が生じることもあります。
現時点で法改正の動きはありませんが、将来的に社会状況によっては休業手当制度の見直しが検討される可能性もあります。人事担当者は最新の動向にアンテナを張っておくと良いでしょう。厚労省や都道府県労働局が発信するガイドライン、通達、Q&Aなども定期的にチェックし、最新情報を把握して実務に反映させることが大切です。
労働基準法第26条|裁判例から学ぶ実務ポイント
最後に、休業手当をめぐる主要な裁判例とその示すポイントを確認します。法律の条文だけでなく、実際の判例の蓄積から学ぶことで実務対応のヒントが得られます。
「使用者の責に帰すべき事由」の範囲に関する最高裁判例
昭和62年7月17日の最高裁判決(ノースウエスト航空事件)は、労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」の解釈について重要な判断を示しました。この判例ではまず、労基法26条上の「使用者の責めに帰すべき事由」は民法536条2項の「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由」よりも広い概念であり、使用者側に起因する経営上・管理上の障害を含むとされています。
つまり、会社に故意過失がある場合はもちろん、必ずしも会社の落ち度と言えない経営上の問題であっても、天災などの不可抗力でない限り幅広く「使用者の責」に含まれるということです。
判例は具体例として、仕事がない・売上不振・資材不足・機械故障・人手不足・親会社の経営難等で休業する場合はすべて労基法26条の休業手当支払義務があると列挙しています(前述の通りです)。これは実務的にも「ほとんどの場合会社都合休業なら手当支払い必要」と考えておけば間違いないことを裏付けています。
ストライキによる休業と休業手当免除
上記ノースウエスト航空事件では、労働組合が起こした部分ストライキに会社が対応して休業させたケースについて争われました。その中で最高裁は、労働者側の行為による休業は労基法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」に当たらないと判断しました。
会社に一定の問題があって労組がストをした場合でも、会社が誠意をもって改善案を示したのに労組があくまでストを決行したようなケースでは、その休業は使用者の責によるものと言えないとされたのです。
この判例は、ストライキなど労働者側に原因がある休業については会社は休業手当を払う必要がないことを明確に示しています。実務上も、労働争議による休業日に関して労組側が休業手当を要求してきても、会社側に支払い義務はないといえます。
ただし争議行為か否か微妙な場合(自主的な職場放棄なのか会社指示の待機なのか不明確な場合など)は慎重な対応が必要でしょう。
民法536条2項との関係(賃金全額請求の可否)
労基法26条は平均賃金の60%という最低保障を規定していますが、逆に言えば「60%さえ払えば残り40%は免除される」という趣旨ではありません。この点、多くの判例や通説で指摘されています。
民法536条2項本文では「債権者の責めに帰すべき事由によって債務の履行ができなくなったとき(=会社都合で働けなくなったとき)は、債務者(労働者)は反対給付(賃金)の履行を拒めない」、つまり労働者は賃金全額を請求できると定めています。労基法26条はあくまで強行法規で最低6割を保障したものに過ぎず、労働者の民法上の権利を減じる趣旨ではないとされています。
民法536条2項は任意規定であるため、その適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨を就業規則や労働契約に定めた場合には、休業手当のみを支払えば足ります。しかし、裁判所は、就業規則等による民法536条2項の適用除外について慎重に判断する傾向にあります。
不当解雇が無効となり、その期間の賃金を巡って争いになったような場合には注意が必要です。裁判例(京急横浜自動車事件・東京高判昭和44年12月24日)では、解雇後に労働者が別会社で得た収入と休業手当との関係が問題となり、会社は最低6割の支払い義務がある以上、労働者が得た収入は残り4割分と相殺するに留めるべきとされました。
このように60%というラインは民事上も強い意味を持つため、会社は安易に「6割払えば十分」と考えず、本来は100%支払義務もあり得ることを頭の片隅に置いておくべきです。
言い換えると、60%はあくまで「最低保証」であって上限ではありません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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