- 更新日 : 2024年12月19日
パタハラとは?マタハラとの違いは?企業が対策・対応できること
パタハラ(パタニティハラスメント)とは、育児休業を取得しようとする男性社員に対して行われる嫌がらせ等の行為・言動を指します。古い価値観・風土が残る職場で起こりがちです。
本記事では、パタハラが注目される背景や日本の現状、企業の防止措置義務を紹介します。防止策や発生した場合の対処法も解説しますので、参考にしてください。
目次
パタハラとは
パタハラとは「パタニティー・ハラスメント」の略で、パタニティー(Paternity)は「父性」という意味です。育児休業を取得したり、時短勤務をしたりする男性社員に対し、不利益な扱いや嫌がらせをする行為・言動を指す言葉です。
ここでは、パタハラの具体例やマタハラとの違いを解説します。
パタハラの例
パタハラのよくある例は、育児のために休業や時短勤務を申請する男性社員に対して、申請を許可しない・復職後に仕事を与えないといったハラスメント行為があげられます。
育休制度を利用することで減給や降格などの不利益な処分をする行為や、申請をしようとする男性社員に対し、これらの処分をすると伝えることもパタハラに該当します。
また、「忙しいのに育休をとる社員がいるとは思えない」といった発言をするなど、制度の利用を躊躇させるような言動も、パタハラにあたるといえるでしょう。
パタハラとマタハラの違い
マタハラとは「マタニティー・ハラスメント」の略で、妊娠・出産・育児に関して行われる女性への嫌がらせ行為です。ハラスメントの対象が女性か男性かという点が異なります。
マタハラは、女性の妊娠・出産、育児が業務に支障をきたすことを理由に、上司や同僚が退職を促したり、嫌味を言って追い詰めたりする行為を指します。
パタハラが注目されている背景
パタハラが注目される背景には、価値観の多様化や女性の社会進出があげられます。これまでは主流だった「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という価値観が変化し、共働きの世帯も増えてきました。結婚・出産後も働く女性が増え、夫婦が協力しあって子育てをするという価値観が定着しつつある状況です。
価値観の変化に合わせ、男性も育児のための休業を取得しやすいよう育児休業制度の整備が進んでいます。
しかし「育児は女性が行うもの」という価値観が根強く残っている職場もあり、古くから残る風土を変えることは難しい企業も存在します。男性の育児に対して偏見を持つ社員が一定数存在し、パタハラとなって現れているのが実情です。
日本のパタハラの現状
厚生労働省が公表した令和5年度の「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、過去5年間で育児に関わる制度を利用しようとした男性社員の中で、パタハラを受けたと回答した人の割合は24.1%で、約4人に1人が経験しているという結果です。
パタハラの内容としては、「上司や同僚による制度の利用を阻害する言動や嫌がらせの言動」「業務に従事させないなどの嫌がらせ行為」が多いという結果が出ています。
このような数字からは、上司や同僚が男性の育児参加を快く思っていない・理解を示さない企業が多いという現状が伺えます。
参考:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省
パタハラが生じる原因
パタハラが起こる原因は、企業風土や個人の価値観、考え方などさまざまです。性別に対する固定観念や無意識の思い込みをはじめ、上司や同僚の理解不足やハラスメントに関する啓蒙不足などがあげられます。
パタハラの原因について、詳しくみていきましょう。
ジェンダー意識の欠如
パタハラの原因には、「男性が働き、女性は育児をする」という価値観が根強く残っていることがあげられます。性別に対する役割に無意識の思い込み・偏見があり、それが風土になっている職場では、男性の育休取得に対して否定的な姿勢になりがちです。
その結果、育休を申請する男性社員に対してハラスメントが起こりやすくなります。特に、人手不足などで長時間労働が常態になっている職場では、「育休取得で仕事が滞る」として、上司や同僚からのパタハラも発生しやすいでしょう。
ハラスメントに関する研修が不足している
ハラスメントに関する研修が行われないなど啓蒙不足で、上司や同僚の理解が足りないこともパタハラの原因のひとつです。
パタハラを起こす主体は上司や同僚であるケースが多く、会社側が積極的に社員を啓蒙する体制を整備しなければ、職場の風土を変えることはできません。
また、男性が育休を取得することで業務に支障が出てしまう場合、パタハラが起こりやすくなります。休暇を取得しても業務に影響が出にくいよう、サポートする体制の整備が必要です。
パタハラは違法?企業が対策すべきこと
「育児・介護休業法」は、パタハラを防止するためのさまざまな規定を設けています。古くからあるのは、事業主による不利益取扱いを禁止する規定です。
近年は改正が行われ、パタハラ防止のための国・事業主・労働者の責務に関する規定が新たに設けられました。
詳しい内容を解説します。
育児・介護休業法の観点
育児・介護休業法は、事業主に対し「育児休業の申出・取得等を理由として、不利益取扱いを行うこと」を禁止しています。
不利益取扱いとは、育児休業を取得しようとする男性社員に対して、以下のような行為を行うことです。
- 解雇
- 契約更新の拒否
- 雇用形態の変更
- 降格
- 減給
- 不利益な評価を行う
- 不利益な配置転換
- 一方的に自宅待機を命じる
業務上の必要性など、特段の事情がある場合には例外的に不利益取扱いも認められますが、それ以外の不利益取扱いは法により禁じられています。
マタハラ・パタハラの防止措置義務
育児・介護休業法は2021年6月に改正が行われ、産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されました。子が生まれてから8週間以内に、最大で4週間の育休を2回に分割して取得できる制度です。従来の育休とは別に取得が可能です。
さらに、法では次のようなパタハラの防止措置を講じることが義務付けられています。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
- 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休を取得した事例の収集・提供
- 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
また、従業員数1,000人超の企業は、男性社員の育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられています。
パタハラにかんする事業主の責務
育児・介護休業法では、事業主に対し、次のような責務を課しています。
- パタハラの問題に対して、従業員の関心と理解を深めるよう努める
- 従業員が他の従業員に対する言動に必要な注意を払うよう、研修を実施するなど、その他の必要な配慮をする
- 国がパタハラを禁止するために行う広報活動などに協力するように努める
- 事業主自らもパタハラに対する関心と理解を深め、従業員に対する言動に必要な注意を払うように努める
この規定により、事業主にはパタハラに対して注意を払い、男性社員の育休取得について従業員が理解を深められるよう、社内周知や研修を実施するという責務が課されています。
パタハラにかんする労働者の責務
従業員側にも、育児・介護休業法による責務が課されています。要約した内容は、以下のとおりです。
- パタハラの問題に対して関心と理解を深め、ほかの従業員に対する言動に必要な注意を払う
- 事業主がパタハラを防止するために実施する措置に協力するように努める
従業員もパタハラに対して理解を深め、会社が行う防止策に従って行動することが求められています。
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-GOV法令検索
パタハラ防止のためにできる対処法
企業にはパタハラを防止する義務があり、対策を講じなければなりません。具体的には、育休取得の社内制度化を行うとともに、従業員への周知や社内研修の実施、相談窓口の設置などの対策が必要です。
詳しくみていきましょう。
育休取得の義務化といった制度化を行う
男性社員の育休取得を義務化するなど、社内制度にすることで、パタハラを防止できます。制度として定着しないと、男性社員の育休取得に理解を得られず、パタハラに進展する可能性があるでしょう。育休取得を制度として義務化することで、ハラスメントの芽を摘み取ることができます。
育休を取得しやすい環境づくりも大切です。業務量が多く、残業が当たり前という状況では、現実的に育休を取得しにくいでしょう。業務フローや役割分担を見直すなどの対策が必要です。
育休の義務化や業務フローの改善とともに、育休を取得させない上司は評価が下がるという仕組みを作れば、育休取得率の向上が期待できます。
ハラスメントに関する社内研修を行う
育休取得に関する従業員への啓蒙も大切です。育児に対する価値観はさまざまで、「育児は女性がするもの」という固定観念を持ち続けている従業員もいるでしょう。
価値観が違うままにしておくと、育休を取得する男性社員に対して不満が起こり、職場のチームワークにも影響します。育児休業を取得しやすい職場環境にするためには、従業員の意識も変えていかなければなりません。
研修を開催し、男性も育児に参加することが望ましいという考え方を周知するなど、男性社員の育休取得に向けた啓蒙活動を積極的に行うことが必要です。
パタハラの相談窓口を設置する
職場にパタハラの相談窓口を設けるという方法もあります。
前に紹介した厚生労働省の調査では、4人に1人が育休に際してパタハラを受けている状況があります。さらに、パタハラを受けた男性がその後どのような行動をしたかというアンケートでは、全体の15%が「何もしなかった」と回答しています。
職場に相談窓口があれば、パタハラを受けた、もしくは「育休を取得したくても言い出せない」といった状況にある男性社員が気軽に相談できます。パタハラ防止の一助になるでしょう。
参考:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省
くるみん認定を取得する
厚生労働省のくるみん認定取得を目指すことも、パタハラ防止につながります。
くるみん認定とは、一定の基準を満たした企業が申請をすることによって、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定を受けることができる制度です。
くるみん認定の基準を満たすことは、育児休業を推進する企業であることの証明になります。企業のイメージアップにも役立つでしょう。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについ|厚生労働省
パタハラが発生したら?企業はどう対処すれば良い?
パタハラの防止義務があるにも関わらずパタハラが発生してしまった場合、企業としては事実関係を確認し、早急に対処しなければなりません。
ここでは、パタハラの対処法を解説します。
パタハラの事実について確認する
パタハラが発覚したら、まずは事実関係を確認します。当事者にヒアリングするとともに、周囲の従業員にも聞き取りを行います。
パタハラの事実を確認するだけでなく、ハラスメント行為が直ちに中止されることにも努めなければなりません。
パタハラが発生してから対応を検討するのではなく、あらかじめ問題が発生した場合に備えて、対応する部署や担当者、対応の手順を定めておくことが必要です。
パタハラ被害者への連絡と配慮
パタハラが事実であることを確認したら、速やかに今後の対応について検討し、被害者への配慮に向けた措置を講じます。
育休取得を希望しているのに取得できない状況にあれば、直ちに取得できるよう対応してください。職場環境の改善や現職への復帰ができるよう積極的な支援も行います。加害者からの謝罪、被害者のメンタルケアなどの措置も検討しましょう。
パタハラ加害者への措置(繰り返す場合は厳重処分)
パタハラを行った加害者への対応も迅速に行います。就業規則や服務規律に定めたハラスメントに関する規定に基づき、相応な処分を行いましょう。パタハラを繰り返す悪質な行為には、厳重処分でのぞむ必要があります。
パタハラの内容に応じ、被害者と加害者間の関係改善に向けてサポートを行い、状況によっては配置転換などの措置も検討します。
パタハラが生じた原因・背景を解消する
パタハラを根本から無くすためには、事案の解決だけでなく、パタハラが生じた原因・背景も解消されなければなりません。
加害者を処分するだけで原因や背景が解消されなければ、同じようなパタハラが繰り返される可能性があります。
例えば、人手不足のために育休取得の申請を拒否したのであれば、人員補充や他の従業員で業務をカバーする体制を作るといった対策を行います。
パタハラの再発防止のための制度を設ける
パタハラの再発を防ぐため、育休制度の利用をあらためて周知し、男性の育休取得を推進するセミナーを開催するなど、従業員の理解を深める取り組みを行いましょう。
誰もが育児休業を取得する権利を持ち、積極的に利用するべきという意識を職場に浸透させることが大切です。研修を通して古い価値観を見直し、男性も育児に参加するのが当たり前であるという組織風土を醸成してください。
パタハラを防止して男性社員の育休取得を推進しよう
企業は男性社員の育児休業取得を推進するため、パタハラの防止措置義務や、パタハラの問題に対して従業員の関心と理解を深めるなどの責務があります。
男性社員の育休取得を義務化したり、社内で研修を開催したりするなど、休業を取得しやすい組織風土の醸成が必要です。
パタハラが発生したら迅速に対応し、原因を究明して根本的解決を図らなければなりません。
パタハラ防止に努め、男性社員が育休を取得しやすい環境を整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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