- 更新日 : 2024年9月4日
2022年開始の雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?取得方法や書類の書き方を解説
2022年1月1日から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」がスタートします。複数の事業所に雇用されている65歳以上の労働者について、雇用保険の加入要件を事業所ごとではなく2つの事業所を合わせて判断する制度です。この記事では、雇用保険マルチジョブホルダー制度の内容や取得方法について解説します。
目次
雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
「雇用保険マルチジョブホルダー制度」は、2022年1月1日よりスタートする新しい制度です。雇用保険は通常、所定労働時間が1週間あたり20時間以上の労働者が被保険者となりますが、マルチジョブホルダー制度では、所定労働時間が1週間あたり20時間に満たない高年齢労働者でも被保険者になることができます。
雇用保険についてはこちらの記事を参照してください。具体的にどのような労働者が適用対象者となるのか、高年齢求職者給付金との関係については以下の通りです。
雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用対象者
雇用保険マルチジョブホルダー制度は、65歳以上の高年齢労働者を対象にしています。複数の事業所に雇用されている高年齢労働者が事業所ごとでは雇用保険加入要件を満たさなくても、2つの事業所の労働時間を合わせると1週間あたり20時間以上になる場合に雇用保険被保険者になることができます。
【雇用保険マルチジョブホルダーの適用対象者】
- 年齢 65歳以上
- 1つの事業所の労働時間:1週間あたり5時間以上20時間未満
- 2つの事業所での合計労働時間:1週間あたり20時間以上
上記条件のほか、通常の雇用保険加入要件と同じように、雇用されているそれぞれの事業所において31日以上継続して雇用が見込まれること、雇用されている事業所は事業主がそれぞれ異なっていることも必要です。
マルチジョブホルダーの適用対象者だからといって雇用保険へ加入しなければならないわけではありません。ただし強制ではなく任意ですが、加入後はほかの被保険者と同じように取り扱われるため任意脱退はできません。
また、3つ以上の事業所に雇用されているときは、高年齢労働者が選んだ2つの事業所で雇用保険に加入することになります。選んだ事業所のうち1つを退職する場合は、それまで選ばなかったほかの事業所を新たに選んでマルチジョブホルダー制度の適用を受けることが可能です。しかし、切り替えは退職しない事業所でもいったん資格喪失の手続を行い、新たに選んだ事業所での資格取得手続とともに再取得の手続をする必要があります。
雇用保険マルチジョブホルダー制度と高年齢求職者給付金
雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用を受けて雇用保険の被保険者となった高年齢労働者は、「マルチ高年齢被保険者」と呼ばれます。マルチ高年齢被保険者が会社を退職した際には、高年齢求職者給付金を受け取ることができます。受給するための要件は、マルチ高年齢被保険者でない高年齢被保険者と同じで、手続方法、金額は以下の通りです。
高年齢求職者給付金の受給要件
・離職日以前の1年間のうち、被保険者であった期間が6ヵ月以上あること
6ヵ月は通算です。離職日から1ヵ月ごとに区切り、賃金支払の基礎となった日が11日以上ある月が期間算定の対象になります。離職日が2020年8月1日以降で賃金支払基礎日数11日以上の月が6ヵ月以上ない場合は、賃金の支払の基礎となった時間が80時間以上ある月が1ヵ月とみなされます。
・失業の状態にあること
新しい就職先を探し、再び雇用されようとしていることが必要です。就職する意思や能力がない場合は、「失業状態ではない」と判断され、高年齢求職者給付金を受給することはできません。
高年齢求職者給付金の手続方法
- 手続先:ハローワーク
- 手続期間:離職の日の翌日から1年以内
- 提出書類:離職票、写真1枚
- 持参する物:マイナンバーカードか個人番号と身元確認書類、
預金通帳かキャッシュカード
高年齢求職者給付金の金額
- 被保険者であった期間が1年未満:基本手当日額の30日分
- 被保険者であった期間が1年以上:基本手当日額の50日分
基本手当日額の計算式は以下の通りです。
雇用保険マルチジョブホルダー制度の取得手続
雇用保険マルチジョブホルダー制度を活用する際の資格取得手続は、以下の流れで行われます。基本的には労働者自身で行いますが、会社も必要書類の記載などを行う必要があります。
労働者が行うこと | 会社が行うこと |
---|---|
・3つ以上で雇用されている場合は2つを選択する ・会社へ伝える | |
必要書類に記載する | 必要書類に記載する |
住所を管轄するハローワークに提出する |
マルチジョブホルダー雇入・資格取得届の書き方
雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用を受けようとする労働者の「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」の書き方は以下の通りです。
引用:【重要】雇用保険マルチジョブホルダー制度について|厚生労働省
①過去の雇用保険被保険者番号がある場合に、「0」を省略せずに記入します。わからない場合は記入しなくても構いません。
②被保険者書がある場合は、その記載の通りに記入します。カタカナ記入欄は、姓と名前の間を1つあけます。
③該当する番号を記入します。
④月日が一桁のときは「0」を入れて記入します。(例:1月→01月)
⑤該当する番号を記入します。
⑥郵便番号・住所・名前・電話番号と、記入した日付を書きます。
事業主への注意点
雇用保険マルチジョブホルダー制度で事業主は、以下のような注意点に気をつける必要があります。
事業主の注意点①書類作成の拒否は禁止されている
マルチジョブホルダー制度の適用対象者が実際に受けるかどうかは、高年齢労働者の意思に任され、対象者であってもマルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入しないことも可能です。しかし高年齢労働者が希望する場合は、事業者が手続を拒否することはできません。
また高年齢労働者がマルチジョブホルダー制度の適用を望んだことを理由に不利益な取り扱いをすることも禁止されています。解雇や雇い止め、不利な労働条件への変更などを行うことは認められません。
事業主の注意点②迅速な処理が求められる
一般の被保険者は、入社日が雇用保険資格取得日になりますが、マルチ高年齢被保険者の場合は申し出た日に資格を取得します。入社日や適用対象者になった日ではなく、高年齢労働者の住所を管轄するハローワークに届け出た日が資格取得日になり、さかのぼることはできません。高年齢求職者給付金を受給する際に不都合が起きないよう、迅速な処理が求められます。
被保険者への注意点
雇用保険マルチジョブホルダー制度で被保険者が気をつけなければならない注意点は、以下の通りです。
被保険者の注意点①任意脱退はできない
マルチジョブホルダー制度は任意で適用を受ける制度です。申し出によってマルチ高年齢被保険者となり、申し出なければ雇用保険加入になりません。高年齢労働者の希望で適用を受ける制度ですが、加入後は任意脱退できません。また別の事業所に雇用された場合でも変更は認められていません。
被保険者の注意点②事業主の同意がなくても手続できる
マルチジョブホルダー制度の適用を受けてマルチ高年齢被保険者となるには、手続が必要です。マルチ高年齢被保険者資格取得届に事業主による記載が必要になりますが、同意が得られず協力してもらえない場合でも届出は可能です。自身の記載欄に必要事項を記入して提出することで、手続できます。
雇用保険マルチジョブホルダー制度の周知文の無料テンプレート・ひな形
以下より、雇用保険マルチジョブホルダー制度の周知文のテンプレート(エクセル・ワード)を無料でダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
雇用保険マルチジョブホルダー制度を理解しよう
2022年1月1日スタートの雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所に雇用される65歳以上の高年齢労働者を対象にした雇用保険制度です。2つの事業所の労働時間が1週間あたり20時間以上となる高年齢労働者は、任意でマルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入できます。マルチ高年齢被保険者が会社を退職する際に支給条件を満たす場合には、高年齢求職者給付金を受け取ることができます。
資格取得の手続は、高年齢労自らが行います。マルチ高年齢被保険者資格取得届の書き方を確認し、希望者は届出を申請するようにしましょう。
よくある質問
雇用保険マルチジョブホルダー制度とは何ですか?
複数の事業所に雇用される高年齢労働者が、2つの事業所の労働時間が1週間あたり20時間以上となる場合に、雇用保険に加入する制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
雇用保険マルチジョブホルダー制度の取得手続はどうすればよいですか?
マルチジョブホルダー資格取得届に必要事項を記入して、労働者が自らハローワークに提出します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社会保険の月額表の見方 – 関連する知識も解説
社会保険の月額表とは等級ごとに標準報酬月額を区分した表のことで、健康保険や厚生年金保険などの保険料率と保険料が記載されています。標準報酬月額は社会保険料計算をしやすくするために、給与や手当などのいわゆる「報酬」を一定の範囲ごとに区分し、当て…
詳しくみる傷病手当金は有給休暇を取った日にも支払われる?
仕事外のケガや病気が理由で会社を休む場合、傷病手当金を申請できます。原則として有給をとった場合、この傷病手当金は支払われません。ただし、受給までの待機期間に有給を利用するなど、いくつかの適したケースがあります。ここでは傷病手当金と有給のどっ…
詳しくみる雇用保険の喪失手続きはどんなときに必要?期限や書き方も合わせて解説
雇用保険の喪失手続きは、従業員が退職したときや役員に就任したときに行う必要があります。 しかし「どのように手続きすれば良いか分からない」「手続きの流れや期限を把握してスムーズに対応したい」と考えている方も多いのではないでしょうか。 そこで本…
詳しくみる社会保険料とは?計算方法や負担額、法改正の内容をわかりやすく解説!
社会保険制度とは、病気やケガ、死亡、出産、老齢、失業、介護などに備えて、企業や被保険者が保険料を負担して保険給付を受けることができる公的な保険制度のことです。 今回は、社会保険料を決定する基準や負担額の計算方法を解説するとともに、法改正で注…
詳しくみる国民年金保険料が免除される年収はいくら?申請に伴う注意点も解説!
収入の減少や失業、産前産後といった理由により国民年金保険料の支払いが困難になった場合には、免除や猶予を受けることができます。前年の年収(所得)が基準の範囲内である場合に対象になりますが、収入の見込額を用いる新型コロナウイルスの特例も設けられ…
詳しくみる会社が労災を嫌がるのはなぜ?デメリットや対処方法、認められない事例なども解説
業務中に予期せぬ怪我に見舞われた際、従業員が当然のように考える労災保険の申請。しかし、実際には会社側が労災申請を嫌がるケース多く見られます。この記事では、会社が労災申請を嫌がる背景にある様々な理由を深掘りするとともに、もし会社が非協力的な場…
詳しくみる