- 更新日 : 2025年11月26日
社宅の退去手続きの流れを徹底解説!トラブルを防ぐ実務ポイントを紹介
社宅からの退去は、従業員の異動や退職に伴い発生する重要な業務です。特に、原状回復や敷金の精算といった金銭に関わる手続きが多く、トラブルに発展しやすい場面でもあります。
この記事では、社宅の退去手続きの基本的な流れを解説し、担当者が押さえるべき注意点や、借り上げ社宅・社有社宅による違いを明確にしていきます。
目次
社宅の退去手続きはどのような流れで進める?基本の7ステップ
社宅の退去手続きは、従業員からの申請受付から始まり、原状回復や敷金精算など全ての業務が完了するまで続きます。ここでは、担当者が行うべき基本的な流れを、7つのステップに分けて具体的に解説します。
ステップ1. 従業員からの退去申請の受付
このステップでは、従業員からの退去の意思表示を正式に受け付け、手続きを開始します。企業によっては、人事部門へ提出する前に、直属の上司の承認を得るなどの社内承認フローが定められている場合があります。
まず、従業員から所定の「退去届」などを提出してもらいます。後の手続きを円滑に進めるため、特に以下の項目を正確に記載してもらうことが重要です。
- 退去理由(会社都合の異動か、自己都合退職かなど)
- 希望退去日
- 転居先の新住所
- 日中に連絡可能な電話番号
ステップ2. 貸主への解約通知または社内通知
物件の契約を終了させるための公式な通知を行います。この手続きは、社宅の種類によって通知先が大きく異なります。
- 借り上げ社宅:最も重要なステップです。賃貸借契約書に定められた「解約予告期間」(通常1〜2ヶ月前)を厳守し、貸主(オーナーや管理会社)へ書面で解約通知を送付します。この通知書は、後の「送った・受け取っていない」というトラブルを防ぐため、配達記録が残る方法(特定記録郵便や書留、内容証明郵便など)で送付すると確実です。
- 社有社宅:社内での手続きとなります。従業員の退去日を確定させ、経理部門や施設の管理担当部署など、関連部署へ正式に通知・連携します。
ステップ3. 引越し日時の調整と各種解約の案内
このステップでは、従業員の最終的な退去日を確定させ、スムーズな引越しをサポートします。
担当者は、まず従業員および貸主側(または社内関係者)と退去の立ち会い日時を調整します。それと同時に、従業員本人が退去日までに準備しておくべきことについて、以下のようなチェックリストを渡して案内すると親切です。
- 室内の荷物を全て搬出する
- 自身で実施可能な範囲での清掃(特に水回りやキッチン)
- 電気、ガス、水道、インターネットなどのライフライン停止手続き
- 郵便局への転居届の提出
- 鍵や備え付けのリモコン、取扱説明書などの付属品をすべて揃える
ステップ4. 退去の立ち会いと室内の状況確認
物件の最終的な状態を確認し、原状回復が必要な箇所を特定します。退去日には、室内の最終的な状況を確認します。立ち会う相手は社宅の種類によって異なります。
- 借り上げ社宅:原則として担当者、退去従業員、貸主(または管理会社)の三者
- 社有社宅:担当者、退去従業員、そして会社の施設担当者など社内関係者
入居時に作成した「入居時状況確認書」や写真と照らし合わせながら、損傷箇所を確認します。
ステップ5. 原状回復費用の負担調整
このステップでは、退去立ち会いで確認した室内の状況に基づき、修繕にかかる費用の負担割合を関係者間で最終的に確定させます。
まず、費用の負担者を分ける基本原則を再確認します。
| 負担者 | 責任範囲 |
|---|---|
| 物件所有者(貸主・会社) | 経年劣化・通常損耗 (例:日焼けした壁紙、家具の設置跡) |
| 借主(会社・従業員) | 故意・過失による損傷 (例:落書き、タバコのヤニ汚れ) |
この原則に基づき、担当者は以下の手順で費用負担の調整を進めます。
ステップ6. 敷金精算と各種支払いの完了
原状回復費用を差し引き、最終的な金銭のやり取りを完了させます。
- 借り上げ社宅:貸主から原状回復費用などを差し引いた敷金が返還されます。担当者はその金額が妥当かを確認します。
- 社有社宅:入居時に保証金などを預かっている場合は、従業員負担分の修繕費を差し引いて返還します。
最終月の家賃や光熱費の精算もこのタイミングで行います。
ステップ7. 社宅管理台帳の更新
このステップでは、一連の退去業務の締めくくりとして、社宅管理台帳の情報を更新し、記録を正確に残します。
担当者は、管理台帳のステータスを「入居中」から「空室」に変更し、今後のために以下の情報を正確に記録・保存しておくことが重要です。
- ステータスの変更:「入居中」→「空室」
- 退去完了日
- 原状回復費用の総額と負担内訳(会社負担額、従業員負担額)
- 敷金返還額(借り上げ社宅の場合)
- 最終的な特記事項(例:設備故障の有無、トラブルの経緯など)
この記録が、後の会計処理の正当性を示したり、次の入居者募集の際の参考資料となったりします。
借り上げ社宅・社有社宅とは?
先ほどの退去手続きの流れでも触れた通り、社宅には主に「借り上げ社宅」と「社有社宅」の2種類があります。どちらの社宅を扱うかによって、担当者が行うべき業務、特に貸主とのやり取りが大きく変わるため、ここでその違いを詳しく解説します。
借り上げ社宅
借り上げ社宅とは、企業が不動産会社などを通じて、市場にある一般的な賃貸物件を法人として契約し、それを従業員に貸し出す(転貸する)制度です。物件の所有者は外部のオーナーであるため、退去手続きも社外の相手(不動産会社・オーナー)と行うことになります。
社有社宅
社有社宅とは、企業が自社で土地や建物を所有し、その物件を従業員に福利厚生の一環として貸し出す制度です。自社物件であるため、退去手続きは人事部や施設担当部署など、社内の関係者で完結します。
【一覧表】借り上げ社宅と社有社宅の違い
| 項目 | 借り上げ社宅 | 社有社宅 |
|---|---|---|
| 概要 | 企業が市場の賃貸物件を借りる | 企業が自社で物件を所有する |
| 契約相手 | 不動産会社・オーナー | 自社(人事部など) |
| メリット | 物件数が豊富、初期投資が不要 | 家賃を安く設定しやすい、資産になる |
| デメリット | 空室でも家賃が発生する | 維持管理コスト、固定資産税がかかる |
借り上げ社宅の契約形態による退去手続きの違い
特に借り上げ社宅の場合、賃貸借契約の種類によって退去のプロセスが大きく変わるため、注意が必要です。契約書を確認し、「普通賃貸借契約」と「定期賃貸借契約」のどちらにあたるかを把握しておきましょう。
普通賃貸借契約の場合
一般的な賃貸契約で、借主(会社)からの「解約申し入れ」によって退去手続きが始まります。この記事で解説している「解約予告期間を守って通知する」という基本的な流れは、主にこの契約形態を指します。契約は原則として更新されるため、期間満了で自動的に終了することはありません。
定期賃貸借契約の場合
契約時に定めた期間の満了をもって、更新されることなく契約が「期間満了で終了」するのが原則です。そのため、「解約」というよりも「期間満了に伴う退去」が基本となります。
もし契約期間の途中で退去する必要が生じた場合、中途解約に関する特約がなければ解約自体ができないか、あるいは違約金(残存期間分など)が発生する可能性が高いため、特に慎重な対応が求められます。
社宅の退去手続きにおける注意点
社宅の退去手続きにおける最大のポイントは、将来発生しうる金銭的・法的なトラブルを、事前の準備と知識でいかに防ぐかという点にあります。このセクションでは、担当者が会社の利益を守り、円満な退去を実現するために特に注意すべき点を解説します。
社宅全般の注意点
社宅の種類を問わず、退去トラブルを防ぐための最大の鍵は、明確な社内ルールを整備しておくことです。その上で、定められたルールに基づいて従業員と丁寧な意思疎通を行うことが、円満な退去手続きを実現します。
- 退去に関する社宅規程の明確化:「退去の何ヶ月前までに申請が必要か」「従業員の故意・過失による損傷の費用負担はどうするか」といったルールを、事前に社宅規程で明確に定めておくことが最大のトラブル防止策となります。
- 従業員への丁寧なコミュニケーション:退去は従業員にとっても負担の大きい作業です。手続きの流れや従業員が行うべきことをリスト化して渡すなど、丁寧なコミュニケーションを心がけることで、認識の齟齬やトラブルを防ぎます。
借り上げ社宅特有の注意点
借り上げ社宅の退去手続きは、貸主という社外の相手との交渉が中心となります。契約内容を正しく理解し、会社の金銭的損失を抑えるための、担当者の法務知識が特に重要になる場面です。
- 解約予告期間の厳守:前述の通り、解約予告期間を守らないと、従業員が退去した後も1ヶ月分余計に家賃を支払うなどの金銭的損失に直結します。従業員からの退去申請を受けたら、まず契約書を確認し、即座に解約通知の手続きに着手しましょう。
- 敷金返還に関する知識の習得:原状回復における「通常損耗」の考え方を担当者が理解していないと、貸主から過大な修繕費用を請求され、敷金がほとんど返ってこないという事態になりかねません。国土交通省のガイドラインには必ず目を通しておきましょう。
社有社宅特有の注意点
社有社宅の退去手続きにおいて、会社は物件の所有者、つまり「大家」としての立場になります。そのため、単なる手続きだけでなく、自社の資産をどう管理し、次の入居者にどう繋げるかという運営者としての視点が求められます。
- 原状回復費用の会計処理:社有社宅の修繕は、自社の資産に対する支出となります。その費用が単なる「修繕費」か、資産価値を高める「資本的支出」かによって経理上の処理が異なるため、経理部門と密に連携する必要があります。
- 次の入居に向けた準備:退去後の室内クリーニングや軽微な修繕は、会社が手配する必要があります。「どこまでの状態に戻すか」というクリーニング基準を設けておかないと、部屋によってコンディションに差が出てしまい、次の入居者から不満が出る可能性があります。
- 空室期間の管理責任:次の入居者が決まるまでの空室期間中も、定期的な換気や清掃、防犯対策といった物件の管理責任は会社にあります。特に長期間空室になる場合は、管理計画を立てておくことが望ましいです。
退去手続きはアウトソーシング(社宅代行)も有効な選択肢
ここまで解説した通り、社宅の退去手続き、特に借り上げ社宅の場合は、貸主との交渉や専門知識が求められる場面が多く、担当者の負担が非常に大きい業務です。もし、これらの業務に課題を感じているのであれば、専門の代行会社に委託する「アウトソーシング」も有効な選択肢となります。
退去時に委託できる主な業務
社宅代行サービスは、企業に代わって煩雑な社宅管理業務全般を担います。特に退去時には、以下のような専門性の高い業務を委託することが可能です。
- 貸主への解約通知・書類作成代行
- 従業員への退去案内・コミュニケーション
- 退去立ち会いの代行
- 原状回復費用の査定・交渉代行
- 敷金精算の手続き代行
退去業務をアウトソースするメリット
退去業務のアウトソーシングは、担当者の負担軽減とコストの適正化という、大きなメリットをもたらします。専門家が介在することで、発生する委託費用以上の価値が生まれるため、有効な選択肢とされています。
- 専門知識による適正なコスト判断:プロの視点で原状回復費用の見積もりを精査し、国土交通省のガイドラインに基づいて貸主と交渉するため、不当な高額請求を防ぎ、コストの適正化が期待できます。
- 担当者の時間的・心理的負担の軽減:時間と手間のかかる貸主との交渉や、トラブルになりやすい従業員との費用負担の調整などを一任できるため、担当者は本来のコア業務に集中できます。
- トラブルの未然防止:豊富な経験に基づき、貸主・従業員とのコミュニケーションを円滑に進めるため、感情的な対立などのトラブルを未然に防ぎます。
社宅の退去手続きに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 原状回復の費用は、全額会社負担ですか?
一概には言えません。まず、経年劣化・通常損耗にあたる部分の費用は、貸主(借り上げ社宅)または会社(社有社宅)が負担するのが原則です。従業員の故意・過失による損傷については、社宅規程で「従業員負担」と定められている場合、会社はその費用を従業員に請求することが可能です。
Q2. 従業員が急に退職・退去する場合、違約金は発生しますか?
借り上げ社宅の場合、賃貸借契約書に「1年未満の解約は家賃1ヶ月分の違約金が発生する」といった短期解約違約金の条項が含まれている場合があります。この費用を会社が負担するか、従業員に求めるかは、社宅規程の定めに従います。
Q3. 退去の立ち会いは、人事担当者も必ず行くべきですか?
法的な義務はありませんが、借り上げ社宅の場合は可能な限り立ち会うことを強く推奨します。担当者が立ち会うことで、不当な原状回復費用の請求を防ぎ、会社の金銭的利益を守ることができます。
社有社宅の場合も、次の入居者への影響を考慮し、社内担当者が立ち会うのが一般的です。
Q4. 自己都合で退職する場合、いつまでに退去する必要がありますか?
これは会社の「社宅規程」によって定められており、一概には言えません。一般的には「退職日までに退去」と定める企業が多いですが、会社によっては引継ぎ期間などを考慮し「退職日から1ヶ月以内」など猶予期間を設けている場合もあります。まずは自社の社宅規程を確認することが重要です。
円滑な社宅退去手続きの流れを理解し、トラブルを防ごう
本記事では社宅の退去手続きの流れを、借り上げ社宅と社有社宅の違い、そして契約形態による違いを明確にしながら、担当者が実務で直面するポイントを交えて解説しました。
退去手続きは、金銭の精算や外部との交渉など、特に慎重な対応が求められる業務です。社宅規程を整備し、従業員と丁寧にコミュニケーションを取りながら手続きを進めることで、無用なトラブルを避け、従業員と会社双方が気持ちよく次のステップへ進むことができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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