• 更新日 : 2025年11月25日

給与計算の最新トレンド|2025年以降の法改正、DX化、システム選びまで徹底解説

2025年、給与計算業務は法改正の頻発とテクノロジーの進化により、大きな変革期を迎えています。育児・介護関連の法改正や、子ども・子育て支援金制度の導入が迫る中、人事・労務担当者には、これまで以上に正確かつ迅速な対応が求められています。

そこで本記事では、給与計算に関する最新トレンドを整理し、企業が取るべきアクションをわかりやすく解説します。最新の動向を正確に理解し、自社の給与計算フローをアップデートすることで、生産性向上とコンプライアンス強化を両立し、強固な経営基盤を築くことが可能です。

給与計算の最新トレンド

2025年後半から2026年にかけて、給与計算の分野では大きな変化が進んでいます。特に注目すべきは次の5つのテーマです。

  1. AIを活用したDXとクラウドシステムの進化
  2. 複雑化する法改正への対応
  3. 給与のデジタル払い(デジタル給与)の普及
  4. 戦略的アウトソーシング(BPO)活用の加速
  5. データ活用による人的資本経営の推進

1. AIを活用したDXとクラウドシステムの進化

近年の給与計算システムは、AIの活用により単純な計算自動化から、高度なエラーチェックや業務予測へと進化を遂げています。

クラウド型の給与計算ソフトは広く普及し、現在はAI(人工知能)を組み込むことで、さらなる自動化と高度化のフェーズに入っています。従来は給与計算の自動化が中心でしたが、現在は以下のような機能が注目を集めています。

  • 高度なエラーチェック
    「月給25万円の従業員の残業代が40万円」といった通常ありえない数値をAIが自動で検知し、差し戻しや警告を発することで、人為的ミスを未然に防ぎます。
  • 問い合わせ対応の自動化
    有給休暇の残日数は?」「年末調整の書類はどこから?」といった頻繁な質問に対し、AIチャットボットが24時間365日自動で回答します。
  • 法改正への準拠
    複雑な法改正の内容をシステムが自動で適用するだけでなく、過去のデータから人件費の変動を予測し、経営判断をサポートします。

2. 複雑化する法改正への対応

2025年は、給与計算業務に直結する法改正が相次いで施行されました。特に育児・介護と仕事の両立支援を目的とした改正は、勤怠管理や給与計算の仕組みに大きな影響を与えています。

2024年の定額減税に続き、2025年はさらに実務負担が増す制度変更が行われ、企業はこれまで以上に迅速かつ正確な対応を求められています。

給与計算へ影響を与えた主な法改正・制度変更
  • 育児・介護休業法の改正(2025年4月〜)
    • 残業免除の対象が「3歳未満の子」から「小学校就学前の子」まで拡大
    • 子の看護休暇制度の見直し
    • 柔軟な働き方を実現するための措置(時差出勤、テレワーク等)の義務化
  • 高年齢雇用継続給付の見直し(2025年4月〜)
    60歳以降の賃金が低下した際に支給される給付率が最大15%から10%に縮小
  • 雇用保険法の改正(2025年4月〜)
    「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」といった新たな給付制度が創設

さらに、2026年度から「子ども・子育て支援金制度」の徴収が始まる見込みです。医療保険料に上乗せされる形で徴収されるため、給与明細には新しい控除項目を追加する必要が出てきます。

参考:子ども・子育て支援金制度について|こども家庭庁

3. 給与のデジタル払い(デジタル給与)の普及

2023年4月に解禁された給与のデジタル払い。PayPay、COIN+、楽天ペイなど複数の資金移動業者が指定を受け、選択肢は広がりました。

しかし、解禁から2年半が経過した2025年時点でも、企業の導入は限定的です。帝国データバンクの調査によれば、企業の約9割が「導入予定はない」と回答しています。その理由は大きく分けて 業務負担の増加 と セキュリティ面への懸念 にあります。

メリットデメリット
企業側
  • 福利厚生として人材獲得につながる
  • 銀行振込手数料の削減
  • 新しい運用フロー構築の負担
  • セキュリティリスク
  • 労使協定締結など手続きの手間
従業員側
  • 銀行口座が不要
  • 給与を直接キャッシュレス決済に利用できる
  • 資金移動業者の破綻リスク(上限100万円の保証)
  • 利用できるサービスが限定される

4. 戦略的アウトソーシング(BPO)活用の加速

法改正の複雑化や人材不足を背景に、給与計算業務を外部に委託する企業が急増しています。単なるコスト削減ではなく、成長戦略の一環としてアウトソーシングを活用する流れが広がっているのが特徴です。

給与計算は毎月必ず発生する定型業務であり、法改正の影響を受けやすい領域です。自社だけで完全対応するには専門知識とリソースが必要となり、負担が大きくなります。そこで専門業者に業務を委託することで、人事部門は人材開発や制度設計といったコア業務に集中できるようになります。

アウトソーシング活用が加速する理由
  • 専門性への対応力
    毎年のように変わる税制・社会保険制度、育児・介護関連の複雑なルールに専門家が確実に対応。
  • 人材不足への対応
    給与計算や労務の専門知識を持つ人材は採用・育成が難しく、外部リソースの活用が現実的な解決策。
  • 事業継続計画(BCP)対策
    担当者の退職や休職といった不測の事態が発生しても、アウトソーシングにより給与支払いを止めずに済む。

5. データ活用による人的資本経営の推進

近年注目されているのが、給与計算システムに蓄積されたデータを分析し、経営戦略や人材戦略に活かす取り組みです。単なるコスト管理ではなく、人的資本経営を支える重要な情報源として給与データの価値が再認識されています。

給与計算のデータには、労働時間・人件費・勤怠状況など、従業員の働き方を把握できる要素が多く含まれています。AIを活用した分析を行えば、科学的根拠に基づいた人事施策を実現できます。

データ活用の具体例
  • 人件費と生産性の分析
    部門ごとの残業時間と業績を相関分析し、適正な人員配置や業務プロセスの改善点を特定する。
  • 離職の予兆検知
    勤怠の乱れや残業時間の急増といったデータをAIが分析し、離職リスクの高い従業員を早期に検知して面談などの対策につなげる。
  • 公平な報酬制度の設計
    成果データと現在の給与水準を分析し、従業員の納得度が高い、客観的な報酬制度のシミュレーションを行う。

最新トレンドに対応する給与計算システムの選び方

給与計算の最新トレンドに対応するには、単に新しいシステムを導入するだけでなく、自社の課題を把握し、最適な仕組みを選び、運用に落とし込むことが欠かせません。ここでは、3つのステップに分けて具体的な進め方を解説します。

1. 自社の課題と必要な要件を洗い出す

まずは現状の給与計算業務のどこに課題があるのかを明確にします。「毎月の残業計算に時間がかかりすぎている」「法改正のキャッチアップが大変」「テレワークに対応できていない」など、具体的な課題をリストアップしましょう。その上で、システムに求める機能(例:勤怠システム連携、Web給与明細機能など)を定義します。

2. 複数システムの比較検討を行う

要件が固まったら、複数のシステムを比較検討します。特に以下の点は重点的にチェックしましょう。

  • 法改正への対応スピードと実績
    過去の大きな法改正(マイナンバー対応、年末調整の電子化など)に迅速に対応してきた実績があるかを確認します。
  • API連携の豊富さ
    現在利用している、または将来的に導入を検討している勤怠管理システム、労務管理システム、会計ソフトとスムーズにAPI連携できるかは、業務全体の効率を大きく左右します。
  • 料金体系
    初期費用、月額費用、従業員数に応じた従量課金など、料金体系はサービスによってさまざまです。自社の規模や予算に合ったものを選びましょう。
  • セキュリティとサポート体制
    給与という機密情報を扱うため、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証の取得や、データの暗号化、アクセス制限などのセキュリティ対策は必須です。また、導入時やトラブル発生時にどのようなサポートを受けられるかも重要です。

3. 無料トライアルやデモを活用する

候補が絞れたら、必ず試用期間やデモを利用しましょう。実際に操作してみることで、次の点を確認できます。

  • 担当者が直感的に使えるか
  • 自社の業務フローに適合しているか
  • 複数部門で利用する際に運用のしやすさがあるか

システムは長期的に利用するインフラです。現場でストレスなく使えるかどうかが成功の鍵となります。

給与計算の最新トレンドに柔軟に対応しましょう

本記事では、給与計算の最新トレンドについて、DX化、法改正、システム選びなどの観点から解説しました。今後の給与計算業務の動向は、クラウドやAIといったテクノロジーの活用による徹底的な自動化と、複雑化する法制度への迅速かつ正確な対応が鍵となります。

この変化の時代において、現状の業務フローを維持することは、もはやリスクとなり得ます。自社の状況を正しく把握し、最適なシステムの導入や信頼できるパートナーへのアウトソーシングを検討することは、守りの業務である給与計算を、企業の成長を支える戦略的なバックオフィス業務へと変革させる第一歩です。この機会を捉え、より生産性の高い業務体制の構築を目指しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事