- 更新日 : 2025年11月26日
研修効果測定の具体的な方法とは?4つのレベル別評価指標をわかりやすく解説
研修の「やりっぱなし」を防ぎ、投資対効果を最大化するためには、適切な研修効果測定が不可欠です。この記事では、研修効果測定の具体的な方法として、国際的な標準である「カークパトリックモデル」の4つのレベル別評価指標をわかりやすく解説します。研修の成果を正しく評価し、次へと繋げるためのアンケート作成例や指標設定のポイントなど、すぐに実践できる知識を提供します。
目次
研修効果測定の4つのレベル(カークパトリックモデル)
研修効果測定の方法を考える上で、世界的なスタンダードとなっているのが「カークパトリックモデル」です。これは、研修の効果を4つの異なるレベル(段階)に分けて評価する考え方です。なぜなら、研修の効果は「満足した」という単純なものではなく、多角的に捉えることで初めてその本質的な価値が見えてくるからです。この4つのレベルを順に追っていくことで、研修の成果をより正確に、そして深く理解することができます。
レベル1:反応(Reaction)
レベル1は、研修参加者がその研修に対してどう感じたか、という「満足度」を測る段階です。具体的には、「研修内容は有益だったか」「講師の説明はわかりやすかったか」といった、参加者の主観的な反応を評価します。このレベルの測定は、研修プログラムの魅力や快適性を知るための重要な第一歩です。参加者のモチベーションにも直結するため、研修内容を改善していく上で基礎的なデータとなります。
レベル2:学習(Learning)
レベル2では、参加者が研修を通じて何を学び、どれだけ知識やスキルが身についたかという「学習度」を測定します。研修の目的として設定された知識・スキル・態度などを、参加者が正しく理解・習得できたかを評価する段階です。理解度テストやレポートなどを通じて客観的に測定することで、研修が「楽しかった」だけで終わらず、本当に必要な内容が伝わったかを確認することができます。
レベル3:行動(Behavior)
レベル3は、研修で学んだことが実際の業務において、どれだけ実践されているかという「行動変容」を評価する段階です。研修で得た知識やスキルが、職場での具体的な行動の変化として現れているかを確認します。このレベルの測定は、研修が現場で活かされているかを判断する上で非常に重要です。上司や同僚からの観察、または本人へのヒアリングなどを通じて、研修と実務の橋渡しがうまくいっているかを評価します。
レベル4:結果(Results)
レベル4は、研修による行動変容が、最終的に組織やビジネスの成果にどのような影響を与えたかを測る「業績向上」の段階です。売上や生産性の向上、顧客満足度の改善、コスト削減といった、具体的な経営指標への貢献度を評価します。このレベルを測定することで、研修が単なるコストではなく、企業の成長に繋がる「投資」であったことを証明できます。研修の投資対効果(ROI)を判断する上で最も重要な評価レベルです。
【レベル別】研修効果測定の具体的な方法と指標
4つのレベルを理解したところで、次にそれぞれのレベルで具体的に「何を」「どのように」測定すればよいのかを見ていきましょう。各レベルの目的に合った測定方法と評価指標を用いることで、より精度の高い効果測定が実現できます。
レベル1(反応)の測定方法:アンケート
レベル1の反応を測る最も一般的な方法は、研修直後に実施するアンケートです。参加者の記憶が新しいうちに、研修内容や講師、運営に対する満足度などを問いかけます。評価指標としては、「5段階評価の平均点」や「肯定的な回答の割合(%)」などが用いられます。自由記述欄を設けて具体的な意見を収集することも、次回の改善に繋がる貴重な情報となります。
レベル2(学習)の測定方法:理解度テスト・レポート
レベル2の学習度を測定するには、客観的な評価が可能な手法が適しています。研修前後に理解度テストを実施し、点数の伸びを比較する方法が効果的です。また、学んだ内容に関するレポートの提出を求め、その内容の質で判断することもあります。評価指標は、「テストの正答率」「合格基準の達成度」「レポートの評価(S/A/B/Cなど)」といったものが考えられます。
レベル3(行動)の測定方法:行動観察・ヒアリング
レベル3の行動変容は、研修直後ではなく、一定期間(例:1~3ヶ月後)が経過してから測定するのが一般的です。上司が部下の行動をチェックリストで評価したり、本人や同僚にヒアリングを行ったりする方法があります。評価指標としては、「設定した行動目標の達成率」や「研修で学んだスキルの実践回数」、「360度評価のスコア」などが用いられます。
レベル4(結果)の測定方法:KPI計測
レベル4の結果を測定するには、研修の目的と連動した重要業績評価指標(KPI)を追跡する必要があります。例えば、営業研修であれば「成約率」や「新規顧客獲得数」、リーダーシップ研修であれば「チームの生産性」や「部下の離職率」などが考えられます。これらのKPIを研修実施の前後で比較し、その変化分を研修の成果として評価します。他の要因も影響するため、慎重な分析が求められます。
なぜ研修効果測定が重要なのか
研修効果測定は、手間がかかるため後回しにされがちですが、企業の持続的な成長のためには不可欠なプロセスです。単に研修の良し悪しを判断するだけでなく、人材育成を経営戦略の一部として機能させる上で、効果測定は羅針盤のような役割を果たします。
研修の投資対効果(ROI)を可視化する
企業にとって研修は重要な「投資」です。経営の視点では、その投資がどれだけのリターンを生んだのか(ROI)を把握することが求められます。効果測定によって、研修にかけたコストと、それによってもたらされた生産性向上や売上増加などの成果を比較検証できます。これにより、研修予算の妥当性を説明し、今後の人材育成投資に関する的確な意思決定を行うための重要な根拠となります。
研修プログラムの改善に繋げる
「やりっぱなし」の研修では、その内容が本当に効果的だったのかがわかりません。効果測定を行うことで、プログラムのどの部分が参加者に響き、どの部分が理解されにくかったのかといった具体的な課題が明らかになります。この客観的なデータに基づいて研修内容を見直し、改善を繰り返す(PDCAサイクルを回す)ことで、より質の高い、効果的な研修プログラムへと進化させていくことができます。
人材育成の戦略立案に役立てる
2025年現在、企業価値を測る上で「人的資本経営」の重要性がますます高まっています。従業員のスキルや能力を企業の資産と捉え、その価値をいかに最大化するかが問われています。研修効果測定によって得られたデータは、個々の従業員の成長度合いや組織全体の強み・弱みを可視化します。これは、将来の事業戦略に基づいた計画的な人材育成や、適材適所の人員配置を考える上で、非常に価値のある戦略情報となります。
効果測定に使うアンケート・テストの作り方
研修効果測定の精度は、使用するアンケートやテストの質に大きく左右されます。ただ漠然と質問を並べるだけでは、本当に知りたい情報は得られません。ここでは、より効果的な測定ツールを作成するための基本的なポイントを解説します。
効果的なアンケートの質問項目例
良いアンケートは、単なる満足度だけでなく、学習効果や行動変容のヒントも引き出せるように設計されています。例えば、「研修で学んだ内容のうち、最も業務に活かせると感じたことは何ですか?」といった自由記述の質問は、参加者の気づきを具体的に知ることができます。また、「この研修内容を、明日からどのように活かしたいですか?」と問いかけることで、行動変容への意識を高める効果も期待できます。
理解度テスト作成のポイント
理解度テストを作成する際は、単に知識の暗記を問うだけでなく、実践的な場面を想定した問題を取り入れることが重要です。例えば、ケーススタディ形式で「あなたならどう対応しますか?」と問いかける問題は、知識の応用力を測るのに効果的です。また、研修で最も伝えたかった重要なキーワードや概念が、正しく理解されているかを確認する問題を必ず含めるようにしましょう。
合格基準の設定方法
テストを実施する場合、事前に合格基準を明確に設定しておくことが大切です。基準としては、全員が一定のレベルに達することを求める「絶対評価(例:80点以上で合格)」と、他者との比較で評価する「相対評価(例:上位30%が合格)」があります。研修の目的によって適切な方法は異なりますが、基礎知識の習得が目的なら絶対評価、選抜が目的なら相対評価が適していると言えるでしょう。
研修効果測定のよくある失敗と改善策
研修効果測定を導入したものの、うまく機能していないケースは少なくありません。ここでは、多くの企業が陥りがちな失敗パターンと、それを乗り越えるための改善策をご紹介します。事前に失敗例を知っておくことで、よりスムーズな導入と運用が可能になります。
測定が目的化してしまう
効果測定を導入すると、アンケートやテストを実施すること自体が目的になってしまうことがあります。集計しただけで結果が活用されず、報告書が棚に眠ってしまうケースです。これを防ぐには、測定を計画する段階で「その結果を何に使うのか」を明確にしておくことが重要です。例えば、「アンケート結果は次回の研修内容の改善に、テスト結果は個別フォローの対象者選定に利用する」といった具体的な活用方法を事前に決めておきましょう。
結果を次のアクションに活かせていない
測定結果が出ても、それを分析して次の具体的なアクションに繋げられていない、というのもよくある失敗です。特に、ネガティブな結果から目を背けてしまうと、改善の機会を失ってしまいます。改善策としては、測定結果を人事担当者だけでなく、研修を企画した部署や参加者の上司など、関係者と共有する場を設けることです。多角的な視点で結果を分析し、組織として次の打ち手を検討する仕組みを作りましょう。
測定に協力が得られない
研修後の効果測定は、参加者やその上司にとって「業務が増える」と捉えられ、協力が得られにくいことがあります。特に、レベル3(行動)やレベル4(結果)の測定には現場の協力が不可欠です。この問題を解決するには、なぜ効果測定が必要なのか、その目的とメリットを事前に丁寧に説明することが大切です。「皆様の成長と会社の業績向上のためにご協力ください」というメッセージを伝え、測定が評価のためだけでなく、育成のためでもあることを理解してもらいましょう。
研修効果測定の方法を実践し企業の成長へ繋げる
研修効果測定は、一度きりで終わらせるものではありません。カークパトリックモデルの4つのレベルを意識し、自社の目的に合った方法で測定を行うことが重要です。そして、測定によって得られた客観的なデータを分析し、研修内容の改善や新たな人材育成計画に繋げていくサイクルを構築することが、組織全体の持続的な成長を実現します。本記事で解説した具体的な方法を、効果的な研修の実現にお役立てください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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