- 更新日 : 2025年11月5日
辞めてほしい社員への対応方法は?具体的な手順から放置・不当解雇のリスクまで解説
企業の人事労務担当者にとって「辞めてほしい社員」への対応は非常にデリケートで難しい問題です。問題行動を繰り返す社員を放置すれば、職場環境の悪化や生産性の低下を招きかねません。しかし、対応を誤れば不当解雇などの法的トラブルに発展するリスクも孕んでいます。
この記事では、辞めてほしいと感じる社員の具体的な特徴から、放置することのリスク、そして実際に退職に向けて動く際の正しい手順と注意点までを、人事労務の初心者の方向けに分かりやすく解説します。適切な対応方法を学び、企業と従業員双方にとって最善の解決策を見つけましょう。
目次
辞めてほしい社員にはどのように対応する?具体的な5つの手順
辞めてほしい社員への対応は、法的なリスクを避けながら段階的に進めるのが鉄則です。特に、手順を誤ることで「不当解雇」と見なされるリスクには細心の注意が必要です。これは多額の金銭的負担や社会的信用の失墜に繋がるため、本章の手順とあわせて、必ず後述するリスクの章もご確認ください。
面談に臨む際は、常に客観的な事実のみを伝え、人格を否定するような言動はパワーハラスメントにあたるため絶対に避けましょう。
ステップ1. 事実確認と客観的な記録の徹底
最初に行うべきは、問題行動に関する具体的な事実を、感情を交えずに客観的な証拠として記録・収集することです。
後の注意・指導や、万が一の法的手続きに発展した場合に、主観的な評価ではなく客観的な事実に基づいていることを証明する必要があるためです。証拠がなければ、企業の対応の正当性を主張することは困難になります。
以下の点を意識して、記録を残しましょう。
- いつ(日時):問題行動が起きた年月日と時間
- どこで(場所):問題行動が起きた社内の具体的な場所
- 誰が(行為者):対象となる社員の名前
- 誰に/何を(対象/内容):具体的な言動や行動の内容を詳細に記述
- なぜ(原因・背景):推測ではなく、確認できた範囲での原因や背景
- どのように(経緯):事の経緯を時系列で整理
これらの記録に加え、関連するメールのやり取り、業務日報、同僚からのヒアリング記録なども重要な証拠となり得ます。記録の客観性を担保するため、作成日時や作成者、同席者などを明確に記録しておくことが重要です。
ステップ2. 複数回にわたる注意・指導と改善機会の提供
収集した客観的な事実に基づき、本人と面談を行い、具体的な問題点を指摘して改善を促します。この注意・指導は一度きりでなく、複数回にわたり根気強く行う必要があります。
従業員に改善の機会を十分に与えずに解雇などの重い処分を下した場合、その正当性が認められない可能性が高いためです。企業として、解雇を回避するための努力を尽くしたという事実が重要になります。
注意・指導は、以下の流れで段階的に進めるのが効果的です。
- 口頭での注意:まずは1対1の面談で、穏やかに、しかし具体的に問題点を伝えます。
- 指導書の交付:口頭注意でも改善が見られない場合、「指導書」などの書面を交付します。書面には、問題となっている事実、改善すべき点、改善期限を明記し、内容を確認した証として本人に署名を求めます。もし本人が署名を拒否した場合は、その事実と(可能であれば)理由を記録し、面談の同席者が署名した上で、本人に写しを交付するなどの対応を取ります。
- 定期的な面談:改善計画を一緒に立て、定期的に進捗を確認する面談を実施します。成功体験を積ませることで、本人のモチベーションを引き出すことも重要です。
面談の際は、必ず記録(議事録)を作成し、可能であれば複数名(例:直属の上司と人事担当者)で対応することが望ましいです。
ステップ3. 配置転換(配転)や役割変更の検討
本人の能力や適性が現在の業務と合っていない(スキルミスマッチ)ことが問題の原因である場合、配置転換や役割の変更を検討します。
企業には、従業員の能力を最大限に活かすための雇用管理上の配慮が求められます。環境を変えることで本人のパフォーマンスが改善する可能性があれば、それを試すことは解雇回避努力の一環として評価されます。
例えば、営業成績が振るわない社員でも、丁寧な事務作業が得意であれば内勤部門で活躍できるかもしれません。ただし、注意点として、懲罰や嫌がらせ、退職に追い込むことを目的としたいわゆる「追い出し部屋」への配置転換は、人事権(配転命令権)の濫用として無効と判断されます。あくまで、本人の適性を考慮した合理的な配置転換でなければなりません。
ステップ4. 退職勧奨の実施
あらゆる改善策を尽くしても問題行動が改善されない場合に、会社から従業員に対して合意による退職を促す「退職勧奨」を行います。
退職勧奨は、あくまで従業員の自由な意思に基づく退職を目指すものであり、解雇とは異なります。解雇に伴う法的なリスクを回避し、円満な解決を図るための最終的な話し合いの場です。退職勧奨は、非常に慎重に進める必要があります。
- 目的を明確に伝える:「解雇」ではなく、あくまで「合意による退職のお願い」であることを明確に伝えます。
- 退職のメリットを提示する:会社都合扱いによる失業保険の給付制限期間の免除などを提示することがあります。企業の制度や交渉次第では、退職金の割り増しや解決金が支払われるケースもありますが、特に中小企業では制度自体がないことも多く、一概に一般的とは言えない点に注意が必要です。
- 強制しない(退職強要との境界線を理解する):従業員には退職勧奨を拒否する権利があります。本人が「考えさせてほしい」と言った場合は、無理にその場で結論を求めず、検討する時間を与えましょう。
執拗な面談や侮辱的な言動は、違法な「退職強要」とみなされ、損害賠償の対象となる可能性があります。以下の表を参考に、自社の対応が強要に当たらないか常にチェックしましょう。
| 項目 | 退職勧奨(適法) | 退職強要(違法) |
|---|---|---|
| 面談の頻度・時間 | 社会通念上、相当な範囲(相手にプレッシャーを与えない頻度や時間) | 短期間に何度も呼び出す、長時間(数時間)にわたり拘束する |
| 面談の人数 | 1〜2名程度で、威圧感を与えないようにする | 大勢で取り囲み、心理的なプレッシャーをかける |
| 言動 | 退職を「お願いする」という姿勢。相手の意見も尊重する | 「辞めないとどうなるか分かっているのか」などと脅す。侮辱的な言葉を浴びせる |
| 本人の意思 | 拒否する自由を保障する。「持ち帰って検討します」という申し出を受け入れる | 即時の決断を迫り、考える時間を与えない |
退職勧奨について、以下の記事でも通知書のひな形や文例を紹介しています。
ステップ5. 普通解雇の最終的な検討
退職勧奨にも応じず、客観的に見て重大な問題行動が継続し、改善の見込みが全くない場合に、最終手段として普通解雇を検討します。
解雇は、労働契約法第16条で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(解雇権濫用法理)と厳しく定められています。そのため、解雇が有効と認められるハードルは非常に高いです。
普通解雇を検討する際は、以下の要件を満たしているかを厳密に確認する必要があります。
- 就業規則上の解雇事由に該当するか
- これまでの注意・指導の履歴、改善の機会を与えた証拠が十分にあるか
- 配置転換など、解雇を回避するための努力を尽くしたか
- 本人の行動が、企業の秩序や信用、安全な職場環境にどのような影響を与えているか
これらの判断は極めて専門的です。トラブルを避け、法的な妥当性を確保するためにも、普通解雇を検討する段階では必ず弁護士や社会保険労務士に相談しましょう。
そもそも「辞めてほしい」と思うのはどのような社員?
企業が「辞めてほしい」と感じる社員は、単に業務成績が低いだけでなく、企業の秩序を乱したり、周囲の従業員に悪影響を及ぼしたりする、特定の特徴を持つ従業員を指します。多くの場合、その問題は「協調性」「能力」「勤務態度」の3つの側面に集約されます。
これらの特徴は、個人の問題にとどまらず、チーム全体の生産性を低下させ、真面目に働く従業員のモチベーションを削ぐ原因となります。特に、パワーハラスメント(パワハラ)や業務命令の無視といった行動は、企業の法的リスクを高める可能性がある重大な問題ともいえます。
具体的にどのような行動が問題視されるのか、以下の表で確認してみましょう。
| カテゴリ | 具体的な行動例 |
|---|---|
| 協調性の欠如 |
|
| 能力・スキルの不足 |
|
| 勤務態度の不良 |
|
| ルール・指示の軽視 |
|
これらの行動が見受けられる場合は、その内容や頻度、業務への影響などを踏まえた上で、早期の対応を検討する必要があります。
ただし、一時的な不調や家庭の事情なども考えられるため、即座に「問題社員」と決めつけず、まずは客観的な事実確認から始めることが重要です。
放置も解雇もNG?辞めてほしい社員への対応に潜む2つのリスク
問題社員への対応で最も避けるべきは、事なかれ主義による放置と不当解雇です。一方は組織の内部崩壊を招き、もう一方は深刻な法的トラブルを引き起こします。この章では、企業が陥りがちな2つのリスクについて解説します。
辞めてほしい社員を放置するリスク
職場環境の悪化と士気の低下
問題社員を放置すると、他の真面目に働く従業員の不満が募り、職場全体のモチベーションや士気が著しく低下します。
「なぜあの人だけが許されるのか」という不公平感が蔓延すると、従業員の会社に対する信頼が揺らぎ、職場の一体感が失われるためです。これは、組織全体のパフォーマンス低下に直結する重大なリスクです。
問題行動が見過ごされる環境では、従業員の間に「頑張っても報われない」という無力感が広がります。その結果、コミュニケーションは停滞し、チームワークは崩壊。本来であれば活発な意見交換が行われるはずの会議が形式的なものになるなど、職場の雰囲気の悪化が懸念されます。
チーム全体の生産性低下
問題社員一人によって、チーム全体の生産性が大きく低下するリスクがあります。
問題社員の尻拭いやミスのカバーに、他の優秀な従業員の貴重な時間と労力が割かれてしまうためです。また、問題社員の存在自体が、周囲の集中力を削ぐ原因にもなります。
例えば、一人の社員が頻繁にミスをすれば、その確認や修正作業に上司や同僚が時間を取られます。協調性のない社員がいることで、円滑な情報共有が妨げられ、プロジェクトの進行が遅れることも考えられるでしょう。このように、一人の社員の問題行動が、チーム全体の業務効率に影響を及ぼす可能性があるのです。
優秀な人材の流出
不公平で働きがいを感じられない職場環境は、優秀な人材が会社に見切りをつけて離職してしまう大きな原因となります。
向上心が高く、能力のある社員ほど、自身の成長を妨げる不健全な環境に敏感です。公正な評価がされず、問題が放置される組織に将来性を見出せず、より良い環境を求めて転職を決意するのは自然な流れと言えます。一つの規律違反を放置することが、やがて組織全体の規範意識の低下につながることも懸念されます。
このような環境では、優秀な社員は「この会社にいても成長できない」「正当に評価されない」と感じ、静かに去っていきます。結果として、問題のある社員だけが残り、企業は競争力を失っていくという最悪のシナリオに陥りかねません。
企業の法的リスクの増大
ハラスメントなどの問題行動を放置した場合、企業が安全配慮義務違反を問われ、損害賠償請求などの法的トラブルに発展するリスクがあります。
企業は、労働契約法第5条に基づき、従業員が安全で健康に働ける職場環境を提供する義務(安全配慮義務)を負っています。ハラスメントの事実を認識しながら適切な調査や是正措置を怠った場合、この義務に違反すると判断される可能性があります。
もし、放置されたハラスメントが原因で他の従業員が精神疾患を患ってしまった場合、企業は使用者として多額の損害賠償を命じられる可能性があります。また、SNSなどで「ブラック企業」という評判が拡散すれば、企業の社会的信用は失墜し、採用活動にも深刻な影響を及ぼすでしょう。
辞めてほしい社員を焦って不当解雇するリスク
金銭的リスク(バックペイの発生)
解雇が無効になると、雇用契約は継続していたと見なされ、企業は解雇日から判決などで解決する日までの給与を遡って支払う義務が生じます。これを「バックペイ」と呼びます。
労働審判は数ヶ月で解決することが多い一方、訴訟に発展した場合は審理が長期化する傾向にあります。
労働審判は数ヶ月で解決することが多い一方、訴訟に発展した場合は審理が長期化する傾向にあります。解決まで1年以上に及ぶことも珍しくなく、この期間中の賃金を一括で支払う必要があり、賃金水準や勤続年数によっては支払額が非常に高額になる可能性があります。さらに、解雇の悪質性が高いと判断された場合には慰謝料の支払いを命じられることもあり、企業の財務に大きな影響を与えかねません。
人材・労務管理上のリスク(従業員の職場復帰)
解雇が無効である以上、法的な原則としては、企業はその従業員を職場に復帰させなければなりません。
実務上は、金銭(和解金)の支払いによって雇用契約を合意解約し、復職を回避するケースも多く見られますが、復職が避けられない場合には、組織運営上の大きなリスクが生じます。
一度は「辞めてほしい」と判断し、場合によっては争った相手を再び組織に受け入れることは、本人にとっても周囲の従業員にとっても大きな精神的負担となります。職場の人間関係がぎくしゃくしたり、他の従業員の士気が下がったりするなど、組織運営に大きな混乱を招く可能性があるでしょう。
信用の失墜(レピュテーションリスク)
不当解雇で訴訟沙汰になったという事実は、企業の社会的信用を大きく損ないます。特に近年では、インターネットやSNSを通じて情報は瞬時に拡散します。
- 採用への悪影響:「従業員を不当に解雇する会社」「ブラック企業」という評判が広まり、優秀な人材の確保が困難になります。
- 取引への悪影響:コンプライアンス意識の低い企業と見なされ、取引先や金融機関からの信用を失う可能性があります。
- 顧客離れ:企業のイメージ悪化が、製品やサービスの不買運動につながるケースも考えられます。
これらのリスクを回避するためにも、解雇という選択肢は最後の最後まで慎重に検討し、必ず専門家のアドバイスを受けながら、法的に瑕疵のない手続きを進めることが極めて重要です。
辞めてほしい社員への適切な対応が、健全な組織の未来をつくる
本記事では、辞めてほしい社員への対応について、具体的な対応手順からその背景にあるリスクまでを解説しました。
企業の健全な成長のため、この問題への対応は避けて通れません。重要なのは、感情的に判断するのではなく、客観的な事実に基づいて、法的なルールに則った正しい手順を踏むことです。安易な解雇は、企業にとって大きな法的リスクとなります。まずは改善の機会を十分に与え、解雇を回避するための努力を尽くすことが大前提です。その上で、退職勧奨や最終手段としての解雇を検討する際は、必ず専門家の助言を仰ぎながら慎重に進めてください。
辞めてほしい社員への適切な対応は、他の従業員が安心して働ける職場環境を守り、ひいては企業全体の成長を守ることにつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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