• 更新日 : 2025年11月5日

労使関係とは?トラブルを防ぎ、良好な関係を築く方法を簡単に解説

働き方の多様化や法改正が進む現代、企業が持続的に成長するためには、健全な労使関係の構築が重要です。労使関係が良好な企業は、生産性や従業員の定着率が高まる傾向にあります。

この記事では、労使関係の基本的な意味から、対等な関係を支える法律、現代的な課題、そして良好な関係を築くための具体的な方法まで詳しく解説し、労働者と使用者が共に成長できる関係性を築き、企業の発展を目指すための情報を提供します。

労使関係とは?

労使関係とは、労働力を提供する「労働者」と、その対価として賃金を支払う「使用者(企業)」との間で生まれる、労働契約に基づくさまざまな関係性の総称です。

この関係は、単に個々の労働者と企業の間の個別的な関係だけを指すのではありません。労働組合と企業(または使用者団体)との間で行われる団体交渉など、集団的な関係も含まれます。具体的には、賃金、労働時間、休日といった労働条件の決定、人事評価、福利厚生、職場の安全衛生、さらには企業の経営方針に至るまで、労働に関わるあらゆる側面が労使関係の対象となります。

そもそも労使とは

そもそも労使とは、労働者と使用者を合わせた言葉です。この二者が労使関係の中心的な当事者となります。

個別的労使関係と集団的労使関係の違い

労使関係は、個々の従業員と会社との関係を指す個別的労使関係と、労働組合と会社との関係を指す集団的労使関係とに大別されます。集団的労使関係とは、労働者が団結し、使用者と対等な立場で交渉を行うための枠組みであり、労働組合活動がその代表例です。

労使関係の言い換え表現

労使関係は、文脈によって他の言葉で言い換えられることがあります。たとえば、産業関係、雇用関係、労働関係などが類義語として用いられます。英語では Industrial Relations や Labor-Management Relations と表現されます。

労使関係の当事者は?

労使関係を構成する主な当事者は、労働者と使用者です。

労働者の定義

労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる全ての人を指します。正社員に限定されず、契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、雇用形態にかかわらず全ての従業員が労働者に含まれます。

使用者の定義

使用者とは、事業主や事業の経営担当者のほか、事業主のために労働者に関する事項について行為をする全ての人を指します。具体的には、企業の社長や役員だけでなく、権限を委譲されている人事部長や工場長なども使用者に該当します。

労使関係を仲介する組織

これらの基本的な当事者に加えて、特に集団的労使関係においては以下の組織が重要な役割を担います。

  • 労働組合(ユニオン):労働者が主体となり、労働条件の維持改善や経済的地位の向上を目指して自主的に組織する団体です。
  • 使用者団体:産業や地域ごとに、使用者が労働問題といった共通の利益のために組織する団体です。日本経済団体連合会などがその一例です。

対等な労使関係を支える労働三法とは?

対等な労使関係を維持するため、労働者を保護するための法律が定められています。中でも特に重要なのが労働三法と呼ばれる以下の法律です。

労働組合法

労働組合法は、労働者が使用者と対等な立場で交渉できるようにするため、憲法で保障された労働三権を具体的に定めた法律です。

  • 団結権:労働者が労働組合を結成したり、加入したりする権利です。
  • 団体交渉権:労働組合が使用者と労働条件などについて交渉する権利です。使用者は正当な理由なくこの交渉を拒否できません。
  • 団体行動権(争議権):要求を実現するために、ストライキなどの争議行為を合法的に行う権利です。

また、使用者が組合活動を妨害する不当労働行為を禁止しています。

労働基準法

労働基準法は、賃金、労働時間、休日、年次有給休暇など、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。労働者の健康や生活の基盤を保障するセーフティーネットとしての役割を持ちます。たとえ労使間で合意したとしても、この法律が定める基準を下回る労働契約は、その部分が無効となり、法律の基準が適用される強行法規です。

労働関係調整法

労働関係調整法は、労働者と使用者の間で発生した労働争議を、平和的に解決するための手続きを定めた法律です。当事者間での解決が難しい場合に、第三者機関である労働委員会が介入し、紛争解決を支援します。主な手続きには、あっせん、調停、仲裁の3つがあります。

  • あっせん:あっせん員が当事者の間に入り、双方の主張を調整し、話し合いによる解決を促します。
  • 調停:調停委員会が具体的な調停案を作成し、当事者双方にその受諾を勧めます。
  • 仲裁:労使双方が合意して申請し、仲裁委員会が下す仲裁裁定は、労働協約と同じ法的効力を持ちます。

現代の日本における労使関係の課題

社会経済の変化に伴い、現代の労使関係は新たな課題に直面しています。

働き方の多様化への対応

非正規雇用労働者の増加やテレワークの普及、ダブルワークやフリーランスなどといった働き方を選択する働き手のニーズの多様化など、従来の働き方の枠組みに収まらない就労形態への柔軟な対応が急務です。正社員中心の画一的な人事制度では、多様な働き手の要求に応えることは困難な時代になっています。パートタイマーや契約社員に対する不合理な待遇差を是正する同一労働同一賃金への対応や、テレワーク環境下での適切な労働時間管理、コミュニケーション不足の解消なども重要な課題です。

ハラスメント問題への対策

職場におけるパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、妊娠・出産・育児休業に関するハラスメントなどの防止は、全ての企業に課せられた社会的責務です。2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法により、パワーハラスメント防止措置が事業主に義務化されました。また、近年ではカスタマーハラスメントへの対応も企業に求められています。ハラスメントは被害者の尊厳を傷つけるだけでなく、職場全体の士気を下げ、人材流出につながる深刻な問題です。相談窓口の設置や行為者への厳正な対処など、実効性のある対策が求められます。

労働組合の組織率の低下

日本では長期的に労働組合の組織率が低下しており、集団的労使関係の影響力が弱まっています。厚生労働省の調査によると、2024年の推定組織率は16.1%と過去最低を記録しました。労働組合がない職場では、個々の労働者が会社に対して意見を表明したり、交渉したりすることが難しくなる傾向があります。そのため企業側は、労働組合の有無にかかわらず、従業員の意見を経営に反映させる従業員代表制などの仕組みを適切に運用し、労働者の声に耳を傾ける姿勢がより一層重要になっています。

労使関係における代表的なトラブル事例と対処法

労使関係においては、残念ながらさまざまなトラブルが発生する可能性があります。ここでは代表的な事例と基本的な対処法を紹介します。

解雇・雇止め

使用者からの突然の解雇通告や、契約期間満了時の更新拒否(雇止め)は、最も深刻なトラブルの一つです。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、不当解雇と判断されれば無効となります。労使間でトラブルが発生した場合、企業としては、客観的合理性や社会通念上の相当性もなく、つまり、解雇をするための正当な理由もなく、解雇しなければならないほどの重大性がなければ、解雇をすると裁判などで無効となるリスクがあります。労働者としては、解雇されたらまずは解雇理由証明書の交付を求め、労働組合や弁護士、労働基準監督署などの専門機関に相談することが対処の第一歩です。

賃金・残業代の未払い

所定の給与や残業代が支払われないというトラブルも頻繁に発生します。企業としては、日ごろから労働時間の管理を適正に行い、賃金に不足が生じないようにしなければなりません。労働者としては、賃金や残業代未払いの対処法として、まず給与明細やタイムカード、業務日報など、労働時間や未払い額を証明できる証拠を確保することが重要です。その上で、会社に直接請求するか、内容証明郵便を送付します。それでも支払われない場合は、労働基準監督署への申告や、労働審判、訴訟といった法的手段を検討します。

ハラスメント

パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、妊娠・出産・育児休業に関するハラスメントへの対応は、法律で企業に義務付けられています。ハラスメントは、被害者の心身に大きなダメージを与えるだけでなく、職場環境を悪化させる重大な問題です。労働者が被害に遭った場合は、一人で抱え込まず、信頼できる同僚や上司、社内の相談窓口に相談することが大切です。相談する際は、いつ、どこで、誰に、何をされたか、といった具体的な記録を残しておくことが、その後の対応で有効に働きます。

良好な労使関係を構築するためのステップ

良好な労使関係は、具体的な取り組みを通じて構築できます。ここでは4つのステップを紹介します。

1. 労働条件の明確化とコンプライアンス遵守

まず基本となるのは、労働基準法をはじめとする関連法規を遵守し、労働条件を従業員に明確に提示することです。これは、労使間の信頼を築く上での最低限のルールです。

  • 就業規則の整備と周知:会社のルールである就業規則を法規に準拠して整備し、全従業員がいつでも確認できる状態にします。
  • 労働契約の書面交付:雇用時には、労働条件を明記した労働条件通知書を必ず交付します。
  • コンプライアンスの徹底:法定労働時間の遵守、残業代の適正な支払い、有給休暇の取得促進など、法令遵守を徹底します。コンプライアンスは法令遵守にとどまらず、規範や倫理まで含む社会的なルールとして守るべきものと考える必要があります。

2. コミュニケーションの活性化

次に重要なのは、経営層と従業員が日頃から円滑に対話できる仕組みを整えることです。風通しの良い組織風土が、問題の早期発見と解決につながります。

コミュニケーション手法目的と効果
1on1ミーティング上司と部下が定期的に一対一で対話し、個別の課題やキャリアについて相談する。
労使協議会経営状況や重要な経営方針について、使用者側と労働者代表が協議する場。
社内アンケート従業員の意見や満足度を匿名で収集し、経営改善に活用する。
社内報・イントラネット経営理念やビジョン、会社の状況を全社で共有し、一体感を醸成する。

これらの仕組みを通じて、経営側は従業員の意見を真摯に受け止め、従業員側は経営方針への理解を深められます。

3. 公平な人事評価と待遇の実現

従業員の努力が正当に評価され、客観的で透明性の高い人事評価制度と、それに対応した公正な待遇を実現することが不可欠です。評価基準の曖昧さは、従業員の不公平感につながります。

  • 評価基準の明確化と公開:等級や役職ごとに求められる能力や成果を具体的に定義し、全従業員に公開します。
  • 評価者トレーニング:評価者である管理職に対して、評価手法や面談スキルに関する研修を実施し、評価のばらつきを防ぎます。
  • フィードバックの徹底:評価結果だけでなく、その理由や今後の期待を具体的に伝え、従業員の成長を支援します。

4. 福利厚生の充実と職場環境の整備

最後に、従業員が心身ともに健康で、安全に働ける職場環境を整えることが重要です。ワークライフバランスの実現を支援し、多様な人材が活躍できる環境は、従業員の満足度と定着率を大きく左右します。

  • ハラスメント対策:パワハラなどを防止するための研修を実施し、相談窓口を設置・周知します。
  • 安全衛生管理:労働安全衛生法に準拠し、職場の危険を排除し、従業員の健康を守る体制を整備します。
  • 多様な働き方への対応:テレワーク制度の導入、時短勤務やフレックスタイム制など、従業員のライフステージに合わせた柔軟な働き方を支援します。
  • 福利厚生の充実:住宅手当、育児・介護支援、資格取得支援など、従業員の生活を支える制度を充実させます。

良好な労使関係が企業経営の基盤となる

この記事では、労使関係の基本から、良好な関係を築くための具体的なステップまで詳しく解説しました。健全な労使関係は、単にトラブルを回避するためだけのものではありません。従業員のエンゲージメントを高め、企業の生産性と競争力を向上させるための重要な経営基盤です。コミュニケーションを密にし、公正なルールを運用することで、従業員と企業が共に成長するパートナーシップを築くことができます。変化の激しい時代だからこそ、その重要性はますます高まっていると言えるでしょう。


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