- 更新日 : 2025年9月26日
人事評価制度の種類とは?メリット・デメリットと自社に合う制度の選び方
企業の成長と従業員の働きがいは、公正で納得感のある人事評価制度で決まるといっても過言ではありません。しかし、人事評価制度には多くの種類があり、自社に最適な制度がどれなのか、悩んでいる経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、人事評価制度の基本となる種類から、MBOやコンピテンシー評価といった具体的な評価手法とそのメリット・デメリット、そして中小企業が導入で失敗しないための選び方のポイントまで、豊富な例を交えてわかりやすく解説します。
目次
人事評価制度を構成する3つの種類
人事評価制度は、単一の仕組みではなく、主に「等級制度」「評価制度」「報酬制度」という3つの種類(要素)が連動して成り立っています。これらは、社員の序列を定め、その働きぶりを評価し、給与や賞与に反映させるための一連の仕組みです。
社員の序列や役割を定める「等級制度」
等級制度は、社員の能力や職務、役割に応じて階層(等級)を定め、組織内での序列や位置づけをはっきりさせる仕組みです。たとえば「1等級(一般社員)」「2等級(リーダー候補)」「3等級(管理職)」のように設定し、それぞれの等級に求められる責任や権限、能力レベルを定義します。
これにより、社員はキャリアパスをイメージしやすくなり、上位等級を目指す動機づけにもなります。
行動や成果を測る「評価制度」
評価制度は、社員の業績や能力、業務への取り組み姿勢などを、一定の基準に基づいて評価するための仕組みです。後述するMBO(目標管理制度)やコンピテンシー評価といった手法を用いて、社員一人ひとりの貢献度を客観的に測ります。
この評価結果が、報酬や昇進・昇格の根拠となり、制度全体の要といえる部分です。
評価を処遇に反映させる「報酬制度」
報酬制度は、評価制度によって得られた評価結果を、給与や賞与、手当といった金銭的な処遇に反映させるための仕組みです。評価と報酬を連動させることで、社員のモチベーションを高め、企業の求める行動や成果を促す効果が期待できます。等級ごとに給与テーブルを設けたり、評価ランクに応じて賞与の支給率を定めたりするのが一般的な方法です。
代表的な人事評価の手法の種類と比較
社員の何をどのように評価するかという「評価手法」には、さまざまな種類があります。それぞれに特徴があり、企業の文化や職種によって向き不向きがあります。ここでは、代表的な評価手法と、それぞれの評価項目のサンプルを紹介します。
目標達成度で評価する「MBO(目標管理制度)」
MBOは、社員一人ひとりが上司との面談を通じて個別の目標を設定し、その達成度合いによって評価を決める手法です。社員の自主性を促し、目標達成への意欲を高める効果があります。
- 定量的目標:新規契約件数〇件、売上高〇〇円、新規リード獲得数〇件
- 定性的目標:顧客対応の改善、業務効率の向上
業務遂行能力で評価する「コンピテンシー評価」
コンピテンシー評価は、高い成果を上げている社員に共通する行動特性(コンピテンシー)を基準として評価する手法です。成果だけでなくプロセスも評価対象となるため、人材育成を促しやすいのが特徴です。
- 主体性:指示を待つだけでなく、自ら課題を見つけ改善提案ができるか。
- チームワーク:自身の業務だけでなく、チーム全体の目標達成を意識して行動できるか。
- 課題解決能力:問題発生時に、原因を分析し、論理的な解決策を立案・実行できるか。
多角的な視点で評価する「360度評価(多面評価)」
360度評価は、上司だけでなく、同僚や部下など、複数の立場から一人の社員を評価する手法です。客観性が高まり、本人が気づきにくい強みや課題を把握するのに役立ちます。
- リーダーシップ:チームのビジョンを示し、メンバーの意欲を高めているか(上司・部下が評価)
- 連携・協調性:他部署との円滑な連携を図り、組織全体の成果に貢献しているか(同僚・他部署が評価)
- 育成力:部下の意見に耳を傾け、成長のための適切なフィードバックを行っているか(部下が評価)
勤務態度や意欲を評価する「情意評価」
情意評価は、業務に対する姿勢や勤務態度、意欲といった、数値では測りにくい側面を評価する手法です。とくにチームワークや社内文化を重視する企業で用いられます。評価者の主観に偏りやすいため、評価基準を具体的にしておくことが大切です。
- 規律性:社内ルールや服務規律を遵守し、社会人として適切な行動をとっているか。
- 責任性:与えられた役割や業務を、最後まで責任感を持ってやり遂げているか。
- 協調性:周囲のメンバーと良好な関係を築き、チームの一員として協力的に業務を進めているか。
人事評価制度の種類ごとのメリット・デメリット
これまで紹介した各評価手法には、それぞれメリットとデメリットがあります。自社が何を重視するのかをはっきりさせた上で、どの手法が最も適しているか、またはどの手法を組み合わせるべきかを検討することが大切です。
MBO(目標管理制度)のメリット・デメリット
MBO(目標管理制度)の大きな魅力は、社員一人ひとりの目標を会社全体の方向性と一致させやすい点にあります。自分の仕事が会社のどの目標につながっているかを理解することで、社員は自主的に、そして意欲的に業務に取り組むようになります。評価基準も個々の目標達成度という明確なものであるため、結果に対する納得感も得やすいでしょう。
一方で、個人の目標達成への意識が強くなりすぎると、チームとしての協力がおろそかになったり、部署間の連携がうまくいかなくなったりすることがあります。また、評価を意識するあまり、達成しやすい短期的な目標ばかりを設定してしまい、長期的な視点での挑戦がおろそかになる可能性も考えられます。
コンピテンシー評価のメリット・デメリット
コンピテンシー評価は、人材育成の面でとくに力を発揮します。「どのような行動が成果につながるのか」という具体的な手本が示されるため、社員は自分の目指すべき姿を明確にイメージし、日々の行動を改善しやすくなります。成果だけでなく、その過程にある優れた行動も評価の対象となるため、社員の成長をきめ細かく後押しできるでしょう。
ただし、コンピテンシー評価の導入には手間と時間がかかるという側面があります。自社の理念や事業に合った精度の高いコンピテンシーモデルを一から設計するのは、簡単なことではありません。また、行動を評価するという性質上、評価者の解釈によって判断がぶれやすく、客観性を保つためには評価者への十分な研修が不可欠です。
360度評価のメリット・デメリット
360度評価の最大のメリットは、上司、同僚、部下といった多様な視点からのフィードバックによって、評価の客観性と公平性を高められることです。一人の上司だけでは見えなかった強みや課題が明らかになり、評価される本人にとっても深い自己理解と成長のきっかけになります。
その反面、人間関係への配慮から、率直な評価をしにくいという運用上の難しさがあります。関係性の悪化を恐れて、当たり障りのない評価に終始してしまったり、逆に感情的な評価をしてしまったりするリスクも考えられます。この手法を有効に機能させるには、日頃からオープンなコミュニケーションがとれる、信頼関係に基づいた組織風土が土台となります。
中小企業に適した人事評価制度の種類の選び方
企業の規模や成長段階によって、最適な人事評価制度は異なります。とくにリソースが限られる中小企業では、運用しやすく、実態に合った制度を選ぶことが成功の鍵です。ここでは中小企業が制度を選ぶ際のポイントを解説します。
企業の成長ステージに合わせて選ぶ
創業期や成長期など、企業のステージによって人材に求める役割は変わります。たとえば、少数精鋭で柔軟性が求められる創業期ではシンプルな目標管理制度を、組織が拡大し役割分担が必要になる成長期では、コンピテンシー評価を導入して人材育成の基盤を整える、といった考え方ができます。
職種や役割の特性をふまえて選ぶ
営業職のように数値目標が立てやすい職種にはMBO、企画職や管理部門のように成果が数値化しにくい職種にはコンピテンシー評価を適用するなど、職種ごとの特性に合わせて評価手法を使い分けることも有効です。全社で画一的な制度に固執する必要はありません。
【モデルケース別】人事評価制度の設計サンプル
自社の状況に近いモデルケースを参考に、制度設計のイメージを膨らませてみましょう。
- 特徴:個人の創造性とプロジェクトごとの貢献度が重要。
- 設計サンプル:MBOは用いず、コンピテンシー評価(創造性、専門性、顧客対応力など)を主軸にする。加えて、プロジェクト終了ごとに360度評価を実施し、貢献度を賞与に反映させる。
- 特徴:変化が速く、個人の成果と成長スピードが重視される。
- 設計サンプル:MBOによる成果評価を70%、コンピテンシー評価による行動評価を30%とする。目標は四半期ごとに設定・見直しを行い、スピード感のある事業展開に対応させる。
- 特徴:チームワークや顧客対応の質が業績に直結する。
- 設計サンプル:コンピテンシー評価(協調性、接客スキルなど)を50%、情意評価を30%、店舗売上達成度などの業績評価を20%とする。評価の納得感を高めるため、店長とエリアマネージャーの二段階で評価を行う。
人事評価制度が意味ないとならないための設計・運用のコツ
時間と労力をかけて導入した人事評価制度が「意味ない」「おかしい」と社員に思われてしまっては、逆効果です。形骸化させず、社員の成長と企業の発展につなげるためには、設計と運用においていくつかのコツを押さえる必要があります。
評価基準を明確にし、全社員に公開する
「何を」「どのように」頑張れば評価されるのかがはっきりわかるように、評価項目や基準は具体的に言語化し、全社員に公開しましょう。評価の透明性を高めることが、社員の不公平感をなくし、納得感を得るための第一歩です。評価制度の説明会などを実施するのもよいでしょう。
評価者への研修を徹底する
評価者のスキルによって評価にばらつきが出てしまうと、社員の不満につながります。評価者研修を定期的に実施し、評価者が陥りがちな評価エラー(ハロー効果や中心化傾向など)の種類と対策や、部下の成長を促す面談の進め方など、実践的なスキルを身につけてもらうことが大切です。
定期的なフィードバック面談を実施する
評価の結果を伝えるだけでなく、なぜその評価になったのか、今後の成長のために何を期待しているのかを、1対1の面談で丁寧にフィードバックする場を設けましょう。面談では、次のような流れで進めると、建設的な対話がしやすくなります。
- 今期の振り返り(自己評価の確認)
- 評価結果の伝達とその根拠の説明
- 本人の強みと今後の育成課題の共有
- 来期の目標設定と期待する役割の伝達
人事評価シートに盛り込みたい項目例
実際に運用する評価シートには、以下の項目を盛り込むことで、評価プロセスがスムーズに進みます。
- 基本情報:評価期間、被評価者名、評価者名
- 目標設定欄:今期の目標(MBOの場合)、重点的に取り組むコンピテンシー項目などを具体的に記入する。
- 自己評価欄:期末に、目標に対する達成度や自己所見を被評価者本人が記入する。
- 一次・二次評価者欄:上長が客観的な事実に基づいて評価を記入する。コメント欄も設ける。
- 総合所見・フィードバック欄:評価面談で話した内容や、来期への期待などを記録する。
自社に合った人事評価制度の種類を選び組織の成長につなげる
人事評価制度には、その土台となる等級・評価・報酬制度という3つの種類があり、さらにMBOやコンピテンシー評価といった多様な評価手法が存在します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の規模や文化、成長ステージに合った種類を選ぶことが何よりも大切です。
公正で透明性の高い制度を設計・運用することで、社員の納得感を高め、一人ひとりの成長を促し、ひいては組織全体の持続的な発展の実現につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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