- 更新日 : 2025年7月25日
中小企業のための36協定ガイド|ない場合の罰則・上限規制や届出までわかりやすく解説
「従業員に残業をさせているが、法的に問題ないだろうか」「36協定という言葉は聞くけれど、自社で対応が必要なのかわからない」このような悩みを抱える中小企業の経営者や人事労務担当者の方は少なくありません。
時間外労働に関するルールは年々厳格化しており、特に中小企業においても、2020年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されています。知らなかったでは済まされないのが法律のルールです。
本記事では、中小企業が知っておくべき36協定の基本から、複雑な残業時間の上限、具体的な届出方法まで分かりやすく解説します。
目次
そもそも36協定とは
36協定とは、労働基準法第36条に基づく「時間外労働・休日労働に関する協定」の通称です。
労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間・1週40時間以内(法定労働時間)、休日は毎週少なくとも1回(法定休日)と定められています。この法定労働時間を超えて従業員に時間外労働(残業)をさせたり、法定休日に労働させたりすることは、原則として法律違反となります。
しかし、企業活動においては、繁忙期などでどうしても残業や休日出勤が必要になる場面があります。そのような場合に、企業と労働者(の代表)との間で書面による協定を結び、労働基準監督署長に届け出ることで、初めて残業や休日出勤が法的に認められるのです。この免罪符ともいえる協定が36協定です。
中小企業で36協定が重要な理由
大企業に比べて人材や資源が限られがちな中小企業では、一人の従業員が担う業務範囲が広く、繁忙期にはどうしても残業に頼らざるを得ないケースが多く見られます。
以前は、中小企業に対して時間外労働の上限規制に猶予期間が設けられていましたが、2020年4月1日からは大企業と同様の厳しい上限規制が適用されています。この法改正により、中小企業においても36協定の正しい理解と運用が、コンプライアンス遵守の観点から非常に重要になりました。
適切な36協定の締結と運用は、法的なリスクを回避するだけではありません。厚生労働省も公式に示す通り、従業員の健康維持や働きやすい職場環境の整備につながり、人材の定着や生産性の向上も期待できます。
中小企業の従業員にとっての36協定のメリット・デメリット
従業員にとって36協定は、会社が合法的に残業させられるようになるという点でデメリットしかないように感じられるかもしれません。しかし、物事には両面があります。
- 無秩序な長時間労働に歯止めがかかります。 協定によって残業時間の上限が明確に定められるため、会社側はその範囲を守る義務が生じます。
- 協定の存在は、残業代がきちんと支払われる根拠にもなり、サービス残業の防止に繋がります。
- 残業が法的に可能になるため、長時間労働につながる可能性があります。
36協定がない会社が負う罰則とリスク
もし36協定を締結・届出せずに法定労働時間を超えて従業員に残業させたり、法定休日に労働させたりした場合、それは明確な法律違反となります。
この場合、労働基準法第119条に基づき、事業主に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。
近年は労働者の権利意識も高まっており、実際に厚生労働省が公表した2022年度の監督指導結果では、81.2%の事業場で法令違反が確認され、そのうち42.6%が違法な時間外労働という結果が出ています。つまり、違反が発覚するケースは決して珍しくありません。罰則だけでなく、企業の社会的信用を失うという大きなリスクも伴うため注意が必要です。
36協定の残業時間の上限ルール
36協定を結べば、無制限に残業させられるわけではありません。法律によって時間外労働には厳格な上限が定められています。ここでは、複雑な上限ルールを図解も交えてわかりやすく解説します。
月45時間・年360時間の壁
36協定で定めることができる時間外労働には、原則として上限が設けられています。これが、月45時間・年360時間という上限です。
これは、1ヶ月の時間外労働は45時間まで、1年間の時間外労働は360時間まで、という制限です。臨時的な繁忙期などがない限り、この原則の範囲内で時間外労働の時間を設定する必要があります。
例えば、1ヶ月30時間、1年250時間といった設定は問題ありませんが、1ヶ月50時間といった設定は、原則として認められません。まずは月45時間・年360時間が基本ルールであると覚えておきましょう。
特別条項付き36協定とは
決算期や大規模なトラブル対応など、通常予測できない臨時的な事情により、どうしても月45時間・年360時間の原則を超えて残業が必要になる場合があります。
その場合に備えて設定できるのが、特別条項付き36協定です。これを結ぶことで、年6回を上限として、月45時間を超える残業が認められます。
しかし、特別条項を適用した場合でも、守らなければならない厳しい上限があります。次の項目で解説する新しい上限規制を必ず確認してください。安易に特別条項を設けるのではなく、あくまで例外的な措置であると認識することが重要です。
特別条項でも超えられない絶対的な上限
特別条項付き36協定を結んだ場合でも、以下の4つの上限をすべて満たす必要があります。これは中小企業にも適用される罰則付きの規制です。
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度
これらの上限に一つでも違反した場合、たとえ特別条項付き36協定を結んでいても法律違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。非常に複雑なため、勤怠管理システムなどを活用して正確に労働時間を把握することが不可欠です。
中小企業が36協定を締結・届出する手順
実際に36協定を締結し、届け出るには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。ここでは4つのステップに分けて具体的に解説します。
1. 労働者代表の選出
36協定は、会社と労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)との間で締結する必要があります。
労働組合がない中小企業の場合は、過半数代表者を選出しなければなりません。この代表者は、管理監督者(部長や工場長など)ではなく、投票や挙手などの民主的な方法で選出される必要があります。会社側が一方的に指名することは認められません。
2. 協定内容の協業・決定
労働者代表と会社側で、協定の内容について話し合います。主に以下の項目を決定します。
- 時間外労働をさせる必要のある具体的な事由
- 対象となる業務の種類と労働者数
- 1日、1ヶ月、1年あたりの時間外労働の上限時間
- (特別条項を設ける場合)臨時的に上限を超える場合の事由、上限時間など
ここで決めた内容が、今後の時間外労働のルールとなります。
3. 36協定届の作成・届出
協定内容が決まったら、「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定届)」を作成します。様式は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
作成した協定届に、使用者と労働者代表が署名または記名押印し、管轄の労働基準監督署長に届け出ます。届出は、窓口持参、郵送のほか、e-Gov(電子申請)でも可能です。協定の効力は、届出が受理された日から発生するのではなく、協定で定めた有効期間の開始日から発生します。
4. 従業員への周知
36協定を届け出たら、それで終わりではありません。締結した協定の内容を、すべての従業員に周知する義務があります。
- 常時、各作業場の見やすい場所へ掲示する
- 書面を労働者に交付する
- 社内LANやイントラネットなどの電子媒体に記録し、常時閲覧可能な状態にしておく
これらのいずれかの方法で、従業員がいつでも内容を確認できるようにしておく必要があります。周知を怠ると、協定が無効と判断される可能性もあるため注意が必要です。
中小企業が36協定を遵守し、働きやすい環境を築くポイント
36協定は、単に届出をすればよいというものではありません。法律を遵守し、従業員が健康で意欲的に働ける環境を整えることが、企業の持続的な成長に繋がります。
残業を減らすための具体的な取り組み
上限時間を意識するあまり、隠れ残業やサービス残業が横行しては本末転倒です。残業そのものを減らすための業務効率化に取り組むことが本質的な解決策です。
例えば、業務の棚卸しによる不要な作業の廃止、情報共有ツールの導入による会議時間の短縮、従業員のスキルアップ支援による生産性向上などが考えられます。経営層が率先して「残業を減らす」という強い意志を示すことが重要です。
勤怠管理システムの導入も有効な手段
複雑な時間外労働の上限規制を、エクセルやタイムカードだけで正確に管理するのは非常に困難です。特に、複数月平均の残業時間などを手計算で管理するのは現実的ではありません。
クラウド型の勤怠管理システムを導入すれば、各従業員の労働時間をリアルタイムで可視化し、上限超過が近づくとアラートで知らせてくれる機能などがあります。法改正にも自動で対応してくれるため、管理コストを大幅に削減し、コンプライアンス違反のリスクを低減できます。
助成金を活用して負担を軽減
働き方改革を推進する中小企業を支援するため、国は様々な助成金を用意しています。
例えば、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進に向けた取り組みを行う事業主を支援する「働き方改革推進支援助成金」などがあります。勤怠管理システムの導入費用や、労務管理担当者への研修費用などが助成対象となる場合があります。こうした制度をうまく活用し、企業の負担を軽減しながら職場環境の改善を進めましょう。
中小企業の36協定についてよくある質問
ここでは、中小企業の経営者や従業員から寄せられる36協定に関するよくある質問に、Q&A形式でわかりやすくお答えします。
会社が36協定を結んでいるかわからない場合はどうする?
自社が36協定を締結しているかわからない場合、いくつかの確認方法があります。
まず、36協定は締結後、従業員に周知する義務があります。そのため、職場の見やすい場所への掲示、書面での交付、社内イントラネットへの掲載などの方法で確認できるはずです。
もし見当たらない場合は、人事労務の担当部署や上司に直接確認してみましょう。従業員には知る権利があります。会社側は、問い合わせに対して誠実に回答する義務があります。
36協定がない会社で残業を命じられたらどうする?
36協定の届出なしに法定労働時間を超えて残業させることは法律違反です。もし、協定がないにもかかわらず残業を命じられた場合、その残業命令は法的には無効であり、従業員は拒否することができます。
ただし、現実的には拒否しにくい状況もあるでしょう。その場合は、まず会社の担当者に36協定の状況を確認し、改善を求めることが第一歩です。それでも状況が変わらない場合は、労働基準監督署の「総合労働相談コーナー」などに相談することも選択肢の一つです。
36協定の正しい理解が、中小企業の未来を守る
本記事では、中小企業が押さえるべき36協定の知識について解説しました。
- 36協定は、残業や休日出勤をさせるための必須手続き
- 協定がない、または上限を超えた残業は罰則付きの法律違反
- 中小企業も「月45時間・年360時間」の原則と、特別条項の厳しい上限を守る義務がある
- 届出だけでなく、労働時間の正確な把握と削減努力が不可欠
36協定への対応は、単なる法務リスクの回避に留まりません。従業員が安心して働ける環境を整備することは、人材の確保・定着、生産性の向上、そして企業の持続的な成長に直結する重要な経営課題です。
この記事を参考に、自社の労務管理体制を今一度見直し、コンプライアンスを遵守した健全な企業経営を目指してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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