- 更新日 : 2024年11月1日
70歳以上の社会保険について – 対象者や手続きを解説
社会保険の適用事業所に勤務している従業員は、健康保険や厚生年金、雇用保険などに加入しています。保険料を給与から天引きされている方も多いでしょう。2021年4月1日施行の高年齢者雇用安定法改正により、65歳までの雇用確保の義務と70歳までの雇用確保の努力義務が定められました。定年を過ぎても働く意欲のある高年齢者が活躍できる社会を目指した制度です。
では、65歳を過ぎて働く場合、社会保険には何歳まで加入できるのでしょうか?本記事では、今回、雇用確保が努力義務となった70歳以上の方の社会保険についてご説明します。
目次
社会保険の加入義務年齢は何歳?
社会保険の加入義務年齢は、保険の種類によって異なります。特に、70歳以上の従業員に対する加入要件や手続きについては、事業主として正確に理解し、適切に対応することが求められるのです。ここでは、健康保険・厚生年金保険・介護保険の加入年齢について解説します。
健康保険は75歳未満まで
健康保険では、所定の要件を満たす75歳未満の従業員が被保険者となります。
75歳に到達すると、自動的に都道府県ごとに設立された広域連合が運営する「後期高齢者医療制度」に移行し、健康保険の被保険者から外れます。
ただし、管轄の年金事務所に対して、75歳の誕生日から5日以内に「健康保険被保険者資格喪失届」を提出し、健康保険の資格喪失手続きを行う必要があります。その際には「健康保険証」と「高齢受給者証」も返却しなければなりません。
厚生年金保険は70歳未満まで
厚生年金保険は、70歳未満の被用者が対象です。
70歳到達日(誕生日の前日)以降も、引き続き同一の事業所に使用される場合、70歳到達日から 5日以内に「厚生年金保険被保険者資格喪失届 70歳以上被用者該当届」(「70歳到達届」)を管轄の年金事務所に提出する必要があります。
70歳到達届は、70歳に到達すると見込まれる被保険者がいる場合、事前に年金機構から事業所に送付されることになっています。
なお、70歳以上の加入期間は被保険者期間とはならないため、厚生年金保険の保険料は徴収されず、年金額にも反映されません。
介護保険は40歳以上65歳未満
介護保険は、40歳以上65歳未満の労働者が第2号被保険者として加入します。
65歳になると、市区町村が運営する介護保険の第1号被保険者となり、事業主は介護保険料を給与から源泉徴収する必要がなくなります。
以後は、本人が年金から引き去られる「特別徴収」、または納付通知書によって銀行等の窓口およびコンビニエンスストアで納付(もしくは口座振替)する「普通徴収」によって納付します。
70歳以上の社会保険の手続き
70歳以上の社会保険の手続きには、それまで働いていた従業員が70歳になった場合と、新たに70歳以上の方を雇い入れる場合があります。健康保険、厚生年金のそれぞれの手続きをみていきましょう。
健康保険の手続き
健康保険の場合、70歳以上75歳未満の方はこれまで通り被保険者として扱われます。そのため、継続して雇用している従業員が70歳を過ぎても、特に手続きは必要ありません。
70歳以上75歳未満の方を新たに雇用した場合には、日本年金機構に健康保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。
70歳以上被用者とは
厚生年金の場合、継続して雇用している従業員が70歳を過ぎた場合、または70歳以上75歳未満の方(厚生年金に加入歴がある方)を新たに雇用した場合、「70歳以上被用者」という扱いになります。厚生年金の加入資格は原則として70歳未満であるため、厚生年金保険料の支払いはなく、年金額の計算にも影響しません。
ただし、70歳以上被用者も含め、60歳以上の受給権者(受給要件を満たした者)が働いて収入を得ている場合、その額によっては老齢厚生年金が一部または全部支給停止となる「在職老齢年金制度」の調整の対象となります。
原則として、社会保険の手続きは事業者が行います。
70歳以上被用者に関する手続きをまとめると、以下のようになります。
必要な届出 | 届出先・期限 | |
---|---|---|
新たに70歳以上を雇用した場合 |
| 年金事務所 雇い入れ日から5日以内 |
継続して雇用している従業員が70歳になった場合 |
| 年金事務所 70歳の誕生日の前日から5日以内 |
70歳以上被用者が退職した場合 |
| 年金事務所 |
参考:厚生年金保険 被保険者資格喪失届・厚生年金保険70歳以上被用者該当届|日本年金機構
高齢任意加入被保険者資格取得申請書の提出
事業所で働く70歳以上の方で、受給権者でない場合、老齢年金の受給資格を得るために任意で厚生年金に加入することができます。この場合に年金事務所に提出するのが「高齢任意加入被保険者資格取得申出/申請書」です。働いている事業所が厚生年金適用事業所であれば申出書、適用外の事業所であれば申請書を、従業員本人が届け出ます。ただし、適用外の事業所の場合、加入には事業主の同意と厚生労働大臣の認可が必要です。
保険料の納付も本人ですが、事業所の同意が得られれば本人と事業所の折半となります。老齢年金の受給資格を満たした時点で被保険者資格はなくなります。
参考:厚生年金保険高齢任意加入被保険者(船員以外)資格取得申出/申請書|日本年金機構
75歳以上の社会保険の手続き
平成20年(2008年)4月から施行された「後期高齢者医療制度」により、すべての国民は75歳になった時点でそれまでの健康保険の被保険者資格を失い、各都道府県の広域連合が運営する独立した後期高齢者医療制度に加入することとなりました。
では、75歳以上の従業員を雇用する事業所では、どのような手続きが必要なのでしょうか。
後期高齢者医療制度とは
日本では、昭和33年(1958年)に制定された国民健康法をもとに、昭和36年(1961年)から「国民皆保険制度」が実現しました。その後制定された旧老人保健制度は、働く世代も高齢者も保険者(国保や保険組合など)に保険料を支払い、そこから高齢者医療用の資金が市町村などの運営機関に拠出され、75歳以上の高齢者の医療費(5割)に使われるという仕組みでした。
しかし、現在では少子高齢化が急速に進み、超高齢化社会は確実に近づいています。国民皆保険制度を支える世代の人口が減る一方で、一般的に医療費が多くかかる高齢者世代の割合が大きくなってしまっているのです。
そのため、こうした状況や医療費を同じ財源から支出することへの不公平感・負担率の不透明な部分が課題とされてきました。そこで制度の見直しが行われ、平成20年(2008年)4月に後期高齢者制度が施行されたのです。
旧老人保健制度と異なるところは、75歳になったら被保険者資格がなくなることです。保険料は、保険者ではなく各都道府県の広域連合に支払います。医療費の給付もこの広域連合から行われるものです。広域連合は、国保や保険組合などからの支援金(4割)と高齢者からの保険料(1割)で医療費の給付をまかないます。
この改正により、75歳以上の高齢者(後期高齢者)のための独立した組織ができ、保険料の納付先と給付元が一元化され、医療費分担のルールが明確になりました。なお、旧老人保健制度、後期高齢者医療制度ともに、医療費の残り5割は公費(税金)が負担しています。
健康保険被保険者資格喪失届の提出
さて、75歳になると健康保険の被保険者資格がなくなり、後期高齢者医療制度へ移行することは先に述べたとおりです。この場合、事業主は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。提出期限は、従業員が75歳になった当日から5日以内、提出先は年金事務所または健康保険組合などです。
届出が省略になる場合
事業主の事務的負担を減らすため、平成31年(2019年)4月より、70歳となった従業員についての手続きが一部省略できることになりました。対象となるのは、「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」と「厚生年金保険被保険者資格喪失届」です。
継続して雇用している従業員が70歳に達したときに提出するこれらの書類ですが、70歳になった前後で標準報酬月額に変更がない場合、提出する必要がなくなりました。
年金事務所より以下の確認通知が届きます。
- 厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書
- 厚生年金保険70歳以上被用者該当および標準報酬月額相当額のお知らせ
事業主は確認するだけで、手続きは特に必要ありません。ただし、標準報酬月額に変更があった場合や70歳を過ぎた方を新たに雇用した場合には、これまで通りの手続きが必要です。
参考:70歳到達時の被保険者等の届出が一部省略となります|日本年金機構
65歳以上も高年齢被保険者の対象に
健康年齢の高年齢化が進み、働く意欲のある高齢者が増えています。令和3年(2019年)4月1日には、高年齢者雇用安定法が改正され、2020年4月には雇用保険適用年齢の上限を撤廃し65歳以上の従業員も高年齢被保険者として適用されることになりました。雇用保険適用の条件は、以下のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
なお、新たに雇用した従業員が上記に当てはまる場合には、事業主は翌月10日までに「雇用保険被保険者資格届」をハローワークに提出しなければなりません。
高齢受給者証とは
健康保険では、70歳を過ぎても75歳以下であればこれまで通り被保険者の資格があります。ただし、全国健康保険協会では、後期高齢者医療制度の対象とならない70歳以上75歳未満の方に、医療費の負担割合を示す証明書として、高齢受給者証を発行しています。
交付の時期や使用開始日
交付の要件と時期、使用できる時期は以下のとおりです。
交付要件 | 交付時期 | 使用開始日 |
---|---|---|
被保険者・被扶養者が 70歳になったとき | 70歳の誕生月 (誕生日が1日の場合は前月) | 70歳誕生日の翌月1日 (誕生日が1日の場合は誕生日当日) |
70歳以上の方が 被保険者になったとき | その都度 | 被保険者となった日 |
70歳以上の方が 被扶養者に認定されたとき | その都度 | 被扶養者と認定された日 |
規定の負担割合で受診するためには、医療機関などの窓口で高齢受給者証と健康保険証の両方を提示する必要があります。
一部負担金
高齢受給者証の一部負担金の割合は、標準報酬月額によって異なります。
70歳以上の被保険者の場合
- 標準報酬月額 28万円以上 → 3割
- 標準報酬月額 28万円未満 → 1割または2割
70歳以上の被扶養者の場合
- 被保険者が70歳未満の場合 → 1割または2割
- 標準報酬月額 28万円以上 → 3割
- 標準報酬月額 28万円未満 → 1割または2割
高年齢者にとっての社会保険
近年、平均寿命や健康寿命が延び、65歳や70歳以上になっても働く意欲のある人が増えています。国や企業も、そのような人材を活かすために働きやすい環境を整える必要があるでしょう。そのためには、健康保険や厚生年金、雇用保険といった生活に直結する制度を利用しやすくしなければなりません。
本記事では、高年齢者の社会保険に関する手続きをご紹介しました。経験豊富な貴重な人材を守るためにも、事業主や人事労務担当者はまちがいのない手続きをするよう心がけましょう。
よくある質問
70歳以上の社会保険手続きは?
厚生年金の70歳到達届の提出が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
75歳以上の社会保険手続きは?
健康保険被保険者資格喪失と後期高齢者医療制度への移行手続きが必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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