• 更新日 : 2025年10月6日

退職勧奨した際に雇用関係の助成金は受け取れる?受け取れないケースも解説

業務のパフォーマンスが低い社員がいる場合、退職勧奨を行うケースはあり得ます。しかし、退職勧奨した際に雇用関係の助成金の受給に影響があるのか、気になる人がいるのではないでしょうか。

本記事では、退職勧奨で社員が離職した場合、雇用関係の助成金は受け取れるのかを解説します。また、退職勧奨以外で助成金を受給できないケースや、退職勧奨のほかのデメリットも説明します。退職勧奨を検討している人は、ぜひ最後までご覧ください。

退職勧奨すると助成金は受給できない?

退職勧奨によって社員が離職した場合、企業は雇用関係の助成金を受け取れない可能性があります。

雇用関係の助成金制度は「雇用の安定」を主な目的としています。企業側の都合で従業員を離職させている会社に対して、雇用関係の助成金を支給することは、趣旨に反すると判断されやすいです。退職勧奨による離職は、多くの場合「会社都合退職」と判断されるため、退職勧奨によって助成金が受給できなくなる可能性があります。

助成金の受給を検討している際に退職勧奨を行う場合は、助成金に詳しい社会保険労務士に相談するなど、支給に影響がないかを確認することが大切です。

退職勧奨した場合に受給できない助成金の例

ここからは、退職勧奨で社員が離職した場合に受給できない助成金の例として、代表的なものを6つ紹介します。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するための助成金です。非正規雇用労働者の正社員化や、有期雇用労働者の賃金規定の改定などを実施した企業に支給されます。

キャリアアップ助成金を受給するには、一定の期間において雇用保険被保険者である従業員を会社都合で退職させていないことが必要です。一定の期間とは、正社員化する日の6ヶ月前から1年が経過する日までの間を指します。当該期間内に退職勧奨による離職が生じると、キャリアアップ助成金を受給できない可能性があります。

参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金は、従業員のキャリアアップを促進するための助成金で「人材育成支援コース」や「教育訓練休暇等付与コース」など複数の種類があります。従業員に対象となる職業訓練を受けさせることで、訓練費用を助成金として受給できます。

人材開発支援助成金を受給するには、あらかじめ受講させる訓練の詳細を記載した計画書の提出が必要です。その後、訓練を受講させ、終わったら支給申請書を提出することで人材開発支援助成金を受け取れます。

しかし、計画書を提出する日の6ヶ月前から支給申請までの間に、会社都合で雇用保険被保険者である従業員を解雇等している場合は支給対象になりません。そのため、訓練日程の前後で退職勧奨による離職が生じると、人材開発支援助成金を受け取れない可能性があります。

参考:人材開発支援助成金|厚生労働省

特定求職者雇用開発助成金

特定求職者雇用開発助成金は、高齢者や障がい者など、就職が困難な求職者の雇用を促進するための助成金です。ハローワークや民間の職業紹介事業者等の紹介により、特定の求職者を雇い入れた事業主に対して支給されます。

特定求職者雇用開発助成金を受給するには、対象労働者の雇入れ日の前後6ヶ月間に、事業主都合で雇用保険被保険者の解雇等をしていないことが必要です。当該期間内に退職勧奨で従業員を離職させていると、特定求職者雇用開発助成金を受け取れない可能性があります。

参考:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) |厚生労働省

業務改善助成金

業務改善助成金とは、企業の最低賃金の引き上げを支援する助成金です。設備投資によって生産性を向上させ、最低賃金を引き上げた中小企業・小規模事業者に対して支給されます。

業務改善助成金を受け取るには、最初に交付申請書や事業実施計画書を提出します。その後、最低賃金の引き上げを実施し、完了したら実績報告書を提出することで業務改善助成金を受給可能です。

しかし、所定の期間内に退職勧奨によって従業員が離職した場合は、業務改善助成金が不支給になります。「所定の期間」とは、交付申請書の提出日の前日から起算して6ヶ月前の日から、以下のどちらか遅い日までの間です。

  • 実績報告手続を行った日の前日
  • 賃金額を引き上げてから6ヶ月を経過した日

不支給になる条件が少し複雑であるため、申請する前にしっかり確認することが大切です。

参考:業務改善助成金|厚生労働省

トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金は、職業経験の不足により就職が困難な労働者について、雇用を安定させることを目的とした助成金です。就職が困難な労働者を、無期契約へ転換させることを前提に一定期間試用した企業に支給されます。

トライアル雇用助成金を受給するには、原則として労働者を3ヶ月間試用する必要があります。しかし、労働者の試用を開始した日の6ヶ月前から、トライアル雇用が終了する日までの間に会社都合退職があった場合、助成金は受給できません。退職勧奨は基本的に会社都合退職に該当するため、当該期間中に退職勧奨による離職が生じると、トライアル雇用助成金が受け取れない可能性が高いです。

参考:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)|厚生労働省

早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)

早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)は、中途採用者が早期に再就職できることを目的とした助成金です。事前に中途採用計画を提出し、一定以上の中途採用者の雇い入れを行った企業に対して支給されます。

ただし、計画期間中に雇い入れた労働者を支給決定日までに会社都合で退職させると、早期再就職支援等助成金は受け取れなくなります。たとえば、計画期間中に中途採用者を雇い入れたものの、すぐに退職勧奨を実施して離職させた場合は助成金が支給されません。

ほかの助成金よりは不支給になるケースが比較的限定されていますが、申請する際は確実に頭に入れておきましょう。

参考:早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)|厚生労働省

退職勧奨しても助成金を受給できるケース

退職勧奨によって社員が離職した場合でも、各助成金の不支給要件に該当しなければ、雇用関係の助成金を受給できる可能性があります。

たとえば、キャリアアップ助成金の不支給要件は「従業員を正社員化した日の6ヶ月前から1年が経過する日までの間」に、会社都合で従業員を退職させていることです。当該期間以外で、退職勧奨により従業員を離職させた場合は、不支給にはなりません。

退職勧奨と助成金の受給をどうしても両立させたい場合は、まず受給したい助成金の不支給要件を確認し、会社都合で退職させてはいけない期間を把握しましょう。不支給要件として定められている期間を避けて退職勧奨を実行することで、助成金を受け取れるようになります。

退職勧奨以外で助成金が受給できないケース

多くの助成金の不支給要件には「会社都合退職による従業員の離職」が含まれています。そのため、退職勧奨でなくても会社都合退職による離職が発生した場合は、助成金が受給できない可能性が高いです。

退職勧奨以外で、会社都合退職に該当するケースの例は以下の通りです。

  • 経営破綻(破産や民事再生、銀行取引停止処分など)に伴う退職
  • 経営悪化による人員整理(希望退職の募集や退職勧奨を含む)に伴う退職
  • 派遣や有期雇用の雇い止めによる退職のうち一部

また、従業員から退職を申し出た場合でも、以下のケースであれば会社都合退職と判断される可能性があります。

  • いじめやハラスメントによる退職
  • 過度な時間外労働による従業員の退職
  • 給料や残業代が支払われなかったことによる退職
  • 労働条件と労働契約との相違による退職

雇用調整に関する助成金を受給したい場合は、退職勧奨のみを避けるのではなく、会社都合退職による離職が発生しないように注意しましょう。

退職勧奨を行った場合のデメリット(助成金以外)

退職勧奨により従業員を辞めさせると、雇用関係の助成金が受給できなくなるほか、いくつかのデメリットが存在します。ここからは、退職勧奨を行った場合における、助成金に関するもの以外のデメリットを2つ紹介します。

社員から訴えられる可能性がある

社員を無理やり辞めさせようとする退職勧奨は、違法行為と判断される可能性が高いです。違法な退職勧奨の例としては以下が挙げられます。

  • 長時間の面談で、執拗に退職するよう強要する
  • 複数人で社員を取り囲み、圧迫する形で退職を迫る
  • 「退職しないと降格や異動を行う」と脅しながら退職を迫る

不当な退職勧奨によって社員を辞めさせると、後で社員から違法行為である旨を訴えられる可能性があります。訴訟を起こされた場合、企業側は対応に多大な時間を費やすほか、敗訴すると賠償金を支払う必要もあります。退職勧奨を行う場合は、違法行為に該当しないよう十分に注意してください。

ブランドイメージが悪くなる可能性がある

退職勧奨を頻繁に行っていると、自社を辞めた人の口コミから退職勧奨が多い旨が拡散され、ブランドイメージが悪くなる恐れがあります。不当な退職勧奨を行った場合は、従業員に訴えられ敗訴したことがニュースで報じられる可能性があるため、よりイメージの悪化に直結しやすいです。

自社のブランドイメージが悪化すると、顧客からの信頼が低下し、売り上げが落ち込む恐れがあります。また、ブランドイメージが悪い状態で採用活動を行っても、応募者が集まりにくい可能性があります。

退職勧奨や助成金に関するよくある質問

最後に、退職勧奨や助成金に関するよくある質問とその回答を紹介します。

退職勧奨の場合は労働者の失業保険に影響はある?

労働者が退職勧奨を受けて離職した場合、失業保険に影響があります。

失業保険は、自己都合退職した場合より、会社都合退職のほうが受給できる期間が長くなります。また、自己都合退職した場合は支給前に失業保険が支給されない1ヶ月以上の給付制限期間がありますが、会社都合退職の場合は給付制限期間がありません。そのため、会社都合退職のほうが失業保険を早く受け取れます。

本来は会社都合退職であるところを企業側が自己都合退職として処理すると、失業保険の額や受給開始時期が変わることで、労働者とトラブルになる可能性があります。退職勧奨で従業員を離職させた場合は、必ず会社都合退職として処理しましょう。

助成金を不正受給したらどうなる?

雇用関係の助成金を不正受給すると、以下のペナルティが発生します。

  • 不正に受給した助成金の全額返還
  • 不正受給した額の2割に相当する額の納付
  • 不正受給の決定日から5年間、ほかの助成金の受給禁止(全額返納されていない場合は期間が延長される可能性もある)

退職勧奨で社員を離職させたにもかかわらず、自己都合退職として処理し、雇用関係の助成金を受け取ると不正受給に該当します。長期にわたって助成金を受給できなくなるほか、企業の信頼の失墜にもつながるため、不正受給は行わないようにしましょう。

退職勧奨を減らすためのポイントは?

退職勧奨を減らすには、そもそも退職勧奨を検討するほど問題のある社員を発生させないことが大切です。退職勧奨の候補となる社員を発生させないためには、以下の対策が効果的です。

  • 採用活動の選考において、能力やコミュニケーションに問題がないか見極める
  • 新入社員の研修制度を整えて、業務の進め方をスムーズに覚えられるようにする
  • 風通しの良い職場環境を構築し、社員同士で業務の進め方を相談しやすくする

上記の対策を講じても問題のある社員がいる場合は、改善できるように粘り強く指導する必要があります。安易に退職勧奨を実施しないように心がけることで、助成金が受け取れなくなるリスクを減らせます。


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