- 更新日 : 2025年9月26日
なぜ大変?年末調整を効率化するシステム導入から電子化の方法まで解説
毎年多くの時間と手間がかかる年末調整。従業員からの書類回収や度重なる修正依頼に、頭を悩ませている担当者の方も多いのではないでしょうか。この煩雑な業務は、やり方を見直すことで大幅な効率化が可能です。
この記事では、年末調整がなぜ大変なのかという理由から、システム導入や国税庁の無料ソフト活用といった具体的な効率化の方法、スムーズに進めるためのポイントまで、わかりやすく解説します。
目次
なぜ毎年大変?年末調整の効率化が求められる理由
年末調整業務が非効率になる主な原因は、紙の書類のやり取りや頻繁な法改正への対応、そして従業員からの問い合わせ対応など様々あります。これらの課題が担当者の負担を増やし、手作業によるミスを誘発するなど、業務全体の遅延につながっているのではないでしょうか。
紙の申告書の配布・回収・チェックに時間がかかる
紙の申告書を使った手続きは、物理的な手間と時間がかかってしまいます。 全従業員分の申告書を印刷して配布し、誰が提出済みで誰が未提出なのかをリストで管理する。提出された書類に目を通し、記入漏れやハンコの押し忘れ、添付された証明書の不備などを一つひとつ確認する作業は、大変骨の折れるものではないでしょうか。
もし不備が見つかれば、本人に差し戻して修正を依頼し、再提出を待つという往復作業が発生します。これらの作業に多くの時間がとられ、本来のコア業務を圧迫してしまうのです。
頻繁な法改正への対応が必要になる
毎年のように行われる税制改正への対応も、担当者の負担を増やす一因です。 たとえば、令和7年度の税制改正では、基礎控除や給与所得控除の見直しが行われています。担当者は、こうした法改正の内容を正しく理解し、計算方法や申告書の変更点を従業員へ周知しなくてはなりません。常に最新の情報を収集し、古い知識のまま手続きを進めてしまわないよう、細心の注意が求められます。
従業員からの問い合わせ対応に追われる
申告書の書き方に関する従業員からの質問対応が、業務時間を大きく占めることも少なくありません。「この欄には何を書けばいいですか」「配偶者控除の条件は満たしていますか」など、さまざまな質問が寄せられるでしょう。とくに扶養家族や生命保険に関する控除は仕組みがわかりにくく、質問が集中しがちです。
担当者が一人ひとりに個別で対応していると、そのたびに作業が中断され、なかなか業務が進まないという状況に陥りやすくなります。
手作業による計算ミスや転記ミスが発生しやすい
どれだけ注意深く作業しても、人の手で行う以上、うっかりミスが起こる可能性があります。回収した申告書の内容を給与計算ソフトへ手で入力する際の転記ミスや、控除額の計算間違いなどがその例です。こうした小さなミスが、最終的な所得税額の計算間違いにつながり、後で修正や再計算といった余計な手戻りを発生させる原因になります。ダブルチェック体制を敷いても、ミスを完全になくすことは難しいのが実情です。
年末調整を効率化する3つの方法
年末調整の負担を軽減するには主に、年末調整システムを導入する方法、国税庁の年調ソフトを活用する方法、そして業務をアウトソーシングする方法の3つがあります。すべてを一度に変えるだけでなく、自社の状況に合わせて部分的に取り入れることも可能です。
方法1:年末調整システムを導入する
申告から計算、行政手続きまでをオンラインで一気通貫に進める方法です。従業員はスマートフォンやPCから質問に答える形式で簡単に入力でき、担当者は進捗管理や内容のチェックをシステム上で完結させられます。控除額の計算も自動で行われるため、計算ミスや転記ミスを大幅に減らせるでしょう。費用はかかりますが、最も抜本的な効率化が期待できる方法です。
方法2:国税庁の「年調ソフト」や電子データを活用する
コストをかけずに、申告書の作成や証明書の提出を部分的に電子化する方法です。国税庁は無料で「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」を提供しており、従業員はこれを使ってPCやスマホで申告書データを作成できます。
担当者はそのデータを回収することで、紙の回収や手入力の手間を省けます。また、マイナポータルと連携すれば、控除証明書を電子データで受け取り、申告書に自動で反映させることも可能です。
方法3:アウトソーシング(外部委託)を検討する
年末調整に関連する一連の業務を、専門の外部業者に委託する方法です。申告書の回収からチェック、税額計算、役所への書類提出までをすべて任せられます。社内に年末調整の詳しい担当者がいない場合や、担当者のリソースをコア業務に集中させたい場合に有効な選択肢です。
コストは発生しますが、法改正への対応なども含めて専門家に任せられる安心感があります。
システム導入による年末調整の効率化
年末調整システムを導入することは、担当者と従業員の双方に大きなメリットをもたらします。ペーパーレス化による業務削減だけでなく、入力補助機能などが従業員の申告作業を助け、結果的に担当者の負担軽減につながるでしょう。
担当者側のメリット
システムを導入することで、担当者は年末調整に関する多くの手作業から解放されます。進捗状況の自動管理機能を使えば、誰が未提出かを一目で把握でき、催促もシステムから一括で送信できます。また、入力されたデータはシステムが自動でチェックするため、記入漏れや計算ミスが減り、確認作業の時間を大幅に短縮できるでしょう。ペーパーレス化により、書類の印刷、配布、保管といったコストや手間も削減されます。
従業員側のメリット
従業員にとっても、年末調整の手間が大きく軽減されます。 スマートフォンやPCがあれば、通勤中や自宅など、場所や時間を選ばずに申告作業を進められます。前年のデータが自動で引き継がれたり、生命保険などの控除証明書データを連携できたりするため、面倒な入力作業や書類探しが不要になります。わかりやすいガイドに従って進めるだけで申告が完了するため、担当者への質問も減るでしょう。
年末調整システムを選ぶ際のポイント
自社に合ったシステムを選ぶためには、いくつかの点を比較検討することが大切です。まず、現在使用している給与計算ソフトや労務管理ソフトとスムーズに連携できるかは、必ず確認しましょう。また、操作画面が担当者と従業員の双方にとって直感的でわかりやすいかどうかも重要です。導入時の設定サポートや、繁忙期に質問できるヘルプデスクなど、サポート体制の充実度も確認しておくと安心です。もちろん、個人情報を扱うため、セキュリティ対策が万全であることも選定の必須条件といえます。
国税庁の無料ソフトで始める年末調整の効率化
コストをかけずに効率化を始めたい場合、国税庁が提供するソフトウェアの活用が選択肢になります。無料で利用できる一方、民間システムとの違いや機能の範囲を理解しておくことが重要です。
国税庁の「年調ソフト」でできること
国税庁の「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」は、従業員が自身のPCやスマートフォンで年末調整の申告書データを作成するためのツールです。マイナポータルと連携することで、保険会社などから交付された控除証明書のデータを自動で取り込み、控除額を計算して申告書に反映させられます。
作成したデータは、勤務先に電子データとして提出できるため、従業員は書類を手書きする手間が省け、担当者は書類の回収や内容の転記作業が不要になります。
「年調ソフト」のメリットと注意点
最大のメリットは、無料で利用できる点でしょう。また、国が提供しているため、税制改正があった場合でも確実に対応した最新版が提供される安心感があります。 一方で、注意点もあります。このソフトはあくまで申告書データを作成するためのものであり、給与データと連携した年税額の計算や、源泉徴収票の作成機能はありません。また、操作に関する不明点を気軽に質問できるような、民間企業の手厚いサポート体制は期待できない点もふまえておく必要があります。
民間の年末調整システムとの違い
民間システムとの最も大きな違いは、業務全体のカバー範囲です。民間システムは、申告書の回収から年税額の自動計算、給与システムとの連携、源泉徴収票の発行まで、年末調整業務全体を一気通貫で効率化できるように設計されています。 一方、国税庁の年調ソフトは、申告書の作成と出力という部分的な作業を電子化するツールです。どちらが合っているかは、どこまでの業務を効率化したいかによって変わってくるでしょう。
「年調ソフト」のダウンロード方法
年調ソフトは、国税庁のホームページからいつでもダウンロードできます。PCにインストールするデスクトップ版のほか、スマートフォンやタブレットで利用できるアプリ版も用意されています。利用環境に合わせて選択しましょう。
スマホやWeb入力で年末調整の効率化を進める
従業員が申告作業を簡単に行える環境を整えることは、問い合わせの削減や提出の迅速化につながり、結果として担当者の業務効率化に直結します。
スマホやPCで申告する
従業員にとって、申告作業がオンラインで完結するメリットは大きいものです。時間や場所を問われずに、自分の都合のよいタイミングで作業を進められます。また、保険料控除証明書などをデータ連携できれば、年末に送られてくる大量の書類の中から必要なものを探し出す手間もかかりません。多くのシステムでは、前年分のデータが引き継がれるため、変更点のみを修正すればよく、入力負担が大幅に軽くなります。
Web入力の基本的な流れ
システムによって詳細は異なりますが、Web入力の基本的な流れは共通しています。多くの場合、まず会社から案内されたURLにアクセスしてログインします。その後は、画面の案内に従って、扶養家族の状況や加入している保険の種類といった質問に答えていくだけです。必要な控除証明書は、データをアップロードするか、マイナポータルなどと連携して情報を読み込みます。すべての入力が終わったら、内容を確認して提出ボタンを押せば完了です。
従業員への案内で気をつけること
Web入力へ移行する際は、従業員への丁寧な案内が成功の鍵です。誰にでもわかるような、図入りのマニュアルを準備すると親切でしょう。また、導入初年度は操作に関する問い合わせが増えることが予想されるため、質問を受け付ける窓口や担当者を決めて一本化しておくと、混乱を防げます。提出期限や操作方法の案内は、一度だけでなく、複数回にわたって周知することも大切です。
自社に合った方法で年末調整の効率化を実現する
ここまで見てきたように、年末調整を効率化するには、年末調整システムの導入、国税庁ソフトの活用、アウトソーシングといった、さまざまな方法があります。それぞれのメリットや特徴は異なり、どの方法が最適かは企業の規模や状況によって変わります。たとえば、従業員数が多く、抜本的な業務改善を目指すのであればシステム導入が効果的でしょう。
一方、コストをかけずに始めたい場合は、国税庁のソフトや控除証明書のデータ連携から試すのがよいかもしれません。自社の課題を明確にし、最も合った手段を選ぶことが、年末調整業務の負担を大きく軽減させることにつながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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