- 更新日 : 2025年9月26日
辞令の書き方を徹底解説!すぐに使えるシーン別テンプレート集
企業の重要な人事命令である「辞令」。いざ作成するとなると、書き方の基本ルールや記載すべき項目、法的な効力など、気になる点が多いのではないでしょうか。とくに人事異動や役職の変更は、従業員のキャリアに大きな影響をあたえるため、正確かつ丁寧な対応が求められます。
この記事では、辞令の基本的な書き方から、異動・昇進・採用といったシーン別の具体的な文例、そして内示から交付までの流れや法的な注意点まで、人事労務担当者が知っておくべき知識をわかりやすく解説します。すぐに使えるテンプレートも用意していますので、ぜひ実務にお役立てください。
目次
辞令の書き方の基本【必須項目と書式のルール】
辞令を正しく作成するためには、まず基本的な型をおさえることが大切です。ここでは、辞令に必ず記載すべき項目や、縦書き・横書きの選び方、敬称のルールといった、作成の基礎となる知識を解説します。
辞令に記載すべき8つの必須項目
辞令には、誰に、いつから、どのような命令を出すのかを明確に伝えるために、以下の項目を盛り込むのが一般的です。抜け漏れがないように確認しましょう。
- 文書の発行日: 辞令を交付する日付
- 宛名: 辞令を受け取る従業員の氏名と所属部署
- 役職名・氏名: 発令前の現在の役職と氏名
- 主文: 人事異動の具体的な内容を簡潔に記載。「〇〇を命ずる」「〇〇に任命する」といった形式が一般的。
- 発令日: 命令が有効になる日付。通常、「令和〇年〇月〇日をもって」と表現されます。
- 発行者: 企業の代表者名と役職(代表取締役社長など)
- 会社名: 正式名称
- 社印: 会社の角印または丸印(法的な義務はないが、押印が通例)
縦書きと横書きの選び方
辞令の書式に厳密な決まりはありませんが、一般的に縦書きがより丁寧で正式な形式とされています。とくに昇進や役員就任といった重要な辞令では、縦書きを選ぶとよいでしょう。一方で、近年のビジネス文書では横書きも広く用いられており、とくにメールで交付する場合や、他の書類と形式を統一したい場合には横書きが適しています。社内でフォーマットが決められている場合は、それに従いましょう。
- 漢数字(一、二、三)を使用する。
- 役職名や氏名、日付などの配置バランスを整える。
- 算用数字(1, 2, 3)を使用する。
- 左揃えで各項目を配置するのが一般的。
敬称や文体のルール
辞令の宛名に用いる敬称は、一般的に「殿」が使われます。社長から従業員へといったように、目上から目下への文書で使われるのが通例です。「様」も使用できますが、「殿」の方がよりフォーマルな印象をあたえます。
文体は、命令形である「~を命ずる」「~に任命する」といった簡潔で格調高い表現を用います。句読点(「、」や「。」)は、使用しないのが伝統的な慣わしです。これは、もともと毛筆で書かれていた賞状や感謝状の名残とされています。ただし、現代では読みやすさを重視して句読点を用いる企業も増えてきています。
【シーン別】辞令の書き方と例文・テンプレート
辞令は、その目的によって記載する内容が異なります。ここでは、採用や異動、昇進といった人事のさまざまな場面で使える辞令の書き方と文例を紹介します。自社の状況に合わせてご活用ください。
入社の辞令
新規採用者に対し、正式に採用したことを通知するための辞令です。入社年月日と配属部署を明確に記載し、今後の活躍を期待する歓迎の意が伝わるように書きます。
採用の辞令
新入社員に対して、正式に採用したことと配属先を通知するための辞令です。入社への期待感が伝わるよう、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。
【例文】
〇〇部
山田 太郎 殿
令和〇年〇月〇日付を以て当社社員に採用し 以下のとおり勤務を命ずる
- 配属先 営業部
- 勤務地 本社
- 試用期間 採用日より3ヶ月間
以上
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役社長 鈴木 一郎
給与辞令
従業員の給与額が決定・変更された際に通知するための辞令です。基本給や各種手当の内訳を具体的に記載し、どの給与規定にもとづくものかを明確にします。
昇給辞令
従業員の給与(基本給)が上がる「昇給」を通知するための辞令です。「給与辞令」と同様に、変更前後の金額や改定日を正確に記載します。
昇進辞令
従業員の役職が上位になる「昇進」(例:係長から課長へ)を命じるための辞令です。発令日とともに新しい役職名を正確に記載します。
昇格辞令
社内の資格等級制度において、従業員の等級が上がる「昇格」を命じるための辞令です。役職の変更を伴わない場合もあるため、新しい等級やそれに伴う給与の号俸などを明確に記載します。
出向辞令
従業員が自社に在籍したまま、子会社や関連会社へ勤務する「出向」を命じるための辞令です。出向先の会社名や出向期間を正確に記載します。労働条件に関する取り決めも明記すると、より丁寧な通知になります。
転属辞令
従業員の所属部署や役職が変更となる「転属」を命じるための辞令です。異動前と異動後の所属・役職、そして発令日を正確に記載します。
兼務辞令
従業員が本来の役職に加えて、別の役職や職務を兼任する「兼務」を命じるための辞令です。「本務」と「兼務」の役職や責任範囲を書き分け、兼務の期間も記載します。
併任辞令
従業員が本来の役職に加え、主に関連会社や子会社の役職などを兼ねる「併任」を命じるための辞令です。「兼務」とほぼ同義となりますが、法人をまたぐ場合など、使い分ける企業も存在します。
降格人事辞令
従業員の役職や等級を引き下げる「降格」を命じる辞令です。降格の理由となる就業規則の条項など、客観的な根拠を明確に記載します。
退職辞令
従業員からの申し出を受け、会社として正式に退職を承認したことを通知するための辞令です。「願いにより(自己都合)」「定年により」など退職理由を記載します。これまでの貢献への感謝を伝える、丁寧な書き方が望ましいです。
辞令の内示から交付までの流れ
人事異動を円滑に進めるには、まず「内示」で従業員に内容を伝え、その後「辞令」で正式に発令するという手順を踏みます。内示は非公式な事前通知であり、本人に心の準備を促し、円滑な引き継ぎを進める役割を果たします。一方、辞令は会社の決定を正式に伝える命令書であり、法的にも効力を持つ文書です。
この流れをきちんと踏むことで、従業員の不安を軽減し、組織としてスムーズな移行が可能になります。辞令は単に作成して渡せばよいものではなく、内示から交付、さらに社内への公表までを含めた適切な手順を踏むことが、配慮ある人事運営につながります。
ステップ1:辞令内容の決定
まず、経営方針や事業計画にもとづき、人事異動の対象者、異動先、発令日などの具体的な内容を決定します。この段階では、情報は経営層や人事部に限定し、厳重に管理することが必要です。
ステップ2:内示の実施
内示とは、辞令を正式に交付する前に、対象となる従業員本人に非公式に内容を伝えることです。法的な義務はありませんが、従業員が異動に向けて心の準備や引き継ぎの準備をするために、一般的に発令日の1ヶ月前から2週間前までに行われます。
- 原則として直属の上司から、一対一の面談形式で伝えます。
- 異動の理由や期待する役割を丁寧に説明し、本人の意思を確認します。
- 内示の段階では、正式な発表まで情報を口外しないよう伝えます。
ステップ3:辞令書の作成
内示を経て、正式な辞令書を作成します。前述した必須項目を網羅し、誤字脱字がないか、役職名や日付は正確かなどを複数人で確認する体制が望ましいでしょう。
ステップ4:辞令の交付
発令日に、辞令書を本人に手渡します。交付式を執り行う企業もありますが、対象者が少ない場合は、社長や役員、人事部長などが直接手渡すのが一般的です。本人のモチベーションを高めるためにも、激励の言葉を添えることが大切です。
ステップ5:社内への公表
辞令の交付後、社内報や掲示板、グループウェアなどを通じて、全従業員に人事異動の情報を公表します。これにより、組織全体が新しい体制を認識し、スムーズに業務を遂行できるようになります。
辞令の書き方で失敗しないための法的効力と注意点
辞令は企業の重要な意思表示であり、その内容には法的な意味合いが含まれます。ここでは、辞令の法的な効力や、交付する際に注意すべきコンプライアンスについて解説します。
辞令の法的な効力とは?
辞令は、企業が従業員に対して人事に関する命令(業務命令)を行うための正式な文書です。労働契約にもとづき、企業は従業員に対して配転や異動を命じる権利(配転命令権)を有しており、辞令はこれを具体的に示すものです。
従業員は、就業規則や労働契約に「業務の都合により、異動を命じることがある」といった包括的な同意がある場合、原則として正当な理由なく辞令を拒否することはできません。正当な理由とは、「著しい不利益(例:通勤が不可能になる、家族の介護に支障が出るなど)」や「不当な動機(例:嫌がらせ目的の異動)」がある場合を指します。
口頭の内示と書面の辞令の関係
口頭での内示だけでも、法的には業務命令として成立する場合があります。しかし、口頭では「言った、言わない」のトラブルに発展しやすく、命令の内容が不明確になりがちです。そのため、辞令書という書面で交付することにより、命令の内容を明確にし、証拠としての役割も果たします。書面で交付することが、労使双方にとって健全な関係を築く上で重要です。
辞令を取り消すことはできるのか
一度交付した辞令を企業側の都合で一方的に取り消すことは、原則として困難です。辞令によって従業員は新しい労働条件に同意したと見なされるため、その内容を変更するには、再度従業員の同意を得る必要があります。
ただし、従業員側に重大な経歴詐称があった場合など、例外的なケースでは取り消しが認められることもあります。トラブルを避けるためにも、辞令を交付する前には内容を慎重に検討することが不可欠です。
交付時に気をつけたいコンプライアンス
辞令を交付する際は、対象者のプライバシーに配慮し、差別的な取り扱いにならないよう注意が必要です。たとえば、特定の性別や年齢を理由とした不利益な異動は、男女雇用機会均等法などに抵触する可能性があります。
人事異動は、あくまでも企業の合理的な経営判断にもとづいて行われるべきであり、その目的を本人に誠実に説明することが、コンプライアンスの観点からも求められます。
辞令の書き方に関するよくある質問
ここでは、辞令の作成や交付に関して、人事担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 辞令の交付は法律で義務付けられていますか?
A1. 辞令書の交付は、法律で義務付けられているわけではありません。口頭でも業務命令は成立します。しかし、命令の内容を明確にし、後のトラブルを防ぐという観点から、ほとんどの企業が書面で辞令を交付しています。ただし、労働条件の重要な変更がある場合は、後のトラブルを防ぐために書面で通知することが推奨されます。
Q2. 社印の押印は必須ですか?
A2. 押印も法律上の義務ではありません。しかし、社印を押すことで、その文書が会社の正式な意思決定にもとづくものであることを証明し、文書の信頼性を高める効果があります。特別な理由がない限り、押印するのが一般的です。
Q3. 辞令と「内示」「発令」の違いは何ですか?
A3. それぞれ以下のような違いがあります。
- 内示:正式な発表の前に、本人にだけ非公式に人事異動の内容を伝えることです。
- 辞令:会社が従業員に対して、人事に関する命令を正式に通知する文書そのものを指します。
- 発令:辞令を正式に効力が発生する状態にすること、またはその行為を指します。「〇月〇日付で発令する」のように使います。
Q4. パートやアルバイトにも辞令は必要ですか?
A4. 雇用形態にかかわらず、労働条件(勤務地、職務内容、役職など)に変更がある場合は、トラブル防止のために辞令やそれに準ずる通知書を交付することが望ましいです。契約内容の変更点を書面で明確にすることで、双方の認識のずれを防ぎます。
正しい辞令の書き方が従業員との信頼関係を築く
辞令は、単なる事務手続きではなく、企業の意思を従業員に伝える重要な人事文書です。正しい形式で作成し、適切な手順を踏んで交付することは、従業員の安心感やモチベーションを高め、組織の信頼性を支える基盤となります。とくに法的効力や労務リスクにも直結するため、必須項目の正確な記載や労働条件通知書との区別、コンプライアンスへの配慮は欠かせません。辞令を単なる形式的なものとせず、従業員とのコミュニケーションツールとして丁寧に運用することで、健全で持続可能な組織づくりにつながるでしょう。
関連:辞令とは?拒否したら?意味や法的効力、テンプレートを基に書き方を解説
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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