- 更新日 : 2025年9月26日
退職者のマイナンバーの保管期間は?書類による違いや削除・廃棄の方法
退職した従業員のマイナンバーは、退職後も一定期間保管する義務があります。しかし、「いつまで保管すればよいのか」「保管期間を過ぎたらどうすればいいのか」といった点で、対応に悩む人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
安易に廃棄すると法律違反に、逆に不必要に長く保管し続けると情報漏えいのリスクにつながります。この記事では、退職者のマイナンバーの適切な保管期間、法律で定められた削除・廃棄の義務と具体的な方法、そして管理するうえでの注意点まで、わかりやすく解説します。
目次
退職者のマイナンバー 保管期間の基本ルール
退職した従業員のマイナンバーは、関連する法律で定められた書類の保存期間(最長で7年)が終了するまで保管する義務があります。退職後すぐに廃棄するのではなく、税や社会保険などの行政手続きで必要となる期間は、適切に保管し続けなければなりません。
マイナンバー関連書類の法定保存期間
マイナンバーの保管期間は、マイナンバーそのものに定められているわけではなく、マイナンバーが記載されている書類ごとに定められた法律(税法や労働保険諸法令など)に基づきます。したがって、どの書類にマイナンバーを記載したかによって、保管すべき期間が変わります。
主な書類の法定保存期間は以下のとおりです。
書類の種類 | 関連する法律 | 保存期間 |
---|---|---|
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 所得税法施行規則 | 提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間 |
雇用保険の被保険者に関する書類 (雇用保険被保険者資格取得確認通知書など) | 雇用保険法 | 従業員の退職または死亡の日から4年間 |
健康保険・厚生年金保険に関する書類 (資格取得確認通知書、資格喪失確認通知書など) | 健康保険法施行規則・厚生年金保険法施行規則 | 従業員の退職または死亡の日から2年間 |
出典:No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間|国税庁
各種届書等の保存年限について|厚生労働省
標準文書保存期間基準(保存期間表) 労働基準局
複数の保存期間がある場合は「最も長い期間」に合わせる
一人の退職者に対して、複数の書類でマイナンバーを扱っている場合、それぞれの書類で法定保存期間が異なります。実務上は、個別に管理するのは煩雑で、誤って廃棄してしまうリスクも考えられます。
そのため、関連書類の中で最も長い保存期間に合わせて、一括で管理するのが安全かつ効率的です。たとえば、控除申告書に関わるマイナンバーの保管期間は7年であるため、他の書類(雇用保険関連など)もこれに合わせて「7年」保管すると定めている企業が多く見られます。
なぜ退職後も一定期間保管する必要があるのか
退職後もマイナンバーの保管が必要な理由は、税務署やハローワーク、年金事務所などへの行政手続き、すなわち「個人番号関係事務」を処理する必要があるためです。
たとえば、税務調査で過去の税務書類の確認が必要になったり、退職者が後から雇用保険の手続きで書類の再発行を求めてきたりするケースが考えられます。これらの事態に適切に対応できるよう、法律は企業に対して一定期間の書類保存を義務付けているのです。
保管期間が過ぎた退職者のマイナンバーを廃棄・削除する方法
法定保存期間が経過し、個人番号関係事務を処理する必要がなくなったマイナンバーは、できるだけ速やかに廃棄または削除しなければなりません。これは努力義務ではなく、個人番号法および関連ガイドラインで定められた「義務」です。
紙媒体の書類を廃棄する方法
マイナンバーが記載された紙の書類は、復元できない状態にして廃棄することが求められます。第三者が容易に情報を読み取れないように、確実な方法を選びましょう。
- シュレッダーにかける:
マイナンバーが判読できないように、できるだけ細かく裁断できるシュレッダー(クロスカットやマイクロカット方式など)を使用します。 - 焼却または溶解:
大量の書類を処理する場合は、専門の廃棄物処理業者に依頼し、焼却や溶解といった方法で物理的に処分するのが安全です。
デジタルデータのファイルを削除する方法
パソコンやサーバーに保管されているマイナンバーのデータファイルは、ごみ箱に入れて空にするだけでは不十分です。専用のソフトウェアを使ったり、物理的に破壊したりして、復元が困難な状態にする必要があります。
- データ削除ソフトウェアを利用する:
ファイルを完全に削除するための専用ソフトウェアを使用し、データを復元できないようにします。 - 物理的な破壊:
マイナンバーが保存されているハードディスクやUSBメモリなどの記憶媒体を、ドリルで穴を開けたり、ハンマーで破壊したりして、物理的に使用できなくします。
廃棄を外部業者に委託する場合
廃棄や削除の作業を外部の業者に委託することも可能です。その場合、個人番号法に基づき、委託者である企業には委託先に対する「監督責任」が生じます。委託先がマイナンバーを適切に取り扱う能力があるかを事前に確認し、契約で安全管理措置を定める必要があります。また、確実に廃棄したことを証明する「廃棄証明書」を発行してもらうと、より安全でしょう。
退職者のマイナンバー廃棄・削除における注意点
マイナンバーの廃棄・削除は、ただ捨てればよいというものではありません。安全管理の観点から、いくつかの注意すべきポイントがあります。これらをおろそかにすると、思わぬトラブルに発展する可能性も考えられます。
廃棄・削除した記録を残す
マイナンバーをいつ、誰が、どのように廃棄したかという記録を残しておくことが、個人情報保護委員会のガイドラインでも望ましいとされています。これは、企業が安全管理措置を適切に履行したことを、後から説明できるようにするためです。
廃棄記録には、以下の項目を記載しておくとよいでしょう。
- 廃棄した書類の名称
- 対象者の氏名
- 廃棄した年月日
- 廃棄担当者の氏名
- 廃棄方法(例:「シュレッダーにて裁断」「データ削除ソフトにて削除」など)
マイナンバーのコピーやメモも対象
廃棄・削除の対象となるのは、原本の書類やデータファイルだけではありません。業務の過程で作成したマイナンバーのコピーや、一時的に書き留めたメモなどもすべて対象に含まれます。これらの書類も見落とすことなく、法定保存期間が過ぎたら確実に廃棄する必要があります。
マイナンバー部分のみをマスキングする方法
書類自体は法定保存期間を超えても保管しておきたいが、マイナンバーは廃棄したい、というケースもあるでしょう。そのような場合は、書類のマイナンバーが記載されている部分を、復元できないように黒く塗りつぶす(マスキングする)といった対応も認められています。ただし、マスキングした部分から番号が判読できないよう、確実な方法で行う必要があります。
退職者のマイナンバー管理に関するよくある質問(Q&A)
ここでは、退職者のマイナンバー管理において、実務担当者が判断に迷いやすい点についてQ&A形式で解説します。
Q1. 退職した従業員の「扶養家族」のマイナンバーはどうすればよいですか?
退職した従業員本人のマイナンバーと同様に、扶養家族のマイナンバーも関連書類の法定保存期間が満了するまで保管し、期間経過後に速やかに廃棄・削除する必要があります。たとえば、扶養控除等申告書に記載された扶養家族のマイナンバーは、従業員本人のものとあわせて7年間保管することになります。
Q2. 退職者本人から「すぐに削除してほしい」と要求されたら?
本人から削除の要求があったとしても、法定保存期間が満了するまでは、企業は法律に基づきマイナンバーを保管する義務があります。そのため、「法律で定められた期間(最長7年)は保管する必要があるため、すぐには削除できません」と丁寧に説明し、理解を求めることになります。
Q3. マイナンバーを提出してもらえないまま退職した場合は?
マイナンバーの提出は、税や社会保険の手続きにおいて法律で定められた義務ですが、従業員から提出を拒否されるケースも考えられます。その場合、企業としては提出を求めた経過を記録として残しておくことが重要です。書類の提出先にマイナンバーが空欄の理由を問われた際に、単なる怠慢ではないことを説明できるようにするためです。提出がないまま退職した場合、当然ながら保管・廃棄の義務は生じません。
退職者のマイナンバーを効率的に管理・廃棄する方法
退職者のマイナンバー管理は、手作業で行うと非常に煩雑で、ミスも起こりがちです。とくに、従業員の入退社が多い企業にとっては、大きな負担となるでしょう。業務の効率化と安全性の向上の両立をはかる方法を紹介します。
人事労務システムやマイナンバー管理システムを活用する
マイナンバーの管理に対応した人事労務システムや専用の管理システムを導入することで、管理業務を大幅に効率化できます。
これらのシステムには、以下のような機能が備わっていることが多いです。
- アクセス制御:
権限のある担当者しかマイナンバー情報にアクセスできないように設定できます。 - 操作ログの自動記録:
誰がいつマイナンバーを閲覧・利用したかのログが自動で記録され、不正な利用をけん制します。 - 廃棄対象者の自動抽出:
保管期間が過ぎた退職者を自動でリストアップし、削除漏れを防ぎます。 - 一括削除機能:
対象者のデータを安全かつ一括で削除できます。
Excelなどでの手動管理のリスク
Excelなどの表計算ソフトでマイナンバーを管理している企業もあるかもしれませんが、これにはいくつかのリスクがともないます。
- セキュリティのリスク:
パスワードを設定していても、ファイルのコピーや持ち出しが容易で、情報漏えいの危険性が高まります。 - 管理の煩雑さ:
退職者ごとに保管期間を管理し、期限が来たら手動で削除する必要があり、担当者の負担が大きく、削除漏れなどのヒューマンエラーが起こりやすくなります。
安全かつ効率的な管理体制を築くためには、専用システムの導入を検討することが望ましいでしょう。
退職者マイナンバーの正しい保管と廃棄を徹底する
退職者のマイナンバーは、法律で定められた書類ごとの保存期間に従って管理する必要があります。最長で7年間の保存義務があり、保存期間が経過すれば速やかに廃棄または削除しなければなりません。
廃棄方法は紙であれば裁断や焼却、データなら削除ソフトや物理破壊といった方法が求められます。また、コピーやメモなども対象となるため、漏れのない管理が不可欠です。さらに、廃棄記録を残すことや、システムを活用した効率的な運用も重要です。
人事労務システムなどを活用しながら、社内の管理体制を今一度見直し、適正な運用を心がけることが、企業の信頼を守ることにつながるでしょう。
関連:マイナンバーは外国人に対してどのような影響があるか
関連:マイナンバーの収集方法 担当者が知っておくべき3つのポイント
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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