- 更新日 : 2025年9月22日
割増賃金とは?計算方法や60時間超の割増率、未払い時の対処法までわかりやすく解説
従業員に法定労働時間を超えて労働させた場合や、法定休日に労働させた場合、企業は通常よりも高い率で計算した割増賃金を支払う必要があります。これは労働基準法で定められた企業の義務であり、労働者の正当な権利です。
2023年4月からは、中小企業においても月60時間を超える時間外労働の割増率が引き上げられました。この記事では、割増賃金の基礎から具体的な計算方法、最新の法改正のポイントまでわかりやすく解説します。
目次
割増賃金とは
割増賃金とは、法律で定められた労働時間(法定労働時間:1日8時間・週40時間)を超えて労働させたり、深夜(原則 22時~翌5時)や法定休日に労働させたりした場合に、通常の賃金に上乗せして支払わなければならない手当のことです。
割増賃金は、時間外労働などを抑制し、労働者の生活時間を確保することを目的としています。正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーなど、すべての労働者が対象です。
参考:法定労働時間と割増賃金について教えてください。|厚生労働省
割増賃金が発生するケース
割増賃金は、大きく分けて時間外労働、休日労働、深夜労働の3つのケースで発生します。
時間外労働
法定労働時間である1日8時間・週40時間を超えて行われた労働が時間外労働です。これには、「所定労働時間が7時間の場合に1時間残業した」といった法定時間内の残業は含まれません。あくまで法定の時間を超えた部分に対して、割増賃金の支払い義務が生じます。
休日労働
労働基準法では、使用者は労働者に毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日(法定休日)を与えなければならないと定めています。この法定休日に労働させた場合が休日労働にあたり、割増賃金の対象となります。会社が定めた所定休日(土日祝など)の労働が、必ずしも休日労働になるとは限りません。
深夜労働
午後10時から翌日の午前5時までに行われる業務は、原則として深夜労働と呼ばれます。この時間帯の労働には、所定労働時間内であっても割増賃金の支払いが必要です。例えば、夜勤シフトでこの時間帯に勤務する場合などが該当します。
割増賃金の種類と割増率一覧
割増賃金には、労働の種類に応じて主に3つの区分があり、それぞれ上乗せされる率(割増率)が異なります。
| 労働の種類 | 条件 | 割増率 |
|---|---|---|
| 時間外労働(残業) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働 | 25%以上 |
| 時間外労働が月60時間を超えた部分 | 50%以上 | |
| 休日労働 | 法定休日(週1日)の労働 | 35%以上 |
| 深夜労働 | 午後10時から午前5時までの労働 | 25%以上 |
※月60時間超の割増率は、2023年4月1日から中小企業にも適用されています。
これらの割増賃金は、条件が重なることでさらに割増率が上がります。
- 時間外労働 + 深夜労働:25% + 25% = 50%以上
- 休日労働 + 深夜労働:35% + 25% = 60%以上
なお、休日労働と時間外労働の割増が重なることはありません。法定休日に働いた場合は、何時間働いても割増率は35%のままです(深夜に及んだ場合は、その時間帯について深夜割増が加算されます)。
割増賃金の計算方法
割増賃金の計算は、以下の式で行います。
1時間あたりの賃金は、月給制の場合、月給から法律で定められた一部の手当を除いた金額を、1ヶ月の平均所定労働時間で割って算出します。
除外できる手当には、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われる賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金があります。計算が複雑なため、給与明細と照らし合わせながら確認することが大切です。
割増賃金の計算シミュレーション
具体的な例で計算方法を見てみましょう。複雑に感じる場合は、計算の仕組みを理解する目的でご覧ください。市販の給与計算ソフトや計算ツールを利用する際も、この基本を知っていると安心です。
- 月給:25万円(割増賃金の計算から除外される手当は無いものとする)
- 1ヶ月の平均所定労働時間:160時間
- 1時間あたりの賃金
250,000円 ÷ 160時間 = 1,563円(端数切り上げ) - ケース別の割増賃金
- 時間外労働を10時間した場合(深夜労働なし)
1,563円 × 1.25(割増率25%) × 10時間 = 19,538円 - 深夜労働を5時間した場合(時間外労働なし)
1,563円 × 0.25(割増率25%) × 5時間 = 1,954円
※この場合、通常の賃金に加えて1,954円が割増分として支払われます。
- 時間外労働を10時間した場合(深夜労働なし)
このように、自身の1時間あたりの賃金を算出し、労働時間と割増率を掛けることで、おおよその金額を把握できます。
割増賃金の対象とならないケース
労働基準法では、一部の労働者について、その働き方の特性から時間外労働・休日労働の割増賃金の規定が適用されないと定めています。
ただし、重要な点として、これらの適用除外者であっても深夜労働(午後10時~午前5時)の割増賃金(25%以上)は支払われなければなりません。なお、高度プロフェッショナル制度の適用者については、深夜労働に対する割増も含めて適用されません。
管理監督者
経営者と一体的な立場で、労働時間などの裁量を持ち、地位にふさわしい待遇を受けている労働者のことです。部長や工場長といった役職名だけでなく、以下の実態から総合的に判断されます。
- 経営方針の決定に関わっているか
- 出退勤の時間を自分で決められるか
- 部下の採用や人事評価に関する権限があるか
- 役職に見合った賃金や手当が支払われているか
役職名がついているだけで、これらの権限や待遇がない場合は名ばかり管理職と見なされ、割増賃金の支払い対象となる可能性があります。
その他の適用除外者
- 機密の事務を取り扱う者
- 監視または断続的労働に従事する者で、労働基準監督署の許可を得た者
- 農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事する者
割増賃金の支払いに代わる代替休暇制度
月60時間を超える時間外労働に対しては、割増率が50%以上に引き上げられますが、この引き上げ分(50% – 25% = 25%)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(代替休暇)を付与することが可能です。
この制度を導入するには、労働者の過半数で組織する労働組合などとの間で労使協定を結ぶ必要があります。代替休暇を取得するか、割増賃金を受け取るかは、最終的に労働者自身が選択できます。
割増賃金が支払われない場合の罰則
会社が正当な理由なく割増賃金を支払わないことは、労働基準法違反です。違反した使用者には、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。これは、割増賃金の支払いが法律上の義務であることを強く示しています。
割増賃金が支払われない場合の対処法
万が一、割増賃金が支払われない場合は、泣き寝入りせずに行動を起こしましょう。
ステップ1. 証拠を集める
労働時間を客観的に証明できる証拠を確保することが最も重要です。
- タイムカード、勤怠管理システムの記録
- 業務日報、PCのログイン・ログオフ記録
- 業務に関するメールやチャットの送受信履歴
- 会社の入退館記録
- 給与明細
- 日々の始業・終業時刻や業務内容のメモ
ステップ2. 会社に確認・請求する
まずは人事部や上司に計算根拠などを確認します。改善されない場合は、内容証明郵便で請求書を送付し、請求の事実を公的に記録します。
ステップ3. 外部の専門機関に相談する
会社が応じない場合は、第三者の力を借りましょう。
- 労働基準監督署
労働基準法違反について調査や是正勧告を行ってくれる行政機関です。相談は無料です。 - 弁護士
あなたの代理人として、交渉から労働審判・訴訟といった法的手続きまで一任できます。最も強力な解決手段です。
割増賃金(残業代)を請求する権利には時効があります。2020年改正労基法115条で時効は原則5年に延長されましたが、経過措置として当面の間は3年とされています。実務上は支払日から3年以内が請求上限です。したがって、未払い賃金を請求する場合は、支払日から3年以内に行動することが安全と言えます。
中小企業における月60時間超の時間外労働への対応
労働基準法の改正により、2023年4月1日から、中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、25%から50%へと引き上げられました。これは大企業には既に適用されていたもので、この改正で全ての企業が対象となります。
この改正により、長時間労働の抑制が一層求められることになります。企業側は、従業員の労働時間を正確に把握し、60時間を超える部分については50%以上の割増率で賃金を支払う必要があります。労働者側も、自身の残業時間とそれに見合う賃金が支払われているか、より注意深く確認することが重要です。
割増賃金に関してよくある質問
割増賃金には、個別の状況によって判断が難しいケースもあります。ここでは、よくある疑問について解説します。
アルバイトやパートタイマーにも割増賃金は適用される?
はい、適用されます。割増賃金のルールは、雇用形態に関わらずすべての労働者に適用されます。したがって、アルバイトやパートタイマーであっても、法定労働時間を超えて働いた場合や深夜に働いた場合には、割増賃金が支払われなければなりません。
副業の場合の割増賃金はどうなる?
労働基準法38条により、複数事業場の労働時間は通算されます。この場合に割増賃金を支払う義務を負うのは、原則として後に雇用契約を締結した企業です。企業側には、労働者からの情報提供を受けたうえで法定労働時間の上限を超えないよう管理する義務があります。
固定残業代が支払われていれば、追加の残業代は発生しない?
いいえ、発生します。固定残業代制度は、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払うものですが、その設定時間を超えて残業した分については、別途追加で割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金に関する公的情報
割増賃金に関する最も信頼できる情報は、法律を所管する厚生労働省のウェブサイトや資料で確認できます。法改正の内容や詳細なQ&Aも掲載されているため、疑問がある場合はまず公的な情報を参照することが正確な理解につながります。
厚生労働省のウェブサイトでは、割増賃金について解説したパンフレットも公開されており、ダウンロードして詳細を確認できます。これらの資料は、お近くの労働基準監督署でも入手可能です。
割増賃金の正しい理解が、健全な労働環境をつくる
この記事では、割増賃金の基本的な考え方から、種類別の割増率、具体的な計算方法、そして月60時間超の残業に関する法改正までを解説しました。
企業にとっては、コンプライアンス遵守と適切な労務管理が求められます。労働者一人ひとりが、自身の権利として割増賃金の知識を持つことは、不利益を防ぎ、働きやすい環境を実現するために不可欠です。もし給与明細に疑問を感じたら、まずは会社の担当者に確認し、必要であれば公的な相談窓口を利用することも検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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