- 更新日 : 2025年9月2日
給与計算を簡易化するには?方法からメリット、注意点まで徹底解説
本記事では、複雑な給与計算を簡易化するための具体的な方法を、メリットや注意点と共に徹底解説します。
毎月の給与計算前になると、山積みのタイムカードと複雑な計算式に頭を悩ませていませんか?残業代の計算や社会保険料、さらに法改正への対応に悩まされる担当者は少なくありません。。本記事を読むことで、複雑な給与計算を効率的に進める方法を理解でき、安心して業務に取り組める環境づくりにつながるでしょう。
目次
給与計算を簡易化する6つの方法
給与計算の負担を軽減し、効率化を図るためには、さまざまなアプローチが存在します。ここでは、企業の状況や目的に合わせて選べる6つの方法を挙げ、それぞれのメリット・デメリットを詳しく比較・解説します。
1. 手計算・Excelで行う
最も手軽に始められるのが、電卓やExcel(エクセル)を活用する方法です。導入コストがほとんどかからないのが最大の魅力でしょう。特にExcelは、計算式や関数を組むことで一定の自動化が可能です。
しかし、手入力が多いため計算ミスが起こりやすく、法改正のたびに税率や保険料率を手動で更新する手間とリスクが伴います。従業員が数名で、給与体系が非常にシンプルな場合に限定される方法です。
2. 無料の給与計算シミュレーションツールを活用する
Web上で手軽に使える給与計算シミュレーションツールも便利です。数値を入力するだけで、自動で手取り額などを計算してくれるため、給与額の概算を知りたい場合や、手計算の結果をダブルチェックする補助ツールとして役立ちます。
ただし、多くの給与計算シミュレーション無料ツールは、あくまで簡易計算が目的となります。給与明細の正式な発行やデータの保存、年末調整などには対応していないため、これ単体で業務を完結させるのは困難です。
3. 無料・低価格の給与計算ソフトを導入する
「Excel管理は不安だけど高額なソフトは導入できない」という企業には、低価格で利用できるクラウド型給与計算ソフトが選択肢になります。
多くの有料プランではコストを抑えながら、法改正への自動対応や給与の自動計算といった基本機能が備わっており、Excel管理からのステップアップとして有効です。
4. 高機能な給与計算ソフトを導入する
従業員数の増加や、給与体系が複雑化してきた企業には、高機能な有料の給与計算ソフトがおすすめです。勤怠管理システムや会計ソフトとのAPI連携(異なるソフトウェア同士を自動でつなぎ、データのやり取りを可能にする仕組み)機能が充実しており、データ入力の手間を大幅に削減できます。
年末調整や社会保険手続き書類の作成支援など、給与計算に付随する業務もワンストップで効率化できるのが強みです。月額費用はかかりますが、担当者の負担軽減とミスの防止効果が期待できるでしょう。
5. 給与計算業務を部分的にアウトソーシングする
「通常業務は自社で行えるが、年末調整だけは専門家に任せたい」「繁忙期だけ人手が足りない」といったニーズに応えるのが、部分的なアウトソーシング(業務委託)です。税理士や社会保険労務士、代行サービス会社が必要な業務だけをスポットで請け負ってくれます。
コストを抑えつつ、専門家の知見を活用できるのがメリットです。ただし、委託先とのデータ連携やコミュニケーションは自社で行う必要があります。
6. 給与計算業務を完全にアウトソーシングする
給与計算に関する一切の業務から解放されたい場合は、専門家への完全なアウトソーシングが便利です。勤怠データの集計から計算、給与明細の発行・配布、振込データの作成、年末調整、住民税の更新管理までのすべてを委託します。
コストは高額になりますが、自社内のリソースを本業に集中できます。また、専門家へ委託することで、法改正への対応漏れといった社内起因のリスクを大幅に低減できます。
給与計算の簡易化がもたらす3つのメリット
複雑な給与計算業務を簡易化することは、単に「楽になる」だけではありません。代表的な3つのメリットを解説します。
1. 担当者の負担軽減と他の業務へのリソースの集中
給与計算の自動化・効率化は、担当者を毎月の煩雑な作業から解放します。これにより、担当者は人事制度の企画、採用活動、従業員エンゲージメントの向上などの他の業務に時間とエネルギーを注ぐことができ、企業全体の生産性向上も期待できます。
2. 計算ミスや法対応漏れのリスクを低減
給与計算ソフトや専門家を活用することで、ヒューマンエラーによる計算ミスを大幅に減らすことができます。
また、頻繁に行われる法改正(税率や社会保険料率の変更)にも自動で対応してくれるため「知らなかった」では済まされない法令遵守違反のリスクを回避できます。その結果、従業員からの信頼を維持し、労務トラブルを未然に防ぐことにもつながるでしょうす。
3. 担当者が変わっても安心な体制をつくる
「特定の担当者しか給与計算ができない」という属人化した状態は、その担当者の急な退職や休職が業務の停滞に直結する、非常に危険な状態です。業務プロセスを標準化し、誰でも対応できる仕組み(ソフト導入)や外部委託に切り替えることで、この属人化リスクを解消できます。
これは、不測の事態でも事業を継続させるためのBCP(事業継続計画)対策としても極めて有効です。
給与計算はなぜこれほど複雑なのか
給与計算は主に「総支給額」「控除額」「法改正」という3つの要素が、業務を複雑にしています。
残業代や手当など変動要素が多い総支給額の計算
給与の額面である「総支給額」は、基本給だけで決まるわけではありません。役職手当や通勤手当などの固定手当に加え、月ごとに変動する残業代(時間外手当)、休日出勤手当、深夜労働手当なども正確に計算する必要があります。
特に残業代は、割増率が法律で定められており、原則として1分単位での勤怠管理が求められるなど、計算が非常に煩雑になりがちです(※)。
(※)事務簡便化のため、労使の合意に基づき1か月単位での時間外労働等の合計時間について特定の端数処理を行うことは例外的に認められています。
専門知識が必須な控除額の計算
総支給額から天引きする「控除額」の計算も、業務を複雑にする大きな要因です。控除項目は社会保険料と税金に大別され、それぞれ専門知識が求められます。
健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料といった社会保険料は、保険料率が個別に異なり、従業員の給与や年齢によって変動します。
さらに、所得税や住民税の計算も必須で、特に所得税は扶養家族の人数で控除額が変わるため、一人ひとり個別の対応が必要です。
法改正への対応
給与計算をさらに難しくしているのが、頻繁に行われる法改正です。社会保険料率や雇用保険料率、税制なども定期的に見直しが行われます。
2025年以降も社会保険の適用範囲拡大が予定されており、常に最新の法令をキャッチアップし、計算ロジックを更新し続けなければなりません。この継続的な情報収集と対応が、担当者にとって負担となる可能性があります。
簡易化するなら押さえたい給与計算の基本5ステップ
給与計算の全体像を掴むために、基本的な計算ステップを確認しましょう。ここでは、ご自身で給与計算を行う際の大まかな流れを5つのステップに分けて解説します。この流れを理解しておけば、ツールを使う際にも役立ちます。
1. 総支給額の確定
まず、従業員の給与の総額である「総支給額」を計算します。これは、基本給に各種手当(役職手当、資格手当、通勤手当など)と、時間外労働手当(残業代)、休日出勤手当などの変動手当をすべて合計した金額です。
勤怠管理システムやタイムカードの記録を基に、労働時間を正確に集計し、割増賃金などを間違えないように計算することが重要です。
2. 社会保険料の計算
次に、総支給額から控除する社会保険料を計算します。対象となるのは「健康保険料」「介護保険料(40歳以上)」「厚生年金保険料」「雇用保険料」の4つです。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、毎年決定される「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出します。雇用保険料は、総支給額に雇用保険料率を掛けて計算します。料率は会社負担分と従業員負担分があり、給与から天引きするのは従業員負担分です。
3. 所得税(源泉徴収税)の計算
社会保険料を差し引いた後の金額(課税対象額)を基に、所得税を計算します。この給与から天引きする所得税を「源泉徴収税」と呼びます。
計算には、国税庁が毎年発行する「源泉徴収税額表」を使用します。課税対象額と、事前に従業員から提出された「扶養控除等(異動)申告書」に記載された扶養親族の人数を基に、税額表から対応する金額を確認します。
4. 住民税の計算
住民税は、前年の所得を基に各市区町村が税額を決定し会社に通知してくるため、自社で計算する必要はありません。毎年5~6月頃に届く「住民税課税(決定)通知書」に記載された月々の納付額を、そのまま給与から天引きします。
従業員の引っ越しなどがあった場合は手続きが必要になるため、管理には注意が必要です。
5. 差引支給額(手取り額)の算出
最後に、総支給額からすべての控除額(社会保険料、所得税、住民税)を差し引いて、最終的な「差引支給額」、つまり従業員の手取り額を確定させます。
計算式:差引支給額 = 総支給額 – (社会保険料合計 + 所得税 + 住民税)
この金額を従業員の口座に振り込み、各項目を明記した給与明細書を発行すれば、一連の給与計算業務は完了です。
給与計算ソフト選びで失敗しない3つのポイント
給与計算の簡易化と正確性を両立させるなら、給与計算ソフトの導入が最も現実的な解決策です。しかし、数多くのソフトの中から自社に合ったものを選ぶのは簡単ではありません。ここでは、ソフト選びで失敗しないための3つのポイントを解説します。
1. クラウド型かインストール型か
給与計算ソフトには、インターネット経由で利用する「クラウド型」と、PCにソフトウェアをインストールして使う「インストール型」があります。
現在は、法改正への自動アップデートや場所を選ばない利便性からクラウド型が主流です。月額費用はかかりますが、サーバー管理の手間がなく、常に最新の状態で利用できる安心感があります。
一方、インストール型は買い切りでコストを抑えられる場合がありますが、法改正のたびにアップデート作業が必要です。
2. 自社の規模や勤怠管理との連携性
ソフトが自社の従業員数に対応しているかを確認しましょう。多くのソフトは従業員数に応じた料金プランを用意しています。また、現在利用している勤怠管理システムや会計ソフトと連携できるかも重要なポイントです。
API連携に対応していれば、勤怠データをボタン一つで取り込んだり、計算結果を会計ソフトに仕訳データとして流し込んだりでき、業務全体を大幅に効率化できます。
3. サポート体制と料金体系
導入初期の操作方法や、イレギュラーな事態が発生した際に、どのようなサポートが受けられるかは非常に重要です。電話、メール、チャットなど、自社が利用しやすいサポート体制が整っているかを確認しましょう。
また、料金体系もよく比較検討が必要です。初期費用や月額料金に加え、年末調整やオプション機能に追加料金が発生しないかなど、トータルコストで判断することが失敗しないコツです。
無料トライアル期間を活用し、実際の操作感を試してみるのもよいでしょう。
給与計算の簡易化で失敗しないための3つの注意点
給与計算の簡易化を進める上で、単に手間を省くだけでなく、注意すべき重要なポイントが3つあります。これらを意識することで、将来的なトラブルを未然に防ぎ、より本質的な業務改善につなげられます。
1. セキュリティ対策を軽視しない
給与情報には、従業員の口座情報や住所、収入などの重要な個人情報が多く含まれており、Excelファイルでの管理は、PCの盗難やウイルス感染による情報漏洩リスクが常に伴います。
簡易化を追求するあまり、セキュリティ対策が脆弱にならないよう、データの保管方法やアクセス管理には最大限の注意を払う必要があります。信頼できるクラウドサービスを選ぶなど、セキュリティレベルの高い方法を選択しましょう。
2. 将来の事業拡大を見据えた選択をする
現在は従業員が数名でも、将来的に事業が拡大し、従業員が増える可能性があります。その場しのぎで選んだ方法では、数年後には限界が来てしまい、結局システムの再構築に多大なコストと手間がかかることになります。
将来、会社が大きくなったときのことも考え、従業員が増えても対応できる方法を選んでおくと、長い目で見てコストを抑えられるでしょう。
3. 見えないコストも考慮に入れる
ツールの月額料金やアウトソーシング費用といった見えるコストだけでなく、担当者が法改正について学んだり、手作業で入力したりする時間といった見えないコスト(人件費)も考慮に入れるべきです。
一見安価な方法でも、担当者の時間的負担が大きければ、トータルコストでは高機能なソフトを導入する方が安くつくケースも少なくありません。簡易化によって生まれる時間を、より生産的な業務に使える価値も加味して判断しましょう。
自社に合った方法で給与計算を簡易化しよう
本記事では、給与計算を簡易化するための具体的な方法から、そのメリット、そして実行する上での注意点までを解説しました。
どの方法にもメリットとデメリットがあり、完璧な正解はありません。「自社にとってはどの方法が最適か」を判断し、最初の一歩を踏み出すことが重要です。
まずは給与計算ソフトの無料トライアルを試す、アウトソーシング会社に資料請求をしてみるなど、行動に移すことで初めて、給与計算の悩みを解消しより生産的な未来へと進めるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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