- 更新日 : 2025年8月27日
出勤簿の改ざんは労働基準法違反?罰則や企業の対応、不正予防策を解説
出勤簿の改ざんは、労働基準法に違反する行為です。軽い気持ちで行った、あるいは見て見ぬふりをした結果、企業は罰金や多額の未払い残業代請求といった深刻なリスクを負うことになりかねません。
この記事では、出勤簿の改ざんに関する労働基準法の罰則、改ざんが発覚した際の企業の対応、そして不正を未然に防ぐための具体的な予防策まで、わかりやすく解説していきます。
目次
出勤簿の改ざんは労働基準法違反?
出勤簿の改ざんは、労働日数、労働時間の記録を偽る行為であり、違反した場合は「30万円以下の罰金」や、労働基準法で定められた一部の違反行為では、6ヶ月以下の懲役が科されることもあります。
出勤簿やタイムカードは、従業員の出勤日や労働時間を正しく記録し、適正な賃金を支払うための基礎となる書類です。そのため、労働基準法では、出勤日や労働時間に関する記録の作成や保存を義務づけており、これに反する行為には罰則が設けられています。
どのような行為が違反となり、どのような罰則の対象となるのかを具体的に見ていきましょう。
賃金台帳の虚偽記入は罰金のおそれ
出勤簿の改ざんによって、賃金台帳に事実と異なる労働時間や賃金額を記載した場合、労働基準法第120条違反となり、30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。この条文は、賃金台帳などの法定帳簿に虚偽の記載をした場合の罰則を定めています。
賃金台帳は、労働基準法第108条で作成が義務づけられている書類で、従業員ごとの労働日数、労働時間数、残業時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数、基本給、手当、その他賃金の計算期間などを記入しなくてはなりません。
たとえば、以下のような行為が「虚偽記入」に該当します。
これらの行為は、会社が意図的に労働実態を偽るものとして、罰則の対象となります。
改ざんによる割増賃金の未払いは懲役刑の可能性も
出勤簿の改ざんによって残業代などの割増賃金が正しく支払われなかった場合、労働基準法第37条違反となります。この罰則はとくに重く、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されることがあります。
時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働に対して、法律で定められた割増率で計算した賃金を支払うことは会社の義務です。出勤簿の改ざんは、この義務を免れるための手段として行われることが多く、労働基準監督署もとくに厳しくチェックする項目です。
出勤簿の改ざんは、以下のようなケースが該当します。
- 実際の残業時間より少なく記録し、その差額分の割増賃金を支払わない。
- 休日出勤の記録を平日の振替休日に書き換え、割増率の高い休日労働手当を支払わない。
- 深夜労働(22時~5時)を行ったにもかかわらず、その記録をつけずに深夜割増賃金を支払わない。
もし労働基準監督署の調査などで違反が発覚し、是正勧告に従わないなど悪質なケースと判断されると、経営者が逮捕され、刑事罰を受ける事態に発展することもないとは言えません。
記録保存義務違反も罰則の対象
出勤簿などの労働時間に関する記録は、労働基準法第109条にもとづき、5年間(当面の間は経過措置として3年間)保存する義務があります。この保存義務を怠った場合も、30万円以下の罰金の対象です。
特に以下のような行為は、記録の保存義務違反に問われる可能性があります。
- 改ざんの証拠を隠すために、古いタイムカードを法定期間を待たずに破棄する。
- 労働時間の管理を従業員の曖昧な自己申告のみに任せ、客観的な記録を作成していない。
- 賃金台帳は作成しているが、その根拠となる出勤簿やタイムカードが存在しない。
記録を正しく作成・保存することは、万が一の労使トラブルの際に会社自身を守る証拠にもなります。
出勤簿の改ざんが起きる主なパターン
出勤簿の改ざんは、経営者や管理職が指示するケースだけでなく、従業員が自らの判断で行うケースもあります。ここでは、改ざんが起きてしまう代表的な3つのパターンを紹介します。
勤怠の不正は、特定の悪意ある人物だけが起こす問題ではありません。長時間労働の常態化や、評価制度への不満、コミュニケーション不足といった職場環境の問題が背景にあることも少なくありません。自社に同じような状況がないか、確認してみましょう。
会社が残業代を削減するために指示する
最も悪質なパターンが、会社や上司が組織的に、残業代の支払いを免れる目的で改ざんを指示するケースです。
たとえば、以下のような指示が該当します。
- 「残業時間は月30時間までしかつけないで」と上限を設ける
- タイムカードを定時で打刻させたあとに、サービス残業を強いる
- 従業員が申請した残業時間を、上司が一方的に修正する
こうした行為は、人件費を抑制したいという経営側の意図から行われることが多いようです。しかし、これは明確な違法行為であり、発覚した際には未払い残業代の請求や罰則など、かえって大きなコストを支払う結果になりかねません。
従業員が遅刻を隠す、または残業を過剰申告する
従業員自身の都合で、出勤簿の改ざんが行われることもあります。
代表的な例は以下のとおりです。
- 遅刻した事実を隠すために、出勤時間を偽って記録する
- 実際よりも長く残業したように見せかけ、残業代を不正に多く受け取ろうとする
- 同僚にタイムカードの打刻を頼む(代理打刻)
これらの行為は、給与を不正に多く得ようとする詐欺行為にあたる可能性もあります。背景には、遅刻に対する厳しいペナルティや、本人の金銭的な事情、あるいは勤怠管理に対する意識の低さなどが考えられます。
上司が部下の長時間労働を隠蔽する
管理職である上司が、自らの部署の評価を気にして、部下の長時間労働を隠すために勤怠記録を改ざんするケースもあります。
「自分の部署だけ残業時間が突出していると、管理能力を問われる」といったプレッシャーから、部下に残業時間を少なく申告させたり、自ら修正したりする行為です。
この場合、上司は会社のため、部下のためと思っているかもしれませんが、会社が正確な労働時間を把握できず、結果として部下の健康を害することにつながり、安全配慮義務違反や使用者責任など会社の法的リスクを高めることにつながります。長時間労働が常態化している職場では、こうした隠れた改ざんが起こりやすい傾向があるといえるでしょう。
出勤簿の改ざんが会社に与える5つの重大なリスク
出勤簿の改ざんは、法的な罰則だけでなく、経営そのものを揺るがしかねないさまざまなリスクを会社にもたらします。ここでは、会社が負うことになる代表的な5つのリスクについて解説します。
一時的なコスト削減のために行われた改ざんが、結果的に何倍もの損失を生み出すことがあります。その影響は金銭的なものにとどまらず、会社の未来を左右する事態に発展することもあるでしょう。
過去に遡った未払い残業代の請求
出勤簿の改ざんが発覚した場合、会社は従業員に対して、これまで支払ってこなかった残業代を遡って支払う義務が生じます。
賃金請求権の時効は5年(当面の間は経過措置として3年)です。つまり、退職した従業員からであっても、過去3年分の未払い残業代をまとめて請求される可能性があります。
対象となる従業員が複数いた場合、その総額は数千万円にのぼることもあり、会社の資金繰りに大きな打撃を与えるでしょう。
裁判所から命じられる付加金の支払い
従業員が未払い残業代を請求する裁判を起こし、会社の改ざんが悪質だと判断された場合、裁判所は未払い残業代と同額の「付付加金」の支払いを会社に命じることがあります。
未払い残業代が300万円だった場合、会社はそれと同額の300万円を付加金として追加で支払わなければならず、合計で600万円もの支払いが必要になるケースも考えられます。付加金は、いわば会社へのペナルティであり、経営へのインパクトは計り知れません。
出典:未払賃金が請求できる期間などが延長されています|厚生労働省
労働基準監督署による調査と是正勧告
従業員からの申告などにより労働基準監督署に改ざんの事実が知られると、臨検監督(立ち入り調査)が行われることがあります。
調査の結果、違反が認められると「是正勧告書」が交付され、指定された期日までに違反状態を改め、報告しなくてはなりません。是正勧告に従わない、あるいは違反内容が悪質であると判断された場合は、書類送検され、刑事事件として扱われる可能性もあります。
企業イメージの失墜と社会的信用の低下
出勤簿の改ざんや残業代の未払いといった事実は、現代ではSNSなどを通じて瞬く間に世間に広まります。
一度「ブラック企業」というレッテルを貼られてしまうと、そのイメージを払拭するのは簡単ではありません。取引先からの信用を失ったり、金融機関からの融資が受けにくくなったりするだけでなく、商品やサービスの不買運動、人材の採用が困難になるなどのおそれもあります。失った社会的信用を取り戻すには、長い時間と多大な努力が求められるでしょう。
従業員のエンゲージメント低下と離職率の増加
会社が労働時間を正しく管理せず、サービス残業を強いるような環境では、従業員は「会社に大切にされていない」と感じてしまいます。
会社への不信感は、仕事に対するモチベーションやエンゲージメントの低下に直結します。その結果、生産性が下がるだけでなく、優秀な人材から会社を去っていくという事態を招くでしょう。先に触れた通り、新しい人材を採用できないと、残った従業員の負担がさらに増えるという悪循環に陥ることも考えられます。
出勤簿の改ざんが発覚した際の企業の対応フロー
万が一、社内で出勤簿の改ざんが疑われる事態が起きた場合、会社は迅速かつ誠実に対応しなくてはなりません。ここでは、改ざん発覚後に会社がとるべき対応を5つのステップで解説します。
初期対応を誤ると、問題がさらに大きくなるおそれがあります。感情的にならず、客観的な事実にもとづいて、冷静かつ慎重に手続きを進めることが大切です。
1. 客観的な証拠に基づく事実関係の調査
まず、改ざんが本当に行われたのか、事実関係を正確に調査します。当事者の言い分だけでなく、客観的な証拠を集めることが重要です。
以下のような記録が証拠となりえます。
- PCのログ(ログイン・ログアウト時刻)
- メールの送受信履歴
- オフィスの入退室記録(セキュリティカードの履歴など)
- 業務用チャットツールの利用履歴
- 日報や週報などの業務記録
これらの客観的な記録と、出勤簿やタイムカードに記録された時刻を照らし合わせ、乖離がないかを確認します。
2. 当事者(従業員・管理者)へのヒアリング
客観的な証拠をふまえて、改ざんに関与した疑いのある従業員や、その上司である管理者から事情を聴きます。
ヒアリングの際は、高圧的な態度をとったり、一方的に決めつけたりするのではなく、プライバシーに配慮した個室で行うなど、相手が話しやすい環境を整えることが大切です。なぜ改ざんを行ったのか、誰かの指示はなかったかなど、背景にある事情も含めて丁寧に聞き取り、記録に残しておきましょう。
3. 正しい労働時間の再計算と差額賃金の支払い
調査の結果、改ざんの事実とそれによって生じた未払いの賃金が確定したら、速やかに正しい金額を計算し、対象の従業員に支払います。
支払いが遅れると、その分だけ遅延損害金が増えていきます。また、会社として真摯に問題を解決しようとする姿勢を示すことは、従業員との信頼関係を再構築するためにも不可欠です。支払う際には、計算根拠を明示した明細書を渡すと、より丁寧でしょう。
4. 改ざんに関与した従業員への適切な処分
改ざんを行った従業員に対しては、就業規則の懲戒規定にもとづいて処分を検討します。
処分の重さは、改ざんの動機や手口、期間、会社に与えた損害などを総合的に判断して決定します。自己の利益のために意図的に行った場合と、上司の指示でやむなく行った場合とでは、処分の内容も変わってくるでしょう。懲戒解雇などの重い処分を下す場合は、とくに慎重な判断が求められます。
5. 必要に応じた労働基準監督署への報告
自主的に問題を是正した場合は、必ずしも労働基準監督署へ報告する義務はありません。しかし、会社の判断で自主的に報告し、指導を仰ぐことも一つの選択肢です。
とくに、組織的に広範囲で行われていたなど、問題が根深い場合は、専門家である社会保険労務士などに相談のうえ、労働基準監督署へ報告し、指導を受けながら再発防止策を講じるほうが、結果として会社の信頼回復につながることもあります。
出勤簿の改ざんを未然に防ぐための不正予防策
出勤簿の改ざんは、一度起きてしまうとその対応に多大な労力がかかります。最も大切なのは、そもそも改ざんが起きない、起こさせない仕組みを会社として構築することです。
ここでは、不正を未然に防ぐための具体的な予防策を4つ紹介します。ハードとソフトの両面から対策を講じることで、より効果的に不正を予防できるようになります。
客観的な記録が可能な勤怠管理システムを導入する
手書きの出勤簿や自己申告制のタイムカードは、改ざんが容易であるため、不正の温床になりがちです。
ICカードや生体認証(指紋・静脈など)、PCのログと連携するタイプの勤怠管理システムを導入することで、出退勤時刻を客観的に記録できます。これにより、従業員による安易な改ざんや、管理者による一方的な修正を防ぐことが可能です。また、労働時間をリアルタイムで集計できるため、管理者の負担軽減や長時間労働の早期発見にもつながります。
出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
労働時間に関する正しい知識を社内研修で徹底する
経営者や管理職、そして一般の従業員も含め、労働時間管理の重要性や、改ざんのリスクについての理解が不足しているケースは少なくありません。
なぜ労働時間を正しく記録する必要があるのか、どのような行為が改ざんにあたるのか、改ざんが発覚するとどのような不利益があるのかといった点を、定期的な社内研修などを通じて全従業員に周知徹底しましょう。
とくに管理職には、部下の労働時間を管理する責任があることを強く認識してもらう必要があります。
不正が起きにくい組織風土を醸成する
「サービス残業は当たり前」「少しくらいなら大丈夫」といった雰囲気が社内にあると、不正のハードルは下がってしまいます。
経営トップが、コンプライアンスを遵守し、従業員の労働環境を守るという強いメッセージを繰り返し発信することが大切です。労働時間を正直に申告した従業員が不利益をこうむることのない、公正な評価制度を構築することも、風通しの良い組織風-土づくりにつながります。
勤怠に関する相談窓口を設置する
「上司から残業時間を少なくつけるよう指示された」「同僚が不正な打刻をしている」といった問題を、従業員が一人で抱え込まずに相談できる窓口を設置することも有効です。
人事部やコンプライアンス担当部署、あるいは外部の専門機関などを相談窓口とし、相談した従業員のプライバシーが守られ、不利益な扱いを受けないことを明確に約束します。これにより、問題が深刻化する前に、社内で自浄作用が働くことが期待できるでしょう。
出勤簿の改ざんは労働基準法違反につながる行為
出勤簿の改ざんは、記録の誤りという範囲を超え、労働基準法違反となる深刻な問題です。企業がこれを見過ごせば、罰金や未払い残業代の請求、さらには刑事責任といった深刻なリスクを負うことになります。また、従業員との信頼関係が損なわれ、企業の信用や職場環境にも大きな影響を与えかねません。
こうした事態を防ぐためには、客観的な勤怠管理システムの導入や、全社的な労務知識の共有、風通しのよい組織づくりが欠かせません。
適正な勤怠管理を日常化することで、法令を守りながら、従業員が安心して働ける環境づくりを進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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