- 更新日 : 2025年8月27日
中途入社の社会保険料の計算方法とは?入社月や月の途中、具体例を解説
社会保険料の発生タイミングや給与からの控除額は、入社時期や月の途中入社といった状況で変動するため、正確な知識が欠かせません。新しく入社した従業員も、給与明細の控除額に疑問を感じることも多いでしょう。
この記事では、中途入社の社会保険料について、その種類や計算方法、給与からの控除タイミングをわかりやすく解説します。
目次
入社月に中途入社の社会保険料は発生する?
原則として社会保険料は入社月から発生し、入社翌月の給与から徴収されます。
しかし、退職の時期によっては、社会保険料発生や控除のタイミングが変わる場合もあります。具体例を交えて確認していきましょう。
社会保険料の主な種類と内容
社会保険料には、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類があります。このうち労災保険を除く4つは、従業員と会社が折半(雇用保険は会社と従業員が一定の割合に応じて負担)して保険料を負担します。
- 健康保険: 病気やケガをした際の医療費負担を軽減するための保険。
- 厚生年金保険: 老齢、障害、死亡時に年金が支給される保険。
- 介護保険: 40歳以上の従業員が加入し、介護が必要になった際に費用を給付する保険。
- 雇用保険: 労働者が失業した場合や育児休業、介護休業を取得した場合に給付を行う保険。
- 労災保険:業務中や通勤中の事故による病気や怪我に対して給付を行う保険。
保険料率の決定と手続き
社会保険料は、標準報酬月額に各保険の保険料率を掛けて算出します。保険料率は、健康保険と介護保険は加入している健康保険の種類(協会けんぽか健康保険組合か)によって異なります。
協会けんぽの場合は都道府県ごとに、健康保険組合は各組合が定めています。厚生年金保険は全国一律で定められており、雇用保険料率は業種によって異なります。
中途入社の場合、会社は従業員を社会保険に加入させるための手続きを行います。
健康保険・厚生年金保険は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所(協会けんぽの場合)または加入している健康保険組合に提出します。
雇用保険は「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。
これらの手続きによって、従業員は社会保険の被保険者となります。
参考:保険料率 | 協会けんぽ(全国健康保険協会)
参考:厚生年金保険料額表|日本年金機構
中途入社の社会保険料の発生タイミングと給与からの控除時期
社会保険料は月単位で計算され、日割り計算はありません。月の途中で入社した場合でも、入社した月から社会保険の加入対象となります。また、原則として社会保険料が徴収されるのは資格取得月の翌月分からです。
中途入社の場合の社会保険料の発生
中途入社した場合、その日が社会保険の資格取得日となり、その月から社会保険料が「発生」します。これは、何日に入社したかを問いません。しかし、保険料の徴収は翌月に行われるため、入社した月の給与からは社会保険料が控除されません。
例: 4月1日入社の場合、4月分の社会保険料は、5月支給の給与から控除されます。
社会保険の資格喪失のタイミング
社会保険は基本的に退職の翌日に資格を喪失します。このタイミングが社会保険料の発生有無に大きく影響するため、正確に把握することが重要です。
月末退職の場合
例えば、4月30日に退職した場合、資格喪失日は5月1日です。この場合、4月分の社会保険料が発生し、5月末までに会社から納付されることになります。
月の途中で退職する場合
一方、4月29日に退職した場合、資格喪失日は4月30日となります。この場合、4月分の社会保険料は発生しません。したがって、3月分が最後の社会保険料の支払いとなります。
このように、退職日を月末にするか、月末以外の月の途中で設定するかによって社会保険料の発生有無が異なるため、タイミングには注意が必要です。
中途入社の社会保険料、計算方法の基本とは?
中途入社の社会保険料は、他の従業員と同様に、標準報酬月額に基づいて計算されます。この標準報酬月額の決定方法に基づいた計算方法を正確に把握しましょう。
標準報酬月額の決め方
標準報酬月額とは、社会保険料の計算基礎となるもので、毎月の給与額を特定の等級に当てはめたものです。中途入社の場合、入社時に支給される給与を基に、以下の方法で標準報酬月額を仮決定します。
- 入社時の賃金から算出: 通常、入社時の給与額(基本給、通勤手当、残業手当など、定期的に支払われる賃金)を月額に換算し、これを「報酬月額」とします。
- 標準報酬月額表に当てはめる: 報酬月額を、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合が定める「標準報酬月額表」に当てはめて、標準報酬月額を決定します。
この決定された標準報酬月額は、1月から5月入社であればその年の8月、6月から12月の入社であれば翌年の8月まで適用されます。ただし、昇給などにより給与額が大幅に変動した場合は、随時改定が行われることもあります。
社会保険料の種類別の計算手順
各社会保険料の計算は、決定された標準報酬月額に、それぞれの保険料率を掛けて算出します。
健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の計算式
これらの保険料率は、毎年見直されることがあるため、最新の料率表を確認するようにしましょう。協会けんぽの保険料率は、都道府県ごとに異なります。
雇用保険料の計算式
※税金や社会保険料控除前の「賃金総額」(基本給、各種手当、賞与など、労働の対償として支払われるすべての金銭)
雇用保険料は、標準報酬月額ではなく、実際に支給される給与総額に対して料率を掛けて計算します。
中途入社の社会保険料計算に関する注意点
中途入社の社会保険料を計算する際は、いくつか注意すべき点があります。従業員とのトラブルや法的な問題につながる可能性があるため、正確な知識を持つようにしましょう。
4月〜6月の給与が保険料に影響する
毎年4月から6月の3ヶ月間に支給される給与は、その年の9月からの社会保険料(健康保険、厚生年金保険、介護保険)の基準となる標準報酬月額の定時決定に用いられます。
そのため、中途入社がこの期間に重なる場合、たとえば残業手当などで月額報酬が高くなると、9月以降の保険料も高くなりやすくなります。ただし、結婚祝金や見舞金、出張旅費など、臨時に支払われる手当や実費弁償的なものは報酬に含まれないため、標準報酬月額の算定には影響しません。入社直後に給与が増えやすい職種や契約形態では、特に注意しましょう。
従業員に対しても、保険料が一時的に増える可能性があることを入社時に伝えておくと、誤解を避けることができます。
二重払いを防止する
社会保険料は、「その月の末日時点で社会保険に加入している会社」が支払い義務を持つ仕組みです。このルールにより、原則として二重払いは発生しませんが、入社・退職日の組み合わせによっては、従業員が誤解しやすい点があります。
たとえば、以下のケースに注意しましょう。
- 月末退職・翌月1日入社:3月31日退職→4月1日入社であれば、3月分は前職、4月分は現職が負担し、二重払いは発生しません。
- 月中退職・月中入社(同月):3月15日退職→3月20日入社の場合、3月末時点で現職に在籍していれば、3月分は現職で支払われます。前職では控除されず、二重払いにはなりません。
- 月中退職・翌月入社:3月15日退職→4月1日入社の場合、退職から入社まで空白期間があるため、3月分は国民健康保険・国民年金に加入する必要があります。
入社時には、前職の退職日を必ず確認し、制度上の整合性がとれているかチェックしましょう。
扶養から外れる場合は手続きが必要
中途入社の従業員が、それまで配偶者などの健康保険の被扶養者だった場合、会社に入社して社会保険に加入することで扶養から外れることになります。
また、前職を辞めてしばらく無職だった人が、国民健康保険や国民年金に加入していた場合は、会社の保険制度に切り替えるための脱退手続きも必要です。
本人任せにせず、入社手続きの際に必要書類や申請の流れを案内しましょう。
社会保険料控除証明書で年末調整に備える
社会保険料は、年末調整や確定申告で所得控除の対象となります。会社から発行される「社会保険料控除証明書」は、従業員が正確な控除額を申告するために必要です。
特に、中途入社の従業員の場合、前職での社会保険料も合算して控除する必要があります。年末調整時には、前職の源泉徴収票を確認し、必要な情報が揃っているか確認しましょう。
また、問い合わせがあった際に正確に対応できるよう、年末調整に関する基本情報を社内で共有しておくことも大切です。
中途入社の社会保険料計算を正確に行うためのポイント
中途入社時の社会保険料計算は、給与や勤怠の把握だけでなく、法令に即した対応が求められます。ここでは、人事・労務担当者が正確に処理を進めるために押さえるべき実務ポイントを紹介します。
最新の保険料率を確認する
社会保険料率は、法改正や各保険組合の状況により毎年見直しが行われます。特に健康保険や介護保険の料率は、加入している健康保険組合や都道府県によって異なるため、必ず最新の料率表を確認するようにしましょう。
- 協会けんぽの場合: 全国健康保険協会(協会けんぽ)のウェブサイトで、都道府県ごとの最新の保険料率を確認できます。
- 健康保険組合の場合: 各健康保険組合のウェブサイトで、固有の保険料率を確認しましょう。
保険料率の確認を怠ると、過不足が生じ、従業員からの不信につながる可能性があります。
社会保険の加入条件を正しく判断する
中途入社の従業員が社会保険の加入対象となるかは、労働時間や雇用期間などの条件によって判断が必要です。
- フルタイムの場合: 正社員としてフルタイムで働く場合は、基本的に社会保険の加入対象となります。
- パート・アルバイトの場合: 週の所定労働時間や月の所定労働日数が正社員の4分の3以上である場合、または特定適用事業所に勤務し、要件を満たす場合は加入対象です。2024年10月からは特定適用事業所の要件が緩和されるなど、制度改正の動向も常に把握しておきましょう。
入社時の情報収集を徹底する
社会保険の計算には、従業員本人の状況や前職の退職情報など、入社時に得る情報が欠かせません。
- 雇用契約書: 給与体系、所定労働時間、休日などの情報を雇用契約書で確認しましょう。
- 前職の退職状況: 退職日や社会保険の資格喪失日を確認し、二重払いや未加入期間が発生しないよう配慮しましょう。特に、月末退職か月の途中退職かで、社会保険料の発生月に影響が出るため、重要な情報となります。
- 基礎年金番号、マイナンバー: 社会保険の手続きには、従業員の基礎年金番号やマイナンバーが必要です。これらを正確に収集しましょう。
勤怠管理システムで計算精度を高める
社会保険料の算定には、正確な労働時間と給与情報が必要です。
勤怠管理システムを導入すれば、残業時間や休日出勤の状況が正確に記録され、給与計算の基礎となる情報が自動的に集計されます。
また、手作業による計算ミスを防ぎ、社会保険料の控除額を正確に算出できます。
導入の際は、給与計算ソフトや人事システムと連携させられるか確認し、社会保険料計算に必要な情報を自動で取り込めるようなシステムを選びましょう。
勤怠管理システムを活用することで、人事・労務担当者の負担を軽減し、より正確な社会保険料計算を実現できます。
専門家への相談も検討する
社会保険料の計算や手続きには、複雑なケースが多く、制度改正の影響も受けやすいため、判断に迷った場合は専門家に相談するのが賢明です。
社労士(社会保険労務士)は、社会保険や労務管理の専門家として、制度の適用判断や実務処理に関する助言が可能です。顧問契約がなくても、スポットでの相談も可能な場合があります。
また、年金事務所やハローワークでも、基本的な確認事項については窓口対応が受けられます。社内で解決できないと判断したら、早めに外部に確認を取りましょう。
中途入社の社会保険料の計算は勤怠管理システムで正確に行おう
中途入社の社会保険料は、入社日や給与、労働時間によって変動するため、正確な計算が求められます。特に入社月や4月〜6月の給与は、標準報酬月額に影響を及ぼすため注意が必要です。
勤怠管理システムを活用すれば、勤務実績や残業時間を正確に把握でき、報酬月額の算定ミスを防げます。給与計算ソフトとの連携により、控除処理もスムーズに行えるでしょう。
計算精度と業務効率を高めるためにも、システムの導入を前向きに検討し、従業員が安心できる労務体制を整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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