- 更新日 : 2025年8月27日
変形労働時間制とシフト制の違い8選!併用や残業計算ルールまとめ
変形労働時間制とシフト制は、どちらも労働時間を柔軟に運用する制度として広く使われていますが、その仕組みや法的な扱い、運用方法には大きな違いがあります。適切に使い分けないと、残業代の未払いなどのリスクにつながることもあります。
この記事では、変形労働時間制とシフト制の違いを8つの観点から整理し、併用の可否、残業や給与計算のルール、導入時の注意点までわかりやすく解説します。
目次
変形労働時間制とシフト制の違い8選
変形労働時間制とシフト制は、どちらも労働時間を柔軟に設定する制度ですが、法的な根拠、目的、運用方法に大きな違いがあります。以下では8つの観点から具体的に比較します。
制度の仕組みの違い
変形労働時間制は、労使協定や就業規則により、特定の期間内(1週間、1カ月、1年など)で総労働時間を調整し、日々の労働時間を柔軟に設定できる制度です。
シフト制は、日ごとの勤務時間や出勤者を事業者が決定する方式で、特定の制度名称ではありません。これは、変形労働時間制のような法的に定められた制度ではなく、日単位の勤務割り当てが主で、変形労働時間制の運用手段として使われることもあります。
届け出の必要性の違い
変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結や労働基準監督署への届け出、就業規則の記載が必要です。1カ月単位の変形労働時間制を労使協定により導入する場合や、1年単位の変形労働時間制を導入する場合、労使協定の締結と届け出が義務付けられています。
一方、シフト制自体に法的な届け出の義務はありませんが、個別の労働契約や就業規則でシフトに関する規定を定めることが必要です。
残業の扱いの違い
変形労働時間制では、対象期間における法定労働時間の総枠を超えた場合に残業として扱われます。例えば、1カ月単位の変形労働時間制の場合、月間の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた分が残業となります。
シフト制の場合、個々のシフトで定められた所定労働時間を超えた場合や、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた場合に残業として扱われます。
勤務スケジュール決定方法の違い
変形労働時間制では、対象期間が始まる前に労働日と労働時間を具体的に特定する必要があります。これは労働者に対し、事前に労働時間や休日を明確に知らせるためです。
シフト制では、通常、一定期間(週ごと、月ごとなど)ごとにシフト表が作成され、従業員はそれに従って勤務します。急な欠員や業務量の変動に対応するため、シフトの変更が比較的頻繁に行われるケースもあります。
残業・時間外割増のルールの違い
変形労働時間制の場合、法定労働時間の総枠を超過した分や、特定の期間(例:1カ月単位の場合の1週間など)における法定労働時間を超えた分が時間外労働となり、割増賃金の支払い対象です。
特に、1カ月単位の変形労働時間制であっても、1週間の所定労働時間が40時間を超える場合は所定労働時間を超えた時間、それ以外の週は40時間を超えた時間が残業として扱われ、割増賃金の支払い対象となります。
シフト制の場合、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた場合に時間外労働として割増賃金が発生します。
給与計算方法の違い
変形労働時間制では、対象期間の総労働時間に基づいて給与を計算します。残業代は、対象期間の法定労働時間の総枠を超過した時間に対して支払われます。
シフト制の場合、個々のシフトで働いた時間に基づいて給与を計算し、法定労働時間を超える部分には残業手当が加算されます。
適している職種・働き方の違い
変形労働時間制は、業務量が時期によって大きく変動する業種、例えば製造業、観光業、農業などに適しています。また、従業員の働き方としては、所定労働時間を週平均で調整したい場合に有効です。
シフト制は、店舗や施設が長時間営業している小売業、飲食業、医療・介護業など、多様な時間帯で勤務が必要な職種に適しています。パートやアルバイトなど、労働時間の柔軟性が求められる働き方にも広く用いられます。
運用の柔軟性の違い
変形労働時間制は、労使協定によって労働時間を柔軟に設定できますが、一度定めた労働時間は原則として変更できません。変更する場合には再度労使協定の見直しが必要です。
シフト制は、比較的短期間でシフトの組み換えが可能なため、突発的な業務量の変動や従業員の状況変化に柔軟に対応できます。ただし、急なシフト変更は従業員の生活に影響を与えるため、十分な配慮が必要です。
変形労働制とシフト制は併用できる?
変形労働時間制とシフト制は、変形労働時間制という法制度の枠組みの中で、勤務形態としてシフト制を採用することで実質的に併用できます。変形労働時間制を導入している事業場では、あらかじめ設定された労働時間の枠内で、個別のシフトを組むことになります。
シフトの作成にあたっては、変形労働時間制の要件(例えば、週平均労働時間が法定労働時間を超えないこと、特定の期間における各日の労働時間を特定することなど)を遵守しなければなりません。
シフト制で勤務日を割り振る
変形労働時間制の枠組みの中で、具体的な勤務日はシフト制で柔軟に決定することが可能です。例えば、1カ月単位の変形労働時間制を導入し、月初に勤務割表を作成して日々の勤務時間や休日を割り振る方法は広く使われています。
ただし、このシフト表は事前確定が原則です。勤務開始直前の変更や従業員任せの提出制は、労働基準法上、労働時間特定の原則に反し、無効と判断されるおそれがあります。
就業規則と連動させる
制度の併用には、就業規則上の記載も必要です。変形労働時間制を導入しているにもかかわらず、就業規則に記載がない場合は無効とされる可能性があります。
併用を前提とするなら、就業規則の中に「シフト表によって勤務時間を決定する旨」や「変形労働時間制の対象者・対象期間」などを明記しておく必要があります。
曜日や時間の変動に注意する
変形労働時間制での曜日や時間など、シフトの変動がある場合は、あらかじめ決めた範囲内でなければ認められません。
そのため、運用上は「シフト表を作成する時点で、変形労働時間制の法的要件を満たしているか」を確認しながら、変動の内容を明確にしておく必要があります。
労働基準監督署に届け出る
併用にあたっては、労働基準監督署への届け出が前提となる点に注意しましょう。届け出がなされていない状態で変形労働時間制を運用していると、時間外割増の未払いなどの法令違反となるリスクがあります。
変形労働制とシフト制の併用における注意点
変形労働時間制とシフト制を併用する際には、特に残業時間の計算と労働時間管理に注意が必要です。変形労働時間制の残業計算は、期間全体の労働時間で判断されるため、個別のシフトで所定労働時間を超えても、期間全体の総労働時間が法定労働時間の総枠内であれば残業にならない場合があります。
一方で、法定労働時間を超える所定労働時間を定めている日や週については、その超えた時間、それ以外の日や週については、法定労働時間を超えた時間が残業として扱われ、残業代を支払わなくてはなりません。
また、シフト制では労働者に適切な休息期間を確保することや、急なシフト変更による従業員の負担を考慮することも不可欠です。透明性のあるシフト作成や、従業員への十分な周知が、トラブルを防ぐことにつながるでしょう。
変形労働制とシフト制の残業計算
変形労働時間制とシフト制では、残業計算の基本的な考え方が異なります。制度に応じた正しい計算方法を理解し、従業員に適切な賃金の支払いをしましょう。
変形労働時間制における残業計算
変形労働時間制における残業計算は、設定された清算期間(1カ月単位、1年単位など)が基準となります。この制度では、清算期間内の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合に、その超過分が時間外労働として残業代の支払い対象となります。
例えば、1カ月単位の変形労働時間制の場合、月の法定労働時間の総枠は、その月の暦日数によって決まります。この総枠を超えて働いた分が残業です。
ただし、変形期間であっても、法定労働時間を超える所定労働時間を定めている日や週については、その超えた時間、それ以外の日や週については、法定労働時間を超えた時間が残業として扱われます。
シフト制における残業計算の基本
シフト制の場合、残業は基本的に「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて労働した時間に対して発生します。個々のシフトで定められた所定労働時間を超えて働いた場合でも、法定労働時間の範囲内であれば残業とはなりません。
例えば、ある日のシフトが6時間で、急な対応で8時間働いた場合、2時間分は残業ではなく、所定労働時間の超過となります。しかし、その日が法定労働時間を超える勤務となった場合は、超過した時間に対して残業代が支払われます。
特に、パートやアルバイトの場合、労働時間が短いことから法定労働時間を超えるケースは少ないかもしれませんが、複数の事業所で働く兼業・副業の場合には、労働基準法第38条により、労働時間は各事業場における労働時間を合算して計算されるため、合算した時間で法定労働時間を超える可能性もあります。このため、注意が必要です。
法定労働時間を超える勤務と割増賃金
労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させた場合、会社は従業員に割増賃金を支払う義務があります。通常の賃金に25%以上の割増率が適用されます。深夜労働(午後10時から午前5時)の場合は25%以上、法定休日労働の場合は35%以上が割増されます。
変形労働時間制、シフト制いずれの場合も、これらの法定割増賃金率は適用されます。適切な残業計算と割増賃金の支払いは、企業のコンプライアンス遵守と従業員の権利保護において特に重要です。
変形労働制とシフト制のメリット・デメリット
変形労働時間制とシフト制は、それぞれに企業と従業員にもたらすメリットとデメリットがあります。業種や運用体制に応じて適切に選択しましょう。
変形労働時間制のメリット・デメリット
変形労働時間制の最大のメリットは、業務量の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に配分できる点です。これにより、閑散期には労働時間を短縮し、繁忙期には長くすることで、残業代の抑制や人件費の最適化につながります。
また、労働者にとっては、特定の時期に集中的に働き、別の時期にまとめて休みを取るなど、柔軟な働き方が可能になる場合もあります。
デメリットとしては、導入に際して労使協定の締結や労働基準監督署への届け出が必要であり、運用ルールが複雑になることです。従業員側から見ると、日々の労働時間が変動するため、生活リズムが不安定になったり、残業代の計算が複雑で理解しにくかったりする可能性があります。
シフト制のメリット・デメリット
シフト制のメリットは、多種多様な勤務形態に対応できる柔軟性にあります。24時間稼働の事業所や、特定の時間帯に人員を集中させたい場合に、効率的な人員配置が可能です。
従業員にとっては、自分の都合に合わせて勤務時間や曜日を選べる場合があり、プライベートとの両立がしやすくなることもあります。デメリットとしては、シフト作成の管理が煩雑になることです。従業員の希望を考慮しつつ、必要な人員数を確保することは容易ではありません。
また、急な欠員や業務量の変動に対応するために、シフトが頻繁に変更されると、従業員の生活が不安定になったり、労働時間の管理が難しくなったりする可能性があります。
変形労働制やシフト制を導入する前に
変形労働時間制やシフト制の導入を検討する際には、まず自社の業種や事業規模、従業員の雇用形態、勤務実態などを見極める必要があります。
繁忙期と閑散期の差が大きい製造業や物流業では、変形労働時間制を使えば、必要な時期に労働時間を集中させることが可能です。
一方で、日々の業務量に変動がある小売業や飲食業では、日ごとの勤務を柔軟に調整できるシフト制の方が適しているケースが多く見られます。
また、制度を導入する際は、従業員への説明と理解の共有が不可欠です。特に変形労働時間制は、法的な届け出や労使協定、就業規則への反映が求められるため、制度の趣旨や勤務の決め方を明確に伝える必要があります。
シフト制であっても、不公平なシフト配分や急な変更がないよう配慮が必要です。
制度の導入は、形だけでなく運用体制の整備があってこそ意味があります。自社の状況に合った制度を選び、無理のない運用を心がけましょう。
変形労働制とシフト制を導入する際の注意点
変形労働時間制とシフト制を正しく導入・運用するには、制度の特徴や法的ルールを踏まえたうえで、実務に即した体制を整える必要があります。以下に主な注意点を紹介します。
法令に沿った制度設計を行う
変形労働時間制を導入する際は、労働基準法に基づき、労使協定の締結や就業規則の整備が求められます。1年単位だけでなく、1カ月単位の場合でも、労使協定により導入する場合には、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
一方、シフト制に届け出義務はありませんが、シフトの決定・変更ルール、休日の取り扱いを就業規則や労働契約書に明記しておくことで、トラブルを防ぎやすくなります。
従業員への説明と理解を重視する
制度の導入時や変更時には、従業員に対して丁寧に説明し、理解を得ることが欠かせません。変形労働時間制は、日々の勤務時間が変動するため、生活リズムへの影響が生じることもあります。制度の目的や働き方の変化、残業・休日のルールなどをわかりやすく伝え、疑問に対しては個別に説明する場を設けることが望ましいでしょう。同意を得たうえで運用することで、職場全体の信頼関係を築きやすくなります。
労働時間の管理を徹底する
制度にかかわらず、正確な勤怠管理は非常に重要です。変形労働時間制では、清算期間全体の労働時間が法定の範囲内に収まっているか常に確認し、違反を防ぐ必要があります。シフト制でも、所定労働時間を超えた勤務や法定労働時間の超過がないかを毎日チェックし、適切に割増賃金を計算しましょう。勤怠記録の正確性は、過重労働の防止や法令遵守にもつながります。
シフト作成の公平性と透明性を確保する
シフト制を運用する場合は、シフト作成の過程において公平性と透明性が求められます。特定の従業員にばかり過重な勤務が集中したり、急な変更が繰り返されたりすると、不満や離職の原因になりかねません。作成基準を明確にし、できるだけ従業員の希望を考慮したうえでスケジュールを組みましょう。確定したシフトは早めに周知し、変更がある場合も速やかに伝えることが大切です。
変形労働時間制とシフト制の違いを理解し、適切な働き方を実現しよう
変形労働時間制とシフト制は、柔軟な働き方を支える制度ですが、仕組みや運用方法には明確な違いがあります。自社の業務や従業員の働き方に合った制度を選ぶことで、人件費の適正化や労働環境の改善につながります。
制度の導入にあたっては、法令をふまえた運用と従業員への丁寧な説明を心がけましょう。導入を検討する際は、専門家のアドバイスも参考にしながら、慎重に進めることをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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