• 更新日 : 2025年8月14日

テレワークの交通費はどうする?通勤手当の不公平感をなくす方法や実費精算の注意点を解説

テレワークが定着した今、多くの企業で交通費の取り扱いが大きな課題となっています。かつては一律に支給されていた通勤手当ですが、出社日数にばらつきが生まれることで、「毎日出社する社員と在宅勤務の社員とで不公平ではないか」といった声が聞かれるようになりました。

本記事では、こうした不公平感の解消策から、実費精算へ移行する際の具体的な手順、そして国税庁が示す税務上の注意点まで、企業の人事・労務担当者が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。

テレワークにより交通費の不公平感が生まれる理由

テレワークによる交通費の不公平感は、主に出社頻度の差から生じます。

例えば、週5日出社する従業員は定期代が満額支給される一方、週に1〜2日しか出社しない従業員が都度交通費を支払うと、結果的に損をしてしまうケースがあります。逆に、ほとんど出社しない従業員が定期代を受け取っていると、毎日出社している側から不満の声が上がるのは当然です。

こうした状況は、従業員のモチベーション低下や組織の一体感を損なう深刻な要因になりかねません。公平性を担保する仕組みの構築が、健全な組織運営の基礎となります。

テレワークの交通費の支払いは法律上の義務ではない

労働基準法において、企業に交通費(通勤手当)の支払い義務は定められていません。交通費の支給は、あくまで福利厚生の一環として、各企業が任意で定めているものです。

そのため、支給の有無や条件、金額については、企業が就業規則などで自由に規定できます。しかし、一度就業規則に定めた内容は労働契約の一部となります。後から従業員にとって不利益な内容に変更する際には、法的に定められた適切な手続きを踏む必要があります。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

テレワークの交通費の支給方法

テレワーク環境下での交通費支給には、主に3つのパターンが考えられます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社に最適な方法を選択しましょう。

定期代を継続支給する方法

従来通り定期代を支給する方法は、計算や管理が容易であるという管理部門の負担軽減につながります。また、従業員にとっては出社日数に関わらず一定額が保証される安心感があります。

しかし、テレワークが主体の従業員にとっては、実態とかけ離れた過剰な支給となり、コスト増や不公平感の温床となります。さらに、従業員が定期券を買わずに差額を受け取る行為は、故意かつ虚偽の申告があった場合、詐欺や業務上横領に該当する可能性があります。このようなリスクを避けるためには、実費精算を導入するなど、支給方法の見直しが重要です。

実費精算へ切り替える方法

交通費の実費精算は、実際に出社した日数分の交通費を支払うため、公平性を高める手段と考えられています。

一方で、従業員一人ひとりの出社状況を把握し、申請内容を都度確認・承認する作業が発生するため、経理や人事担当者の業務負担が増加します。この課題を解決するためには、出退勤の記録と連携できる経費精算システムを導入するなど、業務効率化を図る工夫が欠かせません。

一律の在宅勤務手当を支給する方法

交通費の実費精算に代えて、あるいはそれに加えて、一律の在宅勤務手当を支給する方法もあります。これは、在宅勤務に伴い発生する通信費や光熱費などを補助する目的で支払われるものです。通勤がなくなる代わりにこれらの費用を企業が一部負担することで、従業員の納得を得やすくなります。

ただし、この手当は原則として給与所得とみなされ課税対象となるため、税務上の扱いを正しく理解し、従業員へ事前に十分な説明を行うことが重要です。

テレワークの交通費が非課税となる条件

国税庁は、公共交通機関を利用する場合の通勤手当について、1か月あたり15万円までを所得税の非課税限度額としています。非課税の対象となるのは、企業が従業員の通勤に通常必要であると認める「経済的かつ合理的な経路及び方法」で算定された運賃です。

テレワークが常態化し、出社が月に数回程度であるにもかかわらず、企業が1か月分の通勤定期代を支給している場合、経済的かつ合理的とは認められない可能性があります。国税庁の見解では、通勤の実態がないにも関わらず支給される手当は、通勤手当ではなく給与(賞与)とみなされ、課税対象となる場合があります。税務調査で指摘を受けないためにも、出社頻度に応じた合理的な支給方法への見直しが賢明です。

テレワークで定期代の不正受給を防ぐための対策

定期代の支給を継続する場合、従業員が実際には定期券を買わずに差額を受け取る、いわゆる横領のリスクが常に伴います。

この不正受給を防ぐ最も効果的な対策は、通勤の実態に基づいた実費精算へ移行することです。また、就業規則に不正受給が発覚した場合の懲戒処分を明記し、全従業員へ周知徹底することも強い抑止力となります。

テレワークの交通費に関してよくある質問

最後に、テレワークの交通費に関してよくある質問とその回答をまとめました。

在宅勤務手当に交通費を含める場合の注意点は?

在宅勤務手当は、名目にかかわらず原則として給与所得として扱われ、所得税の課税対象となります。ただし、その手当の中から、業務のために使用した通信費や電気代などを従業員が算出し、企業がその実費相当額を精算する形をとれば、その部分は非課税として扱われます。国税庁が公開している「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」の基準に沿って運用することで、適切な非課税処理が可能です。

参考:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)|国税庁

遠方でテレワークを行う場合の交通費はどこまで負担すべき?

リゾート地や地方の実家など、遠隔地でテレワークを行う従業員が出社する際の交通費の取り扱いは、あらかじめルールを明確にしておく必要があります。全額を会社負担とするのか、通常の通勤経路分のみを負担し差額は自己負担とするのか、あるいは上限額を設けるのかなど、企業の考え方を就業規則等で定めておくことがトラブル防止につながります。

従業員が納得する交通費のルールを定めましょう

テレワークにおける交通費の問題は、単なるコスト削減の話ではありません。従業員の公平感を保ち、モチベーションを維持し、法令を遵守するという、企業経営の根幹に関わる課題です。

最適解は企業によって異なります。重要なのは、自社の状況を正確に把握し、従業員の声に耳を傾け、透明性の高いルールを構築し、それを丁寧に運用していくことです。本記事で解説したポイントを踏まえ、自社にとって最も合理的で納得感のある交通費制度を設計・運用してください。


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