- 更新日 : 2025年12月8日
労働三法とは?労働三権との違いや覚え方をわかりやすく解説
労働三法は、労働者の権利を守るために制定された「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」の3つの法律です。企業の人事・労務担当者にとって、これらの法律を理解し適切に運用することは、労働トラブルの予防や法令遵守の実務対応につながります。
本記事では、労働三法の内容や労働三権との違い、覚え方、成立の背景、実務での使い方、違反時のリスクまでをわかりやすく解説します。
目次
労働三法とは?
労働三法とは、労働基準法(労基法)・労働組合法(労組法)・労働関係調整法の3つを指し、労働者の権利を守るために制定された基本法です。
これらの法律は、労働条件の最低基準を定めたり、労働組合の結成や活動を保障したり、労働争議の解決を支援したりすることで、労働者の地位向上と安定した労働環境の実現を目指しています。
労働基準法
労働基準法は、労働時間、賃金、休日、休暇、解雇などといった労働条件の最低基準を定めています。この法律は、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、雇用主が守るべきルールを定めています。正社員やアルバイトなどの雇用形態に関係なく適用されます。
例えば、法定労働時間は原則として1日8時間・週40時間以内です。それを超える労働を行う場合は36協定の締結と時間外手当の支払いが必要になります。
また、解雇の予告や賃金の支払い方法にも規定があり、違反があると労働基準監督署の是正指導や罰則の対象になります。
出典:労働基準|厚生労働省
出典:労働基準法 | e-Gov 法令検索
労働組合法
労働組合法は、労働者の団結権を保障し、労使交渉を制度として整えるための法律です。
企業と従業員との間で交渉のバランスを保つために、労働者が団体交渉や団体行動を行う権利(いわゆる労働三権)を保護し、雇用主による不当労働行為(団結権の侵害など)を禁じています。
具体的には、組合活動を理由にした差別や懲戒処分の禁止、誠実な団体交渉への応諾義務などが定められています。
組合との労働協約がある場合、就業規則や雇用契約よりも優先されることがあり、実務でも高い重要性を持ちます。
出典:労働組合|厚生労働省
出典:労働組合法| e-Gov 法令検索
労働関係調整法
労働関係調整法は、労働者と雇用主との間で発生した労働争議を円満に解決するための手続きを定めた法律です。
労働組合と雇用主との間で意見が対立し、労働争議が発生しそうな場合に、国や都道府県の労働委員会があっせん・調停・仲裁などの方法で解決を促します。
例えば、労働委員会が実施する「あっせん」とは、双方の意見を整理して合意点を探る公的な支援手続きであり、労働紛争の初期段階でよく使われます。また、公共事業に関わる事業所では、ストライキの予告義務などもあっせんの一部です。
労働三法の順番や覚え方
労働三法の順番は、労働者の権利を段階的に保障していく流れとして理解すると整理しやすくなります。
まず、労働基準法で労働条件の最低基準を定めます。次に労働組合法で労働者が団結して交渉する力を認め、最後に労働関係調整法で労使間の争いを解決する仕組みを整えています。
この順番は、「働く権利を守る → 団結して交渉する → 争いを調整する」という一連のステップです。
覚え方としては、「基準(個別の労働条件)を整え、組合(団体交渉)で話し合い、それでも解決しなければ調整(紛争解決)する」というイメージがよいでしょう。また、頭文字をとって「基・組・調(き・そ・ちょう)」と覚える方法も有効です。
労働三法はそれぞれが独立した法律でありながら、相互に連携して機能しており、実務上もセットで理解することが求められます。
労働三法と労働三権の違い
労働三法は、憲法上の権利である労働三権を、現場で制度として実現するために定められた法律群です。つまり、労働三権が「理念」、労働三法が「運用ルール」としての役割を担っています。
まず、労働三権とは、日本国憲法第28条に定められた、労働者の基本的な権利です。以下の3つで構成されます。
- 団結権:労働組合を結成・加入する権利
- 団体交渉権:労働条件などについて雇用主と交渉する権利
- 団体行動権(争議権):ストライキなどの手段で要求を実現する権利
これらの権利は、労働者が一人では対等に交渉が困難な状況に対抗するため、集団として力を持つために保障されたものです。ただし、憲法上の規定だけでは実際に使える仕組みとはなっていません。
そこで整備されたのが労働三法です。具体的には次の3つの法律です。
- 労働基準法:労働時間、賃金、休憩、解雇などの最低基準を定める
- 労働組合法:労働組合の活動や団体交渉を制度として保障する
- 労働関係調整法:労使紛争のあっせん・調停・仲裁の手続きを整える
例えば、労働組合への加入を理由に不利益な扱いをした場合、それは「不当労働行為」として労働組合法により禁止されています。また、労働関係調整法によって、ストライキの予告や労働争議の調整手続きが明文化されており、公共事業など社会的影響の大きい分野では特に重要です。
このように、労働三権は憲法における「原則」であり、労働三法はそれを具体的に運用するための「制度」です。労務管理に携わる立場では、両者をセットで理解することが求められます。
労働三法はいつ成立したのか?
労働三法は、第二次世界大戦後の日本において、民主化と労働者保護の必要性が高まる中で整備された法律です。1945年から1947年にかけて順次施行され、現在の労働法制度の基礎を築くことになりました。
各法律の公布・施行日は以下のとおりです。
- 労働組合法:1945年12月22日公布、1946年3月1日施行
- 労働関係調整法:1946年9月27日公布、同年年10月13日施行
- 労働基準法:1947年4月7日公布、同年9月1日施行
労働三法のうち、最も早く施行された労働組合法は、労働者に団結権や団体交渉権を保障する内容です。戦後の労働運動の活発化に対応するものでした。
続いて、労働関係調整法が整備され、労使間の対立をあっせん・調停・仲裁などの手続きで円滑に解決できるようになりました。
最後に、労働基準法が制定され、労働時間、賃金、休日、解雇など、労働条件の最低基準を全国的に統一する枠組みが導入されました。
これらの法整備は、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の意向を受けつつ、日本政府と国民の間でも労働者の生活安定と民主的な労使関係を構築する意識が高まっていたことが背景にあります。戦後の混沌とした中で整備されたこれらの3法は、現在も実務の基盤として機能し続けています。
労働三法に違反するとどうなる?
労働三法への違反は、コンプライアンス違反にとどまらず、経営上の重大なリスクを伴います。就業規則や労務管理の運用にあたっては、法律の趣旨を踏まえたうえで、形式だけでなく実態としても適切な対応が求められます。ここでは労働三法の違反について、詳しく解説します。
労働基準法に違反
労働基準法の主な違反例とリスクは以下のとおりです。
- 法定労働時間を超えて働かせ、時間外手当を支払わない
- 最低賃金以下で労働者を雇用する
- 解雇手続きの省略や即時解雇
これらはすべての労働基準監督署の調査対象です。勧告に従わない場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される場合があります。
また、2020年4月1日以降に発生した賃金請求権の時効は、当面の間は3年に延長されました(将来的には5年の延長)。退職後に一括請求されるケースもあるため、企業にとって財務的リスクが高まる可能性があるため、注意が必要です。
労働組合法への違反
労働組合法の主な違反行為には以下のようなものがあります。
- 組合に加入・結成したことを理由にした降格・解雇
- 団体交渉の一方的な拒否
- 組合活動への妨害やスパイ行為
労働委員会にこれらの行為を申し立てられた場合、調査を経て救済命令が出されることがあります。命令には原職復帰・謝罪文の掲示・差別是正の指示などが含まれます。
一方、命令を無視した場合は企業名が公表されることもあるため、企業のブランドイメージや採用活動への影響も避けられません。
労働関係調整法の違反
労働関係調整法のうち、特に電気、ガス、水道、医療、運輸などの公益事業においては、争議行為の10日前までに予告する義務など、より厳格なルールが設けられています。
労働関係調整法の違反例としては、以下のような行為が挙げられます。
- 公共事業に従事する業種で、ストライキ予告を怠る
- あっせん・調停の申し立てに対し誠実に対応しない
- 合法な争議行為を装った違法行為(暴力・業務妨害など)
これらの行為は、違法な争議行為と認定される可能性があり、損害賠償責任や刑事罰につながることもあります。
また、誤った対応によって問題が長期化すれば、労働者のモチベーション低下や退職、SNSやメディアによる外部告発などのレピュテーションリスク(企業の評判リスク)に波及することもあります。
労働三法を理解し、実務に活かす
労働三法は、労働者の権利を守り、企業活動と労使関係を健全に維持するための基本となる法律です。それぞれの法律が果たす役割を正しく理解し、現場の実務に落とし込むことで、法令遵守を意識しつつ、労働者との信頼関係を築くことができます。
いずれも、実務の中で「どう活かすか」が問われます。特に中小企業においては、限られた人員で労務管理を担うことが多いため、こうした法律の趣旨を踏まえた柔軟かつ正確な対応が重要です。
労働三法を十分に理解し、日々の業務に活かすことが、安定した職場づくりと企業の信頼性向上につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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