- 更新日 : 2025年8月6日
有給5日取得の義務はいつからいつまで?途中入社や未取得の対応も解説
事業主は年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者を対象に、年間で5日以上の有給を取得させることが義務付けられています。
とはいえ、「取得する義務はいつから始まり、いつまでに取らせるのか」「途中入社の場合はどう扱うか」など、現場では判断に迷うケースもあります。
本記事では、有給5日取得の対象期間や管理のポイントをわかりやすく解説します。
目次
有給5日の取得義務の期間はいつからいつまで?
2019年4月1日に労働基準法が改正されました。この改正に伴い、事業主は対象となる労働者に対して、年間で5日以上の有給休暇(有給)を取得させることが義務付けられました。
年次有給休暇の取得率が低いことが義務化の背景の一つですが、労働者の心身の健康維持やワークライフバランスの改善も目的として含まれています。
有給5日以上が義務の対象となる労働者
年間で5日以上の年次有給休暇の取得義務の対象となるのは、年次有給休暇が10日以上付与される労働者です。正社員だけでなく、パートやアルバイトも所定労働日数に応じた比例付与がされるため、年間で10日以上の有給が付与されている場合(※週5日以上勤務、またはまたは週の所定労働時間が30時間以上を指す)があります。
ただし、所定労働日数が少ないパートやアルバイトは、有給休暇の付与日数も少なくなるため、年間で5日以上の年次有給の義務対象ではありません。
年次有給休暇の付与日はいつから
年次有給休暇は、雇用から6ヶ月が経過した日に初めて付与され、その後は1年ごとに付与されます。ただし、「6ヶ月」といっても途中ブランクがなく継続で勤務し、かつ出勤率が8割以上というのが付与の条件です。
年次有給休暇の付与日はいつまで
年次有給休暇5日の取得義務の対象期間は、労働者の年次有給休暇の「付与日」から起算して1年以内です。
年次有給休暇の付与日の例
入社日 | 有給付与日 (6ヶ月後) | 取得義務期間 | 次の付与日 |
---|---|---|---|
2024年10月1日 | 2025年4月1日 | 2025年4月1日〜2026年3月31日 | 2026年4月1日 |
統一付与日でも起算日は同じ扱いになる
企業によっては、管理の効率化を目的として、全労働者の有給付与日を「4月1日」などに統一する「斉一的取扱い」を導入しているケースもあります。この場合も、統一された付与日を起算日として、そこから1年間で5日以上の年次有給休暇を取得させることが義務です。
繰り越し分は対象外になる
年次有給休暇は、付与された日から2年間有効となっているため、未消化分が翌年に繰り越されることがあります。ただし、5日取得義務のカウントには含まれていません。
これは、労働者の心身の健康維持という趣旨から、その年に新たに付与された有給休暇から取得を促す必要があるためです。企業が時季を指定する場合も、この新付与分から5日を割り当てなければ、法的義務を果たしたことになりません。
有給5日の会社の時季指定は必要?
事業主がすべての労働者に対して、年間5日分の有給休暇を時季指定する必要はありません。労働者が自分の意思で5日以上の年次有給休暇を取得していれば、それだけで法的な義務は果たされているため、事業主による時季指定は不要です。
しかし、年次有給休暇が10日以上付与されているにもかかわらず、労働者が年間5日未満しか取得していない場合には、事業主側が時季を指定して、残りの日数を必ず取得させることが求められています。これが「時季指定義務」というものです。
例えば、労働者が年次有給休暇を年間でまだ3日しか取得していない場合、事業主は残りの2日分を指定しなければなりません。この時季指定は、できる限り労働者の希望を優先して決めることが望まれます。一方的な指定はトラブルを招く可能性があるため、事前に本人と相談し、業務に支障がないよう調整したうえで決定しましょう。
また、企業には、有給の取得状況と時季指定の記録を管理簿などに記録することも義務に含まれます。労働者が自ら取得した分と会社が指定した分を合わせて年間5日となるように、実態に即した柔軟な運用を心がけましょう。
年次有給休暇管理帳のテンプレート
有給の取得状況を把握できるよう管理するには、テンプレートを活用すると便利です。
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【実例付き】有給5日取得できなかった場合にどうなるか?
年間で5日の年次有給休暇を取得できなかった場合、どのようなことになるでしょうか。ここでは、事業主が受ける処遇と、実例について解説します。
法違反に該当すると罰則が科される
労働基準監督署は、事業所(企業)に対して定期的に監督指導を行っており、その際に年次有給休暇の取得状況を確認しています。
違反が確認された場合、まずは是正勧告が出され、事業所は勧告の内容に基づき改善計画を提出し、実行することが求められます。特に、事業主が労働者に年間5日以上の年次有給休暇を取得させなかった場合、労働基準法第120条に基づき、対象となる労働者一人あたり30万円以下の罰金が科される可能性があります。違反対象の労働者が多くなると罰金の総額も高くなるおそれも考えられるでしょう。
企業としては、労基署からの指導が入る前に、自主的に制度を適切に運用し、コンプライアンスを徹底することが求められます。
出典:
是正勧告が出された有給取得義務違反の実例
派遣業の事例として、年間10日以上の有給休暇が付与された労働者に対して、企業が年間で5日分を取得させる義務を怠っていたことが発覚し、労働基準監督署から是正勧告が出されました。
企業側は取得を促してはいたものの、時季指定による取得確保を行っておらず、労働基準法第39条第7項違反と判断されました。
出典:監督指導事例|厚生労働省
途中入社の場合の有給5日の取得義務は?
途中入社の週5日間勤務または週の所定労働時間が30時間以上の労働者も、原則として8割以上の勤務で年間5日の取得義務の対象となります。ただし、事業所によって付与される有給休暇の日数や、対象期間の考え方が異なるため、労務担当者は該当の途中入社の労働者にも周知が必要です。ここでは、年次有給休暇の付与日の例を見ていきましょう。
途中入社の年次有給休暇の付与日の例
入社日 | 有給付与日 (6ヶ月後) | 取得義務期間 | 次回の付与日 |
---|---|---|---|
2025年1月1日 | 2025年7月1日 | 2025年7月1日〜2026年6月30日 | 2026年7月1日 |
斉一的取扱いによる年次有給休暇の付与日の例
入社日 | 統一付与日 | 取得義務期間 | 次回の付与日 |
---|---|---|---|
2024年10月1日 | 2025年4月1日 | 2025年4月1日〜2026年3月31日 | 2026年4月1日 |
どちらの場合も「付与日」が起算日となり、そこから1年間が年間5日取得義務の対象期間となります。
有給5日を取得しない社員がいるとどうなるか?
労働者が自主的に年次有給を年間で5日取得しようとしない場合でも、事業主は取得させる義務があります。ここでは、事業主がやっておきたい事項についてまとめました。
時季指定義務を果たす
事業主は、労働者からの時季指定がない場合や労働者が取得を拒む場合でも、ヒアリングをしたうえで取得時季を設け、年間5日以上の有給休暇を取得させなければなりません。
これを「時季指定義務」といいます。単に有給休暇の取得を促すだけでは、義務を果たしたことにはなりません。具体的な取得計画を立て、労働者に提示することが求められます。
本人との協議を行う
時季指定を行う際には、労働者の業務内容や繁忙期、個人的事情を考慮し、できる限り本人の希望を尊重した調整が求められます。一方的な時季指定はトラブルの元となるケースもあるため、誠実な対応を行うことが重要です。
協議内容は記録に残しておくことで、後日の説明責任にも備えることができるでしょう。
書面で取得計画を作成する
協議の結果をもとに、具体的な取得計画を文書化しましょう。例えば「時季指定通知書」などを作成し、取得する日数、日付、対象期間などを明記したうえで労働者に共有します。
このような対応により、事業所が時季指定義務を適切に果たしていることの証拠となります。監督署からの調査や労使間のトラブルにも対応可能です。
トラブル回避策を考える
労働者が年次有給休暇5日の取得に応じない場合、事業主は対応策を講じることが必要です。例えば、個別面談を通じて有給取得の意義を説明する、業務の調整や交代要員の確保など、取得しやすい職場環境を整える努力が求められます。
最終的に社内対応で解決できない場合には、労働基準監督署への相談も視野に入れましょう。
有給5日取得の制度を社内でどう運用する?
有給休暇の年間5日取得義務を確実に行うには、就業規則、管理簿、労働者対応などを含めた社内体制の整備が欠かせません。法令遵守と職場の信頼性向上のために多角的なアプローチで対応しましょう。
年間5日以上の付与があるか確認する
まず、対象者の正確な把握が必要です。途中入社の労働者や短時間労働者には、勤続年数や所定労働日数に応じて、年10日未満の有給休暇しか付与されないケースがあります。対象者となるかどうかは、有給付与日数を基準に個別に判断しましょう。
時間単位でも有給は取得できる
年次有給休暇の年間5日取得義務は原則として日単位での取得ですが、年次有給休暇の時間単位取得は、労使協定が締結されていれば可能です。例えば、1時間単位で取得した有給の累積が5日分に相当すれば、義務は達成されたとみなされます。時間単位の取得状況は正確に把握し、勤怠管理システムなどの整備が求められます。
就業規則に反映する
年間5日の取得義務に関する内容は、就業規則に必ず記載します。対象者の範囲、時季指定の手続き、計画年休の導入の有無などを明文化し、労働者に対しても明確に周知できるようにしておきましょう。就業規則の改定後は、労働基準監督署への届け出も忘れずに行います。
管理簿を整備する
労働者ごとに年次有給休暇の付与日、付与日数、取得日、残日数を記録する「年次有給休暇管理簿」の整備と3年間の保存は義務です。この記録は、取得義務の達成状況を明確に示す証拠となり、監督署の調査にも対応できる体制づくりに直結します。
年度ごとの確認を徹底する
年次有給休暇5日の取得義務は、労働者ごとの付与日から1年間が管理期間となるため、年度単位の確認では不十分です。付与日ごとの確認と管理が求められます。
対象期間内に取得の達成が難しい労働者に対しては、早めに取得を促し、必要があれば時季指定を行うなど、計画的な運用が必要です。
定期的な研修を実施する
管理職や人事担当者が制度を正しく理解していなければ、適切な運用は実現できません。年次有給休暇の制度や年間5日の取得義務に関する社内研修を定期的に実施し、全社的な理解と協力体制を築くことが重要です。
特に管理職には、部下の取得状況を把握し、業務との調整を図る役割が求められます。
有給5日取得の対象期間と管理を理解しよう
2019年4月1日から施行された年次有給休暇の年間5日取得義務は、企業にとって重要な法令遵守事項です。この義務の対象となるのは、年10日以上の有給休暇が付与される労働者であり、労働者一人ひとりの付与日を起算日とする1年間に、少なくとも5日を取得させる必要があります。
もし義務を果たせない場合、事業主には罰則が科されるリスクがあるため、未取得の社員に対しては、企業が時季指定義務を果たし、計画的な取得を促すことが不可欠です。
また、途中入社の社員や、短時間勤務者についても、付与日数や対象期間を正しく把握し、適切な管理を行いましょう。就業規則の整備、管理簿の作成、定期的な社内研修の実施など、多角的なアプローチで運用体制を整えることが、法令遵守と円滑な労務管理につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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