- 更新日 : 2025年8月6日
扶養手当不支給証明書とは?書き方や記入例、提出先、注意点を解説
扶養手当不支給証明書は、扶養手当制度を設けている企業が、従業員に対して扶養手当を支給していないことを証明する社内書類です。共働き世帯では、配偶者の一方が手当を受給している場合、もう一方が重複申請していないことを確認する目的で提出が求められます。
法律で定められた公的文書ではありませんが、手当の二重支給を防ぐため、企業間や社内での実務運用上、重要な役割を果たしています。この記事では、その概要から書き方、提出先、注意点、公務員・自営業者への対応まで、わかりやすく解説します。
目次
扶養手当不支給証明書とは?
扶養手当不支給証明書は、法律で定められた公的な証明書ではなく、扶養手当制度を設けている企業が従業員に対して「扶養手当を支給していない」ことを証明する、社内書式や企業間で用いられる書類です。
企業が自社の福利厚生制度に基づいて独自に発行する内部文書または社間文書として扱われます。
ここでいう「扶養手当(または家族手当)」とは、従業員の配偶者や子どもなど、扶養する家族に対して支給される法定外の手当のことを指します。税法上の「扶養控除」や、健康保険における「被扶養者認定」とはまったく異なる仕組みであり、混同しないよう注意が必要です。
扶養手当の有無、支給対象、金額、支給条件はすべて各企業の就業規則や給与規程に基づいて定められており、会社によって制度の有無や運用内容は異なります。
扶養手当不支給証明書が必要になるケース
扶養手当不支給証明書が必要となるのは主に共働き世帯で、配偶者の一方が勤務先から扶養手当を受けている場合、もう一方が同じ扶養親族に対して手当を重複して申請していないことを確認するために提出が求められます。
例えば、夫が公務員で扶養手当を申請する際、妻の勤務先から「扶養手当を支給していない証明書」を提出するよう求められるケースです。
扶養手当を支給していない会社が書く
扶養手当不支給証明書は、扶養手当を支給していない側の会社が発行します。従業員自身が記載するものではなく、人事・労務担当者が記載・作成し、会社印を押印して正式な文書として発行されます。企業によっては所定の書式が用意されている場合もあり、提出先(配偶者の勤務先や共済組合など)から様式を渡され、それに沿って作成するケースもあります。
扶養手当不支給証明書の提出先
扶養手当不支給証明書の提出先は、扶養手当を申請・受給しようとしている配偶者の勤務先です。公務員であれば所属機関や共済組合、民間企業であればその人事部門が一般的な提出先になります。
また、健康保険の被扶養者申請に伴い、手当の有無を確認する目的で提出が求められることもあります。
扶養手当が不支給となる場合
扶養手当が支給されないケースには、以下のような理由が挙げられます。
- 会社の制度として扶養手当を設けていない
- 扶養親族の年間所得が、社内の支給基準(例:103万円または130万円)を超えている
- 配偶者がすでに別の勤務先から扶養手当を受け取っている
これらの理由に該当する場合、「当社では扶養手当を支給していません」という内容の証明書を発行し、他の勤務先や機関に提出する必要が生じます。
扶養手当の支給条件や金額については、下記の記事をご参考ください。
扶養手当不支給証明書の手続き方法
扶養手当不支給証明書の発行手続きは、通常、従業員からの申請を受けて行われます。発行に時間がかかることもあるため、手続きの流れや提出タイミングを理解しておくと安心です。
扶養手当不支給証明書の手続きの流れ
扶養手当不支給証明書の手続きは、従業員からの発行依頼から始まります。
- 従業員からの依頼受付:従業員から扶養手当不支給証明書の発行依頼があったら、提出先を確認します。
- 証明書の内容確認:会社の扶養手当規定を確認し、本当に扶養手当を支給していないか、支給条件を満たさないかなどを再確認します。
- 証明書の作成:会社所定の書式、または従業員が持参した書式に必要事項を記入します。
- 会社印の押印:提出さきに求められている場合は、作成した証明書に会社の角印または社印を押印します。
- 従業員への交付:完成した証明書を従業員に手渡します。
この流れを従業員に案内することで、スムーズな手続きを促せるでしょう。エクセルやワードなどでテンプレートを作成しておくと、作成時間を短縮できます。
また、発行までに数日かかることもあるため、時間に余裕をもって依頼するようにします。事前に発行に必要な書類や情報があるか、人事担当者に確認するようにしましょう。
年の途中などタイミングによる手続きの違い
扶養手当不支給証明書は、配偶者が転職した際や、年度の途中で扶養状況に変更があった場合など、さまざまなタイミングで必要になることがあります。
特に年の途中で扶養の状況が変わった場合、証明書の提出先から追加の情報や証明書を求められることが増えます。
その際、証明書に記載される期間の指定があるかを確認しましょう。過去に遡っての証明が必要になるケースもあります。例えば、配偶者の所得が途中で扶養手当の支給対象外になった場合などです。
扶養手当不支給証明書の書き方
扶養手当不支給証明書は、正確な情報に基づき記入する必要があります。企業によって書式は異なりますが、基本的な記載事項は共通しています。記入例を参考に、間違いのないよう作成しましょう。
扶養手当不支給証明書の必要項目
扶養手当不支給証明書には、通常、以下の項目を記載します。多くの企業や自治体が共通して求める項目なので、様式がない場合にも参考になります。
従業員本人の情報(被証明者情報)
従業員本人の現住所、氏名、所属、職名、生年月日を記入します。
扶養手当を支給しないことを証明する旨
「上記の者について、下記の者に係る扶養手当その他これに準ずる一切の手当を支給していないことを証明いたします。」といった定型文が用いられます。
または、「上記の者(続柄:長女 氏名:〇〇△△、生年月日:令和〇年〇月〇日)について、下記のとおり相違ないことを証明する。」といった具体的な記述がある場合もあります。
扶養家族情報
扶養手当の対象とならない扶養家族の氏名、従業員本人から見た続柄(例:配偶者、子)、生年月日、備考(特記事項があれば記入)を記入します。
証明書発行日
証明書を発行する日付を記載します。
発行元会社情報(証明者情報)
事業所所在地、事業所名称、電話番号、代表者の役職と氏名を記載し、会社の代表者印または会社印(角印)を押印します。なお、2023年4月以降、原則として押印義務は撤廃されており、提出先が求める場合のみ押印します。
扶養手当不支給証明書の記入例
扶養手当不支給証明書 住所: 氏名: 所属: 上記の者(※配偶者等の氏名、住所を記入)について、下記の者に係る扶養手当その他これに該当する一切の手当を支給していないことを証明いたします。
令和7年6月20日 株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 印 住所: 電話番号 |
扶養手当不支給証明書の記入で注意すべき点
証明書の記入時は、提出先の指示に沿って正確かつ丁寧に記載することが求められます。
扶養手当不支給証明書を記入する際には、以下の点に注意しましょう。
- 誤字脱字の確認:証明書は公的な書類です。誤字脱字がないか、発行前に複数人で確認するようにしましょう。
- 押印の確認:法改正により押印義務は原則撤廃されていますが、提出先の指示で押印が必要な場合は鮮明に押すよう意識しましょう。
- 証明期間の明確化:証明が必要な期間が明確に指定されているか確認し、その期間を正確に記載しましょう。特に、年の途中で状況が変化した場合、期間の指定が重要になります。
- 提出先の要件確認: 提出先(配偶者の勤務先など)によっては、特定の書式や追加の情報を求める場合があります。事前に提出先の要件を確認し、それに合わせて記入するようにしましょう。例えば、エクセルで作成したテンプレートを使用する場合でも、提出先の指定に従って調整が必要です。
公務員と自営業者の違いを理解する
公務員の場合:所属長に発行を依頼する
公務員にも扶養手当制度がありますが、規定は民間企業と異なる場合があります。配偶者が会社員で、その勤務先から「扶養手当を受給していない証明」を求められたときは、自分が所属する官公庁の人事担当部署に扶養手当不支給証明書の発行を依頼します。自治体ごとに発行書式や手続きが異なるため、あらかじめ担当部署に確認しましょう。
自営業者の場合:原則として証明書は不要
自営業者は企業に属していないため、そもそも「扶養手当を受け取る制度」が存在しません。このため、扶養手当不支給証明書を自ら発行する必要は基本的にありません。ただし、配偶者が会社員であり、その勤務先から「配偶者(=自営業者)が扶養手当を受けていない証明」が求められた場合、何らかの書面を準備する必要が出てきます。
このような場合、以下のような書類が代替資料として使われることがあります。
- 所得が確認できる確定申告書の控え
- 開業届の控え
- 自筆の申述書(扶養手当を受けていない旨を記載)
配偶者の勤務先がどの書類を証明資料として認めるかを事前に確認することが大切です。
扶養手当不支給証明書を正しく扱い、誤支給を防ぐ
扶養手当不支給証明書は、二重支給の防止と制度運用の公正さを守るために欠かせない書類です。とくに人事・労務や経理を担当する方にとっては、内容や発行手続きへの理解が、社内のコンプライアンスと従業員に直結します。
書式や提出先によって扱いが異なるため、確認を怠らず、制度や書類の趣旨を正確に踏まえて運用することが求められます。不明な点がある場合には、社労士や提出先の行政機関への相談も視野に入れましょう。丁寧な対応が、社内の信頼と法令遵守の両立につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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