- 更新日 : 2025年7月25日
15分の残業代切り捨ては違法!正しい計算方法や残業代がつかない場合の対処法を解説
日々の業務の中で、15分未満の残業が発生することは珍しくありません。しかし、そのわずかな時間に対して、「15分未満は切り捨て」として残業代が支払われていないケースが後を絶ちません。
この記事では、なぜ15分単位の勤怠管理が問題なのか、法律上の原則、正しい残業代の計算方法、そして未払い残業代を請求するための具体的な行動まで分かりやすくお伝えします。
目次
15分未満の残業代切り捨ては原則違法
多くの企業で慣習的に行われている15分単位での勤怠管理ですが、結論から言えば、労働者の不利になるような時間の切り捨ては、原則として労働基準法に違反します。
労働基準法第24条では、賃金全額払いの原則が定められています。これは、会社が労働者に対して、働いた分の給与を全額支払わなければならないという基本原則です。残業代も当然賃金に含まれます。
したがって、労働時間は1分単位で計算し、その時間に応じた賃金を支払うのが大原則です。例えば、10分の残業が発生した場合、会社はその10分に対する割増賃金を支払う義務があります。これを会社の都合で15分未満はゼロとしてしまうことは、この原則に反します。
15分未満の残業代の正しい計算方法
「15分未満の切り捨てが違法なのは分かったけど、実際にいくら損しているのだろう?」と疑問に思う方もいるでしょう。ここでは、1分単位で残業代を正しく計算する手順と、それによってどれくらいの差額が生まれるのかを具体的に見ていきます。
1分単位で残業代を計算する手順
残業代は、以下の式で計算できます。
- 1時間あたりの基礎賃金を算出する
- 月給制の場合:(月給 – 各種手当) ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間
※各種手当には、家族手当、通勤手当、住宅手当などは含みません。
- 月給制の場合:(月給 – 各種手当) ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間
- 割増率を確認する
- 法定時間外労働(1日8時間・週40時間を超える労働):1.25倍
- 深夜労働(22時~翌5時):1.25倍
- 残業時間を分単位で計算する
- 15分の残業の場合:15 ÷ 60 = 0.25時間
月給30万円、1日15分の残業を切り捨てられた場合の損失額
ここで、具体的なモデルケースで損失額を計算してみましょう。
- 月給:30万円(手当等を含まない基礎賃金)
- 1ヶ月の所定労働時間:160時間
- 残業:毎日15分(月20日勤務)
- 会社のルール:15分未満の残業は切り捨て
- 1時間あたりの基礎賃金
300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円 - 1日あたりの未払い残業代
1,875円 × 1.25 × (15分÷60分) = 約586円 - 1ヶ月あたりの損失額
586円 × 20日 = 11,720円 - 1年あたりの損失額
11,720円 × 12ヶ月 = 140,640円
このように、毎日わずか15分の残業でも、年間で計算すると14万円以上もの金額が支払われていないことになります。これが数年間続けば、さらに大きな金額になります。
毎月の給与明細で確認すべきポイント
自分の残業代が正しく支払われているかを確認するために、毎月の給与明細を注意深くチェックしましょう。見るべきポイントは「勤怠」と「支給」の項目です。
- 勤怠項目
「残業時間」「時間外労働時間」などが、自分の認識している実労働時間と合っているか確認します。 - 支給項目
「時間外手当」「残業手当」などが、上記の計算方法で算出した金額と大きく異なっていないか確認します。
もし、ここに乖離があれば、会社が不適切な勤怠管理を行っている可能性があります。
15分未満の残業代がつかないの対処法
もし自分の残業代が正しく支払われていない疑いがある場合、泣き寝入りする必要はありません。ここでは、未払い残業代を請求するための具体的なステップを解説します。
1. 証拠を集める
未払い残業代を請求する上で最も重要なのが客観的な証拠です。会社が勤怠記録の開示に応じない可能性も考え、自分自身で記録を残しておきましょう。
- タイムカードや勤怠システムの写真・スクリーンショット
- 業務開始・終了時刻を記録した手帳や日報
- PCのログイン・ログオフ履歴
- 業務上のメールやチャットの送受信履歴
- オフィスの入退館記録
これらの記録は、毎日具体的かつ正確に記録することが重要です。
2. 会社に相談・請求する
証拠がある程度集まったら、まずは直属の上司や人事・労務部に相談してみましょう。会社のコンプライアンス意識が高い場合や、単純な計算ミスであった場合は、この段階で是正され、未払い分が支払われる可能性があります。
その際は、感情的にならず、集めた証拠をもとに「労働基準法では1分単位での支払いが原則と認識していますが、私の勤怠記録と給与明細に相違があるようです」と冷静に事実を伝えることが大切です。
3. 労働基準監督署に相談する
会社に相談しても改善が見られない、または取り合ってもらえない場合は、管轄の労働基準監督署(労基)に相談するという選択肢があります。労働基準監督署は、労働基準法違反の疑いがある企業に対して調査や是正勧告を行う行政機関です。
相談は無料で行え、匿名での情報提供も可能です。集めた証拠を持参して相談することで、労働基準監督署が会社に対して是正勧告を行い、問題が解決に向かうことがあります。
4. 弁護士に相談し、法的措置を検討する
労働基準監督署の是正勧告に会社が応じない場合や、より確実に未払い残業代を回収したい場合は、労働問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士に依頼すると、あなたの代理人として会社と交渉してくれます。交渉で解決しない場合は、労働審判や訴訟といった法的措置を取ることも可能です。弁護士費用はかかりますが、初回相談を無料で行っている事務所も多いため、まずは一度相談してみると良いでしょう。
例外的に残業時間の切り上げなどが認められるケース
厚生労働省の通達では、「1ヶ月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」は、事務簡便を目的とした措置として認められています。
重要なのは、これはあくまで「1ヶ月の合計時間」に対する処理であるという点です。日々の労働時間を15分や30分単位で切り捨てることは認められていません。
この例外ルールを拡大解釈し、「毎日30分未満の残業は切り捨てて良い」といった誤った運用をしている企業がありますが、これは明確に違法です。
- 正しい例
1ヶ月の残業時間の合計が「30時間20分」だった場合 → 20分を切り捨てて「30時間」分の残業代を支払う。 - 違法な例
毎日発生する20分の残業を、日々切り捨ててゼロとして計算する。
常に労働者の不利になるような切り捨ては、この例外には該当しません。
15分の残業についてよくある質問
ここでは、15分の残業に関してよく寄せられる質問にお答えします。
「15分未満は休憩」と言われましたが、合法ですか?
いいえ、違法である可能性が高いです。休憩時間とは、労働者が会社の指揮命令下から完全に離れている必要があります。業務の指示や対応が求められている時間は休憩ではなく「手待ち時間」と見なされ、労働時間に含まれます。司法判断でも「休憩」とは認められず、違法と判断されたケースがあります。
請求できる残業代はいつからいつまで?時効はありますか?
はい、あります。残業代を含む賃金請求権の時効は2020年4月の法改正により、当面の間「3年」が適用されています(2025年6月現在)。このため、未払いに気付いた場合は、できるだけ早く行動を起こす必要があります。
15分の残業代、泣き寝入りせずに正当な権利を主張しよう
15分未満の残業代切り捨ては、原則として違法です。もしあなたの会社でこのような運用がなされているなら、それは決して当たり前ではありません。この記事を参考に、まずはご自身の給与明細と労働時間を照らし合わせることから始めてみてください。
そして、もし未払いの疑いがあれば、
- 客観的な証拠を集める
- 会社、労働基準監督署、弁護士などへ相談する
という行動を起こしましょう。あなたの労働の対価を正しく受け取ることは、法律で保障された当然の権利です。この記事が、あなたがその一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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