- 更新日 : 2025年7月25日
36協定の対象者は?管理職・パート・派遣社員の取り扱いや適用除外についても解説
従業員に残業を命じるためには、36協定の締結が必要不可欠ですが、「どの従業員が36協定の対象者になるのか」を正確に答えられるでしょうか。
管理職の扱いはどうなるのか、パートやアルバイトも対象なのか、派遣社員はどう考えればよいのかなど、対象者の範囲を誤解していると、意図せず法令違反を犯してしまうリスクがあります。この記事では、36協定の対象者について分かりやすく解説します。
目次
そもそも36協定とは
労働基準法では、労働者の保護を目的として、労働時間の上限を1日8時間・1週40時間と定めています。これを法定労働時間と呼びます。企業は、法定労働時間を超えて従業員に時間外労働や休日労働をさせることは原則できません。
この原則を超えるために必要な労使間の取り決めが、労働基準法第36条に基づく「時間外労働・休日労働に関する協定」、通称「36協定」です。この協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出て初めて、企業は従業員に合法的に残業や休日労働を命じることができるようになります。
36協定は原則すべての労働者が原則
36協定は、原則として、その事業場で働くすべての労働者が対象となります。
ここでいう「労働者」とは、労働基準法第9条で「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。
つまり、正社員、契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態や職種、勤続年数に関わらず、企業と雇用契約を結び、指揮命令下で働いて賃金を得ている人は、すべて36協定の対象となるのが大原則です。
雇用形態別|36協定の対象者となる従業員の範囲
原則としてすべての労働者が対象ですが、より具体的に雇用形態別の扱いを確認していきましょう。
正社員
企業の中心的な労働力である正社員は、当然ながら36協定の対象者です。総合職、一般職、専門職といった職掌や、営業、事務、技術といった職種の違いは関係ありません。
契約社員・嘱託社員
有期労働契約を締結している契約社員や、定年後に再雇用された嘱託社員なども、企業に雇用され指揮命令を受けて働く労働者です。したがって、これらの従業員も36協定の対象となります。雇用期間の定めの有無は、対象者であるかどうかの判断に影響しません。
パートタイマー・アルバイト
勤務時間が短いパートタイマーやアルバイトであっても、労働者である以上、36協定の対象者です。所定労働時間が短いから残業とは無関係と考えるのは誤りです。
例えば、1日の所定労働時間が6時間のパートタイマーが3時間残業した場合、実労働時間は9時間です。このうち、法定労働時間(8時間)を超える1時間分については36協定の適用対象となり、時間外労働として割増賃金の支払いが必要になります。
派遣社員
派遣社員は派遣元企業(人材派遣会社)と雇用契約を結んでいますが、日常業務の指揮命令は派遣先企業から受けます。この場合、時間外労働に関する36協定を締結・届出する義務を負うのは、雇用主である派遣元企業です。
ただし、実際に残業を指示し、労働時間を管理する責任は派遣先企業にあります。そのため、派遣先企業は、派遣元が締結・届出した36協定の範囲内で、派遣社員の労働時間が収まるように適切に管理・指示する必要があります。
36協定の締結・届出義務 | 時間外労働の指揮命令・労働時間管理 | |
---|---|---|
派遣元企業 | ○ | × |
派遣先企業 | × | ○ |
36協定の対象者かどうか判断に迷うケース
ここからは、実務において特に判断に迷いやすいケースについて、掘り下げて解説します。特に管理職の扱いは、多くの企業が悩むポイントです。
管理職(管理監督者)
「管理職=残業代なし=36協定の対象外」という考えは、誤解を招きやすいものです。管理職だからといって自動的に36協定の対象外とは限らず、実態によっては一般労働者として残業代が発生するため、この誤認は重大なリスクとなります。
課長や部長といった役職名がついていれば自動的に管理監督者になるわけではなく、以下の要件を実態として満たしている必要があります。
- 経営者と一体的な立場
経営会議への参加など、経営に関する重要な職務内容、責任、権限を持っている。 - 勤務態様の裁量
出退勤時間や勤務時間について、厳格な管理を受けず、自らの裁量で決定できる。 - 地位にふさわしい待遇
基本給や役職手当などにおいて、その地位にふさわしい賃金上の優遇措置が講じられている。
これらの実態がない「名ばかり管理職」は、法的には一般の労働者として扱われ、36協定の対象となります。
新入社員や試用期間中の従業員
新入社員や試用期間中の従業員も、企業と雇用契約を結んでいる「労働者」であるため、他の従業員と同様に36協定の対象となります。研修期間中であっても、法定労働時間を超えて業務指示をする可能性がある場合は、協定の適用対象として適切に勤怠管理を行う必要があります。
出向社員の扱い
出向社員の場合、指揮命令権がどちらにあるかで扱いが決まります。
一般的に多い在籍出向(出向元に籍を置いたまま出向先で働く)の場合、指揮命令権は出向先にあるため、時間外労働の管理は出向先が行います。したがって、36協定も原則として出向先の協定が適用されます。
業務委託契約の相手方
企業と業務委託契約や請負契約を結んでいるフリーランスや個人事業主は、企業の指揮命令下で働く労働者ではないため、原則として36協定の対象にはなりません。ただし、偽装請負として労働者性が認められた場合、36協定の適用対象となる恐れがあります。具体的な判断は専門家への相談が推奨されます。
36協定の適用除外となるケース
原則としてすべての労働者が対象となる36協定ですが、法律上、明確に対象から除外される人々もいます。ここでは、どのような人が適用除外となるのかを見ていきましょう。
役員(取締役など)
役員(取締役など)は原則として労働者性がなく、36協定の対象とはなりません。ただし、部長職などを兼務する使用人兼務役員については労働基準法が適用される可能性があります。使用人兼務役員についてはケース・バイ・ケースであり、労働者性や36協定の適用があるかは実態に応じて専門家に確認が必要です。
管理監督者
労働基準法第41条で定められた管理監督者は、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されるため、36協定の対象外となります。ただし、深夜労働に関する規定(午後10時〜午前5時)は適用されるため、深夜手当の支払いは必要です。
18歳未満の年少者
満18歳未満の年少者については、労働基準法第61条により、原則として時間外労働および休日労働が禁止されています。ただし、交替制勤務や緊急時(災害対応等)には例外が認められることがあるため、詳細は専門家に確認しましょう。
適用除外となる特定の事業・職種
労働基準法第41条では、農業や畜産業、水産業など特定の業種においては、法定労働時間や休日規制、36協定の適用が原則として除外されています。ただし、業務の規模や具体的な業務内容によっては適用対象となる例外もあります。適用範囲については個別に確認が必要です。
36協定の対象者の誤解が招くリスク
36協定の対象者である従業員を、対象外だと誤認して協定の範囲から除外してしまうと、その従業員への残業命令は違法な時間外労働となります。
これにより、労働基準監督署による是正勧告の対象となるだけでなく、労働基準法第119条に基づき6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
36協定に関してよくある質問
最後に、36協定に関してよくある質問とその回答をまとめました。
36協定届に記載する労働者数は、いつの時点で誰をカウントする?
36協定届に記載するのは、常時使用する労働者数です。時点については、協定の有効期間の初日における人数を記載するのが一般的です。
カウントには正社員、パート、アルバイトなど、事業場で常態として使用するすべての労働者を含みます。育児休業中・介護休業中の従業員も在籍している限り、労働者数に含めます。
一方で、派遣社員は派遣元の労働者としてカウントするため、派遣先の労働者数には含めません。
従業員が10人未満の事業場でも36協定は必要?
はい、必要です。
就業規則の作成・届出義務は常時10人以上ですが、36協定の必要性は労働者数とは関係ありません。従業員が1人でも、法定労働時間を超えて労働させる可能性があるならば、36協定の締結と届出が必須です。
従業員が1人の場合でも協定は必要?
従業員が1人しかいない場合でも、その従業員に法定労働時間を超えて働いてもらう可能性があるなら、36協定は必要です。
ただし、協定は「使用者」と「労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者」との間で結ぶものです。労働組合がない場合、その1人の従業員が過半数代表者となり、使用者と協定を締結することになります。手続きは必要ですが、法律上の要件を満たすために避けては通れません。
36協定の対象者の把握が、健全な企業経営の第一歩
本記事では、36協定の対象者について、基本原則から雇用形態別の扱い、判断が難しいケース、適用除外の例外までを網羅的に解説しました。
36協定の対象者を正確に把握することは、単なる手続き上の問題ではありません。法令を遵守し、従業員が安心して働ける環境を整え、企業として持続的に成長していくための基盤となる重要な取り組みです。
この記事を参考に、自社の労務管理体制、特に36協定の対象者範囲と運用が適切であるか、今一度確認してみてください。判断に迷う場合は、曖昧なままにせず、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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