- 更新日 : 2025年4月18日
夏季休暇は有給扱いできるのか?休暇の違いや運用方法、注意点を解説
企業における夏季休暇の扱いについては、働き方改革関連法案を正しく理解すると、適切な制度運用が可能になります。
本記事では、夏季休暇を有給扱いにする際の準備や具体的な運用方法、注意点について解説します。従業員の働きやすさと企業の生産性向上の両立を目指し、適切な制度設計をおこないましょう。
目次
夏季休暇と有給休暇の違い
夏季休暇と有給休暇は、法律上の扱いや取得ルールが根本的に異なります。夏季休暇を有給扱いするには、両者の性質の違いを明確に理解することが重要です。
以下では、夏季休暇と有給休暇の違いを解説します。
夏季休暇の定義
夏季休暇とは、企業が独自に設定できる特別休暇のひとつで、労働基準法の義務ではない法定外休暇です。
法定外休暇の場合、付与の有無や取得条件、日数などは各企業が自由に決められます。多くの企業では、福利厚生の一環で導入され、従業員のリフレッシュやワークライフバランスの向上を目的としています。
取得方法は、一定期間内で自由に取得する形式と会社が特定の日を指定して一斉に取得させる形式の2種類です。7月から9月に設定される場合が多いものの、業種や企業の方針により異なります。
有給休暇の定義
有給休暇とは、正式には「年次有給休暇」といい、労働基準法で定められた法定休暇です。
企業はすべての従業員に対して、一定の条件を満たした場合に付与する義務があります。
具体的には雇用日から6ヶ月以上継続して雇われ、全労働日の8割以上出勤した従業員に対し、原則10日以上の年次有給休暇を付与します。
年次有給休暇の目的は心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するためのものです。「有給」であるため、給料をもらいながら、休暇が取得できます。
年次有給休暇は労働者の権利として保障されているため、原則企業側は従業員の申請を拒否できません。企業の休暇制度を調整しながら適切に運用するのが大切です。
「働き方改革関連法案」による年次有給休暇取得の義務化とは
2019年4月に働き方改革関連法案が施行され、年次有給休暇の取得が義務化されました。対象者は雇入れの日から6ヶ月継続して雇われ、全労働日の8割以上出勤した全労働者です。
企業は、以下の義務を負います。
- 基準日から1年以内に5日以上の有給取得を確保する
- 時季指定は従業員の意見を聞き、できる限り従業員の希望に沿うよう努める
- すでに年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者には、時季指定ができない
- 年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する
- 時季指定に関する事項を就業規則へ明記する
違反すると、労働基準法第119条・120条により罰則が科されます。適切な管理をおこない、法令遵守を徹底しましょう。
夏季休暇は有給扱いできるのか
夏季休暇は法定外休暇であり、年次有給休暇は法定休暇であるため、異なる扱いです。しかし、条件を満たせば夏季休暇を有給扱いできます。
有給扱いとするための条件は以下のとおりです。
- 就業規則に夏季休暇の定めをし、取得条件や日数、有給であること、手続きなどを記載する
- 上記を従業員に周知する
条件を満たした場合でも、従業員に夏季休暇の取得を強制したり、無断で消化したりするのは違反です。適切な手続きを踏み、従業員の同意を得たうえで運用しましょう。
夏季休暇を有給扱いする際のデメリット
夏季休暇を有給扱いすると、企業側にはさまざまな課題が生じかねません。業務の調整や人員配置が難しくなるほか、年次有給休暇の取得方法に関する法的な制約もあります。
以下では、夏季休暇を有給扱いする際のデメリットを解説します。
部署間の業務調整や人員配置が難しい
夏季休暇を有給扱いにすると、特定の時季に休暇が集中するため、業務の調整や人員配置が難しいです。
とくに顧客対応やチーム作業が多い部署では、休暇取得者が増えると残る従業員の負担が大きくなり、業務の停滞を招くおそれがあります。適切な人員配置をおこない、業務が滞らないようにするのが重要です。
休暇取得を分散させる仕組みを導入し、マニュアルを整備するなどの対策を取ると、業務への影響を最小限に抑えられるでしょう。
年次有給休暇の中で夏季休暇取得を強制できない
夏季休暇は法定外休暇であり、企業が独自に設定する特別休暇の一種です。
一方、年次有給休暇は労働基準法で定められた法定休暇であり、企業は一定の条件を満たした労働者に付与する義務があります。両者は制度の目的や法的根拠が異なるため、休暇の種類を明確に区別して理解しましょう。
夏季休暇を特別休暇において有給扱いとするケースが多い一方、年次有給休暇の日数の中から夏季休暇をとして取得を強制したり、無断で消化したりするのは違反です。従業員が夏季休暇を取得しやすい環境づくりが重要になります。
夏季休暇を有給扱いする際のメリット
夏季休暇を有給扱いにすると、業務調整や人員配置の課題が生じる一方、メリットも多いです。以下では、夏季休暇を有給扱いする際のメリットを解説します。
法令遵守が徹底できる
夏季休暇を有給扱いにすると、従業員が休暇を取りやすい雰囲気や社内環境の整備につながります。
しかし、夏季休暇は法定休暇である年次有給休暇とは別物であるため、夏季休暇を設定しただけでは「年5日の取得義務」が果たせません。むしろ、年次有給休暇の取得が進んでいない企業が先に夏季休暇を導入すると、より年次有給休暇の消化が難しくなります。
まずは年次有給休暇の取得促進に取り組む必要があります。年5日の年次有給休暇の取得が定着したうえで夏季休暇を有給扱いにすれば、積極的な休暇取得を促し、間接的に法令遵守が徹底された環境づくりを後押しできるでしょう。
従業員の心身のリフレッシュにつながる
夏季休暇を有給扱いにすると、従業員は安心して休暇取得ができ、心身のリフレッシュにつながります。
とくに夏の暑い時季は疲労が蓄積しやすいため、適度な休息を取るのが健康維持に効果的です。十分な休息を取ると、業務への集中力やモチベーションが向上します。
企業が従業員の健康を考慮した休暇制度の整備は、職場環境の改善や長期的な生産性の向上につながるでしょう。
企業イメージの向上につながる
夏季休暇を有給扱いにすると、働きやすい環境を整えた企業として、企業イメージの向上につながります。
福利厚生が充実している企業は、求職者からの関心が高まり、採用の場面で有利です。従業員が安心して休める環境は企業のブランディングにも直結し、信頼性の向上にもつながるでしょう。
また、休暇制度の充実は、社員の定着率を高め、長期的な人材確保にも貢献します。魅力的な職場環境を構築するための施策として、積極的に取り入れるとよいでしょう。
夏季休暇を有給扱いにする際に必要な準備
夏季休暇を有給扱いにするには、事前に準備が必要です。以下では、夏季休暇を有給扱いにする際、必要な準備を解説します。
現状の休暇制度と課題を洗い出す
夏季休暇を有給扱いにする際には、現在の休暇制度を整理し、課題を明確にするのが重要です。
たとえば「年次有給休暇の取得率が低い」「特定の時季に休暇が集中し業務負担が増える」などの問題が考えられるとします。課題を把握するには、従業員アンケートの実施や過去の休暇取得データの分析が有効です。
具体的な課題が明らかになると、適切な制度設計が可能になります。現状を正確に把握し、企業の実態に合った運用方針を策定すると、円滑な導入の一歩につながるでしょう。
労働基準法や就業規則との整合性を確認する
夏季休暇を有給扱いとする際、労働基準法上の年次有給休暇とは異なり「特別休暇」として就業規則に明記する必要があります。
特別休暇は法定外休暇であるため労使協定の締結までは求められません。しかし、条件や日数などを就業規則に具体的に規定し、従業員に周知しましょう。規定が曖昧だと労務トラブルの原因になるため、制度の明文化を慎重に進めるのが重要です。
夏季休暇を有給扱いする方針を決定する
夏季休暇を有給扱いする際は、事前に明確な方針を決めるのが重要です。
方針が曖昧な場合、導入しても混乱をきたす可能性が少なくありません。従業員が利用しやすく、企業の生産性維持にもつながる仕組みを構築しましょう。休暇取得の方法や対象者の範囲、申請の手続きなどを具体的に決めると、制度が定着します。
明確な方針を決め、従業員へ周知し、現場の混乱やトラブルを防ぎながら円滑に運用しましょう。
夏季休暇を有給扱いする際の運用方法
夏季休暇を有給扱いするには、適切な運用方法を整えるのが重要です。以下では、夏季休暇を有給扱いする際の運用方法を解説します。
明確な規定を作成する
夏季休暇を有給扱いにする際、就業規則にその旨を定め、従業員と企業の双方が安心して利用できる環境を整えましょう。
規定が曖昧だと、休暇取得の偏りやトラブルの原因になります。取得可能な期間や申請手続きの詳細を明確にし、就業規則や社内マニュアルへ反映させましょう。
また、事前にルールを周知すると、従業員が迷わず取得できるようになります。適切な規定を作成し、企業のコンプライアンス強化やトラブルの防止につなげましょう。
申請や承認フローを整備する
申請や承認フローを整備すると、休暇取得がスムーズに進められます。
取得方法が不明確の場合、従業員が申請をためらったり、管理側の対応が遅れたりする可能性があります。休暇申請の方法や承認までの流れを明文化し、誰もがわかりやすい仕組みを構築するのが重要です。
従業員が迷わず申請できる環境を整え、年次有給休暇の適正な運用をしましょう。
業務が滞らないように調整方法を検討する
夏季休暇を有給扱いする際は、業務が滞らないように調整方法を検討するのが重要です。
夏季休暇の取得時季が特定の期間に集中すると、業務の停滞を招くおそれがあります。とくに顧客対応やチーム作業が求められる業務では、適切な調整をおこなわなければ、業務負担が一部の従業員に偏る可能性が少なくありません。
取得時季の分散を促すため、部署ごとの交代制を導入したり、早期に休暇希望を募って調整したりしましょう。
また、業務マニュアルの整備や引き継ぎの徹底を図ると、休暇取得者がいても業務に支障が出ない体制を整えられます。
従業員へ説明する
夏季休暇を特別休暇による有給扱いにする際は、就業規則等への記載や従業員への周知が不可欠です。
会社側が全社的な夏季休暇日をあらかじめ設定し取得させることは問題ありません。また、就業規則等で取得事由に制限を設けることもできるため「繁忙期には請求を拒否することができる」と規定することで、仮に繁忙期に夏季休暇を取得させなくても、違法にはなりません。
しかし、取得時期等従業員の希望になるべく沿うように努めることも、労使間のコミュニケーション構築の観点から重要です。
取得状況を確認する
夏季休暇を有給扱いする際は、取得状況を定期的に確認するのが必須です。
「特定の部署や従業員だけ休暇取得しにくい」といった状況が発生していないかを調査し、公平な運用がおこなわれているかを検証しましょう。具体的には従業員の声を定期的にヒアリングし、必要に応じて運用方法を見直すと、より効果的な制度へと改善できます。
取得状況を適切に管理し、運用の課題を早期に把握・改善しましょう。
夏季休暇を有給扱いする際の注意点4つ
夏季休暇を有給扱いする際は、適切な運用をおこなうためにいくつかの注意点を押さえる必要があります。以下では、夏季休暇を有給扱いする際の注意点を解説します。
1.可能な限り従業員の希望に沿った取得時季になるように努める
夏季休暇を有給扱いにする際は、従業員の希望する時季に休暇を取得できるよう配慮しましょう。
企業側が取得時季を一方的に決めると、従業員の不満が高まるだけでなく、法律違反の対象になります。事前に従業員へヒアリングをおこない、業務に支障が出ない範囲で調整を進めましょう。
休暇取得の柔軟性を高めると、従業員の満足度が向上し、企業の生産性にも好影響をもたらします。可能な限り従業員の希望に沿った取得時季にし、従業員と企業双方にとって最適な運用を目指しましょう。
2.夏季休暇の上限日数を設定する
夏季休暇を有給扱いにする際、上限日数を適切に設定する必要があります。
従業員の満足度を考えると、日数は多いほうが望ましいものの、人員が限られる中小企業では長期の休暇取得が難しい場合もあります。実際、5日程度を上限にしている企業は少なくありません。
適切な日数を決めるには、労働組合や従業員代表と協議し、業務への影響を考慮しながら調整するのが重要です。企業は一方的に判断せず、従業員の意見を取り入れ、納得感のある運用をしましょう。
3.有給休暇取得の不公平感が生じないように管理する
夏季休暇を有給扱いする際は、取得の不公平感が生じないように管理しなけければなりません。
特定の従業員や部署だけが取得しにくい状況が続くと、不満が募り、職場環境の悪化につながる可能性があります。とくに業務量の偏りが生じやすい部署では、休暇取得の機会を均等にする工夫が必要です。
公平な取得が実現できるよう、事前に希望を把握し、必要に応じて調整をおこないましょう。適切な管理を徹底し、全員が納得できる休暇制度の構築が重要です。
4.法律違反にならないように適切な管理をおこなう
夏季休暇を有給扱いする際は、法律違反にならないように、適切に管理しましょう。
夏季休暇は法定外休暇であり、特別休暇に分類されます。一方、年次有給休暇は法定休暇に該当し、制度のルールや法的扱いが異なります。企業が従業員に対し、夏季休暇を年次有給休暇に振り替えることは違反行為です。
また、年次有給休暇の付与日数と取得状況を正確に管理しましょう。違反が発覚すると、労務トラブルにつながるため、適正な運用を徹底するのが重要です。
夏季休暇の有給扱いについて理解し、適切に運用をしましょう
夏季休暇と年次有給休暇の違いを説明し、夏季休暇を有給扱いする際の準備や具体的な運用方法、注意点について解説しました。
夏季休暇は企業の判断で有給扱いにできるものの、年次有給休暇とは法的な扱いが異なります。就業規則に特別休暇の1種類として「夏季休暇」を定め、取得時期、日数、有休・無給の区別、手続き等を記載する必要があります。
しかし、従業員の同意なしに取得を強制するのは認められていません。
企業は取得ルールを明確にし、従業員の意見を十分に考慮しながら、適切に運用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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