- 更新日 : 2025年4月18日
住民税を特別徴収しなくていい会社とは?普通徴収に切り替える方法も紹介
住民税の特別徴収は会社の義務ですが、一部例外があり普通徴収に切り替えられるケースもあります。
「特別徴収の対象外となるのは、どのような会社?」「普通徴収に切り替える方法は?」などと疑問に思う人もいるでしょう。
そこで本記事では、住民税の特別徴収をしなくていい会社・従業員や普通徴収に切り替える方法などを解説しています。
目次
住民税の特別徴収とは?
特別徴収は、2種類ある住民税の納付方法のうちの一つです。特別徴収の対象は給与所得者で、事業主が従業員に代わって住民税を納付します。6月から翌年の5月まで給与から住民税を毎月天引きし、翌月の10日までに納めなければなりません。
対して、もう1種類の納付方法を普通徴収と言います。個人事業主のような、給与所得者ではない人が対象です。6月・8月・10月・翌年1月の年4回に分けて、納税義務者が自ら住民税を納付します。また、6月に1年分をまとめて納める方法も選択可能です。
特別徴収でも普通徴収でも1年間の納付額は変わりませんが、1回あたりの納付額が異なります。
仮に1年間で納める住民税が18万円の場合、特別徴収は1回あたり15,000円を天引きして納付しますが、普通徴収は1回あたり45,000円を納付しなければなりません。実際は、端数の都合で初回の納付だけ金額が異なるケースが多いです。
参考:個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション
住民税の特別徴収は義務?
特別徴収は、地方税法の第321条によって義務付けられています。つまり、会社は従業員から住民税を特別徴収しなければならず、普通徴収は原則として認められていません。会社の判断で特別徴収をしなかったり、一部の従業員だけ勝手に普通徴収に切り替えたりもできません。
地方税法が改正されたわけではなく、以前から特別徴収は義務付けられていました。あまり周知されていない状態だったために、各地域が特別徴収を徹底するようになったという経緯です。
東京都は平成29年度・大阪府は平成30年度など、地域によって時期は異なりますが、おおよそ平成30年頃(2018年頃)に特別徴収が各地域で徹底されるようになりました。
参考:地方税法 | e-Gov 法令検索、個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション、個人住民税の特別徴収(給与からの差し引き)を徹底します | 東大阪市
特別徴収の対象となる会社・従業員
特別徴収の対象となる会社は、従業員が3名以上いる会社です。従業員が1名もしくは2名であれば特別徴収をしなくても問題ありません。
また、会社が特別徴収をする必要がある従業員は、前年度に給与を得ており、当該年度の4月1日時点で給与が支払われている従業員です。役員・正社員・契約社員など職位や雇用形態に関わらず、全ての給与所得者が対象となっています。
従って、普通徴収に切り替えたいと従業員に相談されても、会社は原則として対応してはなりません。従業員の希望で普通徴収に切り替えると、地方税法に違反していることになります。
なお、4月1日時点で会社に在籍していなかった従業員は、手続きをすれば特別徴収に切り替えられます。1月1日に住民票があった地域に「特別徴収への切替申請書」を提出してください。翌月もしくは翌々月から特別徴収が開始となります。
参考:個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション
特別徴収の対象外となる会社・従業員
続いて、特別徴収の対象外となる会社や従業員について解説します。下記の会社もしくは従業員に該当していれば、特別徴収をする必要はありません。
特別徴収の対象外となる会社
以下のいずれかに該当している会社は、特別徴収の対象外です。
- 従業員が2名以下である
- 従業員が専属従事者のみである(個人事業主のみ)
支社や営業所などを含む全ての事業所の従業員が2名以下であれば、普通徴収が認められます。もし従業員が3名以上であっても、普通徴収の対象である従業員を除いた人数が2名以下になれば普通徴収が可能です。
また、従業員が専属従事者のみの個人事業主も、特別徴収をする必要がありません。専属従事者とは、個人事業に専属で従事している同一生計の配偶者や親族です。
なお、従業員が常時10人未満の会社は、「納期の特例」を利用できます。市区町村に申請して承認を受けると、年12回の納期が年2回になるという特例です。住民税の半年分を、12月と翌年6月の年2回に分けて納付できます。
ただし、納付回数が年2回になるだけで、給与からの天引きは毎月行う必要があるため注意してください。
参考:個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション、No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
特別徴収の対象外となる従業員
特別徴収の対象外となる従業員は、以下の通りです。
- 他の会社ですでに特別徴収されている
- 給与の支払いが不定期である
- 5月31日までに退職した、退職する予定である
- 給与が少なく、税額を差し引けない
上記のいずれかに該当している従業員からは、特別徴収をする必要がありません。
もし上記に該当する従業員が出た場合は、特別徴収から普通徴収に切り替えることが認められています。普通徴収への切り替え方法については、本記事の「特別徴収から普通徴収に切り替える方法」をご参照ください。
普通徴収に切り替える際は、その旨を従業員へ通知しましょう。普通徴収に切り替えたことを通知しないと、従業員が切り替えに気付かずに滞納してしまったりトラブルに発展したりする可能性があります。
参考:個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション
【属性別】住民税の納付方法
従業員の属性別に納付方法を紹介します。
従業員 | 納付方法 |
---|---|
パート・アルバイト | 原則として特別徴収 |
派遣社員 | 普通徴収 |
中途採用者 | 原則として特別徴収 |
休業中・休職中の従業員 | 休業・休職を取得した月によって異なる |
都道府県外に居住している従業員 | 原則として特別徴収 |
それぞれの従業員の納付方法について、以下より詳しく解説します。
パート・アルバイト
パートやアルバイトでも前年に給与所得がある場合は、原則として特別徴収する必要があります。
ただし、前述の「特別徴収の対象外となる従業員」に該当する場合は、普通徴収が認められます。
具体的には、複数の箇所でアルバイトをしており、他の会社ですでに特別徴収されているアルバイト社員からは特別徴収する必要がありません。また、1箇所でしか働いていないアルバイト社員でも、給与の支払いが2ヶ月に1回のような不定期の場合も普通徴収が可能です。
パート・アルバイト社員の就業状況に応じて、特別徴収か普通徴収か判断してください。
参考:個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション
派遣社員
派遣社員は、普通徴収のケースがほとんどです。一つの会社に在籍する期間が短かったり、就労していない期間があったりするため普通徴収が選択されています。
また、特別徴収をする場合、派遣先の会社ではなく派遣元の会社が行います。従って派遣先の会社は、住民税に関して徴収したり手続きしたりする必要はありません。
もし派遣社員に「特別徴収されていないが、どうなっているのか」といった相談をされた場合は、派遣元の会社に住民税について聞いてもらうよう促してください。
中途採用者
中途採用した社員も特別徴収の対象です。中途採用者の住民税の手続き方法は2つあります。
一つ目は、退職時に再就職先が決定していたケースです。通常は離職する会社が再就職先を把握し「給与所得者異動届出書」に必要事項を記入のうえ、市区町村に提出します。
ただし、本人が離職する会社に転職先を知られたくない場合は、前職が必要事項を届出書に記入したあと転職先に送付されます。残りの必要事項を転職先が記入して、市区町村に提出してください。
二つ目は、退職時に再就職先が決定していなかったケースです。決定していなかった場合は、普通徴収に切り替え、もしくは退職時に一括徴収となります。
4月より後に中途採用となった場合は、本人が会社に特別徴収を希望する旨を申し出たうえで、転職先の会社が異動届を作成・提出します。前職から異動届が送付されることはありません。
手続きをすると、市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が送付されます。通知書に基づき住民税を納付してください。
休業中・休職中の従業員
休業中・休職中の従業員は、育児休業を取得した月や休職を開始した月など月によって特別徴収か普通徴収かが変わります。
1月〜5月に休業・休職した場合は、5月までの住民税を休みに入る前の最後の給与から一括で特別徴収してください。本人から特に申し出がなくても、一括で特別徴収を行う必要があります。
6月〜12月に休業・休職した場合は、給与から住民税を天引きできないため普通徴収に切り替えとなります。「住民税決定通知書」と「納付書」が届くため、本人が自ら納付するよう説明しておくと親切です。本人が希望した場合は、最後の給与から一括で特別徴収しても問題ありません。
従業員が休業や休職を取得した時期に応じて、適切に対処しましょう。
参考:特別徴収にかかる手続きについて|個人住民税の特別徴収推進ステーション
都道府県外に居住している従業員
都道府県外に居住している従業員からも、原則として特別徴収する必要があります。主要都市以外の地域でも、特別徴収が徹底され始めているためです。たとえば東京都の近隣だと、埼玉県・千葉県・神奈川県・茨城県・栃木県・群馬県などは、既に特別徴収の徹底を推進しています。
なお、納付しなければならない地域が複数ある場合でも、会社側が別々に納付する必要はありません。各地域の納付書と合計の税金額を金融機関の窓口へ持っていけば、あとは金融機関が市区町村ごとに納付手続きを行ってくれます。
参考:個人住民税と特別徴収について|個人住民税の特別徴収推進ステーション
特別徴収から普通徴収に切り替える方法
特別徴収から普通徴収に切り替える際は、以下の2つの対応を行ってください。
- 「異動届」を提出する
- 「給与支払報告書個人別明細書」と併せて「普通徴収切替理由書兼仕切書(紙)」を提出する
従業員が退職したり休職したりしたら、従業員が居住する市区町村に「異動届」を提出してください。異動の事由が発生した日の翌月10日が期限であるため、早めに提出しましょう。
そして、毎年1月31日までに提出する「給与支払報告書個人別明細書」の摘要欄に普通徴収に切り替える理由を記入してください。また、「普通徴収切替理由書兼仕切書(紙)」へ普通徴収に切り替える人数を記入して支払報告書と一緒に提出します。
なお、「eLTAX」といった電子媒体で給与支払いの報告をする場合、「普通徴収切替理由書兼仕切書(紙)」は不要です。「普通徴収」欄へ忘れずにチェックを入れてください。
参考:特別徴収にかかる手続きについて|個人住民税の特別徴収推進ステーション
特別徴収をしなかった場合の罰則
特別徴収を放棄したり住民税を滞納したりした場合、地方税法の第331条により滞納処分の対象となります。
放棄もしくは滞納すると、納付期限から20日以内に特別徴収の義務者へ督促状が発送されます。督促状が届いた時点で住民税を納めれば、滞納処分の対象にはなりません。
もし督促状が届いた日から10日以内に完納しなければ、滞納処分が下されます。具体的には、市町村の徴税吏員によって特別徴収の義務者の財産が差し押さえられます。差し押さえの対象は、給与や預金など金銭的な価値があるものです。
また、税金を納付できていない従業員にも、納税証明書を発行できないといった影響が及びます。
特別徴収を怠ったり税金を滞納したりすると、多くの人に迷惑がかかります。住民税の特別徴収は会社に義務付けられているため、必ず期限を守って納付してください。
参考:地方税法 | e-Gov 法令検索、第47条関係 差押えの要件|国税庁
特別徴収の対象・対象外となる条件をきちんと把握しましょう
住民税の特別徴収の対象となる条件・対象外となる条件は、きちんと把握しましょう。
把握することで、対象外の従業員が出た場合にスムーズに対応できます。会社自体が対象外であった場合は、特別徴収にかけていたコストを他の業務へ回せます。
また、特別徴収の対象となる会社は、期限を厳守して住民税を納付してください。特別徴収を放棄したり税金を滞納したりすると、滞納処分が下される可能性があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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