- 更新日 : 2025年4月18日
人的資本経営で重要なウェルビーイングとは?関係性を徹底解説
人的資本経営において、ウェルビーイングの向上は不可欠です。 従業員の健康や働きがいを高めることは、企業の生産性向上や離職率の低下につながり、持続的な成長を支えます。
本記事では、ウェルビーイング経営のメリットや課題、実践方法を解説し、企業が取り組むべき施策を紹介します。
目次
人的資本経営を実現するためのウェルビーイングとは
ウェルビーイングとは、肉体的・精神的・社会的に良好で満たされた状態のことです。
単に病気でないことを意味するのではなく、安心して生活できることや、日々の暮らしに満足できることも含まれます。世界保健機構(WHO)も、健康を「肉体的、精神的および社会的に完全に良好な状態」と定義しており、近年は経済先進国を中心に精神的な豊かさや生きがいを重視する考え方が広がっています。
金銭的な満足だけでなく、「充実した人生」を追い求める流れのなかで、ウェルビーイングは人的資本経営においても重要な要素といえるでしょう。
人的資本経営の基本については、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
人的資本経営とウェルビーイングの関係
人的資本経営とは、従業員を企業の重要な資本と捉え、心理的安全性や相互理解の促進、学び合いの場の提供、目標達成の状態を支える環境の整備を通じて、企業価値の持続的な向上を目指す経営手法です。
ウェルビーイングも同様に、人材の価値を最大限に引き出すことを重視しており、両者は共通の目的を持っています。従業員のウェルビーイングが高まれば、創造性や生産性が向上し、企業の業績にも良い影響を与えます。
両者は異なるアプローチを持ちながらも、互いに補完し合う関係にあるといえるでしょう。
従業員のウェルビーイングを向上させる5つのメリット
従業員のウェルビーイングを向上させることは、企業にとってさまざまなメリットがあります。あらかじめ効果を理解しておくことで、より効果的な施策につなげられるでしょう。
以下では、ウェルビーイング向上による5つの主なメリットを紹介します。
1. 離職者が減少する可能性がある
離職の理由として多く挙げられるのは、給与や福利厚生といった待遇面よりも、人間関係や長時間労働などの職場環境に関する不満です。
従業員が身体的・精神的・社会的に良好な状態を保てると、企業が自分の健康や幸福を企業が大切にしてくれていると感じるようになります。上記のようなウェルビーイングの実現は、働く意欲や職場への信頼感を高め、離職を防ぐ効果が期待されます。
結果として、従業員の定着率が向上し、安定した組織運営につながるでしょう。
2. 優秀な人材を確保できる
企業がウェルビーイングの向上に取り組むことは、優秀な人材の確保にもつながります。
少子高齢化により生産年齢人口が減少し、採用が難しくなっている現代では、給与や福利厚生といった待遇だけで企業の魅力を差別化することは困難です。
そこで、従業員が満足して働ける環境を整え、方針を積極的に発信することで企業のブランドイメージが高まり、求職者からの関心を集めやすくなります。ウェルビーイングを重視する姿勢は、働きやすさを重視する優秀な人材の獲得につながるでしょう。
3. 生産性が向上する可能性がある
従業員のウェルビーイングを向上させることは、生産性の向上につながる可能性があります。
心身ともに健康で満たされた状態にあれば、自社への貢献度や愛着が高まり、仕事にやりがいを感じやすくなります。従業員の心身の健康が保たれることで、モチベーションが向上し、業務への集中力も維持しやすくなるでしょう。
マインドフルネスやエクササイズなど、脳を活性化させる取り組みの支援も効果的です。従業員の状態が整えば、結果的に高いパフォーマンスを発揮できるようになります。
4. 従業員エンゲージメントが向上する
ウェルビーイングの向上に取り組むことで、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業理念に共感し、業績向上のために自発的に貢献したいと感じる意欲のことです。従業員の心身の健康や安心感が保たれていれば、仕事にも前向きに取り組みやすくなり、結果として組織への関与度が高まります。
ただし、仕事に熱心な従業員が必ずしも幸福で健康であるとは限らないため、継続的なケアも重要です。エンゲージメントを高めるには、ウェルビーイングを意識した職場環境づくりが欠かせません。
下記の記事では、従業員エンゲージメントについて詳しく説明しているため、ぜひ参考にしてみてください。
5. 燃え尽き症候群を回避できる
燃え尽き症候群とは、仕事に対して高いモチベーションを持っていた人が、突然やる気を失い、心身の不調をきたす状態を指します。
Asanaの調査によると、全体の42%の従業員が燃え尽き症候群に悩んでいると報告されています。燃え尽き症候群を回避するには、従業員の働き方や仕事に対する意識を定期的に調査し、必要に応じて改善することが重要です。
ウェルビーイングを高め、心身のバランスを保つことが、長期的に健康的で持続可能な働き方につながります。
ウェルビーイング経営を実現できない原因
ウェルビーイング経営がうまく実現できない背景には、いくつかの原因があります。経営を成功に導くためには、つまずきやすいポイントを事前に把握しておくことが重要です。
以下では、実現を妨げる主な原因について紹介します。
従業員エンゲージメントが低い
ウェルビーイング経営がうまく進まない原因のひとつに、従業員エンゲージメントの低さが挙げられます。
Gallup社の「State of the Global Workplace 2023」によると、世界平均のエンゲージメント率は23%ですが、日本はわずか5%と非常に低い水準です。エンゲージメントが低いと、従業員が本音をいいにくくなり、職場の課題が見過ごされやすくなります。
また、施策にも主体的に関わろうとせず、結果として形だけの取り組みになってしまうリスクもあります。ウェルビーイング経営を成功させるには、従業員が会社に信頼や共感を持ち、前向きに働けるような組織文化をつくることが大切です。
ダイバーシティの意識改革が追いついていない
ウェルビーイング経営が実現できない原因のひとつに、ダイバーシティに対する意識改革の遅れがあります。
ダイバーシティ経営とは、性別・国籍・障害の有無などに関係なく、多様な人材が能力を発揮できる環境を整えることを重視する考え方です。しかし、日本企業のなかには現在でも男性優位の風潮が根強く残っており、ジェンダー平等や多様性への理解が浸透していないケースもあります。
ウェルビーイング経営を成功させるには、「公平性」「心理的安全性」「包括性」の確保が重要です。単に多様性を確保するだけではなく、従業員一人ひとりが受け入れられていると実感できる職場づくりが求められます。
企業全体で意識を高めていくことが、ウェルビーイング経営の実現につながります。
下記の記事では、ダイバーシティの意味やビジネスで活かす方法などを徹底解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。
メンタルヘルスへの対応が遅れている
メンタルヘルスへの対応の遅れも、ウェルビーイング経営が実現できない原因です。
日本では2015年から一定規模以上の企業でストレスチェックが義務化されましたが、チェックだけで、その後のフォロー体制が不十分な企業も少なくありません。
また、メンタル不調を報告しにくい職場の雰囲気や、専門のカウンセラーや相談窓口が整っていない職場では、従業員の不調が見過ごされやすくなります。対応が遅れれば、生産性の低下や離職、さらには企業イメージの悪化にもつながりかねません。
改善のためには、フォロー体制の強化や管理職への教育、心理的安全性の確保が重要です。
福利厚生の活用が進んでいない
ウェルビーイング経営が実現できない原因のひとつに、福利厚生の活用が進んでいないことが挙げられます。
福利厚生とは、企業が従業員に提供する給与以外の報酬や支援制度のことで、従業員の生活の質や働きやすさを高めることが目的です。しかし、制度があっても従業員が内容を知らなかったり、申請手続きが複雑で利用しにくかったりすると、十分な効果は得られません。
制度を活用してもらうためには、周知の徹底や申請手続きの簡略化など、従業員の多様なニーズに対応した制度設計が重要です。
人事評価体制が整っていない
ウェルビーイング経営が実現できない原因のひとつに、人事評価体制が整っていないことが挙げられます。
多くの日本企業では、成果や業績を重視した評価制度が一般的であり、短期的な成果に偏りがちな傾向があります。しかし、ウェルビーイングを高めるには、従業員の成長や努力、能力向上といったプロセスも正当に評価することが重要です。
適切に評価されることで、従業員のキャリア意識や仕事へのモチベーションも高まります。反対に評価体制が整っていなければ、個人の成長が見過ごされ、モチベーションの低下を招く恐れがあるため注意が必要です。
人的資本経営におけるウェルビーイングを向上させる方法
人的資本経営におけるウェルビーイングを向上させるには、いくつかの具体的な方法があります。事前に方法を把握しておくことで、より効果的な施策の実行や経営判断が可能です。
以下では、ウェルビーイングを高めるための方法を解説します。
福利厚生を充実させる
人的資本経営においてウェルビーイングを向上させるには、福利厚生の充実が効果的です。
福利厚生を充実させるためには、食事や家賃の補助、リフレッシュ休暇の導入、スキルアップ支援、宿泊・レジャー施設の割引制度など、従業員の生活や健康を支える取り組みが必要です。
福利厚生を充実させることは、従業員の心身の負担を軽減し、働きやすい環境づくりにつながります。また、従業員のニーズに合わせた柔軟な制度設計は、ウェルビーイングの向上だけでなく、人材の定着やエンゲージメント強化にもつながるでしょう。
社内でのコミュニケーションを促進させる
人的資本経営においてウェルビーイングを向上させるには、社内でのコミュニケーションを促進させることが重要です。
職場の人間関係が良好であれば、従業員同士で悩みを相談しやすくなり、精神的な安心感につながります。具体的な取り組みとしては、チャットツールの導入や社内イベントの実施が効果的です。
なかでも、従業員同士が報酬やギフトを送り合う「ピアボーナス制度」は、交流を深めるだけでなくモチベーション向上にも貢献します。Googleでも導入されており、実際に効果が報告されています。
社内コミュニケーションの活性化は、組織のつながりを強めるだけでなく、従業員一人ひとりの働きがいを生む大きな力になるでしょう。
労働環境を整える
人的資本経営においてウェルビーイングを向上させるには、労働環境を整えることが欠かせません。
具体的には、勤務時間の見直しや有給休暇の取得促進、残業の削減、定時退社日の設定などが効果的な取り組みとして挙げられます。勤務時間や働く環境は、従業員の生活満足度に深く関係しており、長時間労働や過度な残業はストレスや健康悪化を引き起こす要因です。
日本では過労死問題や働き方改革を背景に、長時間労働の見直しが進められています。ワークライフバランスを整えることが、結果としてウェルビーイングの向上につながるでしょう。
従業員のエンゲージメント調査を行う
人的資本経営においてウェルビーイングを向上させるには、従業員のエンゲージメント調査を行うことが効果的です。
アンケートや満足度調査を実施することで、従業員が企業に求めていることや不満を可視化できます。近年では、単なる満足度ではなく、採用から退職までの従業員の体験全体に着目した「従業員エクスペリエンス(EX)」の改善が重視されています。EXとは、従業員がどのように働き、何を感じているかを把握するための重要な指標です。
エンゲージメントの実態を正しく理解することで、従業員に寄り添ったウェルビーイング施策をより的確に展開できるようになります。
人的資本経営におけるウェルビーイングの向上を目指そう
人的資本経営において、ウェルビーイングの向上は企業の成長に直結します。 従業員の健康や働きがいを高めることで、生産性の向上や離職率の低下、優秀な人材の確保が期待できます。一方で、実現にはエンゲージメントの向上や制度の整備が不可欠です。
企業は福利厚生の充実や職場環境の改善に取り組み、持続的な競争力を確保しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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