- 更新日 : 2024年7月12日
人的資本経営の基本 取り組みの流れやポイントを解説
市場環境が絶えず変動し企業間競争が激化していく状況の中で、いかに社員の能力やモチベーションを高め、組織全体のパフォーマンスを向上させるかは、多くの企業が直面する大きな課題となっています。
そんな中、人的資本経営という概念が注目されるようになってきました。
しかし、その基本的な内容やメリットを十分に理解できていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、人的資本経営とは何かといった基本的な内容から、実施する際のメリットや取り組みの流れを具体的にご紹介します。
目次
人的資本経営の基本
人的資本経営とは
人的資本経営は、従業員のスキルや知識、経験などの無形資産を重要な経営資源として活用する経営戦略です。
企業の成長と競争力の向上を目指して従業員それぞれの能力を最大限に引き出し、組織全体の生産性を高めることを目的としています。
このアプローチは、従業員一人ひとりの潜在的な能力も重視しており、組織の持続可能な発展を促進するための重要な手段とされています。
人的資本経営が注目される理由
グローバル化や技術革新が進む現代社会において、企業の競争力は人材・従業員の能力に大きく左右されます。
つまり、企業の持続的な成長・競争力強化には、従業員一人ひとりのスキルアップや健康維持が欠かせないことになります。
従業員の能力を企業の資産や資本として認識し、戦略的に管理・改善していくことは、経営パフォーマンスの向上に直接影響を及ぼします。そのため、多くの企業が人的資本経営に注目し、その導入・推進を図っているのです。
人的資本経営とその他の資本との違い
「財務資本」や「製造資本」などの有形資産とは異なり、人的資本は「無形資本」の一部に位置づけられます。
無形資本には著作権やノウハウ、スキルなど、形がない資本が該当し、近年では、その価値が高く評価されています。
米国の代表的な株価指数であるS&P500に採用されている企業の市場価値を要因分解したところ、2015年時点で84%を無形資産が占めていました。
有形資産よりも無形資産の重要性が増しており、投資家からの注目も高まっています。
人材戦略に必要な視点と共通要素となる3P・5Fモデル
経営戦略と連動した人材戦略のフレームワークとして、2020年に経済産業省が提唱した3つの視点(3Pモデル)と5つの共通要素(5Fモデル)が挙げられます。
これらは、企業の持続的成長と人材戦略の重要性を示すもので、経営者や投資家にとっても重要な視点となります。
3P:人材戦略に必要な3つの視点
3Pモデルは、人材戦略を検討する際に重要となる以下3つの視点を表します。
- 経営戦略と人材戦略の連動
- 現状と理想のギャップの定量把握
- 企業文化への定着
これらは、経営陣主導で経営戦略と一体化し、ギャップを埋めるための戦略を立案して企業文化として根付かせることが重要です。
5F:人材戦略に必要な5つの共通要素
5Fモデルは、業種を問わずすべての企業で共通して組み込むべき、以下5つの要素を示しています。
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方
これらは、経営課題に対応できる人材の配置、多様な個性や経験を活かした企業活動、新たなスキル習得の支援、従業員が主体的に業務に取り組む環境の整備、そして柔軟な働き方の実現に向けた環境づくりなどを意味します。
人的資本経営のメリット
本章では、人的資本経営のメリットを6つに分けて解説していきます。
企業のイメージ向上
従業員のスキルや知識、経験を重視する経営姿勢は、社会的な信頼性を高め、企業ブランドの価値を向上させる効果があります。
特に、従業員への投資や成長の機会を提供することは、社外のステークホルダーに対してもポジティブなメッセージを発信することになります。
これにより、顧客やパートナーからの信頼を得やすくなり、企業の総合的な魅力が高まります。
また、従業員と良好な関係を築き、それを対外的にも認識してもらうことは、採用市場において優れた人材を引きつける要因にもなり得ます。
生産性・企業パフォーマンスの向上
従業員のスキルや経験を戦略的に構築・活用することで、業務の効率化等も促進され、全社的な成果向上が実現します。具体的な取り組みとしては、従業員の専門性を高める研修やキャリア開発プログラムの提供などがあげられます。
これらの取り組みは従業員のモチベーションを高め、業務でより高い成果を生み出すための環境を作り出します。
また、従業員のスキルとパフォーマンスを正確に把握することで、適切な人材配置や業務改善につなげることが可能になります。
人材能力の可視化
企業は従業員のスキルや経験、業績を明確に把握することができ、これにより効果的な人材管理や育成計画策定が可能となります。
人材能力の可視化は、従業員一人ひとりの強みや改善点を正確に理解し、それに基づいたキャリアパスや研修プログラムを提供することにも役立つでしょう。
従業員自身が現状のパフォーマンスを明確に理解することにもなるため、自己実現に向けた適切な努力をするための基盤ともなり得ます。
従業員モチベーション・エンゲージメントの強化
従業員が自身のスキルやキャリアを成長させる機会を持つことで、仕事への満足度や自己実現の感覚を得ることができます。
企業が積極的に従業員の能力開発に投資することは、従業員のロイヤルティを高め、離職率の低下にもつながります。
また、従業員が企業のビジョンや目標に共感し、自身の仕事が組織の成功にどのように寄与しているかを理解することで、エンゲージメントが深まります。
このような環境は、従業員の創造性やイノベーションを育むことにもなり、組織全体の成果にも好影響を与えます。
人材投資の最適化
人的資本経営の一つの鍵となるのが、人材投資の最適化です。
人材の能力やスキルを明確化し、それぞれの成長課題に応じた教育・育成を行うことで、生産性とパフォーマンスの向上につながり、企業の利益拡大が期待できます。
人材への投資によって企業の将来性が高まり、商品・サービスの開発や営業戦略に費やす予算が増えるため、より高品質なサービス提供が可能となります。
投資家からの評価の高まり
人的資本経営は、投資家にとっての重要な判断指標です。
企業が人的資本経営に取り組めば、投資家は持続的な成長が期待できる優良企業だと認識しやすくなります。
また、開示義務を果たすことで、投資家は企業価値評価における将来予測の確信度を高められます。
これにより、投資が増え、さらなる人材育成や事業拡大に資金を充てることが可能です。
人的資本経営のデメリット
人的資本経営により、企業の成長と人材の開発が期待できる一方、取り組むためには膨大なコストと時間を必要とします。
多くのコストが必要
人的資本経営では、人材育成プログラムや組織風土の強化費用、人的資本を評価・分析するツールやシステムの導入・利用料が発生します。
自社に人的資本経営の知識・スキルが不足している場合、外部の専門家を頼る必要があり、コストはさらに増大します。
人材が成長すれば生産性や企業イメージの向上が期待できますが、初期投資・運用費が膨大となる点には注意が必要です。
長期目線での取り組みが求められる
人的資本経営を成功させるためには、長期的な取り組みが欠かせません。
従業員一人ひとりのスキル・特性を把握し、個別に人材育成プログラムを作成するには、多くの時間と労力が必要です。
また、終身雇用や年功序列といった従来の企業風土がある場合は、それらを一新するために長い時間を要するでしょう。
国内外における人的資本経営の動向
国内の動き
日本では海外に追随して、人的資本経営を推進する動きが見られます。
経済産業省は、2020年9月に発表した通称「人材版伊藤レポート」で、経営戦略と人材戦略の連動、現状と理想の間のギャップの定量把握、企業文化への定着などを具体化しました。
また、2022年5月に発表された2.0版では、より深掘り・高度化した取り組みが示されています。
2022年8月には「企業の人的資本の開示に関する指針」が公表され、人的資本に関する情報開示のガイドラインとして企業に有用な開示項目が提示されました。
そして、2023年3月期の有価証券報告書から、人的資本投資に関する「戦略」と「指標及び目標」の開示が求められています。
このように日本では、人的資本経営の推進と情報開示の義務化が進んでいます。
海外の動き
海外では日本に先駆けて、人的資本経営の重要性が認識され、情報を開示する取り組みが進んでいます。
2018年に、ISO(国際標準化機構)が人的資本に関する世界初の網羅的・体系的な情報開示のガイドラインとしてISO30414を公開しました。
その後、米国では2020年に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対し、人的資本の情報開示を義務化しました。2023年9月には「Form 10-K」(日本の有価証券報告書にあたるもの)への人的資本の開示内容を強化する方針が発表され、人的資本に対する投資が進んでいます。
また、EUでは2023年1月に、サステナビリティ開示に関する法令「CSRD」が改定され、人的資本の領域での情報開示が求められています。
これにより、人的資本の価値が世界的に高まり、企業の市場価値の大部分を占めるようになりました。
人材戦略と人的資本経営の違い
前章で紹介した「人材版伊藤レポート」には「変革の方向性」に関する説明が記載されているため、本章でその内容を一部紹介します。
ますます変化が激しくなるこれからの時代に柔軟に対応するには、組織をより強く変革していく力が重要です。その変革力を育むためには、人材戦略と人的資本経営の違いを把握することが求められます。両者の主な違いは次のとおりです。
観点 | 現状(人材を資源とする考え方) | あるべき姿(人材を資本とする考え方) |
---|---|---|
人材マネジメントの目的 | ・人的資源の管理 ・オペレーションが中心 ・「投資」ではなく「コスト」 | ・人的資本の活用や成長 ・価値を引き出す、創造すべきもの ・「コスト」ではなく「投資」 |
人材と経営戦略との関係性及びアクション | ・経営戦略と必ずしも連動していない ・人事諸制度の運用や改善が目的 | ・経営戦略をもとに人材戦略を策定 ・持続的な企業価値の向上が目的 |
人材関連のイニシアティブをとる組織 | ・人材関係の戦略や業務は人事部が主導する | ・経営陣が、経営戦略と関連性がある人材戦略を策定 ・取締役会が状況を監視 |
従業員と組織の関係性 | ・企業と従業員は相互に依存 ・硬直的な文化に陥りがち ・イノベーションが起こりにくい環境 | ・従業員が成長することで企業も成長する ・成長意欲が高く多様な経験を持つ人材の登場 ・イノベーションが起こりやすい環境 |
雇用のコミュニティ | ・終身雇用や年功序列を軸とした囲い込み型の雇用 | ・オープンなコミュニティ ・高い専門性を持つ人材や多様なスキルを持つ人材の雇用 |
また、企業の経営資源としては次のような要素が挙げられています。
- ヒト (人材や組織など)
- モノ (商品そのものやそれらを製造・販売するための設備など)
- カネ (資金など)
- 情報 (データやノウハウなど)
これらの要素の中でも、唯一「ヒト」は、成長や意欲などによって価値を高めることが可能です。上表からもわかるとおり、人材戦略では「ヒト」を他の要素と同列に扱っています。一方で、人的資本経営は、この「成長により人材あるいは組織の価値を向上できる」というポイントを重視した経営手法である点が違いです。
人的資本経営における情報開示義務
先述のとおり、2023年3月期決算以降、金融商品取引法第24条で有価証券報告書を発行している大手企業に対し、人的資本情報の開示が義務化されました。
有価証券報告書には、サステナビリティ(持続可能性)情報の記載欄が追加され、記載必須事項は「戦略」と「指標および目標」です。戦略としては、人材育成方針や社内環境整備方針の開示が求められています。また指標および目標では、測定可能な指標と目標および進捗状況の開示が必要です。
そして、育児・介護休業法や女性活躍推進法にもとづく情報公開をすでに行っている企業では「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」などの項目も開示する必要があります。
なお、2022年に内閣官房から公表された「人的資本可視化指針」は、国内外のさまざまな開示基準および項目を紹介しています。
具体的な開示事項の検討については、自社の状況を踏まえて独自性のある開示事項としつつ、投資家が企業間比較を行うために適切な組み合わせ・バランスとすることが重要です。
開示事項には「企業価値向上に向けた戦略的な取り組み」と「企業価値を毀損(きそん)するリスク」という大きく2つの観点があることを意識する必要があります。主な開示事項は次のとおりです。
人材育成
- 研修時間
- 研修費用
- 研修参加率
- 複数分野の研修受講率
- リーダーシップの育成
- 研修と人材開発の効果
- 人材確保・定着の取組の説明
- スキル向上プログラムの種類・対象
従業員エンゲージメント
- 従業員エンゲージメント
流動性
- 離職率
- 定着率
- 新規雇用の総数・比率
- 離職の総数
- 採用・離職コスト
- 人材確保・定着の取組の説明
- 移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
- 後継者有効率
- 後継者カバー率
- 後継者準備率
- 求人ポジションの採用充足に必要な期間
ダイバーシティ
- 属性別の従業員・経営層の比率
- 男女間の給与の差
- 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
- 最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェアなど
- 育児休業等の後の復職率・定着率
- 男女別家族関連休業取得従業員比率
- 男女別育児休業取得従業員数
- 男女間賃金格差を是正するために事業者が講じた措置
健康・安全
- 労働災害の発生件数・割合、死亡数など
- 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
- 安全衛生マネジメントシステム等の導入の有無、対象となる従業員に関する説明
- 健康・安全関連取組等の説明
- (労働災害関連の)死亡率
- ニアミス発生率
- 労働災害による損失時間
- (安全衛生に関する)研修を受講した従業員の割合
- 業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
- 労働関連の危険性(ハザード)に関する説明
コンプライアンス・労働慣行
- 人権レビュー等の対象となった事業(所)の総数・割合
- 深刻な人権問題の件数
- 差別事例の件数・対応措置
- 団体労働協約の対象となる従業員の割合
- 業務停止件数
- コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合
- 苦情の件数
- 児童労働・強制労働に関する説明
- 結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明
- 懲戒処分の件数と種類
- サプライチェーンにおける社会的リスク等の説明
人的資本経営の取り組みの流れ・ポイント
現状把握と戦略の策定
人的資本経営を進めるには、まず企業内の現状を正確に把握することが必要です。
従業員の能力、目指すべき姿とそのために必要なスキル、必要スキルと現状とのギャップ、組織の目標との整合性などを評価します。
こうした現状分析をもとに、具体的な人的資本経営の戦略と実行計画を策定します。
KPIの明確化
策定した人的資本経営の戦略や企業としての方向性などをもとに、KPI(重要業績評価指標)を設定します。
これにより、戦略の進捗・達成度合いや効果を定量的に把握することが可能となるため、より効果的な施策遂行や戦略の見直しなどが可能となります。
施策の実行
策定した戦略に沿って施策を実行していきます。以下では、施策の一例をご紹介します。
人材育成やキャリア開発の実行
従業員の持続的な成長とキャリア発展を促進するためのプログラムやトレーニングを提供します。これにより、個々のスキルを向上させ、組織全体の業務品質強化につなげます。
チームワーク・コミュニケーション・エンゲージメントの強化
各従業員の組織内での役割や責任を明確にした上で、社内での協力を促進していきます。
そのために、チームワークやコミュニケーションを重視した組織文化の醸成が必要となります。また適切なチームビルディングも重要な要素です。
策定した戦略・ビジョンや施策に沿って各従業員が事業にコミットしやすい環境作りを行うことで、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。
デジタル化推進による情報の一元化、パフォーマンス管理
人的資本経営の実施にあたっては、従業員情報を一元管理し、そのパフォーマンスを管理することが重要です。管理のためには、自社に合った適切なシステムを導入することが求められます。
業務のデジタル化を推進することは、時間や場所にとらわれない職場環境の提供にもつながります。
施策効果の検証と改善
定期的な施策の効果確認・検証により問題点や改善領域を特定し、特定された領域への対策を打ちます。このようなフィードバックサイクルを適切に回していくことで、効果的な組織・パフォーマンスの改善を目指していきます。
人的資本経営の成功は、適切な計画、実行、評価のサイクルを通じて達成されます。企業は、従業員の能力を最大限に活用し、組織全体の成長を促すための戦略を継続的に見直す必要があります。
人的資本経営を成功させるためのポイント
人的資本経営を成功させるには、いくつかのポイントを意識する必要があります。主なポイントは次のとおりです。
企業や経営陣のビジョン・経営戦略の共有・浸透を行う
従業員が、企業や経営陣のビジョンを深く理解した状態になることは、人的資本経営を成功させるために重要なポイントといえます。
従業員が自社のビジョンや経営戦略を把握できていない場合、日々の業務における判断やアクションの軸がぶれてしまい、誤った方向へ進んでしまいがちです。
ビジョンや経営戦略を中心として、社員一人ひとりが自身に求められる役割やスキルを把握し、行動することで、大きな成果を生み出すことができます。
持続的なエンゲージメント向上やモチベーションアップの仕組みを構築する
人的資本経営では、従業員一人ひとりの成長がそのまま企業の成長エンジンとなります。
そのため、企業が主体となり研修や学習を進めることはもちろんですが、それだけでは人的資本経営を成功させることは難しいのです。すべての従業員が受け身ではなく、自身に不足している経験やスキル獲得に向けて自律的かつ自然にアクションできる組織が理想の姿といえます。
これを実現するには、評価制度などを整備し、持続的なエンゲージメント向上やモチベーションアップの仕組みを構築することが重要です。
経営戦略と人材戦略の整合性を意識する
人的資本経営を進めていく中で、経営戦略と人材戦略の間に大きなギャップが発生してしまうことがあります。
このようなギャップが生まれる理由の1つには、人事部門に課せられるノルマや、現実に即していない高い目標が挙げられます。年間の採用目標数や社員研修の予定など、目先の業務にばかり追われると、経営戦略との整合性がない近視眼的な人材戦略となってしまいがちです。
人的資本経営を成功させるためには、人事部門が十分に経営戦略を理解することはもちろん、中長期的にどのような人材を採用・育成すべきかを明確にしておくことが重要です。また、ノルマや目標も、その中長期的な人材採用・育成に沿ったものにする必要があります。
情報開示が目的ではないことを心がける
前述のとおり、2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行している大企業は、人的資本情報の開示が義務付けられています。
情報開示のために人的資本経営実現に向けた取り組みを行ったり、情報を収集するなどの準備は重要です。しかし、人的資本経営が持つ真の目的は、「情報開示」ではなく「従業員の能力を最大限に育み組織の生産性を向上させること」であることを意識しましょう。
ITシステムなどテクノロジーを活用する
人的資本経営の難しさは「可視化」にあります。
従業員の経験やスキルをはじめ、これまでの成長やパフォーマンスはすべて無形で、容易に定量化できるものではないため、把握や管理が難しいものです。
しかし、HR(Human Resources)システムなど、従業員のさまざまな情報を一元的に管理できるテクノロジーを活用すれば、それらの情報を効率的に把握できます。さらに、パフォーマンスやモチベーションをはじめ、成長推移などを可視化できるサービスもあるため、配置やプロジェクト組成時の材料としても利用可能です。
優先順位を決めておく
人的資本経営に関する取り組みにはさまざまなものがあります。一方で企業の活動には予算があり、一度に投資できるリソースは限られています。
すべてを同時に進行することは不可能であるため、自社の経営状況や人的資本経営の各施策の予算などを考慮し、それぞれの投資対効果を十分に検討した上で、何から着手するかをあらかじめ決定しておくことが重要です。
人的資本経営の実施に必要な基盤整備
人的資本経営のスムーズな導入には、適切な体制やプロセス、そして人的資本情報やKPIの管理システムの構築が欠かせません。
体制づくりにおいては、CHRO(最高人事責任者)の主導による人材戦略を策定し、他の経営陣と連携して実行していくことが重要です。
プロセスの構築では、人事施策やKPIの実行、実績データの入力を担当する実行者を決めておく必要があります。
人的資本経営の実行者は、人事部門だけではなく、事業部門の管理職も含めた多様なメンバーから成り立っています。
事業部門の管理職が実践することで、エンゲージメントの向上やリーダーシップの強化など、人材の活用に直接影響を与える要素が強化されます。
人的資本情報やKPIを管理するシステムの構築には、データ収集や管理に関するガバナンスと、集まったデータを分析して人材戦略や人事施策に活かすHRデータアナリティクスの活用が求められます。
人的資本経営の実施に必要なこれらの基盤整備は、企業の経営資源を最適化し、持続的な成長を支えるための重要なステップといえるでしょう。
まとめ
人的資本経営の基本的な内容やその重要性、メリットやポイントについて解説しました。
人的資本経営は、従業員のスキルや知識を経営資源として捉え、最大限に活用することで、企業イメージ向上・生産性やパフォーマンスの向上・人材能力の可視化・社員モチベーションとエンゲージメントの強化といった多くのメリットをもたらします。
これらのメリットを実現するためには、現状把握から戦略策定、KPIの設定、施策の実行、そして施策効果の検証と改善のサイクルが重要です。
企業がこのアプローチを取り入れることにより、組織の持続可能な成長を促進し、市場での競争力を高めることができるでしょう。
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