- 更新日 : 2025年4月4日
外国人労働者を派遣社員として雇用できる?メリットや注意点も解説
外国人労働者を派遣社員として雇用することは可能です。適切に派遣を活用すれば人手不足の解消やコスト削減につながりますが、法的リスクや契約内容の確認が重要です。
本記事では、外国人労働者の派遣雇用の可否やメリット・デメリット、成功事例、必要な手続きまで詳しく解説します。
目次
外国人労働者は派遣社員として雇用できる
外国人労働者は派遣社員として雇用できます。就労ビザを取得するには企業との契約が必要で、雇用契約だけでなく派遣契約も含まれるためです。
ただし、派遣社員の場合、正社員よりビザの審査が厳しくなる傾向があるため注意が必要です。就労ビザは継続的な就労が条件となるため、短期間のみの派遣契約では認められない可能性があります。
また、就労ビザ申請時には、雇用主である「派遣元」と実際に就労する「派遣先」の双方が審査対象です。派遣元が安定的・継続的に外国人を雇用できることを証明でき、派遣先が異国人の経歴に応じた仕事を安定して提供できることを証明する必要があります。
そのため、外国人労働者を派遣雇用する際は事前に労働環境を整備することも重要です。
下記の記事では、派遣のメリット・デメリットについて解説しているため、あわせてご覧ください。
外国人労働者を派遣雇用する3つのメリット
外国人労働者を派遣雇用することで、人材不足の解消や多様なスキルの活用など、企業にとって多くのメリットがあります。派遣雇用のメリットを理解し、適切に活用することで、より効率的な人材戦略が可能です。以下では、具体的なメリットを解説します。
1. 人手不足を解消できる
日本では少子高齢化が進み、人材確保が困難になりつつあります。一方で、日本で働く外国人労働者は増加傾向にあります。
令和6年10月末時点の「外国人雇用状況」の届出によると、外国人労働者数は230万2,587人で、前年比25万3,912人増加し、届出が義務化された平成19年以降で過去最多となりました。
派遣雇用を活用することで、企業は必要なスキルや経験を持つ外国人労働者を迅速に雇用でき、人手不足の解消につながるでしょう。
2. 訪日外国人に対して多言語対応できる
外国人労働者を受け入れることで、日本語以外の母国語や第3言語を話せる人材を確保でき、外国人顧客や海外企業への対応を任せられます。
対応できる言語が広がることで、訪日外国人への接客やサポートの質が向上し、満足度の高いサービスの提供が可能です。さらに、国内の外国人居住者からの評価も高まり、企業のブランド価値の向上や国際的な信頼の獲得につながります。
多言語対応が可能な人材の雇用により、企業の競争力強化にも貢献するでしょう。
3. コスト削減につながる
外国人労働者を派遣雇用すると、コスト削減につながる場合があります。
国や自治体からの助成金が支給される制度があり、企業の負担軽減が可能です。たとえば、「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」では、言語や文化に配慮した就労環境の整備や職場定着のための取り組みにかかる費用の一部が支給されます。
助成金を活用することで、企業は外国人労働者の受け入れコストを抑えつつ、労働力を確保できます。
外国人労働者を派遣雇用する2つのデメリット
外国人労働者の派遣雇用には多くのメリットがありますが、注意すべきデメリットも存在します。デメリットを理解し、適切な対策を行うことで、スムーズな雇用管理が可能です。以下では、具体的なデメリットについて解説します。
1. すべての業種には対応していない
外国人労働者の派遣雇用は、すべての業種で可能なわけではありません。日本の法律では、安全性や専門性の観点から、特定の業務で外国人労働者の派遣が禁止されています。
派遣が禁止されている業種は以下のとおりです。
- 警備業務
- 建設業務・港湾運送業務
- 医療関連業務
- 士業関連の業務
- 人事労務に関わる一部の業務
参考:労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・|厚生労働省
すべての業種で外国人労働者を派遣雇用できるわけではないため、派遣可能な業種かどうか事前に確認が必要です。
2. 長期雇用には向いていない
外国人労働者を派遣雇用する場合、長期雇用には向いていないことがあります。
理由は、短期間の就労を希望する人がいるためです。たとえば、母国への帰国が決まっている場合や、就労ビザの期限が限られている場合、長期雇用を前提としないケースが考えられます。
また、家族の事情や母国の状況によって急な帰国を余儀なくされることもあるでしょう。
したがって、外国人労働者の雇用派遣は、継続的な雇用が難しいことがデメリットの一つといえます。
外国人雇用を派遣雇用にすると防げるリスク
外国人雇用にはメリットがある一方で、リスクもあるため、事前に確認しておくことが重要です。事前にリスクを理解し、適切に対策を講じることは外国人雇用を最大限活かすためにも大切です。以下では、派遣雇用を活用することで防げる具体的なリスクについて解説します。
日本語力に関するリスクを回避できる
派遣雇用を活用することで、日本語力に関するリスクを軽減できます。
多くの派遣会社では、事前に日本語能力をチェックしているため、企業は一定の日本語力がある人材を受け入れやすくなります。派遣雇用を活用することで、日本語力に関する不安が軽減され、即戦力として活躍できるスタッフを迎えられるでしょう。
日本語能力が高いほど業務の理解度が向上し、ミスや誤解が減り、仕事の効率も上がる傾向にあります。マニュアルや指示書の誤解を防ぎ、業務の品質を維持するためにも、適切な日本語力がある人材を確保することが重要です。
早期退職やミスマッチのリスクを回避できる
派遣雇用を活用することで、早期退職やミスマッチのリスクを回避しやすくなります。
外国人を正社員として雇用した場合、日本語の壁やコミュニケーションの問題、スキル不足が後から発覚することがあります。しかし、派遣社員であれば、企業は事前に求めるスキルを派遣会社に伝え、適切な人材を紹介してもらうことでリスクの軽減が可能です。
また、海外ではより良いキャリアを求めて転職する考え方が一般的です。派遣社員であれば、退職後も柔軟に条件を見直せるため、企業は早期退職に備えた対策を行いやすくなるでしょう。
外国人労働者の派遣雇用における成功事例
外国人労働者の派遣雇用を成功させるには、適切な受け入れ体制やサポートが欠かせません。成功事例を知ることで、自社に合った雇用の進め方や課題への対策を学べます。以下では、具体的な成功事例について解説します。
【加工食品の食品メーカー】夜勤帯の人材不足を解消できた
ある加工食品の食品メーカーでは夜勤帯の突発的な退職が相次ぎ、勤務地も公共交通機関で通いにくい場所にあったため、人材確保に苦戦していました。
そこで、外国人留学生を採用し、同じ国籍の社員が母国語で通訳や教育を担当することで、業務理解度を向上させることに成功したのです。また、メッセージアプリでグループを作成し、出勤管理を効率化した結果、出勤率99%以上を維持できるようになりました。
上記は外国人採用が初めての企業でも安定した稼働を実現し、夜勤帯の人材不足を解消することに成功した事例の一つです。
【住宅設備機器のメーカー】短い日程でまとまった人数を確保できた
ある住宅設備機器メーカーでは、生産量の増加に伴い、急遽100名以上の人員が必要になりました。しかし、通常の派遣では人数を揃えるのが難しく、日本人材の確保も困難な状況でした。
そこで外国人労働者を採用した結果、出勤率99%を達成し、退職者0名を維持できるようになったのです。さらに、作業の丁寧さとスピードの速さにより生産性が向上し、残業にも対応できるようになりました。
短期間で安定した人員を確保し、業務の効率化にも成功した事例です。
外国人労働者を派遣雇用するときに必要な書類と手続き
外国人労働者を派遣雇用する際は、派遣先・派遣会社・労働者それぞれが必要な書類を準備する必要があります。必要な書類は以下のとおりです。
【派遣先が用意すべき書類】
書類名 | 詳細 |
---|---|
派遣受入通知書 | 派遣元から労働者を受け入れる際に必要な書類 |
業務内容確認書 | 労働者の業務内容が在留資格に適合しているかを確認する書類 |
就業条件明示書 | 労働時間、業務内容、休憩時間などの労働条件を明記している書類 |
【派遣会社が用意すべき書類】
書類名 | 詳細 |
---|---|
雇用契約書(兼労働条件通知書) | 賃金、勤務地などの労働条件を労使間で確認して合意する書類 |
外国人雇用状況届出書 | 外国人雇用の安定と適正管理のためにハローワークに提出する書類 |
派遣元管理台帳 | 派遣労働者の氏名、在留資格、派遣先情報を記録して管理する書類 |
【本人が用意すべき書類】
書類名 | 詳細 |
---|---|
在留資格認定証明書交付申請書 | 入国前に提出し、在留資格の適合性を証明する書類 |
在留カード | 在留資格を持つ場合に提出する必要がある |
パスポート | 本人確認および在留資格審査に必要な書類 |
資格外活動許可証 | 在留資格にない業務を行う場合に必要な書類 |
たとえば、外国人労働者が「技術・人文知識・国際業務」の資格で派遣される場合、業務内容が適切であることを証明する書類が重要です。
派遣契約に関する具体的な説明については、下記の記事をご覧ください。
外国人労働者を派遣社員として雇用する際の注意点
外国人労働者を派遣社員として雇用する際は、日本の労働法や入管法に基づいた適切な対応が重要です。在留資格に適合した業務であることを確認しなければ、企業側も法的責任を問われる可能性があります。以下では、具体的な注意点について解説します。
外国人雇用状況の届出を提出する
外国人雇用状況の届出は、外国人労働者(在留資格「外交」「公用」及び特別永住者を除く)を雇い入れまたは離職させる際に、すべての事業主が提出する必要がある書類です。
提出先は管轄のハローワークで、期限内の届出が義務付けられています。届出を怠った場合や虚偽の届出を行った場合、30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。
ハローワークでは、届出をもとに雇用環境改善の助言や指導、離職者の再就職支援を行っています。適切な届出を行い、法令を遵守しましょう。
契約内容を確認する
外国人労働者を派遣社員として雇用する際は、労働者派遣契約の内容を十分に確認する必要があります。
契約には労働条件や就業時間、派遣料金などが含まれ、企業は契約の範囲内で適切に指導しなければいけません。また、契約の中途解除を行う場合は、派遣会社に事前に通知し、合意を得る必要があります。
契約内容を正しく把握し、適切な運用を行うことで、スムーズな雇用管理とトラブル防止につながります。
在留資格を確認する
外国人労働者を派遣社員として受け入れる際は、在留資格を必ず確認する必要があります。
在留資格の申請は直接雇用関係のある派遣会社が行いますが、派遣先の業務内容に適した資格でなければいけません。申請内容と実際の業務が異なる場合、外国人の在留資格が取り消され、不法就労とみなされる可能性があり、企業側も責任を問われるリスクがあります。
派遣会社と事前に確認を行い、適正な在留資格のもとで雇用することが重要です。
在留資格については、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
派遣元の会社が適法かを確認する
外国人労働者を派遣社員として受け入れる際は、派遣元の会社が適法であるかを事前に確認する必要があります。
許可を受けていない派遣元から労働者を受け入れると、労働契約申し込みみなし制度により企業側が直接雇用を申し込んだとみなされ、制度違反となる可能性があります。
そのため、派遣元が厚生労働省の認可を受けているか、さらに外国人労働者の在留資格を適切に確認しているかを慎重にチェックし、適法な派遣契約を結ぶことが重要です。
派遣終了後の退職証明書を発行する
外国人労働者が派遣期間終了後に退職する際は、退職証明書の発行が必要です。
退職証明書は、在留資格の変更や就労資格証明書の交付申請時に添付資料として求められることがあります。発行は基本的に直接雇用関係のある派遣会社が対応しますが、派遣先企業も必要に応じて協力することが重要です。
適切に退職証明書を発行すれば、外国人労働者が円滑に次の就職や在留資格の更新を行えるよう支援できます。
適切に外国人労働者を派遣雇用して事業の成長を目指そう
外国人労働者を派遣雇用することには、人手不足の解消や多言語対応、コスト削減などのメリットがあります。法的リスクや契約内容の確認を徹底し、リスクを最小限に抑えることが重要です。
適切な雇用手続きと管理を行い、事業の成長につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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